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実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー
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印刷2020/05/01 18:00

インタビュー

実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

 2020年7月30日に角川ゲームスから発売される「Root Film(ルートフィルム)」PS4 / Switch,以下「Root Film」)は,2016年に発売されたアドベンチャーゲーム「√Letter ルートレター」PS4 / PS Vita / PC / iOS,以下「√Letter」)に続く,角川ゲームミステリーの最新作だ。

画像集#002のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

 ミステリードラマのプレ・ロケハンのため,舞台となる島根を訪れた映像作家の八雲凛太朗(CV:駒田 航)と女優のリホ(CV:茜屋日海夏)が,次々と起こる殺人事件の謎に挑むという物語で,青春サスペンスであった前作から,重厚な世界観を持つ本格ミステリーへと変貌を遂げている。

画像集#021のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

 キャラクター・デザイナーは,前作と同じ箕星太朗氏だが,その風合いは大きく変化しており,背景空間内に破綻なくキャラクターを配置するユニークな手法と合わせて,画面から感じ取れる雰囲気も大きく変化している。
 そこで,前作と本作のプロデューサーである安田善巳氏と,本作のディレクター兼シナリオライターを務めることになった河野一二三氏に,開発にあたっての秘話や本作の魅力を聞いてきた。

「Root Film(ルートフィルム)」公式サイト


「今度は島根全域を舞台としたゲームに」綿密な現地取材を経て,角川ゲームミステリーの最新作が登場


画像集#001のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー
左:安田善巳氏・「LOLLIPOP CHAINSAW」(PS3 / Xbox 360)や「デモンゲイズ」「艦これ改」「GOD WARS 日本神話大戦」(PS4 / Switch / PS Vita)といったタイトルを手がける。/ 右:河野一二三氏・ヌードメーカー代表取締役。代表作は「クロックタワー」や「御神楽少女探偵団」「鉄騎」「無限航路」など

4Gamer:
 よろしくお願いします。本日は新作「Root Film」についていろいろとお話を伺えればと思います。

安田氏:
 前作となる「√Letter」は「青春ミステリーアドベンチャー」と銘打った,角川ゲームミステリーの初回作です。主人公が,高校時代に文通していた少女の身に何が起こったのかを探るため,島根で活躍するという物語でした。

 「Root Film」の方は,ドラマのプレ・ロケハンのために島根を訪れた主人公たちが,さまざまな殺人事件に巻き込まれ,それを解決していくものになっています。タイトルに「Root」とありますが,登場人物も含めて前作と関りはありません。

4Gamer:
 前作もですが,島根を舞台にした理由はあるのでしょうか。

安田氏:
 じつは僕自身が島根出身なんです。高校時代の同級生で,当時,島根県庁の企画局長を務めていた友人から「島根を観光立国としてアピールしていきたい。アジアのお客さんを呼び込みたいが,島根の魅力をゲームで広めることはできないか?」と相談されたのが「√Letter」を作るきっかけでした。
 また発売後に,「つぎの作品を作るのであれば,全ての地域を取り上げたゲームにできないか」というお話をいただきまして,今度は「Root Film」の開発を進めることにしたんです。

4Gamer:
 島根の全地域を扱うとなると,話の展開的にも難しそうですね。受ける側も大変な気がしますが,河野さんにはどのようなオファーをしたのでしょうか。

安田氏:
 「島根の全域を出して欲しい」「プレイヤーの血も凍り付くような,ミステリーアドベンチャーの醍醐味を堪能できるものにして欲しい」という,ざっくりしたオファーを出し,あとはもうすべてをお任せしました。

4Gamer:
 けっこうアバウトな感じですね(笑)。安田さんからお話を受けた際,河野さんはどう思いましたか。

河野氏:
 ほかの人が前作を手がけたシリーズを引き継ぐのは初めてで悩みもしたのですが,旅情を絡めたミステリーであるところが凄く魅力的に感じました。

画像集#004のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

4Gamer:
 前作は実在する島根の観光スポットがゲームに登場しましたが,今回もそうした路線は引き継いでいるのでしょうか。

安田氏:
 はい。そのため,今回は取材のために河野さんと4泊5日の弾丸ツアーを敢行し,島根県中を巡りました。

安田氏:
 古代日本の原風景が残っている場所なので,そうした魅力を河野さんに伝えるセレクションで巡ったんです。

河野氏:
 ミステリーの導入となるアトモスフィア(雰囲気)を作る際には“不気味な伝説”が有効ですが,島根県は凄く題材が豊富な土地なんです。
 オカルトオタクで,「ムー」(※40年を越える歴史を持つオカルト雑誌)に取り上げられるような土地を歩くのが好きな身としては,趣味と実益を兼ねたようなお仕事でしたね。

4Gamer:
 ツアーの中で印象に残った風景はありましたか。

河野氏:
 ほぼ全部の風景が心に響きました。「これは全部ゲームに入れなきゃ!」という気持ちになりましたし,実際にツアーで訪れた場所のほぼすべてがゲームに取り入れられています。

安田氏:
 最初に2人で行った地元の名店「田吾作」まで入っていて,驚きましたよ(笑)。

河野氏:
 あぜ道のそばにポツンと建っていて,知らないとたどり着けないようなお店なんです。ガラス細工のようなピッカピカのイカ刺しやらなにやら,いろいろな食べ物が美味しかったです。

4Gamer:
 前作でもグルメ関係はとても美味しそうに描写されていましたから,今回も楽しみです。

河野氏:
 あと,安田さんに勧められて見た黄泉比良坂もよかったですね! さすが日本神話で生者と死者の世界を隔てている坂だけあって,周囲とは空気感が違いました。前々から行きたかった憧れの地だったんですよ!

安田氏:
 黄泉比良坂は,地元の人もあまり知らない場所で,ポツンと石が置かれているあたりに古代日本の原風景を感じられるんです。ただ,最近ここを舞台にした映画が撮影されたようで,宣伝の看板が置かれていました(笑)。

4Gamer:
 旅行はトラブルなく進んだのでしょうか。

安田氏:
 ゲームのネタバレになってしまうので,あまり詳しくは話せないのですが,予定していた手段で移動できなくなってしまって途方に暮れたのがありましたね。そこで出会った人に助けられて,九死に一生を得ましたが(笑)。

河野氏:
 あれは心細かったですね。このままだと野宿になるって,心底心配しました。まあ,この体験も物語を作るうえでは役に立ったのかなと(笑)。

4Gamer:
 実在の場所を物語に出す上での苦労はありましたか。

安田氏:
 前作は観光ガイド的な内容で,かつ「人を殺さないゲーム」というコンセプトだったので,どこの場所もゲーム内に出すことを快諾してくれたんです。その分,マックスの行動が強引になっていたところはありましたが。
 しかし,「Root Film」は,出てくる場所で殺人やら何やらの事件が起こるので,なかなかOKが出ないんですよ。

画像集#019のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

河野氏:
 実在する神社の社殿で事件が起こるシナリオを提示していたこともありましたからね。そりゃNGだろうと(笑)。ほかには,シナリオが完成した後のギリギリなタイミングでNGが出たこともありました。トリックの根幹に関わるところだったので,その回はトリックの構築から何から,1話丸々書き直すことになってしまいました。

4Gamer:
 ゲーム内とはいえ,自分が関係ある場所で殺人事件が起こるのはみな嫌でしょうし,イメージもよくないですからね。

河野氏:
 あと,制作中にどうしても写真を撮り直したいということがあったのですが,交通の便が良くない場所だったので大変でした。車でぐるりと山を回り込まないといけないところで,片道のタクシー代が1万円を越えましたから(笑)。

ろくでなしだけど憎めない。実写ドラマ的な雰囲気を持つ主人公・八雲と新たなマックスモード


4Gamer:
 実在の土地を舞台にしたからからこその苦労もあったようですが,その経験を元にして作られた「Root Film」は,どのような物語になるのでしょうか。

河野氏:
 島根を舞台としたドラマプロジェクトにまつわるお話です。10年前にお蔵入りになったドラマプロジェクトが,3人の監督による競作の形で再始動することになり,主人公で映像作家の八雲凛太朗が自分のチーム「八雲組」を率いて参加するのですが,行く先々でいろいろな事件に巻き込まれていきます。
 八雲は,気になったキーワードが浮かび上がる「共感覚」の能力で手がかりを収集し,論争の相手を「マックスモード」で問い詰めて事件を解決していくんです。

画像集#016のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

4Gamer:
 「マックスモード」と聞くと,前作「√Letter」を思い浮かべてしまいます。前作との関連性はあるのでしょうか。

安田氏:
 特につながりはありません。名前が前作と同じだけです。ただ,システムは大きくパワーアップしていますね。

河野氏:
 開発を担当するにあたり,前作をプレイしたのですが,こちらはジュブナイルかつ独特の雰囲気を持っているお話という印象を受けました。
 一方,安田さんから受けていたのは「血も凍るような本格ミステリーで行きたい」という話だったので,同じままではいけないのかなと。

4Gamer:
 話や登場人物だけでなく,システムなども方向性が違ったものになっているということなんでしょうか。

河野氏:
 そうですね。物語は,実写の連続ドラマ的な空気を持つようにしたくて,「トリック」や「ケイゾク」,「SPEC」といった“堤 幸彦さんサーガ”的なキャラクターの存在感や掛け合いの面白さも目指しています。
 また,各章が独立しつつも,全てのお話を見ていくと,大きな“何か”の存在が明らかになるかも知れない……といったところもでしょうか。

安田氏:
 1話完結と思わせつつ,実は事件と事件がつながっていたり,ダブル主人公の話もあったりと,重層的な構造かつ,多様なミステリーの手法が駆使されていますよ。

4Gamer:
 青春サスペンスから実写ドラマ的な雰囲気を持つ旅情ミステリーとなると,かなりの方向転換ですね。

河野氏:
 今回はゲームの中で7つの事件が起こり,それぞれが1話完結形となっていますが,これは前作をプレイしたうえでの方向転換です。前作は“文通相手の謎を追う”という1つの目的があるなか,各章で発生する小さな謎をマックスモードを使って解決していくという流れでした。
 ただ,初めから大きな謎,目的を抱えてしまっているため,個別の謎を解いても全容がなかなか明らかにならず,達成感が薄いと感じる部分があったんです。今回は,各章ごとに事件が起こり,それを解決することで1つの物語が完結しますので,非常にすっきりとした達成感を得られるはずです。

4Gamer:
 なるほど。山場のマックスモードで謎を暴いて一区切りし,さあ次の事件に挑むぞ,と新たな気持ちで臨めると。

河野氏:
 先の話にも出ましたが,連続TVドラマのような1話完結の形になっており,それぞれにボリュームと達成感があるので,作りとしては結構リッチになっています。
 あと,プレイの上ではキャラクターたちの掛け合いにも注目してほしいですね。前作のマックス君は単独行動でしたが,今回はプレイヤーが操作する八雲,もう1人の主人公である女優のリホにはアシスタントやマネージャーが付いています。ストーリー的に意味の薄いシーンであっても,彼らの掛け合いでちゃんと面白く,飽きずに見てもらえるようになっているんです。

4Gamer:
 前作を踏まえた上で,新たな方向性を打ち出しているわけですね。主人公の1人である八雲はどういった人物なのでしょうか。

河野氏:
画像集#007のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー
 “八雲マックス”という名で映像作家をしています。イメージとしては俳優の大泉 洋さんっぽい感じでしょうか。

 ふだんはろくでもないんですけど,マックスモードで犯人を問い詰めるときは凄くカッコイイ。だけど,間違った選択肢を選ぶと追い詰められていく……という感じです。マックスという名前と突進力があるところが共通しているだけで,前作のマックス君と関連性があるわけではありません。

4Gamer:
 前作は,パワフルで破天荒なマックスが,文通相手だった「文野亜弥」の謎を探るお話で,彼女の同級生を相手に畳みかけるような推理を行っていましたが,そのマックスとは無関係であり,人柄もかなり違うということですね。

河野氏:
 前作のマックス君は他人に相当失礼なことをしていて,少し引っかかったところがあったんです。そこで,八雲は失礼なことをするにしても,何らかの理由があってやっているんだ,というところはしっかりと演出しています。

4Gamer:
 八雲は映像作家とのことですが,このような職業の主人公も珍しいですね。

河野氏:
 ドラマを制作する前段階の取材であるプレ・ロケハンの最中ですから,常にカメラが回っていて,事件の謎を解く際に記録映像が役立つこともあります。記録映像を振り返る際もカメラ風なUIが使われるので,こちらにも注目してみてください。

4Gamer:
 映像作家であることが物語や事件解決,そしてゲーム全体の雰囲気に活かされているわけですね。

河野氏:
 そうなんです。八雲は「共感覚」という能力と,これを活かしたシステムを持っています。共感覚とは,ある刺激に対して通常とは異なる感覚も感じるといった実在する知覚現象で,例えば文字や音に色を感じたりするのです。
 八雲の場合だと会話中の重要なキーワードが浮かび上がって見えるので,これを収集してマックスモードでの切り札にします。

4Gamer:
 論争とその材料集めが「共感覚」と「マックスモード」といったシステムにつながっているんですね。

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河野氏:
 こうしたシステム自体,アドベンチャーゲームにはいろいろあって,僕がかつて手がけた「御神楽少女探偵団」の「推理トリガー」もその一つです。今回の共感覚は「なぜ主人公はキーワードを集めることができるのか」という点に明確な説明を付けたものですね。

4Gamer:
 推理トリガーは使える回数に限りがあり,そのシビアさがゲーム性と直結していましたが,八雲の共感覚もそうしたシステムになるのでしょうか。

河野氏:
 今回は違います。推理トリガーは自分でキーワードを収集するもので,制限回数がある中で的確な使い方をしないとゲームを先に進めることができませんでした。
 共感覚は,出てきたキーワードは必ず手に入り「マックスモード」で自由に使えるので,そこで困ることはないでしょう。ただ,選択の結果によってはゲームオーバーになりますけれど。

4Gamer:
 なるほど。マックスモードでの見どころはありますか。

河野氏:
 不正解の選択肢を選んだ際のリアクションを見てください(笑)。ふつうに進めれば犯人を問い詰めていけるんですけど,不正解だと逆襲を食らってしまい,逆に八雲が謝ったりするコミカルな展開になるんです。
 八雲役の駒田さんも,三枚目的ないい演技をしてくださっているので,ぜひ全パターンをチェックしてみてください。ゲームオーバーになっても,すぐに再戦できるので大丈夫ですよ。

安田氏:
 駒田さんはイケメンやクールな男性を演じることが多く,八雲のようなキャラクターは初めての役柄だったようです。ご本人も変わった役ができたと喜んでおられましたね。

河野氏:
 八雲はお化けが出たときに助手の女の子を盾にしたりするなど,結構なろくでなしなんですが,人として越えてはならない一線は越えないし,その行動は筋が通っている。物語を読み進めていくと,きっと八雲のことを凄く好きになってもらえると思います。アシスタントの曲 愛音とのコンビもいい感じですし。

4Gamer:
 ろくでなしな主人公というのも実写ドラマ的ですね。

河野氏:
 ろくでなしと聞くと抵抗があるかも知れませんが,海外ドラマなどでも,品行方正でない主人公は多いですよね。それでも,その人間をしっかり描けていれば魅力を感じられます。
 個人的な偏見なんですが,映像作家は大抵ろくでなしなんで,描きやすくもあるんじゃないかと(笑)。八雲もリアル感のある人物になったと思っています。

4Gamer:
 プレイする上では八雲や曲のキャラクターにも注目ですね。ほかにもオススメのキャラクターはいますか。

河野氏:
画像集#009のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー
 「Root Film」は,主人公を含めたおじさんキャラに味があるんですよ。なかでも,お笑い芸人のネゴシックスさんはご本人役で出演してもらっているのですが,芸人さんはふつうの人とちょっと違った存在感があっていいですね。「ゴッドタン」のイメージでお芝居が下手な感じを期待していたんですが,実はけっこううまくて驚きました。

 また女性キャラクターですが,八雲の競作相手である井伏依沙也という監督は,「紀子の食卓」や「地獄でなぜ悪い」で知られる映画監督の園 子温さんをイメージモデルにしていて,声も含めて人気が出ると思いますよ。

4Gamer:
 女性だけでなく,おじさんが多いというのも実写ドラマ的なのかも知れませんね(笑)。

背景イメージにキャラクターのバストアップを配置するといったADVのお約束から脱却を図るビジュアルデザイン


4Gamer:
 キャラクターデザインは「Root Film」に続き箕星さんですが,絵柄がふだんと違いますね。また,立ち絵がふんだんに使われている気がします。

河野氏:
 「Root Film」ですが,アドベンチャーゲームのお約束的なビジュアルから脱却したいと思っています。パッと見たときに,同じジャンルのほかタイトルと差別化できればなと。
 テキストアドベンチャーのグラフィックスといえば“水彩的な感じで描かれた背景にキャラクターの絵が,背景との整合性を取らない異空間に浮かぶ”のがお約束です。しかし,このやり方では,どんなにいい絵描きさんを起用しても,画面の雰囲気がみんな同じになってしまいます。特に小さなサムネイルで見た時に,タイトル毎の差違が出づらくて,「この作品の絵(画面)だ」と気づいてもらえないんです。

画像集#022のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

4Gamer:
 あまりに普遍的な手法なので疑問にも思っていませんでしたが,たしかにお約束ですよね。皆が同じ手法を使うから,ダウンロード販売などでもいろいろなアドベンチャーゲームが並んだ際に,タイトル毎の個性は見えづらいでしょうし。

河野氏:
 イベント時の一枚絵はともかく,通常のプレイ画面を一目見て,「ああ,○○という作品の絵だ!」と理解してもらえる絵作りが必要だと思ったんです。毎回,異空間にキャラクターが浮いているのは思考停止なんじゃないかということですね。
 そこで,前作の絵柄が好きだったという人の批判を覚悟しつつ,「Root Film」独特の絵柄として,枠線を強調したポップなイメージのキャラクターデザインにしていただきました。また,背景も,ポップアート調で,イラストレーターの鈴木英人さんのようなイメージにしています。

4Gamer:
 雰囲気は大きく変わっていますし,確かに,そうした取り組みの効果はありそうです。

河野氏:
 絵柄の段階から,線は少なく,塗りのグラデーションも最小限でフラットな感じにしてもらいました。陰惨な事件もあるけれど,八雲やリホたちは明るく前向きに進んでいく……という物語を表現するため,絵は明るくする必要があったんです。

画像集#011のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

4Gamer:
 絵柄を変えることについて箕星さんからはどんな反応がありましたか。

河野氏:
 もしかすると否定的な反応があるかと思ったんですけれど,「ええで!」って,ご快諾いただけました(笑)。ポップアート的な背景についても,「サムネイルの時点で差別化できること,新しい挑戦をすることには意味があるから,是非やりましょう!」と,凄く前向きに取り組んでもらえました。

4Gamer:
 開発におけるコンセプトを理解した上で協力してもらえたんですね。新しいビジュアルでの苦労はありましたか。

河野氏:
 キャラクターについては,ふつうの絵柄と少し違うので,手がける人によってはセンスの差が出てしまいます。服のしわや影なども,それらしく輪郭線をグネグネさせるだけでは,美しいものにはならなくて。どこをまとめて,どこをラフにするか……。
 アニメそのものなら,技術的なフォーマットはあるので,一定の水準にはなるんですけど。

4Gamer:
 塗や影の置き方など,随所に工夫が見えますよね。手間がかかっていて,量産はできそうもないようにも感じます。

河野氏:
 背景についてはこちらでリファレンス(見本)も作ったんですが,どう描けばその通りのポップアート的なものになるか,なかなか言語化できなかったんです。でも箕星さんが背景制作のマニュアルを作ってくれたんですよ。

4Gamer:
 それは凄いですね。

河野氏:
 箕星さんはイラストレーターの枠だけに留まる人じゃありません。考え方がゲーム開発者ですし。

4Gamer:
 ゲーム開発者だからこそ,コンセプトを理解して絵柄も変えられるし,新しい背景作りのマニュアル化もできると。新しい試みをする際,スタッフ選びがいかに大事であるかが分かります。

河野氏:
 コンセプトを達成するには,キャラクターイラストの配置も重要になりました。背景イメージにバストアップの絵をポンと置くのではなく,舞台となる場所の絵にキャラクターが実際に存在しているような構図がほしかったんです。
 そこで,あらかじめ,いろいろな角度からキャラクターを描いた絵を用意し,パースのついた背景に矛盾しないように配置することで,その空間内にキャラクターが立っているように見せるという試みをしているんです。

画像集#023のサムネイル/実写ドラマを楽しむ人に遊んでほしい,血も凍るような本格ミステリー。「Root Film(ルートフィルム)」開発者インタビュー

4Gamer:
 キャラクターは2Dのイラストなんですよね。てっきり,3Dモデルを起こして,場面に応じた角度で使用しているのかと思いました。

 背景に矛盾しないようにキャラクターを配置するのであれば,どんなシーンでも使えるような形で,角度を付けたキャラクターの絵を用意する必要があると思います。どのようにしてフォーマットを策定したのでしょう。

河野氏:
 まずはいろいろなアニメやドラマの会話シーンを見て研究しました。こうしたシーンで使われる人物の角度というのはある程度決まっていることが分かり,どんな絵を準備しておけばいいかという問題に目処がついたんです。

4Gamer:
 映像演出のお作法を抽出するような作業をしたわけですね。1キャラクターあたり,何パターンの絵を用意したのでしょうか。

河野氏:
 最大8パターンですね。さらに春服・夏服の差分があったり,3Dでいうローモデル的なサイズ違いを3つ作成したりしています。キャラクターはスクリプトによる拡大縮小で,距離感を演出することもできるので,これだけでいろいろな情景を演出可能なんですよ。

 キャラクターが手前にいて,その肩越しにカメラが向こうで会話している人を映す「肩なめ」の手法に,手前の人をぼやけさせると演出を組み合わせ,3D空間を強く意識させるようなこともできます。ただ,1人のキャラクターについて複数パターンの絵を描いてもらわないといけないので,手間がかかるのが問題でした。

4Gamer:
 この新手法に対する箕星さんの反応はどうでしたか?

河野氏:
 こちらも「それ面白いですね!」と快諾でした。

4Gamer:
 確かに,スクリーンショットから立体的な雰囲気を得られますね。まるで3D空間内に,同じく3Dモデルを配置したようにも見えます。

河野氏:
 既存のパターンを組み合わせることで,そのカットのためにキャラクターを描き下ろしたかのような効果を得られる。しかも,そうしたカットをほぼ無限に作り出すことができるんです。

4Gamer:
 一般向けアドベンチャーゲームにおける,演出とグラフィックスコストの問題を同時に解決できる手法ですね。

河野氏:
 ただ,キャラクターをかなり厳密に配置しないといけなくて,これを制御するスクリプトを書くのに手間が掛かります。現在は地獄の真っ最中ですね(笑)。
 制作していく中で,キャラクターが背中を向けている絵が足りないということもあり,新たに描いてもらうこともありました。こちら向いているキャラクター同士では,いくら目線を変えても「相手の目を見ている」感がでなかったんです。ですが,背中を向けている絵があるとバッチリ決まって演出力が向上しました。

4Gamer:
 ふつうならシーンに合わせた立ち絵をどんどん発注してしまいそうなところですが,そうならないのが,この手法の面白いところですよね。

河野氏:
 ちゃんとした工夫と研究があれば効率よく解決できる問題に対し,物量で解決するというのは予算が潤沢なプロジェクトであっても悪手なんです。いくらあっても,いつかは足りなくなる。
 一方で,この手法を採るには,キャラクターデザイナーにかなり確かな画力が必要になります。箕星さんだからこそお願いできたと言ってもいいと思っています。

安田氏:
 ポーズや構図,そして絵全体が醸し出す雰囲気を含めて,とても新しい画面が作れたと思います。箕星さんは引き出しも多いですから,河野さんが言っていることを最初に理解された人だと思います。新たな挑戦に対し,「面白い」と思う人と,これまでの方法論を守る人がいますが,箕星さんは前者ですね。

4Gamer:
 新しい試みに挑戦するための適任者が揃っていたわけですね。

本格ミステリーでありながら,物語の根幹に「生きるとはどういうことか」といった普遍的なテーマも持つ「Root Film」


4Gamer:
 章ごとに事件が起き,その謎を解き進むといったミステリー作品となるわけですが,全編を通しての物語のテーマ,河野さんがプレイヤーに訴えたいものなどはあるのでしょうか。

河野氏:
 「生きるってどういうことですかね?」ということです。前向きに生きる,後ろ向きに生きる,無難に生きる,挑戦する……様々な選択肢がある中,等身大の人間がどう生きるかについて八雲が一つの答えを出す。これは「無限航路」など僕の作品に通底するテーマなんです。

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 生存本能と呼ばれるものにも関係するのかなと思うのですが,自分が生きるためには他者を殺さねばならないとなれば,殺すのも仕方がないと生に執着する,といった物語をよく見かけますよね。
 正しい,正しくないは別として,こうした姿には一定の美しさがあるのかなと感じる部分があり,「この世に生まれてきた以上は生きることに執着したい」といった一つの考えに対して,答えを出せればなと。

4Gamer:
 こうした方向性を目指そうとしたきっかけはなんでしょう。

河野氏:
 映画「花とアリス殺人事件」を見たとき,実写の演技をトレースしたロトスコープで作られた画面を見て「この方向性がいい」と思ったんです。アニメではあるけれど,いわゆるオタク的な絵柄ではないから一般の人でも受け入れやすく,そこに蒼井優さんの凄い演技が乗っているという作品ですね。

 プレイしてほしいのは,10代後半から30代くらいの女性です。間口の広い作品であれば遊んでくれて,オタクっぽいところがあると敬遠してしまう層であり,この人たちが受け入れてくれるということは,これ即ち一般性が高いということでもありますから,こうしたところを目指さないといけないんです。
 あと,本当に面白いミステリーを読みたいというミステリー好きの人にもぜひプレイしてほしいですね。僕がこれまでシナリオを書く上で目指していたものの1個は達成できたと自負する傑作なので。

4Gamer:
 つまり,ゲームファンだけでなく,一般層を狙った物語であると。

河野氏:
 いまのアドベンチャーゲームはオタク的,アニメっぽいものが多くて,間口が狭いように感じられます。そうした内容だと数字が読めるという事情もあるんですが,歴史を振り返ると「かまいたちの夜」や「街」といった一般層でも目を向けやすい作品があったわけじゃないですか。こうした方向性で間口を広げていけば,もっとアドベンチャーゲームを遊ぶユーザーさんを増やせるんじゃないかと思っています。

4Gamer:
 アドベンチャーゲームのさらなる隆盛も願ったタイトルが「Root Film」であるというわけですね。では,最後にファンや読者へメッセージをお願いします。

河野氏:
 本格ミステリーの事件が7つも楽しめるゲームで,ミステリーマニアの人でも納得のいく作りになっています。もちろん,ライトなミステリー好きの人も楽しんでいただけます。ゲームを終える頃には,島根とマックスたちのことが大好きになっていると思いますので,ぜひ遊んで見てください。

安田氏:
 キャラクターも魅力的ですし,いろいろな人に評価していただける作品に仕上がっていると思います。たくさんの人に手にとっていただければ嬉しいです。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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