業界動向
年末商戦の明暗はいかに? ゲーム業界26社,2010年度第3四半期決算のまとめ
では,さっそく業界の動向を見ていきたい。この時期の四半期決算は,年末商戦の時期を含むだけに,業界の景気を占ううえで重要なものといえる。
とはいえ,こういうものを見慣れていない人が多いと思うので,記事を読む際の注意点をまとめておこう。会社というものは利益が赤字になったからといって即時でつぶれるものではないことは知っておいてほしい。また,コンシューマ系ゲーム会社の多くは,タイトルが不定期に発売され,タイトルの開発期間も長くなってきていることから,開発中は赤字で,発売時に一気に稼ぐスタイルが多い。グラフだけ見ると,乱高下で心配になる人もいるかもしれないが,トータルで見て辻褄があっていれば問題ないということだ。大手企業でも,発売本数が多いので均されている傾向があるものの,基本的には同じ構造なので,タイトル発売が遅れたりするとグラフに大きな影響が出がちである。会社の合併などでは大きな支出が動くことになるが,多くは一時的なもので,長期的に見ればデメリットにならないケースのほうが多い。そういったことを念頭に置いてご覧いただきたい。
以下では,4月始まりの会計年度での四半期(クォーター)分けで表記している。つまり,記事内での「今期」は2010年4月1日から2011年3月31日までの期間を指す。また,Q1は4〜6月,Q2は7〜9月,Q3は10〜12月,Q4は1〜3月である。会社によっては,これと違う区切りでの業績発表が行われているのだが,便宜上,だいたい同じ期間に合わせて記載している。また,グラフでの数字の単位は百万円だ。また,各社のタイトルについては,簡便な略称を多く用いているのでご了承いただいきたい。
グラフとして取り上げたのは,前回に引き続き,その会社の3か月間の総売り上げ高と純利益である。全体的な傾向や,大きな変化については簡単なコメントを入れておいたが,詳しくは各社の決算資料を参照されたい。
コンシューマゲーム系企業
●任天堂
http://www.nintendo.co.jp/ir/news/index.html
円高などの影響でQ1にまさかの赤字(純利ベース)を記録し,3DSの発売延期などもあってか,さすがの任天堂も今期の数字は振るわない印象。3DSの売り上げはQ4に計上されるので,そこで年度の帳尻を合わせるのだろうか。年末商戦の規模の小ささがやや気になるが,プラットフォームの切り替え予定だったので,新作は新機種用で用意していただろうし,いたしかたなしというところだろう。
●バンダイナムコホールディングス
http://www.bandainamco.co.jp/ir/index.html
非常に苦戦した昨年と比べると,売り上げ自体は大きく変わらないものの安定した推移となっている。主におもちゃ関係の好調が牽引しているようだが,ゲーム関係では「GOD EATER BURST」「AKB1/48 アイドルと恋したら…」などが好調だったものの,計画を下回る実績。国内で利益を上げるものの,海外(とくにアメリカ)での赤字が目立つ展開となっている。
●セガサミーホールディングス
http://www.segasammy.co.jp/japanese/ir/index.jsp
グラフ自体は非常に堅調。過去の不安定さが嘘のような好調ぶりだ。パチンコ/パチスロ関係が大きな比重を占めているので,ゲームの業績と直結しているわけではないが(ゲーム部門の売り上げは全体の2割程度),ゲームも概ね堅調。「Sonic Colors」「VANQUISH」「Football Manager 2011」などが海外で好評だったようだ。
●コナミ
http://www.konami.co.jp/ja/ir/ir-data/statements.html
相変わらず,まったく堅調な推移。ゲーム以外のビジネスが安定していることも大きいのだろうが,むしろスポーツクラブ運営は新規獲得が競争が激化して厳しい状況とのこと(それでも大きな黒字だが)。ゲーム分野では,MGSシリーズやウイニングイレブン,ラブプラス+などを出しており,概ね好調となっている。
●スクウェア・エニックス・ホールディングス
http://www.square-enix.com/jpn/ir/index.html
「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」がともに発売された昨年の好調ぶりが華々しかっただけに,対前年比で-76.6%の純利益の落ち込みなどが目立つのだが,2008年と比べるとさほど落ち込んでいるわけではない。Q2では,FFXIVの事実上の失敗など,今期の下方修正が行われて純利益ベースで微妙に赤字になっているものの,Q3ではギリギリ黒字に戻している。FF,DQがない年はこんなものなのだろう(あったんだけど)。
●カプコン
http://www.capcom.co.jp/ir/
大きな山はないものの,今期は堅調に推移している印象。今期になって,出荷数ベースではあるものの,4本のミリオンタイトルを出している。グラフでは「モンスターハンター ポータブル 3rd」によるものと思われるQ3の利益が跳ね上がっているのが印象的だ。とはいえ,昨年発売予定だったものがずれ込んでいる分,今期は商材も多かったわけで,好調なのも当然といえば当然かもしれない。
●コーエーテクモホールディングス
http://www.koeitecmo.co.jp/ir/library/result/index.html
数字上は今期になってから元気のなかったコーエー。社長交代などの一幕もあったのを記憶している人もいるだろう。決算短信によると,Q3は,コンシューマゲーム部門でガンダム無双のヒットを記録したものの,開発費がかかりすぎて大きな赤字となっているという。オンラインゲームとアーケード,ソーシャルゲームなどで利益を上げたものの,今期を通して見ると,まだ赤字となっている。
●マーベラスエンターテインメント
http://www.mmv.co.jp/company/ir_library/index.html
ゲーム以外も含む決算なので会社全体的に見ると,今期はアニメのプリキュアが好調という印象。ゲーム部門では,コンシューマゲーム,ブラウザゲームともに売り上げはそれなりに好調だったようだ。しかし,大型RPGの開発中止に伴う損金などで,利益の落ち込みが出ている。前年までの乱調ぶりはなくなり,自社タイトルのブラウザゲーム化という展開が出てきたことで,より安定した経営になったように感じられる。
●ユークス
http://www.yukes.co.jp/hp/ir/?COM=ir_f_short
海外で「WWE SmackDown VS Raw 2011」がヒットして,ご覧のとおりの状況。タイトルの発売があるかないかで売り上げが極端に変動するのは,コンシューマゲーム業界の常だが,これはかなり極端な例かもしれない。ちなみに,プロレス興行関係も黒字に収まっている。
●トーセ
http://www.tose.co.jp/jp/ir/ir01_6.html
主にゲームの下請け開発をしている会社。今期は,受注タイトル数も回復してきたとはしているものの,受注したタイトルの発売スケジュールなどからして今期の利益にあまり結びついてないようだ。スケジュールの変更や発売中止タイトルなどにも泣かされている模様。iPhoneやAndroidなどの受注も出てきているとのことで,業界の方向性を占う意味でも注目か。
●日本一ソフトウェア
http://nippon1.co.jp/ir/index.html
ゲームソフト売り上げはそれなりに堅調のようだが,大ヒットとまではいっていない様子がグラフに出ている。アミューズメント施設の運営では,かなり損失を出しているようだ。昨年と比べると安定しており,Q4には同社の看板タイトル「ディスガイア」最新作が出てくるので,今期の見通しは明るい?
●サン電子
http://www.sun-denshi.co.jp/b_ir/ir_dowld.html
現状ではパチンコ関係が主体となっているので,ゲーム部分の影響はグラフにはあまり反映されていないかもしれない。コンシューマゲームは事業区分では「その他」扱いとなっている。事業だけ見ると,「その他」以外は収益を上げているのに,全体ではなぜか赤字。負債合計が大きいようだが,着実に減少中というところか。
●ハドソン
http://www.hudson.co.jp/corp/finance/finance1-3.html
コナミに吸収されることが決まったハドソンだが,今四半期は単独の決算資料が出ている。グラフを見る限り,経営自体は堅調なように思われる。過去の資産を生かした展開や,スマートフォン向け開発では先進的な取り組みを続けていることから,今後コナミとのシナジーでどういったものが生み出されるのか気になるところだ。
●日本ファルコム
http://www.falcom.co.jp/kaisya/ir/index.html
数ある日本のPCゲームメーカーの中でも,主戦場をPCからPSPに移したことで大成功している会社。2010年Q1のイースも高評価だったが,Q2に発売された「英雄伝説 零の軌跡」は読者レビューを見ても,ほぼ絶賛の言葉しかないという状況で,老舗の実力を見せつけている。
●AQインタラクティブ
http://www.aqi.co.jp/ir/
過去の動きと比べると今期は非常に安定した推移となっている。コンシューマゲーム部門は赤字のようだが,ネットワークゲームが十分に補う体制だ。ブラウザ三国志へのテコ入れが奏功している。一時期ほどの売り上げではないが,安定した収益だ。iPhone向けタイトル開発費などの先行償却が行われているので,しばらくは破綻なく推移しそうな気配になっている。
オンラインゲーム系企業
●ゲームオン
http://www.gameon.co.jp/investors/ir_news/index.asp
昨年までは非常に堅調だったグラフで乱れが出ている。Q2での利益現象は,FIFA Online 2の償却のため。これは今後の運営の健全化を考えればマイナス要素ではないだろう。3Qの凹みがちょっと分からない。この時期は大型タイトルの発表が相次いだので,おそらく契約&開発費だろうとは思われるのだが,決算短信でとくに言及されていない。開発費であれば,今後のことを考えればマイナス要素ではないだろう。既存サービスはいま一つ振るわない模様。来期は,「HEVA Online(くろネコOnline)」「LuviniaSaga」「C9(仮)」「Lime Odyssey(仮)」の正式サービスが予定されているので,挽回に期待か。
●ガンホー・オンライン・エンターテイメント
http://www.gungho.co.jp/ir/
このところ非常に堅調な展開。ただ,グループ売り上げの75%をラグナロクオンラインに頼っており,これまでの収益構造の多角化を目指したプロジェクトのほとんどは厳しい状況で,結局ラグナロク頼みの構造に戻して安定している感じか。とはいえ,今期だけでスマートフォン向けアプリや大型MMORPG開発に6億円以上を費やしており,その成果が気になるところだ。
●アエリア
http://www.aeria.jp/aeria/ir/shiryo.html
海外/国内でオンラインゲームを展開するほか,アクワイアなども傘下に抱える会社。毎月発表されているオンラインゲーム会員獲得数やゲームの売り上げなどは好調に推移しているようなのだが,子会社の整理や収益が低下したゲームのサービスを終了したことによる減損や貸倒引当金などが大きく影響しているようだ。
●フェイス
http://www.faith.co.jp/ir/index.html
このご時勢に右肩上がりの伸びを示すフェイス。WebMoneyが非常に好調のようだ。ほかに着メロなどの業種も含まれているので,売り上げに占めるオンラインゲーム(ローズオンライン)の割合はかなり少ないと思われる。ゲーム部分の割合はグラフから読み取れないので,あくまでも参考程度に。
●ベクター
http://ir.vector.co.jp/library/document/
非常に堅調。2008年Q4以降の安定度は素晴らしい。この時期にベルクスなどを取り込み,2009年には「ドラゴンクルセイド」など,ブラウザゲームを加えることで磐石の体制となったようだ。最近は積極的に新タイトルを投入しているが,それらの相乗効果もあって売り上げ/利益ともに伸び続けているようだ。
●サイバーステップ
http://corp.cyberstep.com/ir/index.html
2008年末の「コズミックブレイク」サービス開始以来,利益ベースでの落ち込みがなくなって比較的安定していたのだが,キャッシュフローは厳しかったようだ。今期はキャッシュフローが改善されたものの,まだ楽観はできない状況とのこと。海外ライセンスが進めば安定してくるか?
●ガーラ
http://www.gala.jp/ir/finance.html
同社のゲームポータルgPotatoは,海外でのほうが有名かもしれない。海外では会員数を大きく伸ばし,オンラインゲームは堅調に売り上げを出しているようだが,今期はnFavorの子会社化に伴うのれん代や自社開発タイトルの中止などによる損失が計上されており,全体で見ると赤字のペースとなっている。
●インデックスホールディングス
http://www.index-hd.com/ir/earnings/100.html
携帯やインターネット関係でいろんなことをしている会社だが,ゲーム系ではアトラスとロッソインデックスを傘下に抱えている。事業再編などを繰り返して大きな動きが多いのは相変わらずだが,売り上げがどんどん縮小しているのがちょっと気になる。ゲーム部門では,アトラスは概ね好調,ロッソインデックスは予定を下回った模様だが売り上げに貢献。インデックス本体は,Q4以降ソーシャルゲームを展開していくとのこと。
●サイバーエージェント
ネット広告大手のサイバーエージェントだが,ゲーム系などのメディア事業ではジークレストなどを傘下に抱えている。メディア部門の全体売り上げに占める割合は1/3強で,前年比18%の伸びとなっている。Ameba系,広告系とも順調で,投資系の事業が軒並み赤字なのに全体としては利益を伸ばしている。
●ソネットエンタテインメント
本業はインターネット回線事業だが,エンタテインメント関係ではソネット自体が「Livly Island」などもやっているほか,子会社としてゲームポットなどを抱えている。全体的に安定した推移で伸びている。エンタテインメント関係の売り上げに占める割合は1/4程度。オンラインゲーム部分だけ見ると,昨年を下回る結果となったとのことだが,割合などは不明だ。
●ケイブ
http://www.cave.co.jp/ir/index.html
ソーシャル,オンラインゲーム,携帯サイト運営,コンシューマゲームといった4分野でそれぞれ安定して利益を上げており,磐石な感じか。最近は「しろつく」など,ソーシャルゲームにも意欲的で,結果はグラフの伸びに表れている。なお,Q3とはいっても,このグラフのみ,他社と違って年末商戦前の11月30日までの期間なので注意。
2009年度のゲーム会社決算まとめ記事(参考)
https://www.4gamer.net/games/000/G000000/20100523002/- この記事のURL: