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様々な層が交流できる施策でムーブメントを。初代ガンダムからジークアクス,そして50周年に向けたプロデュース[CEDEC+KYUSHU 2025]
長期シリーズで経験を積み,富野氏とこだま氏という正反対の才能から刺激を受ける
1979年放送のTVアニメ「機動戦士ガンダム」は,キャラクターたちが織り成す人間模様や兵器としてのロボット,双方に正義のある戦争といったドラマを描き,その影響は現在まで続いている。「リアルロボットアニメ」という新たなジャンルが成立,作中の機体を模型化した「ガンプラ」は今も人気を博し,ゲーム業界においても関連タイトルのゲーム化だけでなく,無数のオマージュが捧げられている。
ガンダムシリーズの歴史は長いがゆえに,ファンの年齢層も幅広いものとなった。このように長期展開するIPでは,新規層がなかなか入らなくなったり,新作で世代交代を図るも上手くいかなかったりしがちだ。しかし,ガンダムシリーズでは近年の新作「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」や「機動戦士ガンダム 水星の魔女」が世代を問わないヒットとなっている。特に前者においては「機動戦士ガンダム」のリアルタイム層と新規層がともにSNSで大きく盛り上がるという,長期IPでは珍しい光景が見られた。これらの作品のエグゼクティブプロデューサーである小形尚弘氏が,自身の来歴と近年のガンダムシリーズについて語るのが,本講演の主旨である。
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小形氏は就職超氷河期といわれる1997年にサンライズ入りし,「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」といった作品に制作進行として携わりキャリアをスタートさせた。
ガンダムシリーズの生みの親である富野由悠季氏とも「ブレンパワード」や「∀ガンダム」でともに仕事をしたが,この時の経験があるおかげで今もアニメ業界で働けている……と語る。
富野氏の仕事における特徴の一つが,職種を問わずいろいろな人に意見を求めることである。一般的なイメージとして,富野氏のようなクリエイターが意見を求める相手は同じクリエイターになりそうなものだ。しかし,富野氏は制作進行の小形氏たちに対しても,登場する機体の名前など意見を聞いたという。
制作進行のことを「クリエイターではなく,管理する仕事」と考えている小形氏は,富野氏の姿勢に驚かされ,「素人ながら,自分も作品を作っている感覚にしてもらえた」という。トップの柔軟な姿勢により,職種を問わず仕事に深く関与できたことが,モチベーションなどの点で大きなプラスがあったであろうことは想像に難くない。
アニメ制作現場のみならず,幅広い職業で参考にできる事例である。ちなみに,富野氏は厳しい仕事ぶりで有名だが「偉い人に対してはすごく怒るが,アニメ制作の要となる制作進行のスタッフには優しかった」とのこと。当初優しくしてもらった小形氏も,プロデューサーになってからはいろいろと怒られたのだという。
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こうして経験を積んだ小形氏は「犬夜叉」に1話から携わり,制作デスクに昇進した。そして「結界師」ではプロデューサーとなり,脚本の打ち合わせにも参加することになった。氏のような新人プロデューサーがベテランスタッフに意見するのは勇気が必要だったものの,50話分以上の脚本を磨き上げたことは大きな経験になったという。
「犬夜叉」も「結界師」も現在では珍しい長期シリーズであり,終わらない苦しさのようなものもあったが,アニメを作る本数の経験値を溜めることができたそうだ。
もう一つの大きな経験となったのが,「結界師」の監督である,こだま兼嗣氏との出会いである。これまでともに仕事をしてきた富野氏は次々と作風を変え,自身の作品にすらアンチテーゼを唱えるが,こだま氏は誰が見ても分かりやすいフォーマットを重視する……と両者は正反対だ。
仕事ぶりが違う両者からたくさんの経験を得られたという。なお,富野氏の“自身の作品にすらアンチテーゼを唱える”という姿勢は,小形氏が後に手掛けるガンダムシリーズにおいて非常に重要なものとなるので,頭の片隅に置いておいてほしい。
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その後,小形氏は「機動戦士ガンダムUC」での挑戦を成功させ,「Gのレコンギスタ」「機動戦士ガンダム サンダーボルト」といったガンダム作品のプロデューサーを歴任した。その中で「現場が人生をかけて作っているのだから,もっといろんな人に見てもらいたい」という思いを抱き,イベント上映など事業系の仕事も手掛けるエグゼクティブプロデューサーになった。
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新規層に向けたTVシリーズと,既存ファンに向けた劇場版
二段構えで展開する,現在のガンダムシリーズ
ガンダムシリーズの今後の課題は,50周年となる2029年に向けてのグローバル化であるという。これまでもシリーズは海外進出しており,アメリカで初めて放送されたのが「機動戦士ガンダム」ではなく「新機動戦記ガンダムW」であるのは有名だ。2001年のアメリカ同時多発テロ事件の影響から,戦争テーマの作品を放送しづらくなるなど逆風もあったものの,現在は配信によって日本での放送直後に全世界公開できる体制が整っている。
ガンダムシリーズの歴史の中では,「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」から富野氏以外のクリエイターも監督作品を作れるようになったこと,「機動戦士ガンダムSEED」のヒット,2009年に東京・お台場で「実物大ガンダム立像」が公開されたことがプラスの影響を及ぼしているという。
様々なクリエイターが作風の違う新作を作る中,「機動戦士ガンダムSEED」ではこれまで9:1だったファンの男女比が6:4となるほどに幅広い層を獲得,大人になった国内ファンや海外ファンがガンダム立像に訪れるようになった。小形氏はこうした状況について「少しずつ一般的になっていった。感覚が変わっていった」と表現した。
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近年のガンダムシリーズは,劇場版は既存のファンに向けたもの,TVシリーズは若者たちが自分のガンダムであると思える作品,という2段構えで展開中だ。TVシリーズについては,小形氏自身のような40〜50代のファンが「これは自分たちのガンダムじゃない」と語るくらい従来のイメージにとらわれないものが望ましい,という考えで制作を進めているという。
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その好例が女性主人公や学園ものといった,これまでのTVシリーズにはなかった新機軸を取り入れた「機動戦士ガンダム 水星の魔女」である。ファンからは「これはガンダムなのか」「ガンダムを壊している」という声もあったものの,小形氏は「富野氏自身が既に(それまでのフォーマットを壊すことを)やっている」と語る。
富野氏は「前にやったことを忘れようと心掛ける」「瞬発力で仕事をする人」(小形氏)であり,その感覚は週刊ペースで連載する漫画家に近いという。
筆者としてはなるほどと納得した言葉だった。「機動戦士ガンダム」の主人公アムロとライバルであるシャアが続編「機動戦士Zガンダム」では「情けない大人」として再登場,その続きである「機動戦士ガンダムZZ」でコメディ色が強くなるなど,確かに富野氏の仕事は前回の仕事を“壊す”(=それまでと違ったことをする)ことの繰り返しである。
ガンダムシリーズ以外でも,「戦闘メカ ザブングル」は西部劇+ロボットアニメ,「聖戦士ダンバイン」は異世界もの+ロボットアニメ……とバラエティ豊かであり,これは前回の仕事を“壊す”取り組みあってこそ。だから富野氏は長期にわたってオリジナルロボットアニメを作り続けることができたし,氏以外の監督が作るガンダムシリーズも様々な方向性を持てたというわけだ。
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続く「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」は新規層とコアな既存ファン(スライドでの表現はロイヤル層)の両方にアピールした。映像作品やガンプラなど様々な商品が展開するガンダムシリーズは情報統制が大変だが,情報統制によってリアルタイム視聴の楽しさが大きく増したのが「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」である。
同作は,かつて存在した「情報がない時代,毎週TVの前で放送を楽しみにし,視聴後は学校で感想を語り合う感覚」が大事にされたという。そのためにTVは全国放送をマストとし,同じ時間帯に日本中の人たちが視聴できる環境を整えた。同時に動画プラットフォームでサイマル配信を行い,皆が語り合えるようにしている。ここにSNSを絡めたのが「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」の視聴体験というわけだ。
富野氏の初代「機動戦士ガンダム」に深くかかわる作品であることを一切悟らせない事前の情報統制や,TV放送に先行して公開された劇場版「機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-」のネタバレ自粛要請など,様々な施策によって毎週放送後に大きく盛り上がったのは読者もご存じの通りだ。こうした仕掛けは,制作を担当したカラーやその前身ともいえるガイナックスのDNAであると小形氏は語った。
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現在のガンダムシリーズは映像とガンプラを両輪とし,安定的に売り上げを伸ばしているという。普通の作品では映像作品を作った後に商品を開発していたが,ガンダムは映像制作時にガンプラの開発も同時に進めるようになっており,さらに映像作品の新作がなくともガンプラのみで独自のストーリーを展開できることも大きいそうだ。
世界に視点を転じると,アジア圏でのガンダムシリーズは非常に好調に展開しており,今後は米レジェンダリーが制作するハリウッド実写映画版など,グローバルでの認知度アップに向けた取り組みを進めていくという。アメリカにも支社を作るなど,これからは海外へガンダムシリーズを広げていく段階である,と小形氏は語る。現在は富野氏の「機動戦士ガンダム」や様々なガンダムシリーズを見てファンになった人たちが作品作りに携わりやすい環境であるので,皆さんに参加していただけるとありがたい,と会場に向けて呼びかけた。
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ガンダムシリーズの一般化,そして劇場作品ではこれまでのファンが喜ぶもの,TVシリーズでは新規層を取り込めるものといった二段構えの展開など,近年の戦略が当事者によって改めて言語化されたという意味でも興味深い講演だ。ファンであれば「最近のガンダムって,何か変わったな」と感じていたと思うが,もちろんそれは小形氏のような仕掛け人の尽力あってのことだったのである。
ここからは筆者の個人的な感想である。長期展開するIPはどうしても新規層が入りにくくなるが,既存ファンへのサービスも欠かしてはいけない。両者のバランスは難しく,世代交代を図って急激に変化させた新作によって,既存ファンが離れてしまう例も散見される。
ガンダムシリーズにおいて興味深いのは,世代“交代”や“新陳代謝”ではなく,既存層に向けた劇場作品と,新規層へのTVシリーズという二段構えにより,異なる世代の“共存”を図っていることだ。
例えば2022年は「機動戦士ガンダム 水星の魔女」がこれまでのイメージにとらわれない設定で話題となったが,同時に既存ファンに向けて「機動戦士ガンダム」の名エピソードを膨らませた「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」も劇場で上映している。最も新しいガンダムと,最もコアなガンダムを同じ年に展開しているわけで,どちらの世代も“共存”できる。実に戦略的だ。
新規層と既存層の両方に供給があり,それぞれのフィールドで楽しめていた2022年から,2つの層が交わる意味での“共存”へ進んだのが,2025年の「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」であると感じられる。
同作は新規層に向けた新しいガンダムでありつつ,実は「機動戦士ガンダム」に深いかかわりを持つ作品だ。そのため,「機動戦士ガンダム」リアルタイム世代の解説で新規層が理解を深め,新規層の新鮮な反応からリアルタイム世代が学んでシリーズの魅力について言語化をさらに進めるといった,世代を越えた交流が見られた。
それぞれの世代が別のフィールドで楽しむ“共存”から,交わる“共存”への変化は,段階を踏んだ計画のようにも感じられる。本当に計画なのか,結果的にそうなったのかは不明だが,どの世代も幸せになれているのは,IP展開に戦略的な視点が存在するからこそであろう。
情報統制について称賛の声が多く聞かれたのも印象深い出来事だ。ともすれば情報統制は“自分たちは物語の先を早く知りたいのに,これを阻む”マイナスとして捉えられがちだ。しかし,「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」においては,情報統制のおかげで,餓えたように最新話の放送を待つことができた。
これはアニメの情報が月1回発売の雑誌に限定されていたあの頃の感覚であり,幸せな体験であった。そうした意味で近年のガンダムシリーズは,リアルタイム参加が最も楽しいイベント的な側面が強くなっているとも感じられる。配信でいつでも見られるけれど,リアルタイムで語るのはさらに楽しいというわけで,これはTV放送と配信の“共存”ともいえるだろう。
なお,「機動戦士ガンダム 水星の魔女」と「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」どちらも,「機動戦士ガンダム」への深いリスペクトがあった上で,新しく面白い作品になっていたからこそ“共存”が起こったことは強調しておきたい。
中でも先行劇場版「機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-」鑑賞後の「信じられないものを見てしまった」という感覚は忘れられない。正史ではいったん退いたシャアが最善の一手を打って高速で世界を変えていく様は,ゲームのすべてを理解してから早解きを競うRTA競技のよう。とても懐かしいものととても新しいものが同時に存在していたわけで,牽強付会するならこれも“共存”である。
長くなってしまったが,本講演ではIPの長期展開において戦略的な視点と問題意識がいかに大切であるか,クリエイターとファン,世代の違うファン,TV放送と配信など,様々な共存の重要性を再認識できたと感じられた。現在のガンダムシリーズとファンは幸せな関係を築いており,戦略的な視点によってこうした蜜月が続くことを願いたい。
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