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現代のコスト問題や成長の停滞を打破するのはAI。Googleのゲームビジネス担当者が語る「リビングゲーム」の未来[GDC 2026]
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このセッションにおいて,GDC会場のモスコーニ・コンベンションセンターにある高級感のある劇場,Blue Shield of California Theaterに登壇したのが,Googleのゲーム部門の統括責任者であるジャック・ビューザー(Jack Buser)氏だ。
ビューザー氏がゲーム業界入りしたのは1990年代後半で,当初はDolby Laboratoriesにて技術エバンジェリストとして活動。2008年にソニーに入社すると,「PlayStation Home」や「PlayStation Plus」「PlayStation Now」の立ち上げに関わるなどデジタルプラットフォームの要職を歴任し,2016年からはGoogleに移って「Google Cloud」および「Google Stadia」を担当した。
現在の正式な役職名は「Director of Game Industry Solutions」であり,カプコンなどの大手パブリッシャに対して,「Vertex AI」や「Gemini」を活用した具体的なソリューションを提供する統括者だ。
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そんなビューザー氏は,「今のゲーム業界は30年前と似ていて大変革を迎えている」と話す。当時は2Dから3Dへとグラフィックスが移行しつつあっただけでなく,オンライン化およびマルチプレイヤー化という,業界最大級の変革期にあった。「当時のGDCでは,プログラマーたちは“ネットコード”について語り合い,誰もが未知の領域に対して不安を抱えていた」と回想する。
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現在のゲーム業界も似たような状況にあり,連載「奥谷海人のAccess Accepted第853回:静かなるゲーム産業の危機。業界アナリストによる渾身の白書を読み解く」(関連記事)で紹介したことがあるように,欧米ゲームパブリッシャの大手はリストラによって収益を向上させているものの,営業利益は下がって新作に投資する余裕がないという壊れたビジネスモデルになっている。
さらに,世界中のゲーマーの全プレイ時間の3分の2は,ローンチしてから6年以上経過するライブサービス型の一部のゲームに人気が集まり,旧来のパブリッシャは倍の開発コストをかけて,3分の1しかないゲーマーのプレイ時間を奪い合っているという状況だ。
そこで,Googleでは「ライブサービス」から変革するための回答として,「リビングゲーム」(Living Games)というコンセプトワードを提唱し始めているという。リビングゲーム(生きたゲーム)は,ビューザー氏によると「ライブサービス型ゲームやDLC販売もざっくりと含んでいる」と話すものの,考え方としては「ライブサービス型ゲームが,さらにリアルタイムに近い形でプレイヤーの動向に適応し,進化し続ける“生き物のようなサービス”」なのだという。
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意外に感じるかもしれないが,GoogleにとってのAIは,クリエイターを置き換えるものではない。開発者にスーパーパワーを与える「アイアンマンのスーツ」だ。反復や細かい作業をAIに任せ,人間が高価値なクリエイティブに集中できる状態に仕立てる,超高性能アイテムであるというわけだ。
今回のセッションは25分ほどだったので,この「リビングゲーム」というコンセプトに関する解説にはそれほど時間が割かれなかったものの,ビューザー氏の意見は以下の3つに集約される。
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1.開発効率の劇的な向上(プレプロダクションからQAまで)
AIはプレプロダクション用のアセットを自動生成するだけでなく,アートバイブルを理解したうえで,企画やアイデアをキュレーションする“提案”の1つとして作業時間を短縮させる。また,QA(品質管理)においてAIを「免疫システム」として常駐させることによって,デバッグ時間を最大50%削減できるという。
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2.パブリッシング組織全体の「エンジン化」
データの孤立を解消し,AIがプレイヤーの離脱を予測し,一人ひとりに最適化されたマーケティングやゲーム体験をリアルタイムで提供する「ハイパー・パーソナライゼーション」(Hyper Personalization)を可能にする。また,経費精算やルーチンワークをAIエージェントに任せることで,組織全体の戦略的業務のキャパシティを50%向上させることが可能になった。
3.プレイヤー体験の再定義
AIが有害な発言や振る舞い(トキシティ/Toxicity)や,ゲームの楽しさを破壊させるチート行為をリアルタイムで検知・遮断し,健全な環境を維持させる。スクリプトに従うだけのNPCから,自然言語で対話し自律的に動くキャラクターでゲームを体験できるようになる。これはあらゆる既存ジャンルに対応できるもので,今後3〜5年でNPCの在り方が大きく変貌を遂げていくはずだとビューザー氏は話した。
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筆者はビューザー氏が提唱する「アイアンマン・スーツ」という比喩は,AIがもたらす本質的な変化が人間の「代替」ではなく「拡張」であることを示唆していると考える。
かつて2Dから3D,そしてオンライン化という荒波を乗り越えてきたゲーム業界は今,AIという史上最大の変革期に立たされている。しかし,Googleの提唱する「リビングゲーム」へのパラダイムシフトは,開発者がバグ修正やアセット管理といった,いわゆる「泥臭い作業」から解放され,本来の役割である「高付加価値なクリエイティビティ」に回帰するための招待状でもあると考えることができるだろう。
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開発費が倍増し,限られたプレイヤーの時間を奪い合うという,現在の「壊れたビジネスモデル」を修復できるのは,AIというスーパーパワーを纏った人間だ。AIが“免疫システム”となってゲームの品質を守り,“エージェント”として日常業務を代行する世界では,クリエイター(人間)は再び,プレイヤーを驚かせるための純粋な“遊び”の設計に没頭できるようになるのだ。
「AIはゲーム開発の終わりではなく,より収益性が高く,持続可能な業界の始まりである」というセッションでのビューザー氏の結びの言葉は,混迷を極める現代のデベロッパに対する希望のメッセージと受け止めることができるのではないだろうか。
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