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テンセントクラウドジャパンが主催した「日中ゲームコンテンツの流通促進」をレポート。中国メーカーが日本に求めるものは
なお,ディスカッションを主催したテンセントクラウドジャパンは,テンセントジャパンのクラウドサービス事業部である。同社は「グローバルゲームビジネスマッチングサービス」というゲームのグローバル展開を支援し,日中韓のデベロッパやパブリッシャにマッチングの場を提供するというサービスをスタートする。これを記念して開かれたのが今回のディスカッションだ。
※2020年7月22日23:00頃追記,メーカーの修正依頼により記事の内容を調整しました。
講演「日本ゲーム市場特性と攻略ヒント」
スピーカー:DeNA ディー・エヌ・エー ゲーム・エンターテインメント事業本部 中国事業部 中国事業推進部 副部長 兼 プロジェクト推進グループ グループマネージャー 張本龍司氏
中国生まれの視点からDeNAの張本氏が講演したのは,日中のゲーム市場の違いである。日本のアプリゲーム市場は中国に次いで世界2位であるものの,ここしばらくの成長率は鈍化しているという。超ロングヒットタイトルが市場を独占しており,2017年と2019年の売上トップ10を比較すると7タイトルが同じなのだから驚くばかりだ。しかしながら,こうした状況も緩和されつつあるという。2020年上半期の売上トップ50を見ると14の海外タイトルがランクイン(うち中国製は10)。「ドラゴンクエスト ウォーク」「ディズニー ツイステッドワンダーランド」といったIP系タイトルが躍進している。
そんな日本市場が中国市場と異なっている点について,張本氏は「PvPよりPvE」「横画面より縦画面」「ガチャが好き」「1つのタイトルに定着し続ける」という4つを挙げた。
●「PvPよりPvE」
日本市場ではプレイヤー同士の対戦(PvP)よりも,コンピュータが操作する敵との戦い(PvE)が好まれる。日本でゲームを遊ぶ人は家庭用ゲームに親しんでおり,ここではPvEを中心としてきたという歴史があるためだ。
●「横画面より縦画面」
モバイルゲームでは横画面より縦画面が人気を呼ぶ。電車通勤の文化があり,スマートフォンを片手に持ったまま遊べること。そして,本格的なゲームは自宅の家庭用ゲーム機で遊ぶ文化が根付いていることがその理由だとされた。
●「ガチャが好き」
日本人はガチャ好きで,これは中国からすると意外なことに見えるのだという。日本ではガチャへの課金が売上の9割を越えるタイトルもあるほどだが,これが中国になると3割程度に留まるというから,いかに日本人がガチャを回しているかが分かるだろう。ただし,日本の関連法が独特であり,多様な課金スキームの展開が難しいことも理由であると張本氏は分析していた。
●「1つのタイトルに定着し続ける」
中国人が新しいモノに飛びつくのに対し,日本人は保守的であると張本氏は語った。ただ「周りのみんなが遊んでいるものなら自分も遊びたい」という同調傾向も強く,一度流行が始まると一気に加速するという。
こうした日本市場を攻略するうえでは,ユーザーのコミュニティを形成することが大事だという。DeNAのオリジナルタイトルである「逆転オセロニア」では,2016年2月のリリース以降,1年間は初期ユーザーが満足するクオリティの達成を目指すと同時に,SNSやオフラインイベントでコミュニティ形成に注力。コミュニティが盛り上がったタイミングでテレビCMをはじめとしたマーケティング攻勢をかけることで,想定以上のユーザー数を獲得したそうだ。
アプリゲームが長期的な成功を収めるには,ターゲットとする明確層(IPのファンや想定通りのペルソナを持つ人)だけでなく,顕在層(類似ゲームを遊んでおり,クオリティ次第では乗り換える人),準・顕在層(プロモーションに惹かれてゲームを始めるが,離脱しやすい),潜在層(タイトルへの関心が低い)をつかむことが大切で,そのためにはコミュニティ形成が大切であると氏は語った。
講演「日本マーケットにおけるコミュニティの重要性」
スピーカー:ミラティブ 代表取締役CEO 赤川隼一氏
ミラティブはスマートフォンだけで動画が配信できるアプリ。総ユーザー数における配信者の割合が多いのが特徴で,ほかの似たようなアプリだとその比率が約1%なのに対し,ミラティブは20%を超えているという。
そんなミラティブの赤川氏が語るのは,張本氏と同じくユーザーコミュニティの大切さだ。現在の日本アプリゲーム市場は,売上こそ伸びているものの1人が遊ぶ本数は少なくなっており,「1つのタイトルをいかに長く遊んでもらうか」が重要になっているという。コミュニティの作り方も,これまでは公式YouTube放送などが中心だったものの,ユーザー自身が形成していく方向性に変わっているという。
ミラティブではユーザーコミュニティ形成についてキャンペーンを行うこともある。「IP系ゲームでは期間中に課金した人が3倍に」「MMORPGでは10万円以上課金したユーザーの割合が約6倍に」「「女性向けタイトルや美少女系ゲームでは,高課金層のARPU(1ユーザーあたりの平均的売り上げ)がそれぞれ67%,27%アップ」といった成果が得られているという。
こうしたキャンペーンが有効なのは,バトルロイヤルゲームをはじめとする「配信映え」するタイトルではないかと思われがちだが,赤川氏によれば決してそうとも限らないのだという。とある「5億円級RPG」でキャンペーンを行ったところ,参加者はユーザーの1.6%だったものの,彼らが売上の43%を作り出すことになったとのこと。オンラインゲームの世界では,顧客の20%が売上の80%を生み出す「パレートの法則」の正しさが体験的に証明されているが,1.6%が43%の売上を生み出すのだから,それ以上の数値といえるだろう。
講演「中国ゲーム市場現状について」
スピーカー:盛趣遊戯 BD&Publishing Gegeral Manager 張謹氏
張氏が語るのは中国ゲーム市場の現状だ。2019年のユーザー数は6.4億人で実売上高は2308億人民元(約3兆5369億円)。そのうち,モバイルゲームアプリは7割を占めており1581億人民元(約2兆4219億円)に達するというから,世界1位の規模は伊達ではない。
モバイルゲームにおける人気ジャンルはRPGで54%。ストラテジー14%(張氏によるとMOBAはここに含まれるそうだ),トレーディングカードゲーム7%,シミュレーション5%,カジュアルゲーム5%,そしてスポーツ及びシューティングゲームは5%未満,その他9%という比率。かつて端末のスペックやネット環境の制限が大きかった時代はカードゲームが主流だったものの,技術の進歩によって現在の比率になったそうだ。それでもカードゲーム全体の売上自体が落ちたわけではなく,市場全体の規模が大きくなった結果であるというのが興味深いところである。
また,「王者栄耀」「PUBG Mobile」といったタイトルが登場したことによって課金対象も強さに影響を及ぼさないスキンとなり,ビジネスモデルが成熟したのも見逃せないポイントである。
一方,1タイトルのライフサイクルはジャンルによってさまざま。RPGだと極端なもので1〜4か月程度でサービスを終了する一方,シミュレーションは10か月〜2年ほどの長期運営できるものもあるという。
そんな中国市場では,日本の2次元IPを使ったゲームに人気が集まっているという。「ラブライブ」や「Fate/Grand Order」といった日本で人気のタイトルに加え,「スラムダンク」「ワンパンマン」「NARUTO」といった中国でも長年親しまれてきた日本IPを使った中国製ゲームも好評を博しているそうだ。こうした中,張氏は日本側が世界観やキャラクターを作り,中国がゲームと課金システムを開発するような協業に新たな可能性を感じているという。しかしそこには中国ならではの「版号」の事情がある。
中国でゲームを出すには版号が必要で,これは国家新聞出版広電総局という機関が内容を審査したうえで発行している。2019年からは審査が厳しくなって新たな版号の発行が少なくなっており,中国タイトルと海外タイトルの比率は実に9:1になっているという。つまりはこれから日本のモバイルゲームアプリを中国で展開しようとしても版号の取得が厳しいわけだが,中国企業が開発を担当していると,中国製として申請できるのだそうだ。
パネルディスカッション
続くパネルディスカッションでは,「日中のビジネススピードの違い」「日本IPでゲームを作る際の,原作サイドの監修」「提携相手に何を求めるのか」がテーマとなった。
●「日中のビジネススピードの違い」
中国メーカーが日本メーカーと仕事をする際,「意思決定が遅い」と感じられることがあるそうだ。
日本の場合,何かをするにしてもまずは上司に確認を取り,上司が自分の上役に確認を取り……というプロセスが続き,許可が出たあとはその事実を上役が下へ順々に伝えていく。対して中国はプロジェクトのボスにある程度の裁量権があり,会議を開くことなく,その場で可否を決定する。あくまで目標は自社ゲームが成功することにあり,扱える金額に上限はあるものの,プロジェクトのプラスになることであれば報告無用で決めていいというケースさえあるという。
日本は社内における縦のコミュニティと規則を重視。そして,中国は社内の規則ではなく,その判断の重要度を基準とし,速度を優先する。中国にこうしたスピード重視の雰囲気がただよっているのは,中国のゲーム業界がまだ新しいことが理由の一つであるそうだ。
これからも日中の協業は増えていくだろうが,こうした文化の違いに起因する摩擦を防ぐことが重要ではないかという意見が出された。
●「日本IPでゲームを作る際の,原作サイドの監修」
日本の漫画やアニメといったIPを使い,中国メーカーが現地用のゲームを開発することも珍しくなくなってきている。こうした場合,開発国が違うとはいえ,日本の原作サイドによる監修が必要だ。
しかし,中国メーカーからすると監修を受ける際に戸惑いを覚えることもあるという。原作が漫画,アニメ,ゲームのどれであるかで監修のやり方が異なり,その速度も中国のスピード感からすると決して速く感じられるものではないようだ。また,ゲームが形になってから監修が入って困ったこともあったという。
日本メーカー側からは,「監修作業にかかる時間とコストはカットできるものではなく,苦労しているのは日本メーカーも同様である」という意見が出た。
監修にかかる時間とコストは原作の形態によって異なっているそうだ。漫画の場合,出版社だけでなく,最終的な権利と発言力を持つ原作者まで絡むため,もっとも時間とコストがかかる。
ゲームの場合はメーカーに権利が一本化されているのでコストと手間はもっとも少なく,アニメは制作委員会が諸々を管理しているので中程度であるという(前述したコラボについては,漫画原作のアニメであるための例外ケースなのだろう)。
とはいえ,日本のメーカーには監修をスムーズに進めるノウハウを持っているところもあるため,そうしたところを組むのが重要であるという。
●「提携相手に何を求めるのか」
日本メーカー側からは「開発力,「原作となるIPへの理解」「原作サイドによる監修への理解」「メーカーの規模感」といった意見が出た。ゲームアプリの開発を進めるうえでは,お互いがゲーム好きであり,勘どころを理解していることが重要になるため,「どういうゲームが好きなのか」を確認するという例も見られた。
一方,中国メーカー側からは「日本人のゲームへのこだわりは一旦置いておき,中国人の考え方を理解してほしい」「ゲームをグローバル化するうえで信頼できるパートナーであること」などの声が上がった。中国メーカーからすると,日本にさらなるスピード感を求めると同時に,コスト的なところも重視する考え方があるようだ。
ディスカッション全体の内容は以上となる。まとめると,中国市場はモバイルゲームアプリとしては世界最大級の規模を持つものの,版号の関係もあって日本企業の新規参入は容易ではないが、協業することによって中国ゲームアプリとして版号を取るという手もある。中国メーカーはスピード感とコストを,日本メーカーはIPへの理解度や開発力をそれぞれ重視するため,互いの違いを理解したうえなら,有意義なビジネスを進められるといったところだろうか。グローバル化が進む中,両国ゲーム界のさらなる発展を期待したい。
「Tencent Cloud」公式サイト
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