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相手のことをどう思ってもいいという自由。山中拓也の眠れぬ夜はゲームのせい 第3夜:「冠を持つ神の手」は“人生”
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印刷2019/07/31 12:00

連載

相手のことをどう思ってもいいという自由。山中拓也の眠れぬ夜はゲームのせい 第3夜:「冠を持つ神の手」は“人生”

画像集 No.019のサムネイル画像 / 相手のことをどう思ってもいいという自由。山中拓也の眠れぬ夜はゲームのせい 第3夜:「冠を持つ神の手」は“人生”
 「Caligula -カリギュラ-」シリーズや「WORK×WORK」でおなじみのゲームクリエイター山中拓也氏の不定期連載“眠れぬ夜はゲームのせい”では,氏に夜も眠れなくなるほどに心を奪われたゲームやアニメ,はたまたハロプロへの想いを語ってもらう連載だ。第3夜では“10年”をキーワードにゲームを紹介するようで……?

 2019年6月18日,これが何の日か分かるだろうか。

 みんなで,せーので言おう。

 せーの……
 「アンジュルム初代リーダー和田彩花さんの卒業の日〜!」

 正解(エサクタ)!

 ハロー!プロジェクトのグループ,“多様性の軍団”アンジュルムを神秘的な魅力でまとめあげた女神・和田彩花さんの卒業の日だ。

× × × × ×

 武道館で行われた和田彩花さんの卒業コンサートは万雷の拍手で幕を閉じた。最高の幕引きであると同時に,竹内朱莉さんがリーダーを務めるアンジュルム第二章の最高の幕開けでもあった。

赤色のペンライトを振ってきた。本当に,和田彩花さんらしい最高のライブだった。あまりに列が長くて物販はあきらめた
画像集 No.001のサムネイル画像 / 相手のことをどう思ってもいいという自由。山中拓也の眠れぬ夜はゲームのせい 第3夜:「冠を持つ神の手」は“人生” 画像集 No.002のサムネイル画像 / 相手のことをどう思ってもいいという自由。山中拓也の眠れぬ夜はゲームのせい 第3夜:「冠を持つ神の手」は“人生”

 アンジュルムの前身であるスマイレージ(S/mileage)は2009年に結成。そこから無数の山と谷を乗り越え和田彩花さんが歩んできた10年間に思いを馳せながら,僕は帰路につく。
 10年間という時間は,立派な歴史だ。アンジュルム和田彩花さんがそうだったように,人生というキャンバスにその人だけの絵を描くには十分な時間である。

 ふと思う――僕は10年前,何をしていただろうか?
 2009年,ちょうど僕が新卒1年目の年だ。ん? ゲームを作る仕事に携わってもう10年経つの? えっ,こわ……やだな。急に怖くなってきた。


【CASE 3】VS.10年前の自分


 僕について知ってくださっている方はご存じかもしれないが……今でこそゲームの企画やプロデューサー,脚本などドップリと界隈に浸かっているものの,元々はゲームを生業にするつもりはなかった。

 実は,カウンセラーになりたかったのだ。
 大学は臨床心理学を学ぶためだけに専門の学部を選んだし,心理士の資格を取った。在学中はそれ以外を仕事にするなんて考えたこともなかった。

 しかし,皮肉にも職業について理解を深めるほど,ある事実に気づく。

 “向いていない”のだ。

 知識,技術は得られた,しかし魂にその資格がなかったとも言える。
 他人に感情移入してしまい,共感性が必要以上に高すぎる僕には,多くの人間の心理を並列に,ある種ドライに扱うことを職業にすることはできなかったのだ。

 まっさらになった将来設計。前だけしか見ていなかった僕の視界は壁で塞がれた。そうして初めて自分の足元に目をやったとき,常に人生の傍らにあった“ゲーム”の存在に気付く。そのときまで僕にとってのゲームは遊ぶものであり,作るなんて考えたことすらなかったのだ。

 紆余曲折を経て,運良く大阪のとある開発会社にゲームプランナーとして入社する。海外向けの大作を開発するハイエンドゲームのデベロッパだった。
 そんな会社なもので,新人とはいえ求められるもののレベルは高い。周りの同期はゲームの専門学校卒しかいない。完全に未経験の職業……事前知識に圧倒的な差があり,僕はとにかく焦っていた。

 プログラマーもデザイナーも異界の言葉を発しているようで,何を話しているかが分からない。そのせいか,コミュニケーションがうまく取れない。それまでの人生で,基本的になんでも器用にこなしてきた僕は初めて味わう強烈な劣等感に,毎日トイレで泣いていた。

 正確にはトイレで用を足していたら,自然に涙がボトボト落ちてきた。初めて感情が生まれたロボットのように「コレガ……涙……?」みたいな感じになっていた。

 ……思い出すだけでプチ嘔吐をしそうになるけれども,1年くらい死に物狂いで仕事をしていたら,どんどん楽しくなっていたのでそんなに暗い話ではない。

 がむしゃらにやればなんとかなるものだ。そもそも苦労自慢が,今回の本題ではない。その頃の絶望的な自分の生活を思い返すと,どうしても思い出してしまうゲームがあるのだ。

親の顔より多く見たであろうタイトル画面。記事執筆のために新しいPCにダウンロードしてみたが,懐かしすぎて震えた
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 その名は「冠を持つ神の手」。通称「かもかて」だ。
 「月は東に日は西に 〜Operation Sanctuary〜」,通称「はにはに」みたいな感じの略し方だ。いや,ちょっと違うな。

 「かもかて」は知る人ぞ知るフリーゲーム。この作品もまた,公開から10周年を迎えている。そう,ゲームクリエイターとしての山中拓也と,アンジュルムと,「かもかて」は,同い年なのだ。


プレイヤーから大量の時間を奪う狂気の作品の話


 「冠を持つ神の手」は同人サークルの小麦畑によって2009年に公開されたフリーゲームで,アドベンチャーゲームと育成シミュレーションを混ぜ合わせた形態のゲームである。「プリンセスメーカー」や,「実況パワフルプロ野球」のサクセスモードなどを想像すると,イメージ的に近いだろうか?

 前述のとおり,新卒1年目で失意と絶望の中にいた僕はこのゲームにとにかくのめりこんだ。

基本は訓練の内容や訪問する場所を指定して,主人公を育成していくオーソドックスな育成シミュレーションゲームだ。しかしオーソドックスな部分はこれで終わりだ
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 ざっくりと,あらすじを説明しよう。
 舞台はファンタジーめいた中世の世界,グラドネーラ。少し中東の匂いを感じさせるのが当時の僕には新鮮だった。

 ある日,主人公である田舎暮らしの少年が「君は額に王様候補の証が出ているから城で生活してくれ」とリタントの王城へ連れて行かれる(かなりざっくりした説明だが,こういう理解で概ね問題ないはずだ)。

主人公を迎えに来た侍従のローニカさん。序盤の癒やし要員でもある。しかしその実,いろいろ謎の多い人物でもある
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 田舎から都会に移っての生活,急激な環境の変化,さまざまな事情を抱えた城の住民たち……。プレイヤーはこの世界で,王位決定までの1年間を使って素直に王様を目指すもよし,気ままに暮らして自分の興味のある方向へ進むもよし,といったゲームだ。

 育成要素があり,パラメータや達成したイベントなどによって主人公の将来が変化し,王になったり,文官や神官になったりと20を超える結末が用意されている。
 しかも,主要な登場人物11名の誰と添い遂げてエンディングを迎えるかもプレイングによって選ぶことができるし,その人物ごとに5種類のエンディングが用意されているのも特徴だ。

公式サイトの登場人物紹介ページから抜粋。「全員に愛情・友情・憎悪・殺害・裏切りエンドが用意されています。」と,しれっとすごいことが書かれている
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 主人公自体の将来と,パートナーとの結末を組み合わせると,もう,なんだ,義務教育の範囲で習う数学の知識では無理だ。めちゃくちゃいっぱい。どちゃくそいっぱいの結末がある。それだけ分かってくれればいい。

 1周するだけなら慣れれば2時間程度で終わるのだが,それだけに大量の時間を盗まれる最凶のゲームである。22〜23歳の僕は仕事をしていないときの時間をすべて「かもかて」につぎ込んだといっても過言ではない。

あの頃僕の魂はこの城の中にあった。なんだか知らないはずの間取りまで浮かんでくる
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相手のことをどう思ってもいいという自由


 「かもかて」の世界には特殊なルールがある。この世界では15歳が成人なのだが,未成年者は男女の性別を持たない,“未分化”と呼ばれる状態であることが挙げられる。15歳までは男でも女でもないのだ。エンディングパートで主人公が15歳になり成人の儀を執り行うのだが,そのときに初めて男女のどちらとして生きるかを自ら決定する。

 これには面食らった。ロールプレイにおいて,こんなにも自由度が高く,没入に違和感のない設定があるだろうか。

 同じ人格のまま女性の登場人物と愛を深めても,男性の登場人物と愛を深めても違和感がない……すごく乱暴に言ってしまえばギャルゲーとしても乙女ゲーとしても全方位無敵なのだ

 性別が未分化であるゆえの魂の曖昧さ,そして慣れない環境での手探りの生活に戸惑う主人公。その姿が,未経験の業界に飛び込んで精神が張り詰めていた自分自身にリンクして,感情移入が止まらなかった。

エンディングでもある15歳の成人の儀にて,性別を決めることができる。主人公と同い年の王様候補ヴァイルも性別未分化の状態だ。おもしろ〜
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 次に好感度と印象度のシステムを説明しておきたい。
 好感度は想像しやすいだろう。一般的な恋愛ゲームよろしく「相手が主人公に対して抱いている感情」だ。ストーリー中の選択肢や,主人公のパラメータなどでこれが変化していく。

 重要なのは印象度。これは「主人公が相手に対して抱いている感情」だ。「かもかて」では,初めて相手と出会ったときや,相手とのイベントが起こるとこれを操作できる。このゲームでは相手→自分だけでなく,自分→相手に対しての気持ちも重要になってくる。

このように相手への印象を入力する。彼は王の一族ながら王様候補の印が現われなかったタナッセくん。入力した数値に他意はない
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 好感度と印象度はさらに,愛情,友情,憎悪,嫌悪の4種に分けられる。愛情と憎悪(愛情軸),友情と嫌悪(友情軸)はトレードオフになっており,愛情が上がれば憎悪の値が下がり,友情が下がれば嫌悪の値が上がるという具合に,愛情軸と友情軸の2軸のパラメータになっている。

 例えば,「愛情×友情で,文句なしの好き!」「憎悪×嫌悪で,大嫌いで顔も見たくない」な状態になり,「愛情×嫌悪で,大嫌いなんだけど気になる」とか「憎悪×友情で,友情と嫉妬心の板ばさみ」という状態まで表現可能なのだ。はぁ,人間の感情って複雑。大好き。

 この相手からの好感度と,自分からの印象度……この差異が,かもかてのプレイングの深みを抜群に増している。

 想像してみてほしい。「自分は大好きだけど,相手は自分のことが大嫌い」とか「自分は愛情のつもりなのに相手は友情のつもり」とか……。はぁ,人間関係って複雑。大好き。

(基本的には)相手が自分に抱いている好感度が見えないというのがもどかしい。相手が自分のことをどう思っているか,繊細に想像するしかない
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 さらに言うと,相手と気持ちが一致しているか,乖離しているかによって起きるイベントが異なってくる。印象度によって主人公の対象人物への接し方が変わり,まったく同じイベントが起きたとしても,そのときに自分が相手のことを好きか嫌いかで選べる選択肢が変化することも……。ここまでの説明を聞いた時点で,このタイトルが時間泥棒なやり込み要素を擁しているのを察していただけると思う。すべてのエンディングを見たい人にとっては,とんでもない存在だ。

 まぁ複雑だけに本当に難しい。最初のプレイはなんとなく時間を過ごしてしまい,城一番の力持ちとかになってしまうのが関の山だったりする。

ライバルであるヴァイルを打ち負かし,王になるのはとても難しい。ヴァイルの心情を知ると……さらに……難しい……
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 それだけに,プレイの感覚を掴むことができれば,これ以上なく主人公とプレイヤーの感情のリンクが緻密に生み出される。「わ〜,こいつ嫌だなぁ」とプレイヤーは思っているのに,分身たる主人公が好意を持って接する,というシチュエーションが起こらないわけだ。

 プレイヤーの“嫌い”は,主人公の“嫌い”だ。スカッとするほど,めちゃくちゃな塩対応をしてくれる。好きが一致する体験はほかのゲームでも味わえるが,嫌いが一致する体験はなかなか珍しい。
 相手への感情を操作するシステムでいうと,「高機動幻想ガンパレード・マーチ」「東京魔人學園伝奇」シリーズを想像する人も多いと思うが,それらよりも後に作られた「かもかて」は,そのシステムの1つのカタチを見せてくれたように感じている。こうしてリスペクトをもって,連綿と続いていく精神的なゲーム史には胸が熱くなってくる。

人物に対する感情入力の応用で,自分が住んでいた村に対しての印象度を入力するシーンもある。「村に戻りたがってるかどうか」がイベントに関わってくることも
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 「かもかて」が提示してくれた「相手のことをどう思っても構わない」というカタチ。これは僕にとって大きな救いになった。同じものを見ても皆同じことを思わなくていい。好きになっても,嫌いになってもいいという自由。人生においても,この感覚は生きることをとても楽にしてくれる。

 どうだろう。「かもかて」って,“人生”じゃないだろうか


10年の歳月。作品は変わらないが,人間は変わっていく


 「かもかて」を語るうえで外せない要素がある。それは,ゲーム中に一度だけ使用できる「反転」というシステムだ。これを使うことで印象度を反転させ,愛情と憎悪を,友情と嫌悪を入れ替えて真反対の状態にできる。

 「どういう意味が?」「なんでそんなことを?」と思っている人もいるかもしれないので,使用例を1つ説明しよう。例えば,「意中の相手と相思相愛で,ハッピーエンド確定であとは先に進むだけ」という状況を作ったとしよう。

図書館の司書モゼーラさんに告白をしてみる。彼女に好きになってもらうために,知力を上げまくった
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 その後「反転」を使用する。そうすると相手は自分のことが大好きなままで,自分は相手のことを「殺したいほど憎い」という状態を作り出すことができるのだ。

これを……
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こうじゃ!!
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 そうするとハッピーエンドへの道は完膚なきまでに崩壊する。自分のことを完全に信頼している相手に,突然悲惨な結末を迎えさせることができるのだ。極限まで上げて,極限まで落とすという最凶のプレイングである。

ごめんね,モゼーラさん。ちょっと君のことを信用することができなかったんだ
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 好きな相手に見せる顔も,嫌いな相手に見せる顔も,喜びも,絶望も,すべて味わえるのがこのゲームの特徴だと感じる。1人の人間からあらゆるダシをとることができるのだ。そうして,その人物のすべてを味わいきったあとに残るもの,それはもはや“愛”だと思う。

 反転でしか見られない凄惨なエンディングを初めて体験したときの背徳的な快感は,計り知れないものだった。当時の僕はゲームだからこそ味わえる刺激に大層身震いしたものだ。

 しかし10年が経ち,今あらためてこの反転システムについて考えてみると,これが「ゲームだから起こりうることなのか」というと,そうではないような気がしている。

 人間なんて些細なことで変わってしまう生き物だ。
 ふとしたきっかけで今まで嫌いだったものが好きになることがあるし,今まで好きだったものがどうでもよくなってしまう瞬間がある。恋愛だってそうだし,趣味に対する熱量もそうで,たいして珍しい話ではない。

 人間の感情というのは,ゲームのように加算減算で積まれていくものではない。あっちにいったり,こっちにいったり,ときに文脈を無視してしまうのが感情だ。そういった観点で考えると,「かもかて」における「反転」は,ゲーム上で人間の感情を表現するためのシステムなのかもしれない。

 僕もまた10年の積み重ねで,同じものを見ても違った感情を抱くようになった。10年というのはそういう時間だ。あのとき好きだったものを振り返ると,当時とは違う感覚を覚えることもある。「かもかて」の主人公が,城で過ごす時間で多くのものを得て子供から大人になっていくように,我々も生きていく中で否が応でも変わっていく。

10年ぶりに見る「かもかて」のエンディング。名作だなぁ……
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 思い出の中から,何かを取り出す。たまにはそういう行為も良いだろう。名作は色褪せず,変わらない。変わらないからこそ,時間が経ってから触れることで自分の変化をより色濃く感じることができるのだ。作品は変わらず,僕たちは変化する。変化するというのは,きっと良いことだ。

 さて,皆さんは10年前,何をしていただろうか?


結局ゲームの話しかできなかった第3回


 最終的にハロプロの話に戻ってこようと思っていたのに,思い出語りが熱くなりすぎて全然戻ってこられなかった。

 しかし僕の青春である「冠を持つ神の手」を紹介できてよかった。より多くの人に語られていいタイトルなので,少しでも興味が出たらプレイしてみてほしい。

 フリーゲームだが,より目的のエンディングにいきやすくする有料の攻略支援版も用意されている。ちなみに,攻略支援版でも十分難しいので安心してほしい。

(完全に余談だが,「かもかて」の「反転」システムの説明を聞いてゾクゾクした人にオススメのプレイングを教えよう! 攻略対象と相思相愛かつハッピーエンド間違いなしの状態でエンディングを迎え,最後の成人の儀で相手と同じ性別を選ぶといい。個人的には作中で一番心が痛むのがこのときの反応だ。)

 そして,前回の更新からだいぶ時間が空いてしまった。大変申し訳ない。
 この間,引っ越しをして未だネットが不通だったり,喉から血が出たり,スマホの画面が緑色に激しく発光したりするなどしていた。驚くほどの不幸が集中した月だった。不幸の連鎖がひどい……なんでなんだろう。

 まぁ結局,全部ゲームのせいだと思う。

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■山中拓也(ゲームクリエイター)■

 ゲームの企画,脚本,プロデュース,ディレクションなどで活動中。代表作はアニメ化も果たした「Caligula -カリギュラ-」シリーズで,最新の仕事はガンダム40周年記念プロジェクト「SDガンダム三国創傑伝」の脚本。元カウンセラー志望で心理士資格を取得している。なお本人には一切直接の関係はないが,モーニング娘。'19の新メンバーでは,北川莉央さんに注目している(強そうだから)。

Twitter:https://twitter.com/pug_maniac


「冠を持つ神の手」公式サイト

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