お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
Access Accepted第739回:今だからこそ,戦争ゲームについて考える
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2022/10/24 12:00

連載

Access Accepted第739回:今だからこそ,戦争ゲームについて考える

画像集 No.007のサムネイル画像 / Access Accepted第739回:今だからこそ,戦争ゲームについて考える

 イギリスにある帝国戦争博物館で,戦争をテーマにしたゲーム作品が展示されている。現実である戦争を,ゲーム開発者がどのようにエンターテイメントに落とし込み,来場者がそこから何を感じ取るのかを問いかけるイベントで,その展示作品もさまざまな趣向のものが揃っている。今回は,そうした帝国戦争博物館の展示と,現在進行中のロシア・ウクライナ戦争をテーマにしたゲーム「Ukraine War Stories」を紹介しつつ,戦争ゲームについて考えていこう。



戦争博物館で,ゲームをテーマにした展示会がスタート


 イギリスのロンドン市街南部にある帝国戦争博物館(Imperial War Museum)は,大英帝国時代から続く近代・現代戦争史の記録のため,第一次世界大戦の最中である1917年に設立された博物館だ。一時期は市民の関心も薄れていたものの,兵器から文書まで10万点を超える遺物を保存しており,現在は,マンチェスターにある帝国戦争博物館・北館(Imperial War Museum North)など,テムズ川に浮かぶHMS Belfastを含む,4つの支館が開館し,年間で合計250万人を超える来館者を誇る。

 そんな帝国戦争博物館において,9月30日から2023年5月28日までの日程で,「War Games: Real Conflicts | Virtual Worlds | Extreme Entertainment」という展覧会が開催されている。第一次世界大戦以降をテーマにしたゲーム12作品を紹介するもので,「異なるゲーム開発者たちが,同じ“戦争”というテーマにインスパイアされて,どのような作品を作り上げていくのか」という過程を紹介することを軸に,悲惨な現実である戦争と,戦争を題材としたゲームがプレイヤーをエキサイトさせるエンターテイメントであるという微妙なバランスに,何かを感じてもらおうという趣旨を含めているという。

帝国戦争博物館は,帝国主義時代の軍事資料も保存していることからテロリストのターゲットになったこともある。戦争ゲームの展示を行うことで来場者に戦争とエンターテイメントの微妙なバランスを問いかけている
画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第739回:今だからこそ,戦争ゲームについて考える

 公式サイト(関連リンク)でも紹介されているとおり,展示されているのは「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア」「Sniper Elite 5」などの新作から,Bohemia Interactiveの「Arma 3」および「Virtual Battlespace 4」といった作品,さらに「Worms」「Wolfenstein 3D」などのクラシックタイトルが含まれる。
 イギリスのメーカーであるRebellionがイベントスポンサーであることから「Sniper Elite 5」が紹介されているのかも知れないが,弾丸の体内通過などをスローモーションで可視化した,同作の名物機能である“キルカメラ”に展示内容を絞っているという,かなり攻めたチョイスと言えるかもしれない。

画像集 No.002のサムネイル画像 / Access Accepted第739回:今だからこそ,戦争ゲームについて考える

 この他にも展示作品には,カナダ人写真家とドイツ人の技師という異なる立場にある非戦闘員の視点で第一次世界大戦を描いた「11-11 Memories Retold」,戦争から逃れるシリア難民をテーマにした「Bury Me, My Love」,第二次世界大戦で潜伏を余儀なくされた自由主義者の地下活動を描くストラテジー「Through the Darkest of Times」,都市包囲網の中でサバイバルを体験する「This War of Mine」などのインディータイトルまでもが含まれ,ゲーマーなら納得のチョイスと言えるだろう。
 さらに展示作品の中で注目したいのが,イラク戦争の“第2次ファルージャの戦闘”に焦点を絞ってリアルに描くことを目的に,現在も開発が続けられているタクティカルFPS「Six Days in Fallujah」だ。この作品については過去のニュース記事でも紹介しているが,戦死者を含む関係者がすべて実名で登場するというドキュメンタリー的な内容が,まだ事件から5年しか経過していなかった2009年の時点では大きな問題となったことで開発が中止された。しかし,時間が経つにしたがって,人々の記憶から忘れられつつあることに危機感を抱いた元軍人や関係団体の協力を得られることになったという経緯のあるプロジェクトだ。時間とともに人々の戦争に対する考え方が変わるという,同展示会の趣旨を体現したゲームであると言えるだろう。

2009年の制作発表以後の開発中断から10数年の間で,人々の「リアルな戦争体験ゲーム」への意識も変化したことを如実に語る「Six Days in Fallujah」。現時点では2022年12月のリリース予定となっているようで,開発もいよいよ佳境に入っているはずだ
画像集 No.003のサムネイル画像 / Access Accepted第739回:今だからこそ,戦争ゲームについて考える


戦争で変わるゲーム市場と,ゲーム開発の現場


 2022年2月24日に始まったロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が,当初これほど長引くと考えた人は,どれほどいたことだろうか。物価高やエネルギー問題など世界各地にも大きな影響を及ぼし,毎日のように紛争のニュースも入ってくる。

 当連載においては,3月7日に掲載した「第716回:ウクライナ侵攻でゲーム業界はどう動いたか?」関連記事)でも紹介したとおり,ウクライナのゲーム業界や日本を含む各国の寄付といった情報をお伝えした。その後も,同国の雄GSC Game Worldが新作サバイバル「S.T.A.L.K.E.R. 2」のタイトルを「Chernobyl」からウクライナ語となる「Chornobyl」へと変え,Frogwaresのアドベンチャー新作「Sherlock Holmes: The Awakened」もクラウドファンディングで資金調達に成功するなど,戦争に翻弄されながらも着実に開発は進んでいる。
 また,ロシアでのゲームハードの販売が停止され,「FIFA 23」や「NHL 23」などのEA Sportシリーズからロシアの代表チームなどが除外され,Ubisoft Entertainmentの「レインボーシックス シージ」に登場するロシア出身のオペレーターのバイオグラフィが公式サイトから消えたり,「オーバーウォッチ」のザーリャの「Z」ロゴまでが削除されたりと,ロシアはかなりの数のオンラインゲームやサービスから締め出されるか,何らかの制限を科されているような状況だ。

これまで「チェルノブイリ原発事故」という地名記述が一般的だったが,ロシア・ウクライナ危機に合わせて,GSC Game Worldの続編を含めてウクライナ語発音の「チョルノービリ」(Chornobyl)に変更された
画像集 No.004のサムネイル画像 / Access Accepted第739回:今だからこそ,戦争ゲームについて考える

 戦争が始まってから8か月が経過したが,すでにウクライナにおける体験談をゲーム化した作品も登場している。10月18日に無料でリリースされた「Ukraine War Stories」は,プレイヤーの「次へ」を押すことで2Dアートが変化していくというノベルアドベンチャー。3つのストーリーを自由に選べるようになっており,プレイヤーはストーリーが進行するうえで会話や行動を選択していくことにより,主人公たちのモラルなどのパラメータが増減し,結末が変化するというシステムになっている。

 それぞれのストーリーの主人公は,アントノフ国際空港の名でも知られるウクライナの“ホストメリ”でロシア軍の侵攻とともにサバイバルを余儀なくされた元エンジニアであるオレクシー,奪還後に市民虐殺が明らかにされた“ブチャ”にて,キーウから妹とともに避難してきたことで惨劇を目の当たりにするヤリク,そして長く続いた砲撃の末にロシアの手に陥落したマリウポリにある病院で働くディマとアーニャの2人という,軍や政治とは関係のない普通の市民たちだ。
 無料ではあるが日本語を含む多言語への翻訳も行われており,プレイヤーは戦争に巻き込まれた人々の視点でプレイすることができる。

「Ukraine War Stories」は,実際に起きたことや目撃談から,ロシア軍の侵攻開始直後の市民たちの混乱をキーウ在住のアレクサンダー・ステルニ氏らが描き上げた。戦争をテーマにしたゲームとして,その“速報性”に注目できるだろう
画像集 No.005のサムネイル画像 / Access Accepted第739回:今だからこそ,戦争ゲームについて考える

 まだ紛争の終わりも見えてこない現時点で“生の声”に近いプロジェクトを完成させた独立系ゲーム開発者,アレクサンダー・ステルニ(Oleksandr Sterni)氏ほかSterni Gamesの奮闘はいかほどのものであったろうか?

 ゲーム開発も,この10年ほどの間に急激に各種ツールが簡素化するとともに安価に,そしてスピーディに制作できるようになったことで,自己表現としての性向や主張の強い作品も増えてきた。戦争という現在進行形の凄惨な状況を,インタラクティブに体験し,知ることができるというのは,テレビやWeb配信のニュースとは違う,ゲームというメディアらしい特色であるのかも知れない。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:04月25日〜04月26日