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[GDC 2013]NASAは本気でゲームを作ります。6本足の大型ロボットを遠隔操作するというデモも公開されたNASAの講演をレポート
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印刷2013/03/30 00:00

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[GDC 2013]NASAは本気でゲームを作ります。6本足の大型ロボットを遠隔操作するというデモも公開されたNASAの講演をレポート

Jeff Norris氏
画像集#002のサムネイル/[GDC 2013]NASAは本気でゲームを作ります。6本足の大型ロボットを遠隔操作するというデモも公開されたNASAの講演をレポート
 北米時間の2013年3月27日,Game Developers Conference 2013で「We Are the Space Invaders」という講演が行われた。プレゼンテーションを行ったのはNASA,つまりアメリカ航空宇宙局であり,NASAがゲーム開発者を相手に何を語るのかという点で,大きな注目を集めていた。

 演壇に立ったのは,NASAのジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)でTask Leadを務めるVictor Luo氏と,同じくジェット推進研究所でManager of Mission Planning and Executionを務めるJeff Norris氏だ。

 まず,宇宙開発とゲームの歴史が語られた。ソ連(当時)のYuri Alekseyevich Gagarin(ユーリイ・ガガーリン)少佐が人類初の宇宙飛行を行ったのが1961年。同じ年,世界初のシューティングゲームといわれる「Spacewar!」が登場している(Spacewar!の初登場を1962年とする資料も多いが,それはそれとして)。そして,1980年のスペースシャトルのミッションコントロールセンターで管制官が見ているモニター画像は,1979年にリリースされた「Space Invaders」や,1979年の「Lunar Lander」を連想させる。

宇宙開発とコンピュータを使ったゲームの始まりはほぼ同じ
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スペースシャトルのミッションコントロールセンター(左)と,「Space Invaders」「Luner Lander」の画面(右)
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多くの情報がまとめられた「EVE Online」の画面
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 ちょっと無理っぽい展開だが,ともあれゲームはその後,急速に進歩を続け,2Dグラフィックスが3Dになり,数個のドットの集まりだったものがディテール豊かな宇宙船になった。例に挙げられた「EVE Online」では,驚くほど多数の情報が,要領よくグラフィカルに提示されている。どうやら,これほど進歩したゲームに比べ,宇宙開発現場のユーザーインタフェースはそれほど進歩していないという話のようだ。

 NASAの制作したゲームと聞いて思い浮かぶのが,2010年に公開された無料のPC向けソフト「Moonbase Alpha」だろう。プレイヤーが月の基地でミッションをこなすというシリアスゲームだ。YouTubeで検索すると多数のムービーが見つかるが,そのほとんどがマシニマ風の愉快な内容になっており,今のところ,NASAの意図がうまく伝わっているとは言い難い,というのはNASAの2人も思っていることらしい。

画像集#006のサムネイル/[GDC 2013]NASAは本気でゲームを作ります。6本足の大型ロボットを遠隔操作するというデモも公開されたNASAの講演をレポート
 Norris氏はここで,アメリカのある統計データを紹介した。2008年の統計なのでやや古めだが,アメリカのティーンエイジャーの実に97%がビデオゲームをプレイしており,そのうち86%がコンシューマ機で遊んでいるという。かつてNASAはアメリカの人々に対し,宇宙開発への理解をテレビで訴えた。だが,予算の関係もあって頻繁にテレビを使うわけにはいかない。もちろん,メディアとしてのテレビの価値が下降しつつあるという側面もある。2006年には,ゲーム業界で使われる予算の規模と,宇宙開発予算の規模はほとんど同じだった。しかし,ゲーム業界が右肩上がりで推移していったのに比べ,宇宙開発予算は下降線をたどり,現在ではゲーム業界の半分ぐらいになってしまった。

 というわけで,予算が少なく多くの人々がコンシューマ機に向かっている現在,NASAとしてはゲーム業界の力を借りて,自分たちの活動を知らしめたいというわけなのだ。
 しかし,PCに比べて,コンシューマ機という美しい庭にはなかなか入りづらい。なぜなら,戦闘ヘリコプターや戦車,モンスターやクリーチャー,そして忍者までもがその庭を守っているからだ。半端なゲームを低予算で作っても,見向きもされないだろう。

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Victor Luo氏
 そこでNASAはMicrosoftに助けを求め,Kinectを使ったXbox 360向け無料ゲーム「Mars Rover Landing」を開発した。これは,キュリオシティのニックネームで知られる火星探査ロボット「ローバー」を,無事に火星表面に着地させるという内容のもの。ローバーを搭載した宇宙船「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」は,2011年に打ち上げられ,2012年8月に無事着陸,現在は火星探査ミッションを遂行中だ。
 ローバーを搭載した宇宙機は,火星の大気圏に入ると大きなパラシュート開いて減速し,所定の速度になったところでパラシュートを切り離して,ジェット噴射による減速を開始,さらにローバーをワイヤーでつるして着陸地点に降ろし,宇宙機自身はローバーにぶつからないよう,最後のジェット噴射をして遠くへ飛んでいく……という複雑なシーケンスが採用されているが,そのいくつかの段階を,Kinectを使ってうまくやってみるというのが,このゲームの内容だそうだ。

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Mars Rover Landingのゲーム画面
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 そんなMars Rover Landingは,ローバーが着陸する前の7月に公開されたが,これはマーズ・サイエンス・ラボラトリーに劣らず危険なミッションだったとLuo氏は語る。着陸予定日はすでに決まっているので「リリースは3か月延期されました,てへぺろ」ということは許されないし,万が一マーズ・サイエンス・ラボラトリーが飛行中に事故を起こしてミッションが中止になれば,せっかく作ったゲームが無駄になってしまうからだ。
 とはいえ,結果的にそういったことは起きず,ローバー着陸を中継するNASAのテレビ番組中,会見室にゲームが持ち込まれ,祖父が宇宙飛行士だったという若い女性がMars Rover Landingをデモプレイした。ただし彼女は,最初着陸に失敗してローバーを大破させ,会見室は微妙な空気に包まれたという。

ローバー着陸の記者会見で公開された「Mars Rover Landing」
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 Norris氏が興味深いと思ったのが,ゲームメディアと一般メディアの反応の違いだ。一般メディアはローバーの火星着陸を大々的に取り上げ,ついでという感じでMars Rover Landingを紹介していたが,ゲームメディアはその逆だったというのだ。4Gamerの記者として,気持ちは分かる。

 しかし,強敵は思わぬところに潜んでいた。それがアメリカ議会であり,NASAのゲーム開発計画は残念ながら否決され,「2012年のゴミ箱入りリスト」(Wastebook 2012)に掲載されることになってしまったのだ。というわけで,今回の講演はそういう過去と現実を踏まえたうえで,集まったゲーム開発者の力を借りたいというわけだったのだ。

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ローバーの火星着陸を伝える報道。左がゲームメディア
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ゲーム開発のための予算はゴミ箱入り

 現在,NASAではさまざまな宇宙開発計画が進められており,多数のロボット探査機が開発の途上にある。そこでは,スイッチやノブといった古典的なものだけでなく,もっと直感的なユーザーインタフェースが求められる場合もある。例えばある計画では,探査機が小惑星に取り付き,複数の足を動かして移動し,サンプルを回収するというミッションがある。その場合,どのような操作方法が最適なのかについては,さらなる研究が必要だろう。

NASAでは現在もさまざまな探査機が開発されており,さまざまな操作法が考えられる
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 ここでNASAの2人は,カリフォルニア州パサデナのジェット推進研究所にある6本足のロボットを,サンフランシスコのGDC会場から遠隔操作するという,大がかりな実演を見せてくれた。ここで使われているのもKinectで,Luo氏がKinectに手をかざすと,パサデナのロボットがそれを関知して動くというものだ。動きは非常に遅く,反応もかなり鈍かったので,改良の余地はかなりありそうだったが,デモが終了すると,割れるような拍手が起きた。

パサデナのジェット推進研究所とGDC会場をつないで,ロボットを遠隔操作するというデモが実施された
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 最後にNorris氏は「我々はどこへ行くのか?」と来場者に問いかけた。「人類は巨大な望遠鏡を作って天空を眺めていますが,なんのために? それは人類が宇宙へ出ていくときのためです。いずれ,小さなスクリーンを飛び出すことになるでしょう。現実に,NASAの宇宙計画は進んでおり,月や火星を超えて小惑星帯に,そして土星の惑星に生命の兆候を探しに行きます。さらに遠くに,人類はどこまでも行くはずです。ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた,ほんの小さな何もなさそうな場所にさえ無数の銀河があり,そこにそれぞれの世界があります。人類は止まることはないでしょう。我々はどこに行くのか? それはあらゆる場所です」と語って講演を締めくくった。

Game Developers Conference公式サイト

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