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第10回FOST賞授賞式が開催。今年は「学校教育にデジタルゲームを導入する実践方法の調査研究」が受賞
FOSTは,シミュレーションやゲーミングなど,社会や文化といった文脈のなかで,科学技術の融合を促進させる研究の助成と,その成果を広く還元する普及啓発を活動の柱とする財団である。
授賞式会場では,FOSTが平成28年度に支援・助成した研究の中から,もっとも優れたものを表彰するFOST賞,若手研究者を対象とするFOST新人賞,ゲームの研究・開発・応用に関連して社会貢献した人物を対象とするFOST社会貢献賞が発表された。
FOSTの理事長であるコーエーテクモホールディングス 代表取締役社長の襟川陽一氏は,FOSTが設立から23年経った今なお優良な財務状況であることを報告し,今後も財務基盤を維持しつつ社会貢献活動に邁進していくと展望を語った。
第10回FOST賞に選出されたのは,「学校教育にデジタルゲームを導入する実践方法の調査研究」を行った,一般社団法人 日本eスポーツ協会の理事を努める馬場 章氏。馬場氏は,日本の学校教育にデジタルゲームを導入するべく,体系的な研究に長年取り組んでいる。今回はアメリカ,カナダ,イギリス,韓国の教育現場を視察することにより,日本ではデジタルゲームの教育利用に関する知見が少なすぎることを指摘し,その解決策の研究を進めていることが評価された。
馬場氏によると,この研究は2006年にスタートしたもので,当初は5年にわたって高校の社会科授業にオンラインRPG「大航海時代Online」を導入するという内容だったとのこと。その最終成果発表時に「教育効果とは直後の測定だけでなく,長期にわたり計測する必要がある」との指摘を受けたため,2016年には当該授業を受けた当時の学生達に対する追跡調査も実施したという。その追跡調査について馬場氏は「期待以上の成果が見られた」とし,「いずれ何らかの形で発表したい」「20年後,30年後にも追跡調査を行いたい」と意気込みを見せていた。
第4回FOST新人賞に選出されたのは,「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)を用いた自閉症スペクトラム児の対人相互交渉の促進」というテーマを研究した,東京学芸大学大学院 連合学校教育学研究科の加藤浩平氏。
加藤氏は,自閉症スペクトラム児を支援する手段の一つとして,自発的な相互交渉が発生しやすいTRPGを採用し,支援活動および実践研究を行っている。今回は,TRPGを用いた小グループ活動により,自閉スペクトラム症児達がほかの児童に対して自発的にメッセージを発するようになるなどの変化について,逐語録や面接記録をもとに量的・質的両方の面で明確な分析を行ったことが評価された。
自閉スペクトラム症児は,周囲とうまく接することができないケースが多いとされがちだが,加藤氏は「今回の研究のように,彼らが活躍できる場を用意すればユニークなコミュニケーションを展開する」と説明。また,そうした自閉スペクトラム症児の中には秘められた才能や膨大な知識を持つ児童も少なからずいるとし,それらを引き出すためにTRPGを活用してほしいとも語っていた。
第6回FOST社会貢献賞に選出されたのは,特定非営利法人 コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)である。CEROは,2002年6月にゲームソフトの年齢別レーティング制度を運用・実施する機関として発足。日本国内で販売されるコンシューマ用ゲームソフトの表現を審査して年齢別レーティングを実施し,一般市民やユーザーに向けてゲームソフトの選択に必要な情報を提供してきた。その活動がエンターテインメントゲームの社会的受容とゲーム文化の健全な発展に寄与したと評価されての受賞だ。
CEROの理事長を務める島田仁郎氏は,同機構が2017年に設立15周年を迎え,これまでに1万5000タイトル以上のゲームのレーティングを行ってきたことを語った。
また日進月歩の進化を遂げるゲーム業界では,昨今でもスマートフォンゲームの台頭やVRコンテンツの登場など,次々と新しい流れが生まれているが,島田氏は今後もCEROの使命を全うするべく,全力で取り組んでいくとアピールしていた。
公益財団法人 科学技術融合振興財団 公式サイト
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