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50年を超えてキャリアを重ねるドン・ダグロウ氏が登壇。どれだけゲームを愛していても,ゲームビジネスは愛し返してくれない荒海のようなもの[GDC 2026]
ドン・ダグロウ氏は今年でキャリア50年を迎えるクリエイターで,今年のアワードセレモニー,Game Developers Choice Award(GDCA)で,人生功労賞を受賞することがアナウンスされている。
そんな氏が会期初日のセッションで,「GDC Masters: 50 Years in Games and a Legacy for Creators」(GDCマスターズ:ゲーム業界の50年とクリエイターの遺産)という講義を実施した。
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現在もゲーム開発者系イベントに盛んに出席し,若き後輩たちのため,アドバイスや啓発活動を続けるなどしているダグロウ氏が初めてコンピュータと出会ったのは,大学2年生だった1971年のこと。
寮の廊下の奥の扉から聞こえてくる,カタカタと鳴る奇妙な音。そこに設置されていたのが,寮生たちが自由に使えるようにと導入されたばかりのコンピュータ端末だった。
当時のコンピュータは,まだ軍事機器から民用化されたばかりで,厳重に管理されるのが一般的であり,氏の例のように寮内で管理者もいないまま放置されているのは珍しかったとのこと。
そこにあった端末は,入力したコードをロール紙に印刷して出力するという初期型テクノロジーに過ぎなかったが,ダグロウ氏はこれを使い,見よう見まねで野球ゲーム「BASEBALL」を自作した。
当時,劇作家になることを夢見ていた文系青年にとって,「自分の書いたものに対して,機械がリアルタイムで反応し,ユーザーと対話する」というコンピュータの性質は,まさに革命的な体験であったという。
ゲーム産業の黎明期で,さまざまなジャンル創生に関わってきたダグロウ氏
ダグロウ氏は当初,劇作家の視点で課外活動的にコンピュータに触れていたに過ぎなかったが,ものの見事にプログラミングにハマってしまい,結果,ギリギリの成績で学校を卒業するに至ったと語る。
そのあと社会人1年目となった1976年。CRTモニター(ブラウン管ディスプレイ)が商業化されたときも,氏は技術屋としてではなく「ようやくビデオゲームと呼ばれているものに,ビデオ(映像)が加わったんだな」という程度の感想しか持たなかったと振り返る。
しかし,CRTモニターの登場により,ゲーム世界の空間がテキストではなくビジュアル的に視覚化されたことで,Mattel Electronicsに就職していた氏は,IntellivisionおよびMattel Aquarius向けに「Utopia」というゲームを構想し,実際に開発した。これは史上初のリアルタイム型戦略ゲームであり,初のゴッドゲーム(※)であるとされる。
※神の視点ゲーム。シミュレーションやストラテジーを指す例が多い
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1980年代。ゲーム業界で最大手だったBroderbund時代には,「カルメン・サンディエゴ」や「プリンス・オブ・ペルシャ」を手がけた。
さらにはElectronic Artsに移り,プロデューサーとしてEA Sportsブランドのバックボーンとなる「John Madden Football」(1988年)の制作に至るまで,幅広く活動していた。
この時期にゴーサインを出したものには,「あまりにも奇抜すぎて,当時のパブリッシャはどこも取り合ってくれなかった」ことでよく知られた「SimCity」(1989年)のような作品もあった。
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1988年に独立したダグロウ氏は,現在も居住しているサンフランシスコ近郊にBeyond Software(のちにStormfront Studiosに社名変更)を設立し,そこでMMORPG「Neverwinter Nights」を開発した。
同作は,のちに日本でも有名になるBioWareの「バルダーズ・ゲート」と同様,「ダンジョンズ&ドラゴンズ」をライセンスした作品だ。
当時,多人数のプレイヤーが参加するこの手のゲームは,表現手法がテキストに限られていた。しかし,本作では(のちに)MMORPGと呼ばれるジャンル作品としては初めてグラフィックス表現が採用され,戦闘シーンに移るとフルスクリーンで戦いを楽しめた。
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このように,ダグロウ氏は北米ゲーム産業の黎明期において,さまざまなマイルストーン的作品に関わってきた。
そして現在は,自身の名を冠したDaglow Entertainmentの活動を再開しており,たった4人のメンバーからなるインディゲームを,2026年に正式にアナウンスする予定であるという。
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“ハングリーなアーティスト精神”と,ゲームビジネスという荒波
長らくゲーム業界に関わってきたダグロウ氏だが,現在の巨大化した「ゲーム産業の構造的課題」(※)については,55年の経験に基づいた非常に具体的で,かつ辛辣なアドバイスを送る。
※ゲーム業界関係者の間で大きな話題になっている「ゲーム産業の構造的課題」については,「奥谷海人のAccess Accepted第853回:静かなるゲーム産業の危機。業界アナリストによる渾身の白書を読み解く」で詳しく紹介している(参考URL)
会場には一例として,「すばらしいものを作るという目標の上で,限られたリソースでどう進むべきか?」と問いかけられる。「予算がない。時間がない。だからなんとか切り抜けよう」は問題外だ。
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現在は,大手スタジオがジュニア開発者を好条件で引き抜いていくような環境。そんな状況下で,小規模なスタジオが優秀な人材をとどめておく唯一の方法は,「ここでは常にすばらしいものを生み出そうとしている」という志を共有し続けることだと,ダグロウ氏は話す。
これまで,リーダー格として何度もリストラや倒産,さらには解雇宣告をする側になりながらもゲーム産業で生きてきた氏は,この結論に対して「このシンプルな真理を骨身に染みて理解するまでに,20年もかかりました」とジョーク交じりに語っていた。
また昨今の一例として,大企業を辞めたコアメンバーを中心に,少数精鋭で作り上げられた「Clair Obscur: Expedition 33」のような作品が世の中で評価されるのも,もはや大企業の中では実感できない“ハングリーなアーティスト精神”が開発チーム内で共有され,それを消費者も感じ取るからだと説明する。
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そんなダグロウ氏の講演の中でも興味深かったのが,彼の「ゲームビジネスは愛し返してくれない海」という表現だ。
ダグロウ氏によると,ゲームは「芸術」「工芸」,そして「ビジネス」という3つの要素で成り立っているが,芸術や工芸は,作り手が注いだ情熱が“満足感”や“自己表現”という形で結実する。
しかし一方で,ゲームビジネスはどれだけ愛を注いでも決して「作り手を愛し返してくれる」わけではない。どんなに良い作品を作ったと思っても,それを経済的利益に変えて返礼してくれるわけではない。
その点をダグロウ氏は「なぜならゲームビジネスは“感情”ではなく,“経済的原則”というドライな法則で動くから」と述べる。つまり,クリエイターが船乗りや船長であるならば,ゲームの芸術・工芸的側面は船,ゲームビジネスは海であって,どんなに腕の立つ船乗りが舵を取っても,大海原の状態まではコントロールできないというわけだ。
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それでもダグロウ氏は明るく,希望にあふれるメッセージで講演を締めくくる。「結論として,ビジネスがどうなろうと我々の知ったことではありません。海が我々の芸術や工芸力を奪うことはできないし,海がどんな状況であっても,我々は帆を揚げ,航海に挑戦するだけなのです」。
今年のGDCでも大きなトピックとなっている,不透明なゲーム業界の未来。しかしそこにも,かすかな灯火を見出す人はいるはず。
近日中に正式アナウンスされるという,ダグロウ氏の久々の新作発表を楽しみにしつつ,氏の今後の活躍を願うばかりだ。
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