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【Jerry Chu】「ブラック・ミラー」が描く,ゲーム文化の理想像
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印刷2018/07/07 12:00

連載

【Jerry Chu】「ブラック・ミラー」が描く,ゲーム文化の理想像

Jerry Chu /  香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー

Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」

Twitter:@akemi_cyan


「ブラック・ミラー」が描く,ゲーム文化の理想像


 Netflixで配信中の「ブラック・ミラー」をご存じだろうか。近未来の世界を舞台に,「最先端のテクノロジーがいかに現実社会に影響を与えるのか」というテーマをディストピア風に描くSFドラマシリーズだ。
 1話完結のアンソロジー形式であり,毎回異なるテーマを扱う。ソーシャルメディアやロボットといった現代に通じるテクノロジーから,人間の意識をデジタルクローンにする技術といった空想的なものも登場する。テクノロジーの進化に伴い目まぐるしく変容する現代社会において,警世の意味を持ったドラマだ。


 なぜこのコラムでSFドラマを取り上げるのか。それは「ブラック・ミラー」では,よくビデオゲームがテーマになっているからだ。
 同シリーズの製作者であるチャーリー・ブルッカー氏はゲームファンとして知られている。ブルッカー氏はビデオゲームの歴史を語るドキュメンタリー「How Videogames Changed the World」(Wikipedia)の製作者でもあり,かつてはイギリスの新聞「ガーディアン」にゲーム関連のエッセイを執筆していた。また,TV番組においてビデオゲームの魅力を力説したこともある。
 ブルッカー氏はビデオゲームに詳しく,ゲームに対して強い情熱を持ったライターだ。

 ブルッカー氏は「Twitterとはユーザーが好きな役を演じて,フォロワー数の増加を目指すMMORPGである」という持論を持っている。つまり,ソーシャルメディアを媒介として,MMORPGのデザインが日常生活に浸透しているというわけだ。
 「ブラック・ミラー」のシーズン3 第1話「ランク社会」(原題:Nosedive)は,ソーシャルメディアにおける評価によって人々の格付けが決まる社会を描いている。ビデオゲームに直接言及していないものの,「ランク社会」はゲームのシステムがいかに社会を変えられるのかを示している。

 シーズン3 第2話「拡張現実ゲーム」(原題:Playtest)の主人公は,ホラーゲームで有名な開発スタジオを訪れ,AR(拡張現実)ゲームのテストプレイに参加する。劇中,「バイオハザード」シリーズや「バイオショック」といったホラーゲームへのオマージュが盛り込まれており,ゲームファンをニヤリとさせる演出が多い。


 そして,昨年末に公開されたシーズン4 第1話「宇宙船カリスター号」(原題:U.S.S. Callister)では,ゲームに関連するテクノロジーだけでなく,ゲーム文化に対するメッセージも読み取れる。
 本稿では「宇宙船カリスター号」のあらすじに触れているので,ネタバレを避けたい読者は注意してほしい。


 エピソードは1960年代のSFドラマ「スタートレック」を思わせるワンシーンから始まった。ロバート・デイリー船長の英断により,宇宙船カリスター号は危機を脱し,悪党を退けることに成功した。デイリー船長は乗組員から称賛されるが,これは現実ではなく,VRゲームにおける出来事に過ぎなかった。

 現実世界のロバート・デイリーはオンラインVRゲーム「インフィニティ」の開発者である。彼は傑出したプログラマーだが,陰気で内向的な性格のため,周囲から尊重されていない。こうした鬱憤をゲームによって晴らしている。
 デイリーは「インフィニティ」に手を加えて,自宅のパソコンで走らせている。外部の干渉を受けないようにネットワークを遮断した環境は,まさにプライベートな遊び場だ。デイリーは日々,自分だけの冒険を楽しんでいる。

 これだけなら無害だ。なんてことはない。
 しかし,恐ろしいことにデイリーは憎い職場の同僚のDNAを採集し,そのデジタルクローンを生成して,自分の宇宙船の乗組員を演じさせていた。同僚の人格と外見を複製したクローンは,デイリーのPCに存在するデータでしかないが,現実の人間の記憶と自意識を有している。まるで分身のようなものだ。

 プライベートゲームの中でデイリーは絶対的な権力を持ち,クローン達は彼に逆らえない。ふだん,クローンは乗組員や悪役をやらされているが,デイリーの機嫌を損ねると虐待を受ける。侮辱を受けたり,暴力を振るわれたり,怪物に作り変えられたりするのだ。
 デイリーが作ったゲームでは,彼は神に等しい。外界から遮断されたバーチャル世界から逃げ出す手段もない。クローン達は人間としての自我を持ちながら,デイリーの玩具にされ,彼の暴虐に怯え続ける。

 デイリーの会社に新しく入った女性プログラマー,ナネット・コールもまたデイリーに目をつけられてしまった。デイリーのゲーム内で目覚めたコールのクローンは,異常な事態に混乱を隠せない。そこで,ほかのクローン達は彼女に伝えた。「とにかく俺達はヤツの遊び場に閉じ込められてしまったってことさ」「絶対に逃れられない永遠の悪夢」であると。

 バーチャル世界で虐げられて,そこからログアウトすることができない。クローン達が置かれている状況は,ブルッカー氏のとある記事を連想させる。


「GamerGate」と呼ばれる事件


 2014年夏,「GamerGate」と呼ばれる事件が起きた(4Gamerの関連記事)。女性のゲームクリエイターと評論家に向けて,大規模な“ネットいじめ”が仕掛けられたのだ。「Depression Quest」のクリエイターであるZoe Quinn氏,フェミニズム運動の活動家であるAnita Sarkeesian氏といった多くの女性が被害者となった。

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※Zoe Quinn氏(左から2人目)

 GamerGateの被害者は誹謗中傷を受けたり,個人情報を暴かれたり,殺害予告を受けたりした。身の安全が脅かされ,自宅から逃げ出した被害者もいた。被害者のみならず,その支持者や親友も狙われている。当時,さまざまなメディアで報じられたので,記憶にある人もいるだろう(「ニューヨーク・タイムズ」の記事「ザ・ニューヨーカー」の記事)。まさにゲーム文化を揺るがす大事件だった。

 この件を受けて,ブルッカー氏は「女性にとってインターネットは最も難しいゲームだ」(原題:Gamergate: the internet is the toughest game in town ? if you’re playing as a woman)と題したエッセイをガーディアンに寄稿している。ゲームについて意見を述べただけで,女性達が怯えなくてはならない事態は理不尽であると指摘し,被害者が置かれている状況を「いわゆる『インターネット』というサバイバルホラーMMORPGを無理やりプレイさせられている」と形容した。

 また,エッセイでは女性達が受けた仕打ちをテキストアドベンチャーゲームに喩えている。その内容を以下に引用する。

ゲーム画面に「あなたは女性である。白い屋敷の西側に立っている。屋敷のドアは木製で,そこにメールボックスがある」というメッセージが表示された。

入力表示が点滅している。あなたは新たな世界に足を踏み入れようとして,「メールボックスを開く」と打ち込む。

ゲームは「死ね,娼婦め」と返した。

それでもめげずに,あなたは再び「メールボックスを開く」と打ち込む。

ゲームは「死ね,娼婦め」と返し,ポルノ女優とあなたの顔を入れ替えた動画が表示された。

自分の所持物を確認しようとして,あなたは「アイテム」と打ち込む。

すると,ゲームは「あなたはランプと縄,太ったお尻,垂れ下がった乳房を持っている」と嘲笑った。

別の方法を試そうと,あなたは「北へ行く」と打ち込む。

ゲームは少し考えてから,あなたの住所と電話番号をばら撒き,あなたとあなたの家族を殺すと脅迫してきた。

もういい。あなたは指を震わせながら,「ゲーム終了」と打ち込む。

しかし,ゲームは終了しない。このゲームは永遠に終わらない。

 ネットいじめを受ける女性達と,「宇宙船カリスター号」におけるクローン達の境遇は類似している。悪意に満ちたゲーマーが弱者を虐め続け,被害者は絶対に逃れられない悪夢に囚われる。劇中,コールのクローンはGamerGateの被害者と同じような苦況を強いられている。

 「ネットいじめを受けたくなければ,インターネットをやめればいい」と考える人もいるだろう。実際,ネットいじめの被害者が警察に助けを求めると,そのような返事を受けることがあるという。

 GamerGateの最初の標的となったZoe Quinn氏は,その記録を自らの著書「Crash Override: How Gamergate(Nearly)Destroyed My Life, and How We Can Win the Fight Against Online Hate」に残している。
 Zoe Quinn氏は自身へのハラスメントを巡る裁判に出廷した。その結果,彼女が受けたハラスメントは犯罪とは認められず,裁判官は「インターネットがこのようなものならば,オフラインにするべきだ」と伝えている。これに対して,Zoe Quinn氏はこのように答えた。
「私はインディーズゲームのデベロッパです。あなたの言うことは,自分の仕事とこれまでに築いてきたあらゆるものを投げ捨てることを意味しています」

 今やインターネットは日常生活の一部となった。我々はソーシャルメディアでニュースを読み,知り合いの近況を知り,友達と連絡を取る。ゲームクリエイターにとってインターネットは自分の作品を販売する手段であり,ソーシャルメディアは作品を知ってもらう場だ。ファンや同業者との交流に欠かせないツールでもある。彼らに対して「インターネットをやめればいい」と言うのは,クリエイターとしてのキャリアを奪うことに他ならない。

 もちろん,ゲームクリエイターへのネットいじめはGamerGateが初めてではない。プログラマーのCharles Randall氏は「クリエイター達は同業者にしか率直になれない。ゲーマーの文化はあまりにも敵意に満ちており,公の場で率直になることは危険だ」と語っている。


 差別や偏見,意見の相違,悪意のある扇動,作品への不満,ゲーム文化の変化に対する不安など,ハラスメントの起因となるものは多岐にわたる。国や人種,性別を問わず,ネットいじめは多くのゲームクリエイターを悩ませている。

 「宇宙船カリスター号」の終盤,クローン達はデイリーから宇宙船を奪い,パブリックネットワークに逃げ出した。デイリーは無人のプライベートサーバーに置き去られ,クローン達は無限に広がるオンラインゲームの世界へと旅立つ。ゲーム文化に潜む悪意を乗り越えたときに,ゲームは無限の可能性を見せてくれる。そんな熱望を感じられる結末だった。

 ゲーム業界は差別やハラスメントなどの問題を抱えているが,近年は好転の兆しを見せている。GamerGateに苦しめられたZoe Quinn氏は,「Crash Overdrive」という組織を立ち上げ,ネットいじめの被害者を支援している。

 Anita Sarkeesian氏も決して折れていない。「The Last of Us」のディレクターであるNeil Drunkmann氏や「Dishonored」シリーズのディレクターであるHarvey Smith氏をはじめ,彼女の論説に感銘を受けた有名クリエイターは多い。

IGF/GDCA Awards
※Anita Sarkeesian氏

 また,「Mafia III」や「Uncharted: The Lost Legacy」といった白人男性以外のキャラクターを主人公を据える作品も増えつつあり,343 IndustriesやBungieをはじめとした開発スタジオはスタッフの多様化を推進している。インディーズゲームズに目を向けると,「Dream Daddy: A Dad Dating Simulator」のように同性愛を描く作品が人気を博している。
 女性や少数派が抱く疎外感を無くすべく,欧米のゲーム業界は変革しているのだ。

「Dream Daddy: A Dad Dating Simulator」
【Jerry Chu】「ブラック・ミラー」が描く,ゲーム文化の理想像

 「宇宙船カリスター号」の結末は,ゲーム業界の現状と同調している。デイリーが去った後,女性であるコールのクローンが船長となり,多様なメンバーと共に自由を得る。差別やハラスメントが消え,あらゆるプレイヤーが平等にゲームを楽しむ。その姿はゲーム文化の理想像である。

■■Jerry Chu■■
香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。
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