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Access Accepted第662回:ゲーム産業と人口の高齢化問題
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印刷2020/10/12 00:00

業界動向

Access Accepted第662回:ゲーム産業と人口の高齢化問題

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第662回:ゲーム産業と人口の高齢化問題

 調査会社の発表によれば,北米では,自分のことを「ゲーマー」だと考えている人のうちの15%が51歳以上だという。若い層に比べればプレイ時間も短く,カジュアルなタイトルを楽しむ人が多いとは思うが,ターゲットから外してしまうのは惜しいほどの人々が,次世代コンシューマ機が発売されて円熟期を迎える頃に仕事を辞め,暇な時間を持つことになる。映画や音楽が年齢を超えて愛されるように,より広い消費者層にアピールするため,ゲーム業界は今後,彼らのことをより真剣に考えていくことになるだろう。


人口の多いジェネレーションXの高齢化


 日本ではよく少子化・高齢化が問題になるが,もちろんそれは日本に限った話ではなく,多くの先進国が抱える問題だ。最新の統計によれば,移民受け入れの影響もあってイギリスの人口はわずかながら増えているものの,2016年の段階で65歳以上の人口は18%に達しており,2036年にはそれが25%に増えると予測されている。また北米では,人種別に見て人口の維持が可能な出生率(合計特殊出生率)が「2.0人」を上回っているのはハワイ・ポリネシア系のみで,そのほかは下回る。

 ゲーム産業の立場で見たとき,先進国の高齢化がコンテンツに影響を与えることはないのだろうか? 2018年4月に掲載した本連載の第573回「北米ゲーム業界と“年齢差別”問題」で,ゲーム業界における雇用に絡むエイジズム(年齢差別問題)にスポットライトを当てたことはあるが,今回は人口の高齢化とゲームコンテンツについて考えてみたい。

2017年にNewzooが発行した「Demographic Insights on Gamers 2017」より。先進国の高齢化が進むにつれて,ゲーマー層やコンテンツも変化していく
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 アメリカのIT関連リサーチ企業であるNewzooが2017年に行った調査によれば,北米で自分のことを「ゲーマー」だと考えている人のうち,51歳以上は15%(男性8%,女性7%)だったという。暇つぶしにオンラインポーカーなどを遊んでいるイメージはあるものの,10歳から20歳までで自分をゲーマーだと思っている人は全体の22%(男性12%,女性10%)なので,それほど大きな差はない。つまり,無視できるユーザー層ではないのだ。

 ちなみに,(筆者もそうだが)1965年から1980年までに生まれた世代を北米では「ジェネレーションX」と呼んでいる。世代意識がより細分化されている日本では,バブル世代から団塊ジュニア,就職氷河期世代あたりまで含まれそうだが,この時代,アメリカでは共働き家庭が増加し,また,音楽専門番組「MTV」が登場して音楽文化が多様化したことなどから,個人主義が進んだとされている。
 離婚の増加や少子化も加速しており,彼らの親世代にあたる「ベビーブーマー」と対比して,「ベビーバスター」と呼ばれることもあるようだ。ベビーブーマーの次の世代なので,先進国における人口は,非常に多い。

現在βテスト開催中の「コール オブ デューティ ブラックオプス コールドウォー」も,シングルプレイキャンペーンに出てくるのはおっさんばかり。発表の際に使われたデュラン・デュランの「ノトーリアス」は,ジェネレーションXのテーマ曲と呼べそうだ
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 パーソナルコンピュータの家庭での使用が一般化し,ゲームセンターやコンシューマ機の登場によって娯楽のデジタル化が進行したのもジェネレーションX世代の特徴であり,この傾向はアメリカだけでなく,日本やヨーロッパでも同じだ。1981年以降生まれの「ミレニアル世代」のように,物心がついた頃からインターネットやデジタル機器に囲まれていたわけではないが,現在の40代から60代の人達,つまりジェネレーションXの大多数が,デジタル機器を使うことに抵抗はないはずだ。
 Apple IIの販売開始が1977年で,IBM PCは1981年,NECのPC-9800シリーズは1982年に初登場している。1983年には任天堂のファミリーコンピュータの販売が始まり,「Microsoft Windows 1.0」は1985年にリリースされた。思春期の頃にこれらに触れたジェネレーションXは,趣味や仕事でコンピュータを使うだけでなく,時間が空いたときの遊びとして,コンピュータやコンシューマ機と当たり前に接してきているのだ。


意外に少ない,ジェネレーションXをターゲットにしたゲーム


 ところが,筆者のようなジェネレーションX世代を本気でターゲットにしたコアなゲーム作品は意外に少ない。ゲームの中年ヒーローとして,まず思い浮かぶのは「メタルギア」シリーズのソリッド・スネークだろう。クローンとして生まれたという過去から年齢不詳っぽいところはあるが,設定では1972年生まれなので,現在48歳となる。ジェネレーションX世代にとって,共感できる年齢だ。
 コジマプロダクションの最新作「DEATH STRANDING」の主人公であるサムを演じたノーマン・リーダスさんは今年51歳だが,ゲーム内でサム自身の年齢には触れられていない。ゲームが始まる前の10年ほどポーターで生計を立てていたのなら,せいぜい30代後半で,まだ駆け出しだ。

ビール腹で心の傷を負いつつ,あれだけのアクションをこなしたマックス・ペインは渋い。2020年現在,まだギリギリ40代なので,そろそろ復活してほしいところ
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 「ラスト・オブ・アス」シリーズのジョエルは,第1作では48歳だったので,第2作では55歳前後ということになる。「ゴッド・オブ・ウォー」クレイトスはれっきとした子連れ親父だが,神話の世界がモチーフなので,ファンコミュニティでは「200歳ぐらい」とされているようだ。また,「ウィッチャー」シリーズのゲラルトも,シリーズ最新作では100歳に手が届く年齢だったという。とはいえ2人とも,容姿も物腰もジェネレーションX世代にかなりフィットする。

 以上のように,数は少ないものの中年主人公のゲームには名作が多い印象だが,それらの中でも,もっとも年齢なりの肉体的,精神的問題を抱えていたのは,2012年にリリースされた「マックスペイン 3」マックスではないか。妻と子を失って酒に溺れた生活を送り,40歳を超える頃には頭が禿げ上がって腹も出るという,リアルなキャラクター像にこだわるRockstar Gamesらしいデザインで,若い頃のハンサムな彼を知るシリーズファンにとってはかなりの驚きだった。
 同じRockstar Gamesの「レッド・デッド・リデンプション2」アーサー・モーガンも経験豊かな人生を送ってきたようだが,1863年生まれという設定から逆算すれば,まだ36歳の若者だ。

 トム・クルーズさん(58歳),ダニエル・クレイグさん(52歳),ウィル・スミスさん(52歳)などのアクションスターが映画産業の最前線で活躍し,世代を超えた多くのファンに支持され続けていることを考えれば,自称ゲーマーの15%が51歳以上で,またゲーム開発者の9%が50代以上(2017年時点)の北米ゲーム業界で,中高年が主役の座を獲得できないのはおかしい気もしてくる。

 確かに,ゲームでは主人公の経験と物語の展開やスキルが強く関連付けられているため,経験値がすでにマックスに近づいているであろう中高年では伸びシロが少ないように思われる,ということはあるかもしれない。とはいえ,インディーズゲームの中には,老いを感じつつ自分探しの旅に出るといった作品もある。

「Mortal Kombat X」「鉄拳 7」のように,「親子」や「一族」にスポットライトをあてた格闘ゲームというのも,ゲーマーの高齢化という視点で改めて見てみると面白い傾向だ
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 まあ,世代への対応を主人公の見た目や年齢で判断するのは,ゲームというジャンルでは妥当ではないかもしれない。さまざまな世代に支持される「メタルギア」や「ラスト・オブ・アス」といった作品が証明するように,プレイヤーと年齢も見た目も違う主人公キャラクターであっても,共感したり感情移入したりすることに問題はないからだ。さらに,上記のようなコアなゲームだけでなく,筆者を含めて,反射神経が鈍ったり視力が衰えたりしたゲーマーでも楽しめるパズルやストラテジーなどもゲームの選択肢として存在する。

 北米では,映画産業と音楽産業を合わせたよりも大きな規模になったゲーム業界。人口の高齢化によって,これまで以上に多様性のあるコンテンツが求められてることになり,ジェネレーションX世代やミレニアル世代という人口の多いゲーマー達の年齢も,年を追うごとに上がっていく。セグメンテーションは難しいと思うが,開発者側も今後,こうした層へのアピールを追求していくはずだ。それがゲーム業界をどう変えていくのか,楽しみにしていたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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