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  • 発売日:2025/06/26
  • 価格:6050円(税込)
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「運しかない」ゲームは,どうすれば「読めるゲーム」になるのか。日本人初のドイツ年間ゲーム大賞受賞作「ボムバスターズ」の設計過程[CEDEC 2026]
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印刷2026/07/28 14:38

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「運しかない」ゲームは,どうすれば「読めるゲーム」になるのか。日本人初のドイツ年間ゲーム大賞受賞作「ボムバスターズ」の設計過程[CEDEC 2026]

 自分にだけ見える手札を持ち,他人の手札から1枚を指定して数字を当てる。外れればライフが減る。相談は禁止。それだけのルールでゲームを始めると,何が起こるか。答えは「勝てない」である。当たるかどうかは完全に運任せで,読みも戦略も入り込む余地がない。ではそこに何を1つ足せば,運のゲームは推理のゲームに変わるのか。

 CEDEC 2026のセッション「『ボムバスターズ』に学ぶ協力型ボードゲームの作り方」は,その問いに会場全員で答えを出す時間だった。
 登壇したのは,OKAZU brand代表でボードゲームデザイナーの林 尚志(はやし ひさし)氏。2007年にボードゲーム制作サークル「OKAZU brand」を設立し,これまでOKAZU brandとして60作品以上,協業も含めれば80作品以上を世に送り出してきた人物だ。
 そして2025年,「ボムバスターズ」で世界で最も権威あるボードゲーム賞のひとつ,ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)を受賞。日本人ゲームデザイナーとしては初の快挙となった。

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林 尚志氏の自己紹介スライド。左の写真はSpiel des Jahres 2025のトロフィーを掲げるもの
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なぜいま協力ゲームなのか


 本題に入る前に,林氏はドイツ年間ゲーム大賞そのものの説明から始めた。1979年に始まった同賞は,大賞のほかに,子供ゲーム賞(2001年より)とエキスパート賞(2011年より)を持つ。運営委員会は受賞作に付けるロゴのライセンス料だけで運営されており,中立性を保っているという。過去の受賞作には「カタン」「カルカソンヌ」「チケット・トゥ・ライド」といった作品が並ぶ。世界で広く遊ばれる作品の,ひとつの基準というわけだ。

ドイツ年間ゲーム大賞の概要。1979年に始まり,現在は3部門を持つ
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 興味深いのは,そこから示された傾向である。2017年から2026年までの受賞作10タイトルを並べると,そのうち5タイトルが協力ゲームだった。2019年「ジャストワン」,2021年「ミクロマクロ:クライムシティ」,2023年「ドーフロマンティック」,2024年「スカイチーム」,そして2025年の「ボムバスターズ」。ちょうど半分である。

過去10年の受賞作。赤い「協力」マークが付いた作品が半数を占める
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 協力ゲームとは,プレイヤー同士が競争するのではなく,共通の勝利条件を達成するために相談・分担・協力しながら遊ぶゲームを指す。勝敗は個人やチームごとではなく,その場にいる全員が「一緒に」勝つか,「一緒に」負けるかになる。この流行について林氏は,他人を打ち負かすことよりも,みんなで相談して勝利の喜びや敗北の悔しさを分かち合うスタイルが,現代のコミュニケーション需要にマッチしているのではないか,と自身の見解を述べた。

協力ゲームの定義と,その流行についての林氏の見立て
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 「ボムバスターズ」は,プレイヤー全員が爆弾処理の専門家としてチームを組み,爆弾の解除を目指す協力ゲームだ。赤いコードを切ってしまったり,起爆装置のダイヤルがドクロに達したりすると爆発してミッション失敗。全員のタイルスタンドが空になれば成功となる。初心者向けのトレーニングミッションから音声に合わせて挑む激ムズミッションまで,66のミッションが用意されている。
 日経MJ 2025年ヒット商品番付では東前頭14枚目に選ばれ,日本ボードゲーム大賞2025では投票部門大賞を受賞。2026年中には拡張版の発売も決まっている。

「ボムバスターズ」の概要。パッケージには「66 MISSIONS」の表記が見える
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 発想の源は2つあったという。ひとつは「ババ抜きを基にした協力ゲームを作りたい」,もうひとつは「推理ゲーム(論理パズル)を作りたい」。この2つが合体したものが,本作の大元になった。原型は2016年に「ボムスカッド」として自費出版され,その後フランスの会社の出版で「ボムバスターズ」となった。

発想元となった2つのアイデアと,2016年の自費出版版「ボムスカッド」
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「運しかない」から始めて,情報を1つずつ足していく


 ここからセッションは,異例の形式に入る。会場のテーブルにはあらかじめトランプ32枚(各スート A〜8を1枚ずつ),ライフカード3枚,封筒1封,ルールテキスト,終了済タイルとタイル立てが配られていた。参加者はこれから,「ボムバスターズ」の制作過程を4段階のミッションとして追体験することになる。

各テーブルに配られたコンポーネント。封筒は「指示があるまで開けないでください」とされていた
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 配られたトランプはA〜8が各4枚ずつの計32枚。プレイヤーはそれを均等に分け,自分だけに見えるように手に持つ。同じ数字が4枚あるので,各数字には2組のペアが存在する計算だ。

 基本ルールはこうだ。手番プレイヤーは2つの行動のいずれかを選ぶ。「協力解体」は,自分の手札にある数字をひとつ決め,他プレイヤーの手札1枚を指定して「このカードは3ですか?」と尋ねる方式。当たれば両者のカードが場に出て,外れればライフを1失う。もうひとつの「自力解体」は,自分の手札にある同じ数字2枚を公開して場に出す。すべての数字が解体されれば勝ち,ライフ3をすべて失えば負けだ。

 ここで重要なのが,ゲーム中は相談が禁止されている点である。協力ゲームでありながら,手札の情報を言葉で伝え合うことはできない。この制約があるからこそ,どこに情報を漏らす穴を開けるかという設計が意味を持ってくる。

基本ルール。2枚1組で数字カードを「解体」していく
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 そしてミッション1の条件は,タイトルどおり「何のヒントもない」。配られたカードを手元で並べ替えることすら禁止される。

ミッション1「何のヒントもない」。準備は「配られた数字カードを手元で入れ替えない」だけ
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 結果は明白だった。「皆さんやって分かったと思うんですけど,たぶん勝てないと思います」と林氏。運良く自分の手元にペアが揃っていれば勝てる可能性もあるが,それは文字どおり運でしかない。

ミッション1の結果は「運しかない」。全テーブルが敗北した
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 ミッション2の変更点は2つ。配られたカードを自分から見て左が小さい数字,右が大きい数字になるようソートすること。そして自力解体は,その数字を自分しか持っていないときにしか行えないようにすること。狙いは,運の要素を減らすことにある。

ミッション2「カードの順番がヒントになる」。赤字が前回からの変更点だ
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 カードがソートされていれば,他人の手札の左端は小さい数字,右端は大きい数字だと推測できる。情報がひとつ増えたことで,当てずっぽうが「読み」に変わる。ただしそれでも勝てるテーブルは現れなかった。「情報量が増えたので前より勝てるようにはなっていると思いますが,まだ運が良くないとおそらく勝てない」と林氏は総括する。

ミッション2の結果。運だけではなくなったが,まだ勝ち切れない
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 ミッション3で加わった変更は,ゲームの性格を決定づけるものだった。準備段階でスタートプレイヤーから時計回りに1周,各自が手札から1枚を選んで裏返す。裏返すといっても捨てるのではなく,手札に持ったまま向きだけを反転させ,自分からは見えず他のプレイヤーからは数字が見える状態にするのだ。さらに協力解体で数字を外した場合,ライフを1失うのは同じだが,そのカードも同じように反転させて公開する。つまり,失敗が次の手がかりになる。

ミッション3のタイトルは「ミスもヒントを生む」。失敗したカードを公開するルールが加わった
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 ここで会場の空気が変わった。あちこちのテーブルから拍手が上がり始める。クリアしたグループを尋ねると,7テーブルが手を挙げた。林氏は,失敗してもヒントになるので心のつらさを少し軽減できる,と説明する。なかには戦略的に失敗を使ったグループもあったかもしれない,とも。「ミスもヒントを生む」という救済措置が,罪悪感やストレスを和らげる効果を持つわけだ。

ミッション3の結果。勝率が上がっただけでなく,失敗の心理的負担も軽くなる
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 最後のミッション4の前に,参加者は封筒を開けるよう指示された。中身はジョーカー1枚,ダブルカード4枚,そしてルールテキスト。ジョーカーは「爆弾」として数字カードに加えられ,ソート時は「4.5」として扱う。協力解体で指したカードがジョーカーだった場合は即座に敗北する。
 一方ダブルカードは各プレイヤー1回だけ使え,ひとつの数字で相手のカード2枚を指定できる。どちらか当たっていれば1枚を解体でき,外れてもどちらか1枚を裏にするだけで済む。爆弾を指してしまってもゲームオーバーを回避できる保険になっている。

ミッション4「爆弾とアイテムが追加される」。緊張感と救済策が同時に導入された
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 結果として一発でミスするスリル感が生まれ,プレイのバリエーションも増えた。多様な遊び方を可能にし,複数シナリオ制への発展につながる――「ボムバスターズ」が66ミッションを擁する構造の原点が,ここにある。

ミッション4の結果。緊張感とバリエーションの獲得が,複数シナリオ制につながる
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情報量のコントロールと,協力ゲームの2つの病


 4つのミッションを追体験させたうえで,林氏が提示した結論はシンプルだった。協力ゲームで大事なのは,情報量のコントロールである。

講演の結論。試行とテストプレイを重ねて「ちょうどいいライン」を探す
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 解けるか解けないかの微妙なラインが必要で,コミュニケーションをどこまで許すか禁止するか,ある程度予想ができる初期配置やヒントの出し方をどうするか。これらを試行とテストプレイの反復で詰めていく。自サークルの制作時は20〜30回,ゲームによっては100回以上のテストプレイを行うという。

 そして林氏は,協力ゲーム特有の2つの問題を挙げた。ひとつは「奉行(コマンダー)問題」だ。誰かが全部仕切って,他の人が従うだけになってしまう現象である。もうひとつは「戦犯問題」で,失敗を誰かのせいにしてしまうこと。

協力ゲームで起こる2つの問題。どちらも体験を損なう
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 「ボムバスターズ」は前者を,各プレイヤーが異なる情報を持つ構造で解決している。全員が同じ情報を見ているなら最も賢い1人が指示すれば済むが,情報が分散していれば全員が発言せざるを得ない。後者については,マナーやプレイヤー個々に依存する部分があるため完全にはなくならないとしつつ,失敗したときにヒントが出せる仕組みによって責任を軽減していると説明した。

 最後に紹介されたのは,製品としての工夫だ。「ボムバスターズ」は準備が少し大変な作品である。そこでさまざまなミッションとギミックを用意し,一度テーブルに広げた状態で複数のミッションに挑戦できるようにした。また66ミッションという長い道のりに対しては,チュートリアルミッションから始め,進行に従って小箱を開けていく方式を採用している。

製品化にあたっての工夫。準備の重さと長い道のりへの対策だ
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 質疑応答では,デジタルゲーム開発者からの質問が相次いだ。

 モバイルゲーム開発者からデジタルとアナログの違いを問われた林氏は,デジタルはルールがすべてソフトやサーバ側に入っているぶん,プレイヤーは変わったことができないと指摘。対してアナログゲームはすべてをプレイヤーが処理しなければならず負荷は高いが,そのぶんプレイヤーが勝手にいじれる。そこが最大の違いだと答えた。

 設計とテストプレイの順序を問う質問に対する答えは,デジタル開発者にとって示唆的だったはずだ。林氏は,Excelで計算してから最後にテストプレイをするのではなく,思いついたらすぐテストプレイキットを使って試すという。
 その理由は,「面白いかどうかをメカニクスで判断するのは早いほうがいい」からだ。デジタルであれば見せ方や数値のバランス調整で後から面白くできる部分も多いが,アナログゲームはプリミティブな遊びに近いぶん,そもそも最初が面白くなければずっと面白くならないのである。

 戦犯問題について,ジョーカーを引いた人が戦犯になってしまうのではないかという質問には,ミスしたときにカードをめくれる仕組みやダブルカードによる回避策で負担を減らしていると回答。そのうえで「やっぱり爆弾を入れたのは緊張感が欲しかった」と,設計上のトレードオフを率直に語った。

 66ミッションを2人から5人までのどの人数でも成立させた方法についても質問が出た。林氏の答えは,まず基準となるミッションを1つ作り,全人数で成立するバランスを取ったうえで,各ミッションでどれだけずらすかを考えるというもの。なお現行版はフランスの出版社がディベロップメントを担っており,そちらでのテストプレイ回数については「ものすごい回数やっている可能性もある」と述べている。

 最後の質問は,このワークショップ自体の設計についてだった。学生にアナログゲームを作らせるワークショップを行っているという参加者が,60分でこの内容を回すための試行回数を尋ねると,林氏は2月ごろに登壇の話を受けて即座にテストプレイを始めたと明かした。設計思想を語るセッションもまた,テストプレイの反復から生まれていたわけである。


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