インタビュー
TVドラマ「ノーコン・キッド」は,今だからこそ作れた作品。原案・シリーズ構成・脚本を担当した佐藤 大氏とプロデューサーの五箇公貴氏に思いの丈をたっぷり語ってもらった
この作品は,1983年から2013年の30年間,ビデオゲームの歴史と歩調を合わせるかのように成長していった少年や少女達の姿を描いた物語である。主人公の渡辺礼治を田中 圭さんが,ヒロインの高野文美を波瑠さんが,そしてもう一人の主人公ともいえる木戸明信を浜野謙太さんが,それぞれ15歳〜45歳という30年分演じていることでも話題を呼んでいる。
とはいえ4Gamer読者にとっては,各話ごとに「ゼビウス」「ポールポジションII」「パックマン」といった懐かしのアーケードゲームのほか,「ドラゴンクエスト」「スーパーマリオブラザーズ」といったコンシューマゲームまでもが,実名で登場するドラマ……と説明したほうが,通りはいいだろう。
さて,そんな作品の原案とシリーズ構成,脚本を担当したのは,「カウボーイビバップ」や「交響詩篇エウレカセブン」などのアニメ,「バイオハザード リベレーションズ」や「エクストルーパーズ」などのゲームで脚本を手がけてきた,佐藤 大氏だ。
今回,佐藤氏と,このドラマのプロデューサーであるテレビ東京の五箇公貴氏に,本作制作の経緯やそこに込められた思い,そして今だから話せる苦労話などを聞いてきた。ゲームファンのみならず,1980年代後半から90年代のサブカルチャーに興味を持つ人は,ぜひご一読いただきたい。
「ノーコン・キッド〜ぼくらのゲーム史〜」紹介ページ
構想10年,TVドラマとして再構築された“あの頃”
4Gamer:
ご無沙汰しております。
今回は佐藤さんがTVドラマ「ノーコン・キッド」の原案とシリーズ構成,脚本を担当されているということで,いろいろとお話を伺おうと思っています。
月並みな質問からなんですが,まずは企画がどこから始まったのか,ということを教えてください。
はい。僕はかつて田尻 智さんが代表として活動をしているゲームフリークで,ゲームライターをやっていた時期があって,あちこちの雑誌でゲームの記事を書いていたんです。
その頃,クラブとゲームを融合させた「東京ゲーマーズナイトグルーヴ」というイベントも手がけていて,そこに集まる人達から“スターゲーマー”や“ハイスコアラー”の話を聞かせてもらう機会があったんですが,それがいちいち面白かったんですよ。そのときの経験が,ノーコン・キッドの発想の元になっています。
4Gamer:
そこが原点だったんですね。
佐藤さんご自身は,10代の頃にゲームセンターに通っていたんですか?
佐藤氏:
その頃過ごしたのは埼玉の田舎なんですが,ゲーセンには通っていましたねぇ。僕自身はそんなにうまいプレイヤーではありませんでしたが,新宿のGAME SPOT21まで有名プレイヤーのプレイを観に行ったり,当時のゲーマーとしておなじみの体験はひととおりしてきました。
4Gamer:
当時のゲーセンには,今とは違う独特の活気があふれていましたよね。
佐藤氏:
そうなんですよね。ただ,そうやってゲーセンで育ってきた文化が,今は歴史の中に消えてしまいそうになっています。あの空気感は,その時,その場にいた人にしか体験できなかったことになりつつあるという認識がずっとありました。実際,ナムコさんやカプコンさんと脚本家としてお仕事をするようになって,いわゆる“基板を使ったゲーム文化”というものが現在失われつつあると実感していますし。
4Gamer:
時代の流れ……と言ってしまえば,それまでなんでしょうけど。
佐藤氏:
でも,音楽だったら特定のバンド,ファッションだったら特定のブランドといった具合に,その時代の流行を象徴する作品ってありますよね。でもゲーム,とくにゲーセン文化においては,それがないんです。いや,ないわけじゃないんですけど,その時期にゲーセンに通っていた人の間でしか共有できていないな,と。それをなんとかしたいというのは,10年くらい前から考えていました。
4Gamer:
では,それぐらいの時期から,ノーコン・キッドの元となる構想は練られていたんですね。
佐藤氏:
僕が脚本家になったのは15年前で,10年前というのは「攻殻機動隊 S.A.C」などが一段落した辺りです。その頃からゲーセンを題材にした企画の話は色々なところで提案させてもらっていたんですが,どうしても上手に実現できなくて,モヤモヤとくすぶっていたんです。
それが昨年,テレビ東京の五箇プロデューサーとお会いしたら面白がっていただけて,そこから,ようやく今につながる企画が具体的に動き始めました。
4Gamer:
最初からTVドラマとして考えていたんですか?
佐藤氏:
いえ,実は当初の企画は映画だったんです。それをテレビ東京さんに面白がっていただけたので,そちらにシフトしていった形ですね。
僕にはTVドラマという発想自体が無かったんですが,確かにそのほうが俯瞰視点からさまざまな題材を扱えるなぁと感じて,非常にシックリ来ました。
4Gamer:
連続ドラマなら,登場するゲームも毎回変えられますからね。ゲーム好きとしては嬉しいところです。
佐藤氏:
個人的には,テレ東深夜ドラマ枠で放送できるのも嬉しかったですね。僕が秋元 康さん主宰のソールド・アウトに所属していた頃の同僚だった大根 仁監督の「モテキ」や「湯けむりスナイパー」などは,個人的にも大好きな作品でしたから。
そこで(テレ東深夜ドラマ枠で)やりませんか,と言われた時は,まさに「ぜひ!」といった具合でした。
4Gamer:
映画からTVドラマへと,企画の形が変わるとなると,それに合わせて設定やストーリーも変化しますよね。
当初企画していた「ノーコン・キッド」の原型とる映画は,どんな作品だったんでしょう?
佐藤氏:
もともとは,1984年の風営法が施行される直前,24時間営業のゲーセンにとっての“最後の日”を描こうと考えていました。ゲームに“エンディング”が設定される前,延々とゲームが出来た時代が終わる瞬間……。男だらけ&女っ気ゼロのストーリーを経て,24時間営業が終わった瞬間の朝に,「これから,ゲームってどうなるんだろう」と言って終わるような。そんな映画にしたいなぁと。
ストーリーの原点にあったのは,イギリス映画の「24アワー・パーティ・ピープル」的な世界です。ああいう映画を日本で作るなら,舞台はゲーセンだろうと確信していたんですよ。
4Gamer:
イギリスのクラブカルチャーを日本に置き換えるとしたらゲーセンである,と。
佐藤氏:
24アワー・パーティ・ピープルって,当時のクラブを舞台に,1980年代後半から始まるマンチェスター・ムーブメント(※イギリスで1990年台に流行した「ダンスのためのロックミュージック」ブーム)をテーマにした作品でした。実は,そのコンセプトをアニメにしたのが「交響詩篇エウレカセブン」だったんです。今度はそれを日本を舞台に実写でやりたい,それならクラブよりゲーセンのほうが,より多くの人にとってしっくりくる体験なんじゃないかなと。
4Gamer:
完璧なアウトローではなく,ちょっと不良っぽい世界という意味では共通していますね。
佐藤氏:
そう! 24時間営業で,あの深夜の雰囲気もあって,僕にとってのゲーセンは“ワルっぽい”イメージなんです。親が寝静まった時間に自分の部屋の窓から家を抜け出して,トランジスタラジオで「オールナイトニッポン」なんかを聴きながら自転車に乗って近所のゲーセンに行って……。そこでカツアゲをされたりしつつも,「ゼビウス」だったり「ドルアーガの塔」であったりを遊ぶわけですよ。
暗闇と煙草の煙が印象深い,あの頃のゲーセンというのは,僕の中では原体験として凄く大きな物でした。
4Gamer:
今ではもう,決して味わえない体験ですね……。
佐藤氏:
午前4時〜6時くらいの,朝方のゲーセンも大好きでしたしねぇ。人が減れば減るほどゲームの音が反響して,秘密基地然とした雰囲気が出るんですよ。そういった空気感を映像にしたい,という気持ちが強くあったんです。
4Gamer:
それがノーコン・キッドの根っこなんですね。
連続ドラマならではの仕掛けと,大胆なキャスティング
4Gamer:
しかし実際にドラマを観てみると「ゲーセン楽しい!」「ゲームって素晴らしい!」というだけのお話ではなさそうですよね。登場人物達の状況が過去編と現代編であまりにも違いすぎていて……。
佐藤氏:
その通りです。でも,最初からそのつもりで脚本を書いていたわけではないんです。
4Gamer:
制作途中から,現在の形に向かっていったということでしょうか?
佐藤氏:
僕自身にも最初から「“懐かしい”で終わらせたくない」という気持ちがあったんですが,その具体的な表現方法とは? となると,うまく答えを出せなかったんです。そんな時に五箇さん,から「ゲーセンの攻略ノートって,何かのキーになりませんか?」と助言をいただいて,それが解法につながりました。
そこで当時の攻略ノートの存在や,裏ワザを含めた“噂カルチャー”のようなものを振り返ってみると,あれは今はやっているソーシャルネットワークのはしりだったんじゃないかと思うんです。
ゲーセンが中継機で,いわゆる「LINE」や「Twitter」といったSNSが攻略ノートだったんじゃないかと。そこに気付いて,それを“ある形”で設定に落とし込むことで,最終的なストーリーが決定しました。
過去編と現代編のいずれかだけでも,確かにエッセンスとしては面白いんですよ。でも,連続ドラマとして作品を作る場合はモチベーションを保つために続けて視聴する“理由付け”が必要になってきます。
登場人物達がゲーセンで育ってきたことが原因となって起こる事件と,その経過と結果を毎回断片的に見せていくことで,その理由を作っているわけです。
4Gamer:
なるほど。連続ドラマならではの構造ですね。
佐藤氏:
最初に五箇さんから「サスペンスの要素は入れたい」とオーダーをいただいていましたから,それに応える意味もありました。でも,ただサスペンスを入れるだけだと,ノーコン・キッドではなくなってしまう。やっぱり,ゲーセンという存在や,攻略という要素をつなげたかったんです。
4Gamer:
サスペンスにゲーセンと“攻略”ですか。そこに,先程話されていた攻略ノートが関わってくると。
佐藤氏:
ちなみに第1話でもよく見ると,現代の木戸君の机の上に「ソルバルウ」のプラモデルが置かれていたりと,過去と現代のつながりはチラチラと見せています。
五箇氏:
ただ,それゆえに15歳と45歳の同一人物を,一人の役者が演じなければいけなくなってしまったんですが……。そこは力技で頑張ってもらっています(笑)。
4Gamer:
15歳と45歳を同時に演じる……。かなり大胆なキャスティングですよね。
佐藤氏:
渡辺礼治を演じる主演の田中 圭さん,ヒロインの高野文美を演じる波瑠さん,木戸明信役の浜野謙太さんの3人には本当に苦労をかけてしまいました。でも,衣装合わせのときに「これはいける!」と思ったんです。正直それ(衣装合わせ)を見るまでは少し不安があったのですが,とくに浜野さんが学ランを着て出てきた時に確信しました。これは大丈夫だと(笑)。
渡辺礼治役 田中 圭さん |
高野文美役 波瑠さん |
木戸明信役 浜野謙太さん |
4Gamer:
正直観ていてビックリしました。しっかり学生に見えるんですよね。「ああ,こういう奴いたわ!」みたいな。
佐藤氏:
そうなんです。学ランを着たことで彼は「どこの学校にも必ず一人はいるヤツ」,“みんなの木戸”になったという感じがしました。だからあの3人が集まってくれて,本当に良かったと思っています。逆に,この3人じゃなかったらあり得ない作品だったなぁと。
4Gamer:
15歳から45歳までを同じ役者に演じさせるということは,キャスティングの時点から決まっていたのですか?
佐藤氏:
もちろん,キャスティングの時点ではもうその方向性に固まっていました。ただ,それ以前にはいろいろな案が出ていましたよ。各時間軸に合わせて違う役者さんを使おうかとも考えていたのですが……。
五箇氏:
キャストに関して,チーフ監督の鈴村展弘さんに相談してみたら「第3話からいきなり演者が違う人になっていたら感情移入がしにくい」という意見をいただいたんです。脚本を書きながらキャスティングをしていたので,キャストが決定するまでには少し時間が掛かってしまいましたが,結果的には同じキャストで15歳から45歳までを突っ走ることにしました。
佐藤氏:
その決断は,一つのターニングポイントでしたね。作品として,しっかりと振り切れた感じがして。今となれば良い結果を生んだと思います。絵面として,ちょっと笑っちゃうような部分も含めてアリだったんじゃないかと。
五箇氏:
そうですね。僕達としても,最初に誰だか分からない子役が出てきてゲームの話をされても……という感覚がありましたから。
4Gamer:
あ,それ分かります。ゲーマー的に見ても説得力に欠けていると感じるでしょうし。
佐藤氏:
ただ,少し危惧していたのは「コントになりかねない」といことでした。コミカルに振るにしても,コントにはしたくなかったんです。さっきお話したように,衣装合わせの時に「ズバッ」と決まった彼らを見て,その疑念はなくなりました(笑)。コントにならないギリギリのラインを渡れたと思います。
五箇氏:
見た目で圧倒的な破壊力を持っているのは,やっぱり木戸役の浜野さんですよね。彼のお陰で,周囲の人間が彼より若く見えるという。そして,実際にああいう人を学生時代にクラスで見た覚えがある(笑)。
4Gamer:
木戸はノーコン・キッドにおいて圧倒的な存在感を放っていますよね。キャラの濃さが凄まじい。
佐藤氏:
なにより平仮名の「おたく」を出したかったんですよ。第1話であった「おたくかっ!」(あなたか!)っていうセリフですね。自分や他人の分類ではなく,元々は人を指して言う言葉だったんだというところを表現するためにも,あれがやりたかった。そして,何よりそれを浜野さんにやってもらうことが重要でした。
4Gamer:
と,言いますと?
五箇氏:
浜野さんはミュージシャンとしても活動しています。そういったタイプの人が世界観に入ってくるのは,僕はドラマを作る上ですごく重要視しています。役者さんだけでキャストを固めることもできたんですが,違う世界の人が入ってくることで生まれる“軽さ”だとか,役者さんでは出せないものも絶対にあるので。
とくに,浜野さんは過去に映画「鈴木先生」で,ひきこもりの役をやっていたので,あの感覚を出せるなら,まさに木戸にはピッタリの人だなと。
佐藤氏:
「気持ち悪い」と「可愛い」を両立できるというのは,木戸という役を演じるにあたって凄く重要な事柄だと思うんです。「気持ち悪い」に寄るリアリティももちろんアリだとは思うんですが,今回はそういったタイプのドラマではないので,どこかで可愛さも入れる必要があった。
さらに,木戸は声を張る役なので,歌手であることはけっこう重要だったように思えます。キンと高い声を出すけれど,イヤな感じには聞こえない。そういうところを見ると「やっぱり歌手なんだな」と,実感させられました。
4Gamer:
なるほど……。それにしても劇中では田中さんと浜野さんが二人で並んでいても,しっかりと同世代の友人に見えてしまうというのが凄いですよね。
五箇氏:
そういう意味では,田中さんが一番大変だったと思います。浜野さんはある程度は一本調子で演技が出来て,波瑠さんも大丈夫なんですが……。田中さんは出番が多くて,心情に変化を付ける芝居を30年間分やらなければいけないわけです。本当に,よく熱演していただきました。
佐藤氏:
“オタク”や“サブカル少女”といった,分かりやすいキャラクター付けが無いのも難しいところでしょうね。
4Gamer:
プレーンな主人公ゆえの,演技の難しさですか。
実は,もともとの脚本では木戸が主役だったんですよ。それはそれで面白いんですが,彼が主人公になるとゲームへの熱量が高過ぎて,視聴者や周囲のキャラクターが遠くに行っちゃうんです(笑)。
4Gamer:
すべて木戸の視点で話が進むとなると……うん,確実に視聴者にとってのハードルは高くなるでしょうね。一部からは大絶賛されると思いますが。
佐藤氏:
脚本家としては,木戸が主人公でも盛り上がって書けるんです。でも,熱が入りすぎて演技に落とし込んだら1本が30分に収まらない。そこで周囲の方に助言をいただいた結果,礼治君が主人公として浮かび上がってきたわけです。思い入れが強すぎて,その選択肢が見えてこなかったんですね。
4Gamer:
礼治君が主人公になるまでの間にも,いろいろと試行錯誤があったのですね。
佐藤氏:
実は,第1話の時点で5回か6回くらい脚本を直しました。五箇さんから助言をいただいて,初めて礼治というキャラクターを登場させ,そこで初めて「これはドラマとしていける」と,脚本に自信を持つことができたんです。
4Gamer:
主要キャラクターの3人には,それぞれにかなり思い入れがありそうですね。ところで,さきほど原案では「男だらけ&女っ気ゼロ」のストーリーだったという話をされていましたが……紅一点である高野文美についてはどのような発想で生まれたのでしょうか?
佐藤氏:
映画として考えていた頃は,ストーリーを構成するのは男ばかりでしたね。それが面白いと思っていたんですが,当時から僕が周囲の人に企画を語ってもなぜだか皆の心に引っかからないんですよ。
で,後から冷静になってその理由を考えてみたところ「そうか,恋愛の要素か!」という,ものすごく分かりやすい理由に思い当たりました。そこから高野というキャラクターが生まれた形ですね。
4Gamer:
しかし,恋愛要素を構築するためだけに生まれたヒロイン……という風には見えませんよね?
佐藤氏:
この作品はノーコン・キッドですから,ヒロインを出すにしてもただ綺麗な女の子ではなく,やはりゲーマーであってほしい。しかし,普通にゲーマーにしてしまうのも面白くない。
そこで彼女には,1990年台サブカルの象徴になってもらいました。“高野文子”という名前でピンと来る人もいると思いますが,例えば岡崎京子さんの「東京ガールズブラボー」とか,当時のサブカルを描いた作品に出てくる女性達をイメージしています。それと,僕自身が,1990年台にファッションカルチャーやサブカルチャーに通じている女の子達と遊んでいたので,みんながモデルになっていますね。
4Gamer:
サブカルというと,具体的にはどういったものが登場するのでしょう?
佐藤氏:
劇中で登場するのは,YMOをはじめかつて原宿にあったピテカントロプス・エレクトスというクラブや,ピチカート・ファイブ,プラスチックスといったアーティスト,それから女性サブカル誌などですね。それらの要素は,すべて彼女に集約しました。
4Gamer:
こう言ってはなんですが……それらのサブカルは木戸のようなゲーマー側からすると,だいぶいけ好かないポジションですよね。なぜ,あえてその要素を入れたんでしょうか?
佐藤氏:
それには二つの側面があります。一つは当然,より広い視聴者に作品を楽しんでほしいということ。そしてもう一方で,僕自身のキャリアが関わっています。
4Gamer:
ああ,なるほど。
佐藤氏:
制作中,この作品の中に原案として“僕らしさ”を出すことが求められたんですね。そこで僕自身のキャリアにある,東京ゲーマーズナイトグルーヴというイベントの存在は,やはり何らかの形で再現しなければならないと。そしてこれが,ほかのゲームを扱った作品との一番の違いになるはずだと。
始まりは同じでも良いのですが,着地点はまったく違う場所にしたいんです。
4Gamer:
だからこそ,高野というヒロインに必然性があるわけですね。
佐藤氏:
高野には,例えば「CUTiE」や「PATiPATi」で原稿を書いていた頃の自分や,「ポリゴンジャンキー」といったイベントでもDJをしていた自分の体験を。木戸には,僕にとって憧れのスターゲーマー像を重ねています。浜野さんには木戸のモデルが僕なんじゃないかって言われるんですが,僕自身はそんなにゲームはうまくありませんでしたから(笑)。
4Gamer:
そうなると,礼治についても気になりますね。
佐藤氏:
彼には僕の中にあるモテたかった欲や,TV業界への憧れなどが詰め込まれています。だから劇中ではバンド組もうとしたり,JUN SKY WALKER(S)を聴いてみたりと,いろいろな流行に流されたりもします。
僕の中にあるあらゆる要素を,3人のキャラクターそれぞれが,ちょっとずつ代弁してくれているという感覚ですね。これによって,当時の色々なゲームプレイヤーの姿を描くことができたと僕は思っています。
4Gamer:
そういえば,個人的には礼治のオヤジ(渡辺雅史)も非常に良いキャラをしていて好きです(笑)。
雅史役の佐藤二朗さんは,本当に良い味を出してくれてますよね! その昔に必ずいた,お釣りを出しながら「はい,50万円」って言うようなオッサンです(笑)。
4Gamer:
見事なキャスティングでした。まさしくハマリ役です。
佐藤氏:
物語のキーとなるキャラクターですから,キャストが二朗さんに決まった時は,本当に嬉しかったです。「駄目だけど憎めない」みたいな,難しい演技を求められる役ですから。
4Gamer:
かなり自由に演じているように見えるのですが,やはりけっこうアドリブが入ってたりするんでしょうか?
佐藤氏:
かなり入っています。
4Gamer:
やっぱり! さすがに第1話の「彼女にインサート!」ってセリフは,佐藤さんが台本に書くわけないと思って。
佐藤氏:
あ,それは僕が書きました(笑)。
一同:
(笑)
佐藤氏:
ひどいでしょ? 二朗さんがやることを分かったうえで書いたものなんです。ただ,第1話で二朗さんが「お前まるで……」と言いそうで言い切らなかった部分とかは,アドリブです。
こっちサイドから見ていて「なんだよ言わないのかよ!」と思ってましたから。狙って言っているところと,狙っていないところが混在していて,本当に面白い演技になっています。
4Gamer:
それを視聴者が判別するのは至難の業ですね(笑)。
佐藤氏:
こっちがウケるもんだから味をしめて,アドリブは話が進むにつれてどんどん凄くなっています。しかも,一度やったアドリブを「もう一回やって下さい」と言っても,再現できないんですよ。毎回変わっちゃうので,田中さんとかも引っ張られちゃって。
4Gamer:
本当にユニークな方なんですねぇ。
佐藤氏:
実は,二朗さんと僕とは同い年なんですよ。「伊藤つかさ懐かしいよねぇ」とか,ちょっとマイノリティなサブカルの部分も通じていて驚きました。僕はソールドアウトという会社に入るとき,堤 幸彦さんに拾っていただいた恩があって,足を向けて寝られないと思っているんですが,二朗さんも「僕も堤さんが居なかったら,こうはなっていなかった」と話していて。なんだか二朗さんとはいろいろなところで通じ合えて,嬉しかったです。
4Gamer:
現場の雰囲気もかなり良かったようですね。
佐藤氏:
ええ。ただしスケジュールの都合上,脚本も撮影も,最終話から進むことになってしまって,それは少し大変でした。かなりアクロバティックな制作進行で,僕もびっくりしましたよ。なにしろ初めての体験ですから(笑)。
4Gamer:
そういった作り方をする狙いはどこにあったんでしょう?
五箇氏:
単にスケジュールの都合です(笑)。
佐藤氏:
本当に厳しかったですよ。まるで既にホネホネ状態のジェンガを遊ぶみたいな綱渡りっぷりでした……。第1話はプロトタイプなのでけっこう早めに書き終わっていて良かったんですが,スケジュールの状況的に次に最終回を書かなければいけない状況になり,最後の2本を書きました。そこから2話,3話を書いて……と,かなり前後しながら書くことになってしまって。
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