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話題の協力型登山ゲーム「PEAK」はどう作られたのか。人と遊ぶゲームを,人と向き合って作った1か月[GDC 2026]
登壇したのは,Aggro CrabのStudio Headであり,「PEAK」ではジェネラリストとして開発に加わったNick Kaman氏だ。
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「PEAK」は,無人島に取り残されたスカウトたちが山頂を目指す協力型のクライミングゲームだ。
Aggro CrabとスウェーデンのLandfall Gamesによる共同開発タイトルであり,Aggro Crabから3人,Landfallから4人という小規模なチームで作られた。しかも,その中核部分は韓国での1か月のゲームジャムの中で一気に形になったという。
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Aggro Crabの過去作「Another Crab’s Treasure」が約33か月をかけて作られたのに対し,「PEAK」は約4か月半でローンチまでこぎつけ,売れ行きは「Another Crab’s Treasure」を大きく上回った。
Steamレビュー数を売れ行きの目安として見ても,制作期間や人数に対する成果は桁違いで,Kaman氏自身も「自分でもなぜここまでヒットしたか分からない」「とにかく何が起きたのか話さずにいられなかった」と振り返る。
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その背景には,「Another Crab’s Treasure」開発後の強い燃え尽きがあった。スタジオにとっても大きな作品であり,長い期間をかけて完成させた自信作ではあったが,そのぶん疲弊も大きかったという。
厳格な制作パイプラインや綿密な進行管理は,プロジェクトを成立させるうえで必要だった一方,現場にかなりの負荷をかけていたようだ。しかもゲームを作り上げて成功と呼べる結果は残したものの,インディー開発の現実として,それだけでスタジオの将来が安泰になるわけではなかった。
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そんな折,Kaman氏はGDC 2024の場でLandfall GamesのWilhelm Nylund氏から「Content Warning」のプロトタイプを見せられる。
それは6週間で韓国のゲームジャム中に作られた作品で,しかも非常に面白かった。長期開発で疲弊していたKaman氏にとって,短期間であれほどの鮮烈な作品が生まれることは,衝撃であり,ある種の嫉妬すら覚える出来事だったという。
その後,両者の間で「次は一緒に韓国へ行ってゲームを作ろう」という話が持ち上がり,「PEAK」の原型が生まれていく。
当初の企画は,「ボーイスカウト風のキャラクターたちが島に取り残され,山頂の救助地点を目指す」という非常にシンプルなものだった。いわゆる“friendslop”と呼ばれる,気軽にプレイできて友達と遊ぶこと自体が楽しさになるタイプのゲームを目指していたという。
ただ,準備段階は順風満帆ではなかった。韓国へ向かう前のDiscord上でのやり取りでは,両スタジオ間のコミュニケーションはあまりうまくいっていなかったそうだ。アイデアの方向性もまとまりきらず,「このまま現地に行っても,1か月間ぎくしゃくしたまま過ごすことになるのではないか」という不安もあったとKaman氏は明かす。
またAggro Crabは「Another Crab’s Treasure」の燃え尽きもあって,ゲーム制作に打ち込めず,結果次作のキャンセルも発生するなど,スタジオとしてもかなり状況は良くなかったそうだ。
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それでも2025年2月,チームは韓国へ向かった。場所はソウルの弘大エリア。2月の韓国は寒く,外を出歩いて観光するより,部屋にこもってゲームを作るのに向いていたという。
Airbnbで借りた家のリビングを作業場に変え,IKEAで机や椅子を買い揃えて,その場で開発を始める。対面で会って,みんなで楽しく時間を過ごすことで,前向きに制作に取り組む雰囲気も戻ってきた。
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転機が訪れたのは現地入りから数日後だった。クライミングの仕組みに,スタミナバーと各種デバフをまとめて乗せる設計が入った瞬間,ゲームの骨格が一気に見えたという。
空腹やケガ,所持重量といった状態異常がすべて同じバーを圧迫し,その限られたスタミナで崖を登っていく。この仕組みができたことで,「壁を登るゲーム」と「壁から落ちそうになるゲーム」がはっきり結びつき,あらゆるアイデアの判断基準が生まれた。
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現地7日目には,すでにマルチプレイ,ラグドール物理演算,ロープ,クライミングといったコア要素を備えたプロトタイプが動いていたという。
Kaman氏はこの時点で,「もうこのまま1か月これを作り続ければいい」と感じたと語る。山とスタミナバーという核が明確だったため,「壁に関わるもの」か「スタミナバーに関わるもの」であれば,ほとんどすべてのアイデアが有効だった。長い議論をせずとも,それぞれが独立して考え,実装できる状態になっていたわけだ。
開発期間中の生活も象徴的だった。朝起きてコーヒーを飲み,仕事をして,昼食時にも「PEAK」の話をし,夜はソジュを飲みながらまた「PEAK」の話をする。そしてそのあとはテストプレイをする。観光はほとんどせず,毎日長時間作業を続けていたが,それでもKaman氏は「人生でいちばん楽しくゲームを作っていた」と振り返る。
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そんな開発の日々を過ごして出てきたのが「text is evil」という言葉だった。
Discordのようなテキスト中心のコミュニケーションでは,発言が必要以上にネガティブに受け取られてしまうことがある。一方で対面だと,声色や表情,その場の空気も含めて伝わるため,議論が速く,衝突も解けやすい。結果として,アイデアが自然に流れ,実装のスピードも上がったという。
そして,韓国滞在終盤となる28日目には,ほぼ現在の「PEAK」に近いコア体験ができあがっていた。
もちろん,その後もメニューやUI,バッジなどの追加作業はあったが,根幹の楽しさはあの1か月でほぼ固まっていたという。Discordでの雑なプロトタイピング開始から,ローンチまで約4か月半というスピード感だ。
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短期間で作られたからといって,中身まで粗いわけではない。Kaman氏が繰り返し強調したのは,「PEAK」がまず“social first”なゲームとして設計されていたことだ。プレイヤーが友達と一緒に遊ぶ体験こそが最優先であり,その感情が中心に据えられていた。
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たとえば,ブーストしたり,引っ張り上げたり,寒さをしのぐために寄り添ったりといった行動は,すべてプレイヤー同士の物理的な協力を促すためのものだ。
リュックの中のアイテムを自分では取り出せず,ほかのプレイヤーに背中から取ってもらう必要があるという仕様も,単なる不便さではなく,会話と相互作用を生むための“摩擦”として設計されている。
ゲーム内のガイドブックにも,この思想は現れている。最初のページに書かれているルール0は「困っている仲間を見捨てるな」というものだ。
このガイドブック自体,1人しか読めず,その内容をほかの仲間に口頭で伝えなければならない。つまりシステムだけでなく,ルールの共有すらプレイヤー同士の会話に変えているわけだ。
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その“会話の促進”という意味では,近接ボイスチャットも大きな役割を果たしている。
1人称視点でキャラクターになりきり,距離によって声が反響し,視線や口の動きまで反映される。
さらに,死亡後もゴーストとして会話に参加し続けられるため,脱落したプレイヤーも上から状況を見ながら仲間を助けられる。死亡すると会話から切り離される協力ゲームも多いが,「PEAK」ではそこでも友情とやり取りを維持する方針が貫かれていた。
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また,「PEAK」の日替わりマップも印象的な仕組みとして紹介された。
これは当初,ランタイム生成がうまくできなかったという技術的制約から生まれたものだった。
マップはUnityエディタ上でまとめて焼き込み,2週間ごとにパッチで更新する必要がある。だが結果として,これがプレイヤーの共有体験を生み出す重要な要素になった。
同じ日に同じ山を何度も挑戦できるため,「今日の山はひどい」「このルートが楽だった」といった会話がコミュニティで自然に生まれる。技術的な制約が,結果的に作品固有の文化を育てる仕組みへ変わったわけだ。
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「とにかく面白ければ入れる」という姿勢も,このゲームの性格をよく表している。
講演中,Kaman氏はマスコット的存在の“Bing Bong”についても触れていた。ゲームシステム上,特に大きな意味を持つ存在ではないが,開発チームを笑わせ,SNS投稿でも強い反応を呼び,結果として作品のIP的価値まで持つようになったという。
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そしてKaman氏が「このゲームの成功に最も効いた判断」として半ば冗談交じりに挙げたのが,タイトルを「PEAK」にしたことだった。短く,覚えやすく,意味も強い。この名前自体がかなり大きな武器になったと振り返る。
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ただし,Kaman氏はこの手法がそのまま誰にでも再現できるものだとは語っていない。
Landfallはもともとゲームジャム的な開発に非常に長けたスタジオであり,アクティブ・ラグドールやネットワーク物理といった技術的な基盤も整っていた。
チーム全員が幅広い知識や経験を持つジェネラリストとして動けたことも大きい。つまり「1か月で作った」という結果だけを切り取って真似しようとしても,同じことにはならないというわけだ。
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また,いわゆる“カウボーイ開発”の副作用についても率直に語られた。
Landfall側はタスク管理ソフトすら嫌い,git commitのメッセージも極端に雑で,定例ミーティングもほとんどやらない。速さのために徹底的に摩擦を減らした結果,たしかに開発は前に進むが,その代わりコードはかなりスパゲティ化し,リリース後の保守やアップデートは難しくなる。
「PEAK」はまさにその状態であり,今まさに“あとで野菜を食べている”段階だと,Kaman氏は自虐気味に表現していた。
マーケティング面でも,すべてのスタジオが同じようにできるわけではない。
Aggro CrabとLandfallには強いコミュニティ運営の知見があり,TikTokなどでの発信だけで火種を作れる土壌があった。
だからこそ,ローンチ4日前のトレイラー公開でも成立したし,大規模な事前キャンペーンやレビュー施策,コンソール展開の準備などを後回しにできた。
こうした基盤がなければ,短期間開発そのものはできても,同じような広がり方は難しいだろう。
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さらに,そもそもどんなゲームでも短期開発に向くわけではない。
膨大な専用コンテンツを必要とするリニアな作品には向かないし,「PEAK」のような“友達とのやり取りそのものがコンテンツになるゲーム”だからこそ,短期間でも成立した面は大きい。
なおKaman氏は“friendslop”と呼ぶことに軽蔑的な意味はないと強調し,友達と一緒に遊ぶこと自体に価値があり,そこには確かなゲームデザインの力もあると考えていると話した。
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講演の最後にKaman氏は,「PEAK」の成功がAggro Crabの働き方そのものを変えたと語った。
スタジオ内では,オフィスでの偶発的な会話を増やすために水曜のランチ制度を設け,デスク配置もその場で画面を見せ合える形に変えた。
スケジュール済みの会議を減らし,必要に応じてその場で話す形へ寄せ,メンバーが独立して動ける余地も増やした。さらに隔週で,メインプロジェクトとは無関係なことを自由に試す日も設けているという。
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長い時間をかけて厳密なパイプラインの中でゲームを作ることだけが,唯一の正解ではない。
短期間でも,正しい制約と信頼,そして楽しく作れる空気があれば,それはスタジオを救う作品になり得る。「PEAK」の講演は,ゲーム開発に限らず,小規模チームの仕事における働き方や創造性のあり方を見直す話でもあった。
Kaman氏は最後に,「ゲームの作り方はこうあるべきだ,という業界の常識に縛られすぎないでほしい」と語りかけた。
いまの自分たちに合ったやり方を探し,そこに自由と楽しさを取り戻すことができれば,思いもよらない結果につながることもある。「Putting the "Friends" in Friendslop: The Story of 'PEAK'」は,そのことを非常に強く示したセッションだった。
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