連載
古代メソポタミアにはシュメール神話,アッカド神話,バビロニア神話,アッシリア神話などの神話群が伝わっており,これらを総称してメソポタミア神話と呼ぶことが多い。日本での知名度はあまり高くなさそうだが,同神話に登場するギルガメッシュやイシュタル(イシター)などの名は,日本のゲームでもしばしば見かける名前だろう。
さて,ここではメソポタミアに伝わり,ほかの神話にも影響を与えたといわれる,パビルサグ(Pabilsag)というモンスターを紹介してみよう。
パビルサグは古代メソポタミアに伝わるモンスターで,蠍と人間が融合したような姿をしている。基本的には蠍の尾を持つ人間とされているが,鳥の足を持っていたり,馬の下半身を持っていたり,背中に羽があったりと,伝承によってそのディテールはさまざまだ。時代によって描かれ方が違うのか,それとも変身能力があるのか,同じ種族でありながらさまざまなタイプがいるのかは不明だ。最も有名なタイプは,上半身が人間,下半身が馬,背中には翼,尾は蠍という姿のものだろう(人間の首の後ろに何らかの動物の頭がついている場合もある)。
少々異様な姿であるが,さまざまな生物の長所が取り込まれているということで,万能の象徴とも考えられていた。高い知性を有しており,武器も使いこなす。とくに弓矢を得意としているらしい。
パビルサグはメジャーなモンスターではないので,ゲームであまり目にする機会はないが,国産のゲームでは「女神転生IMAGINE」「トリックスター0 -ラブ-」,モンスターファームシリーズなどに登場しているので,興味のある人はチェックしてみるといいだろう。
世界でも最古の部類に入るといわれるギルガメッシュ叙事詩は,古代メソポタミアに存在していたとされる伝説の王ギルガメッシュを題材とした物語だ。ギルガメッシュとフンババとの戦いや,女神イシュタルとの出会いなどの逸話を経て,最終的には死という恐ろしい存在を知ったギルガメッシュが,不老不死の力を手に入れようと奔走する物語である。
同詩によれば,パビルサグは風を司る神エンリルの子供であり,夫婦で人間界と冥界を隔てるマーシュ山を守護している。そこへ,不死の力を得るために冥界へ行こうとするギルガメッシュが通りかかり,結局ギルガメッシュの必死の説得に根負けにしたパビルサグは,彼にマーシュ山を越える権利を与えるのである。
ここで注目したいのは,パビルサグは「死」の象徴のように描かれ,数々の危険をもろともせずに突破してきたギルガメッシュが,パビルサグを目の前にすると青ざめてしまい,力ではなく説得(懇願)に走ったことだろう。この表現から見ても,パビルサグがいかに危険な存在であったのかが分かるというものである。
なおあまり知られていないが,ケンタウロスとパビルサグには密接な関係がある。古代メソポタミアにおいて黄道十二宮の基礎が出来上がり,さまざまな星座が生み出され,それがヨーロッパに伝わって今日の形に発展したのだが,一説によると,パビルサグはケンタウロスのルーツになった存在とされているのだ。
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