インタビュー
「マジオペ」完結&「はるカナ」始動記念!! 芝村裕吏氏,しずまよしのり氏に超ロングインタビュー
4Gamerでは以前にも「マージナル・オペレーション」について芝村氏にインタビューを行っているが,今回はシリーズ完結&新作発売記念ということで,イラストを担当しているしずまよしのり氏と,担当編集者の平林緑萌氏も交えて超ロングインタビューを実施した。
シリーズ完結を迎えたからこその「ぶっちゃけ話」や新作についてのアレコレ,ファンには嬉しいお知らせや,謎に包まれていた(?)しずま氏の経歴,さらにはなぜか皆がハマっている「艦隊これくしょん -艦これ-」の話まで……語りに語ってもらったので,ぜひとも目を通してほしい。
なお,本稿には作品のネタバレが多分に含まれているので,未読の人はご注意を。シリーズファンには,『マージナル・オペレーション 05』と『遙か凍土のカナン1 公女将軍のお付き』を読了してからのチェックをオススメしたい。
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“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー
『マージナル・オペレーション 05』 著者:芝村裕吏 イラストレーター:しずまよしのり 出版社/レーベル:星海社/星海社FICTIONS 価格:1313円(税込) ISBN:978-4-06-138883-3 →Amazon.co.jpで購入する |
『遙か凍土のカナン1 公女将軍のお付き』 著者:芝村裕吏 イラストレーター:しずまよしのり 出版社/レーベル:星海社/星海社FICTIONS 価格:1313円(税込) ISBN:978-4-06-138884-0 →Amazon.co.jpで購入する |
星海社「マージナル・オペレーション」書籍情報&試し読み
星海社「遙か凍土のカナン」書籍情報&試し読み
ファンに惜しまれつつ完結した「マジオペ」
4Gamer:
「マージナル・オペレーション」(以下,「マジオペ」)完結おめでとうございます。まずは今,どのようなお気持ちでしょうか?
「全5巻です」とか言わなきゃ良かった……と思っています(笑)。
平林氏:
最初は全3巻の予定でしたね。
4Gamer:
最初にインタビューさせていただいた時には全3巻予定という話だったのですが,2回目のインタビューでは全5巻ということになっていましたね。
芝村氏:
そうなんですよ。なんかいつの間にか水増しされていて……。
平林氏:
いやいや,そんなそんな! 確かに「なんとかもう少しお願いします」とはお願いしましたが,そちらから「じゃあ5冊で」っていう話になったんじゃないですか(笑)。
芝村氏:
その時は良かったのですが,のちにコミカライズの話などが出てからどんどん作業が増えて大変になってきたので「やっぱり5冊とか言わなきゃ良かった」みたいな(笑)。
4Gamer:
むしろ読者目線からすると,もっと続いてほしかった気がするのですが……。
芝村氏:
もちろん「続きを書けるかどうか」と言われれば書けるんですが……。終わりが見えないシリーズに延々と付き合わされる読者も辛いだろうと思ったんですよ。だから良かれと思って5冊で終わらせたのですが,思ったよりも「終わるのが惜しい!」という感想をたくさんもらって。嬉しい半面,「そんなこと言われても!」と(笑)。
4Gamer:
芝村さんの作品には妄想の余地というか,あとあとまで考察が盛り上がるような要素を残すイメージがあったので,今回は非常にスッキリと終わってちょっと意外でした。
芝村氏:
いろいろな人から同じことを言われましたが,そこは私もさんざん悩みました。いっそ特大の“イヤなもの”を残していこうかなぁとか(笑)。
これって,「読者がどういう気分になった瞬間に一番楽しんでくれるのか」という問題じゃないですか。これがゲームなら綺麗に終わりすぎるとその後の商品展開が難しくなるので,意図して“後味の悪い終わり方”を演出しているところもあるんです。「次がある」ということを予感させるために。
4Gamer:
なるほど。
しかし今回は全5巻と言ってありましたし,小説を書く時は気持良く終わらせようという自分ルールに従うことにしました。
もちろん,読者の声はどうにかして拾いたいなぁと思っていますが,とりあえず伏線なども回収しきってしまったので,やるにしても再構築から始めないと。だって……マフィア梶田も出しちゃいましたし(笑)。
一同:
(笑)。
芝村氏:
第4巻なんて登場していないのに,なんで人物紹介にいるんだと(笑)。みんな不思議に思っていましたよ。
平林氏:
それはしずまさんが,発注していない絵を描いてくれてたから(笑)。
「ひょっとしたら,また出てくるのかなぁ」なんて思って,写真を見ながら描いたんですよ(笑)。
4Gamer:
なんと言いますか……恐縮です。
芝村氏:
その絵を見て全員で大笑いしながら「これ掲載しよう!」って。本人がいないところで「似てる似てる!」と盛り上がっていました(笑)。
4Gamer:
以前にインタビューをさせていただいた時にはそんな話を微塵もしていなかったのに,気がついたら登場しているし意外と出番あるしで本当に驚きました(笑)。いやでも,本当にファンとしては身に余る光栄です。
平林氏:
でも作中の梶田はかなりアラタに反抗的でしたよね。
4Gamer:
なんであいつ,いつもキレてるんですか(笑)。ちょっと「芝村さんに失礼なことしたっけ……?」とか思っちゃいましたよ。
芝村氏:
我々が普段しているような会話をそのまま書いても,誰にも伝わりませんから! それに,ソフィのことを考えたら梶田さんがキレててもおかしくないでしょ?
しずま氏:
僕はもう「マジオペ」のイメージが強くて,今日も顔を合わせた時に「あれ? いつもよりおとなしいぞ?」とか思ってしまいました(笑)。
4Gamer:
こっちが本物ですよ!?
ソフィは死ぬ予定だった!?
もう話してもいい時期だと思うのでぶっちゃけてしまいますが,当初ソフィは死ぬ予定だったんですよ。
4Gamer:
いやいやいやいやいやいやいやいや。現状の展開でもひどくショックだったのにそんなのありえないありえない!!
一同:
(笑)。
芝村氏:
梶田さんがインタビューやTwitterでソフィ愛を語っていなかったら,たぶん死んでいたと思いますよ(笑)。
平林氏:
つまり,梶田さんがソフィを守ったことになるわけですね。
4Gamer:
そ,それは嬉しいやらなんやら……複雑な気分です。
芝村氏:
いや,ホント「さすがにこれは殺せないな」と。最初に平林さんと打ち合わせした時には「アラタの業をすべて背負ってソフィが死ぬ」みたいな展開を考えていたんですよ。
芝村さんの初期案では,オマルが死ぬかソフィが死ぬかの2択が用意されていたんです。で,僕がソフィ死亡ルートのほうを選んだわけですが。
4Gamer:
今この瞬間,俺の平林さんに対する好感度がストップ安になりました。
一同:
(爆笑)
しずま氏:
僕のほうにもそういった内容のメールが届いていたので,ずっと「ソフィは死ぬんだ」と思っていたんですよ。そしたら,3巻でも4巻でも生きていて……。
芝村氏:
一度落としたうえで,さらに不幸が重なる展開にするつもりだったんですけど……。
4Gamer:
なんということを……。
芝村氏:
まぁでも,関係者による強力な介入によって展開が変化することはよくあるんですよ。
しずま氏:
これは完全に梶田さんによる介入ですよね。インタビューで世論を動かしたんですよ。あれ以前に「マジオペ」を読んでいた関係者はみんな「ソフィうっぜえ……」って言ってた気がするし(笑)。
芝村氏:
そうですね。あのインタビューで確かに流れが変わりました。例えば「死ぬキャラリスト」みたいなのがあったとして,その中のキャラクターの運命を一番大きく変えたのは梶田さんですよ。
4Gamer:
実は今日,ソフィの扱いについて芝村さん達に怨嗟の声をぶつけるためにこの仕事を引き受けたみたいなところがあったんですけど……そんな風に言われてしまうと,まだ生きてるだけマシだったんだなと……。
平林氏:
大変な目に遭ってますけどねぇ。
3巻を書き終えたあと,さすがに読者にとってキツイ展開になるだろうと思っていたので,帯や次回予告を工夫して,ある程度“予想された展開”みたいな雰囲気になるように手は尽くしていたのですが。いざリリースされてみると,かなり多くの読者の心をベキベキに折ってしまったようで(笑)。
平林氏:
折れてましたねぇ(笑)。
芝村氏:
最近の読者はもっと富野由悠季監督や田中芳樹さんに鍛えられているものかと……。
4Gamer:
思ったより「人工エルフ最高派」が多かったんですよ。
平林氏:
だからそれ,梶田さんのせいですって(笑)。
4Gamer:
マジで読んでいて「キシモトォォォォォォォ!!!!」ってなりました。戦争をテーマにした作品ですし,そんな展開もあるだろうなと予想はしていたんですが……その餌食になったのがソフィなら話は別ですよ!
芝村氏:
憎しみや怒りなどの感情は置いておいて,“戦争は綺麗事じゃない”ということを描かなければいけなかったんです。だから,どうしようもない……と思っていたのですが,思わぬところから介入というか,圧力がね(笑)。
4Gamer:
やろうと思えばソフィの話だけで何時間でもやれる自信がありますが,そこはグッとこらえて話題を変えていきますね……。
あらためまして,芝村さんは「マジオペ」を手がけたことで,その後のお仕事に何かしらの変化はありましたか?
芝村氏:
メチャクチャありました。今年初めて,小説の売上がゲームの仕事による収入を上回ったんです。個人的にゲームの牙城は絶対に崩れないと思っていたのですが,小説が一気に追い上げまして。
4Gamer:
芝村さんにとって本作は初の長編小説になるんですよね。それを考えると,すごいことですね……。
芝村氏:
自分でもビックリしました。なんか,ゲームクリエイターとしての私を知っている人が読んでくれるものなのかと思っていたら,まるで違う畑の人も買ってくれたようで。
さらに,今年初めてといえば「マジオペ」のおかげで私のファン層というか,読者の平均年齢が初めて下がったんですよ。これまでは本を出すたびに平均購買層の年齢が上がっていたのですが……。
4Gamer:
新規ファン層の開拓にもつながったんですね。
芝村氏:
それこそ第1巻が売れたのは,4Gamerさんによるインタビューのおかげだったんです。これは本当にお世辞とかでなく,とくに大きな宣伝を打っていたわけでもないのに,4Gamerさんの記事を読んで買ってくれた人が多いということがよく分かりました。
4Gamer:
光栄です。でもあのインタビューでは芝村さんのトークがキレッキレで,Twitterなどで大いに話題になっていましたから。その効果なのでは(笑)。
芝村氏:
キレッキレでしたか! 私はなるべく柔らかく柔らかく話を進めていたつもりでしたが(笑)。
4Gamer:
いやいや,どの話題もキレッキレでしたよ。餃子とラビオリへの疑問から大冒険に発展した話とか(笑)。
芝村氏:
それはむしろ,穏当で誰も傷つかない話題を選んだ結果じゃないですか(笑)。
波瀾万丈すぎる,しずま氏の経歴
4Gamer:
そういえば,やっとしずまさんに「マジオペ」に関わることになったきっかけを直接お聞きできる機会が巡ってきたわけですが……。
しずま氏:
そこはもう普通で,平林さんから「芝村さんが小説を出すので」っていうメールが来たんです。
平林氏:
知り合いにガガガ文庫などで書いている大樹連司さんという作家がいるのですが,彼が「ほうかごのロケッティア」という小説を出していまして。挿絵をしずまさんが描いていて,それを見て頼むことにしたんです。
芝村氏:
また,何よりも手の早さが重要でした。刊行のためには,早く描ける人が必要だったんですよ。第1巻の時点からスケジュールが非常に厳しかったので……。
星海社FICTIONSって,言ってしまえばまだまだ弱小レーベルなので,刊行点数がそこまで多くないんですよね。2012年の2月時点では,「マジオペ」以外に間に合いそうな原稿が無かったんですよ。
芝村氏:
唯一,その時期に間に合う作品だったわけです(笑)。
しずま氏:
今はともかく,確かにその頃の星海社FICTIONSはまだ作品が少なかったですねぇ。
芝村氏:
それでなんだかんだで,カラーイラストは4点とか入れてましたからね(笑)。
平林氏:
そうです。というわけで,描くのが早そうな人に声をかけようという話になって……。
芝村氏:
それこそ発注先をイラストレーターにするか,アニメーターにするかという議論まであったくらいです。その中で「しずまさんなら手が早いし,技術も申し分ない」と。しかし,そのあとしばらくしてしずまさんが「艦隊これくしょん -艦これ-」(以下,「艦これ」)で大ブレイクして,その点はこちらとしては本当に運が良かったです。
4Gamer:
なるほど。そんなしずまさんですが,実は経歴に割と謎が多い印象があるんですよね。ファンも気になっている点だと思うので,せっかくの機会だから詳しく聞いていきたいところなんですが……。
しずま氏:
そうですね……僕は絵で食っていこうと,高校卒業後に千代田工科芸術専門学校(※現在は休校)のイラストレーション科に入ったんです。しかしそこで見事に就職に失敗して,アルバイトをすることになりまして。最初に始めたのが秋葉原のジャンクショップのバイトです。いろいろなパーツを何の役に立つものなのかも分からないまま,売っていましたね。
芝村氏:
今から考えると,ずいぶんと畑違いな場所にいたんですね(笑)。
しずま氏:
その後,親父の友人が製図の仕事をしていた関係で下描きを手伝うようになりまして……さらにその後はパン屋になりました。4年間くらいパン焼いてましたね。
4Gamer:
パン屋!?
芝村氏:
当時のパンを焼いている映像に「のちの,しずまよしのりである……」ってナレーション付けたいですね(笑)。
平林氏:
その頃のエピソードだと,野犬の話がすごいんですよ!
4Gamer:
や,野犬……? パン屋となんの関係が?
しずま氏:
いつもパンを焼いていると,だんだん体に匂いが染み付いてくるんですよ。朝方,仕事へ行くために自転車を漕いでいたら背後からアスファルトを叩く爪の音が聞こえてきて……なんだろうと思って振り返ると野犬が群れで追いかけてきていたんです。
「うわぁああああ!」って必死に逃げたんですが,犬って余裕で追い付いてくるんですよね。だから,最終的にはマウンテンバイクをバリケードのように設置して仕事先に逃げ込みました(笑)。
4Gamer:
ゾンビ映画みたいですね……。
しずま氏:
本当ですよ……。かなり匂いが染み付いていたようで,電車に乗った時なんかも,近くの女の子に「なんかおいしそうな匂いがする〜」って言われたり。
芝村氏:
いいなぁ,それ(笑)。
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