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【Jerry Chu】映画のようなゲームとは
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印刷2017/02/18 12:00

連載

【Jerry Chu】映画のようなゲームとは

Jerry Chu /  香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー

Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」

Twitter:@akemi_cyan


映画のようなゲームとは


 映画のようなゲームと言えば,読者の皆さんは何を思い浮かべるだろうか。

 「Uncharted」シリーズや「METAL GEAR SOLID」シリーズといった作品が真っ先に挙がるかもしれない。実写のようにリアルなグラフィックス,重厚なカットシーンで描かれるストーリー,アクション映画を思わせる名場面,随所に盛り込まれた映画的な演出手法。確かに「映画のようなゲーム」という形容が当てはまる。

 だが,こうした作品は「ゲームの文法」にもしっかり則っている。「Uncharted」シリーズは伝統的なカバーシューターであり,「METAL GEAR SOLID」シリーズはあくまでステルスアクションゲームである。
 映画的な世界に浸りながら,ゲームを楽しむ。「映画的なストーリーと演出」を「ゲームプレイ」に結びつけた複合的な様式を呈している。

 一方で「映画的な演出がゲームを主導する」ことを試みたゲームが存在する。2016年9月にリリースされたインディーズゲーム「Virginia」は,まさにそういう作品である。

デフォルメされたビジュアルが,さらにシュール性を高めている(「Virginia」)
【Jerry Chu】映画のようなゲームとは

 「Virginia」とは,バージニア州の街に派遣された新米FBI調査員として,失踪した少年の行方を追うミステリアドベンチャーゲームだ。「インディーズゲームの小部屋:Room#449」で紹介されているとおり,確かに「万人受けは難しい」。
 ゲームの進行は一本道になっており,戦闘や謎解きの要素が少なく,プレイヤーに許された行動は極めて限られている。そればかりか,ストーリーはかなりシュールだ。セリフが一切使われておらず,シーンが目まぐるしく切り替わるうえに抽象的な演出も盛り込まれている。
 クリアまでのプレイ時間は2時間ほどで,インディーズゲームにしても短いほうだろう。非常に特異な作風で,人を選ぶゲームである。

 この作品は,海外で論争を巻き起こしている。その詳細は奥谷海人氏の連載「Access Accepted第517回」で解説されているが,大胆な作風を絶賛する人もいれば,「こんなのゲームじゃない」と酷評する人もいる。以前に取り上げたNo Man’s Sky」も評価が真っ二つに分かれているが,「Virginia」ほど賛否両論なゲームも珍しい。

 そもそも,「Virginia」がこれほどの物議を醸した理由は何だろうか。「戦闘や謎解きなどの要素が少ない」「プレイ時間が2時間ほど」と言えば,「Gone Home」「The Stanley Parable」といった前例がある。「ストーリーが抽象的」「セリフが一切ない」という手法は,すでに「Journey」(邦題:風ノ旅ビト)や「ABZÛ」によって試みられている。
 「Assassin’s Creed III: Liberation」(邦題:アサシン クリード III レディ リバティ)や「Remember Me」といった「黒人女性が主人公」のゲームだって存在する。

 それでは「Virginia」は何が違うのか。筆者は「シーンが頻繁に切り替わる」点だと思う。

 「Virginia」では場面が頻繁に,しかも唐突に切り替わる。廊下を歩いているとき,いきなり別の場所に飛ばされる。拾った書類をまだ読み終わってないのに,突然,次の場面へ。キャラクターの動作が終わると,プレイヤーの都合などお構いなしに次のステージへと切り替わる。

【Jerry Chu】映画のようなゲームとは

 一つの場面から別の場面へとつないでいく。単純な話に聞こえるかもしれないが,これは映画の本質とも言える演出手法だ。
 1920年代,ソビエト連邦の映画理論家であるレフ・クレショフ氏は一つの実験を行った。この実験では「スープ皿」と「棺桶に横たわる子供」,そして「セクシーな女性」というショットが用意された。被験者がいずれか一つのショットを見たら,すぐに画面は「無表情な男の顔」が映ったショットに切り替わる。
 被験者が見た「無表情な男の顔」はすべて同一だが,「スープ皿」のあとに見た被験者は「この男は空腹だ」と述べ,「棺桶に横たわる子供」のあとに見た被験者は「悲しみの表情」だと思ったという。「セクシーな女性」を見た被験者は,男の顔に色っぽさを感じたそうだ。

 同じ映像なのに,どんなショットからつながれているかによって,見え方はまるで違う。いわゆる「クレショフ効果」と呼ばれる現象だが,映画は断片的なショットをつなぐことで異なる感情を表現できる。「映像を編集する」「カットをつなぐ」とは,映画の表現における要だ。

 ふだん我々が見ている映画やTVドラマは,撮影した順にショットを再生しているわけではない。個別に撮影された複数のショットが,一つの物語として見えるように組み立てられている。
 たとえドキュメンタリーでも,撮影した映像を編集する必要がある。あえてカットせずにカメラが主人公にずっと付いていくようなショット(英語では「tracking shot」と呼ぶ)もあるが,そういう演出は異例だ(以前に取り上げた映画「サウルの息子」でも採用されていた)。映画では数分も続くショットを見せ続けるより,数秒のショットを細かくつなぐほうが多い。

「サウルの息子」DVD発売中
発売:ファインフィルムズ/販売:ハピネット
(C)2015 Laokoon Filmgroup
【Jerry Chu】映画のようなゲームとは

 「カットをつなぐ」とは映画の文法であり,ジャンプカットやマッチカット,カットアウェイなど場面を転換する手法はいくつもある。だが,それらをゲームで再現することは難しい。
 映画と違って,ゲームの画面はコンピュータによってリアルタイムに描画されるものだから,ステージを切り替える前にデータを読み込んでおく必要がある。したがって,映画のように異なる場面をシームレスにつなぐのは技術的に困難だ。それに,ステージが勝手に切り替わるとプレイヤーは戸惑ってしまうだろう。

 ゲームデザイナーであるWarren Spector氏は「カットは没入感を損ない,プレイヤーからコントロール権を奪ってしまうので,ゲームではなるべく避けるべきものだ」と主張した(出典元)。映画的な演出手法を好んで用いる小島秀夫氏も「映画はカットバックが可能なので,『一方その頃』を描けますよね。でもゲームであれをやると,まったく臨場感がなくなってしまうんです」と語っている(三才ブックス「ゲームになった映画たち―シネマゲーム完全読本」より)。
 「カットする」という手法がゲームでは安易に使えないのは,もはやゲームデザインの常識と言えよう。

「Heavy Rain」は映画的な編集手法を使わず,キャラクターの細かい仕草でプレイヤーをドラマに引き込んだ
【Jerry Chu】映画のようなゲームとは

 ゲーム研究者であるIan Bogost氏も「カットはゲームに適さない」と指摘し,映画的な編集手法を排した「Heavy Rain」を賞賛している。
 「Heavy Rain」の冒頭,プレイヤーは家で目覚めたばかりの主人公を操作して,シャワーを浴びたり,歯を磨いたり,着替えたり,コーヒーを飲んだりする。映画なら省略されるような些細な所作を過剰に描いている。
 その後,主人公は長男を失い,人生のドン底に突き落とされる。兄を失い,一人で食事をする息子。その近くに座っている主人公は,プレイヤーが操作するまで虚空を見つめる。黙して佇む主人公は,一体何を思うのか。

 静穏なシーンを編集せずに見せ続けることで,「Heavy Rain」はプレイヤーに想像の余地を与えた。「編集(edit)」が映画の本質なら,ゲームはその反対である「拡張,付加,延長(extension, addition, prolonging)」に長けている。Ian Bogost氏はそのように結論付けた(出展元)。

「Life is Strange」は時間の流れが静止した空間で,好きなだけくつろげる
【Jerry Chu】映画のようなゲームとは

 Ian Bogost氏の知見は,実に興味深いものだ。映画は約2時間のエンターテイメントだから,無駄を削ぎ落とさなくてはならない。それに対して,ゲームには時間的な制約がなく,細部の描き込みに適している。
 「Life is Strange」では与えられた目的を速やかに済ませて,トントン拍子に進行させることは可能だが,ゲームの目的をあえて無視し,落ち着いて周囲の風景を観賞してもいい。
 プレイヤーが行動しなければ,ゲーム内の状況は変わらず,時間も流れない。「異なる時間と空間をつないでいく」のが映画なら,「止まった時間と空間を描く」のがゲームだ。その観点から言うと,ゲームは映画より写真に近いのかもしれない。

 話が少し逸れてしまったが,ここまでの話を踏まえれば,「Virginia」がいかに型破りなのかが分かるだろう。「Uncharted」シリーズや「METAL GEAR SOLID」シリーズ,「Heavy Rain」は映画的な演出を採用しているが,チャプターの遷移やカットシーン以外の場面転換を控えている。
 「シーンが頻繁に切り替わる」という大作ですらやりかねた禁じ手を,「Virginia」は憚ることなく使いまくっているのだ。ゲームデザインの禁則事項に反した「Virginia」が,「こんなのゲームじゃない」と叩かれても不思議ではない。「Dear Esther」「Proteus」といった「Walking Simulator」と称される作品でさえ,何の前触れもなくプレイヤーをいきなり次のシーンに飛ばすような真似はしない。
 ゲームの文法を度外視した「Virginia」は,Walking Simulatorですらない。何とも形容し難い存在だ。

「Virginia」のクレジットロールでリスペクトが送られた「Thirty Flights of Loving」も,「シーンが唐突に切り替わる」「キャラクターがデフォルメで描かれる」「セリフがない」といった要素を備えた怪作。当然,「Virginia」と同様に評価が分かれている
【Jerry Chu】映画のようなゲームとは

 「Virginia」への批判は理解できる。演出手法は極めて珍妙で,その内容も既存のゲームとはあまりにもかけ離れている。シュールな演出を採用したストーリーはただでさえ複雑なのに,シーンが頻繁に切り替わるせいで難解になっている。
 映画の編集手法を大胆に用いた本作は,ゲームというより「インタラクティブ・シネマ」に近いと思う(約1000円で約2時間の体験を得る。その価格設定も映画的だ)。そのため,従来のアドベンチャーゲームを求める人にはちょっとオススメしにくい。

目を見張るような美しいシーンもあり,グラフィックスに手抜きは一切感じられない(「Virginia」)
【Jerry Chu】映画のようなゲームとは

 「Virginia」は決して駄作ではない。瞬時に次のシーンへと飛ぶことを可能にしたプログラミング,色鮮やかなビジュアル,ストーリーを彩る盛大な音楽などは,むしろ丁寧に作り込まれている。こうした実験的なゲームの存在は,インディーズゲームズの懐の深さを証明していると言えるだろう。一風変わったゲームをやりたい人,芸術的なゲームに触れたい人,映画とゲームの異同について考えたい人にぜひ体験してほしい。

■■Jerry Chu■■
香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。
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