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「VRChat」の日本のクリエイターは,ほかのすべての国を足した数より多い!? 公式が日本でビジネス向けオフラインイベントを初開催
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VRChatの運営元であるVRChat Inc.が,公式オフラインイベントを日本で主催するのは,今回が初めてのこと。イベント名や開催日が平日であることを見れば分かるとおり,一般のプレイヤーに向けたものではなく,ビジネス向けのイベントだ。
一般向けには12月20・21日に「VketReal 2025 Winter」が控えていることもあり,あえて今回のイベントに足を運んだ一般プレイヤーは,だいぶ限られるかと思う。
ビジネス向けとはいえ,VRChat公式による基調講演が行われるなど,なかなかない機会だったので,その模様をお伝えしよう。
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VRChatの日本のクリエイターは,ほかのすべての国を足した数より多い
基調講演に登壇したのは,VRChat Business Development Japanの北庄司英雄氏,そしてアメリカから来日したVice President of ProductとDesign & Productionを務めるCasey Wilms氏,Vice President of Operations & Legalを務めるJeremy Muhlfelder氏の3名だ。
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VRChatに詳しくない人向けにざっくり説明すると,VRChatはVRを用いた没入型ソーシャルプラットフォームである。プレイヤーは,VR機器を通じて(デスクトップやスマホなど,VRでない環境でも可能だが)仮想空間内でさまざまなワールドに参加し,人とコミュニケーションが取れる。
設立は2014年であり,一番の市場はアメリカ。日本は2番目となる。主なプレイヤー層は16〜34歳だという。
同時接続数は2021年時点で4万。ここから2023年に9万2000と2年で倍以上に増えている。2025年は年明けのピーク時が13万6000だったそうだ。
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北庄司氏は,VRChatを「IEM(Immersiv,Experience,Marketing)が実現できる場所」と定義する。没入したうえで,さらにそれを体験できるソーシャルメディアというのがVRChatであり,これはビジネスとして展開するうえでの強みでもあるという。
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続いてWilms氏が,「The Third Place(第三の場所)」という観点で,VRChatを語った。Third Placeというのは,家(第一の場所),職場(第二の場所)とはべつの,居心地の良い場所のことだ。
Wilms氏の例で言えば,子供と見に行く野球場や,趣味の映画を見られる映画館などである。
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そしてもちろん,人とつながり,リラックスできる場であるVRChatも,Third Placeとして機能する。
「なぜ人はVRChatに戻ってくるのか(継続してプレイするのか)」。この答えがThird Placeであるからであり,これをとくに実感したのが,日本のプレイヤーを見てのことだという。
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2024年夏頃から,著名配信者の影響でたくさんの日本人がVRChatを始めたが,そのプレイヤーを分析したところ,ほかの国より圧倒的に継続率が高かったそうだ。
この時期に始めた人は,配信を見ているので,VRChatがどのようなゲームか理解したうえで始めている。そのため,参加するワールドの数や,人との交流,ボイスチャットで話す回数などが多かった。そして,翌日もまた人と一緒に過ごすために戻ってくる。
つまり,多くの初心者にとってVRChatがThird Placeとなったため,プレイを続けてくれたというわけだ。
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こうした分析結果から,Wilms氏のチームは,プレイヤーがThird Placeを見つけやすくするための機能強化が必要だという方針に至った。具体的な例としては,開催中/これから始まるイベントを見つけやすくする「Live Now」の追加などが挙げられる。
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そして,VRChatをプレイヤーのためだけでなく,ビジネスパートナーのための場としても発展させていくというのが,Wilms氏たちのミッションでもある。プレイヤーとさまざまな会社やコンテンツをつなげる場として,VRChatを成長させていきたいとした。
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つづいてMuhlfelder氏が,VRChatの日本のコミュニティについて説明した。
氏によれば,日本は長きにわたり,VRChatにおいて最も創造的,情熱的,先進的なコミュニティの1つであるという。実際,VRChat初期のパートナーシップにおいて,ワールドやアバター,イベントへの需要が高まるなか,とくにコラボレーションが多い日本から事業開発機能を整備していくことになった。
このあたりは,現在開催中のバーチャルマーケットなどを見れば,プレイヤー視点でもなんとなく実感できるところではないだろうか。
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また,日本は世界で最も高度で,成功しているコミュニティクリエイターが多く存在する場所と認識しているそうだ。VRChatにおける日本のクリエイター数は,ほかのすべての国を足した数よりも多いとのこと。
そのため,今後はクリエイターがさらに活躍できるよう,より良いマネタイズ手段や発見性向上のための機能などで,支援していきたいとMuhlfelder氏は話していた。
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今回のイベントのメインであるビジネスパートーナーに対しては,VRChatがB2B2C(Business to Business to Consumer)戦略が可能な場であることをアピール。VRChatプレイヤーに向けて,新規ユーザーの獲得につながるコンテンツやIPを提供できる。
VRChatが没入型ソーシャルプラットフォームであることを生かせば,身体性やコミュニティ,存在感を持たせたコンテンツを展開可能であり,ファンはただ見るだけでなく,そのなかに入り込み,体験できるということが,大きな強みとなる。
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企業コラボといえば,これまではワールドなどがメインだったが,現在はショップ機能が追加されているので,今後はそちらでの展開も考えられそうだ。
ショップに関しては,プレイヤーとしても気になる言及がいくつかあり,まず,すべての新しいコンテンツタイプは,最初はショップでリリースされ,その後UGC(ユーザー生成コンテンツ)へ展開されるかが議論される流れになっているという。
対象は,スポーン可能アイテム,ステッカー,絵文字,今後追加される新しいさまざまなコンテンツタイプなど。現在のショップでは,ポータルのカスタマイズなどここでしか入手できないものが販売されているが,そうした“BOOTHにないもの”は今後も拡充されていきそうだ。
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また,さまざまな企業と連携し,アバター用の衣装や帽子,その他カスタマイズ用アクセサリーなどを制作していくとしているため,今後はショップで買い物する機会も増えていくかもしれない。
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最後にMuhlfelder氏は,「日本がこれからも私達の未来の“中心”であり続けるよう,強くコミットしています」とコメント。今回は日本での初公式イベントとなったが,日本コミュニティについて予想以上に言及され,VRChat Inc.としても重要視してくれていることが伝わる内容となっていた。
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なぜ百貨店がアバターを販売?
さて,今回はビジネス向けのイベントということで,これまでVRChatでさまざまな展開をしてきた企業による講演も行われた。どのような展開が行われてきたのか,具体例もあったほうがイメージが湧きやすいと思うので,ここでは大丸松坂屋百貨店の講演「老舗百貨店が挑む、VRChatでの『伝統芸能』革命」を紹介しておこう。
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大丸松坂屋百貨店といえば,近畿地方を地盤とする大丸,東海地方を地盤とする松坂屋,2つの老舗百貨店を展開する企業だ。VRChatプレイヤーであれば,「なぜかアバター出してる百貨店」と認識している人も多いだろう。
そう,大丸松坂屋百貨店はVRChat用のアバターを販売しており,今回はなぜそういった取り組みを行っているのかが説明された。
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なぜ百貨店がメタバース事業を? の答えは,2020年の新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下まで遡る。当時は,百貨店も店舗休業するしかない事態となり,客との接点を100%店舗で行っていた大丸や松坂屋にとって,手も足も出ない状況が続いてしまった。
これを受けて,営業時間という時間の制約,店舗という場所の制約を克服する必要性が生じ,オンラインビジネスに取り組むことになったという。
この新たな取り組みにおいて,岡﨑氏の所属するDX推進部では,7つの事業が展開された。そのうちの1つ,新世代のクリエイタービジネスとして展開されたのが,メタバース事業だったのである。
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ここで疑問に浮かぶのが「百貨店とメタバース,関係ないよね?」だと思うのだが,メタバース事業を選んだ理由は大きく2つある。
1つは,老舗百貨店として,400年以上にわたり,リアルの空間において生活を豊かにする提案を行ってきたということ。いわば空間を使ったビジネスのノウハウに長けた企業であり,これをメタバースで広がる「新たな空間」に活用していこうというわけだ。
もう1つは,1953年に大丸が日本で初めて海外デザイナーと提携してファッションショーを開催したように,未知の可能性に挑戦するクリエイターたちと,新世代のクリエイターエコノミーの構築を目指そうと考え,自社アバターを販売することとなった。
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単純に「自社アバター販売」というと,適当にコラボした一発ネタをイメージする人もいるかもしれないが,VRChatプレイヤーならご存じのとおり,大丸松坂屋百貨店は本気で展開している。2023年10月から2024年3月にかけて,正装をコンセプトにした12体ものアバターを制作・販売したのだ。
ただアバターを制作するだけでなく,資料館に残された松坂屋コレクションの貴重な着物などをもとに,アバター用の衣装を制作するなど,老舗百貨店にしかできない取り組みを行っているのも,大きな特徴となる。
現実ではとても着られない……どころか,紫外線対策などで外に出せるのも数日といった着物であっても,VRChat用衣装なら着放題というわけだ。
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大丸松坂屋百貨店は,自社でのアバター・衣装販売以外に,「場」や「体験」を作るノウハウを生かして,事業者や自治体に向けたメタバースを活用したプロモーション支援も行っている。
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その好事例が,島根県江津市と協力した,石見地方の伝統芸能である「石見神楽」のメタバース化だ。江津市のプロモーションとして,演目のメタバース可や,演目で使用される衣装の3D化,万博での体験会実施などを行っている。
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演目は,石見神楽の「大蛇」をダイジェストにしたものだが,その動きは島根県の公民館を臨時のモーションキャプチャスタジオにして,実際に何度も演じてもらってキャプチャしているそうで,本格的なものに仕上がっている。
現実での演目と違って,気軽に見られたり,どんな場所や方向からでも楽しめたりといった利点があるだけでなく,デジタルアーカイブとして保存も可能だ。こうした伝統芸能が抱える課題を,VRChatでは解決できるとして,相性の良さをアピールしていた。
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大丸松坂屋百貨店としては,地域産業を若年層や海外とつなぐべく,VRChatでの展開を進めていくとのことだ。
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企業ブースはビジネス向け
なんだけど,最新HMDを体験してきた
今回のイベントでは,企業ブースの出展も行われた。とはいえ,小規模なものであり,内容も「こういった事業を展開しています」的なビジネス向けのものが中心だ。
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プレイヤー目線では,最新のVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)の展示が見どころだろうか。まだ発売されていない,シャープの「Xrostella VR1」が体験できたので,試してみた。
Xrostella VR1は,公称本体重量が約198gと軽量で,さらに眼鏡型の形状を採用しているのも特徴のHMDだ。本体やコントローラの位置を,ゴーグルに内蔵したカメラで検出するインサイドアウト方式を採用している。
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体験した感想としては,長所と短所がはっきりしたHMDだと思う。長所は,なんといっても軽いこと。長時間装着しがちなVRChatにとって,軽さは正義だ。
そして,眼鏡型なので着脱が楽なのもいい。テンプル(つる)で本体を支えるため,ここの圧はちょっと強め。また,しっかり装着できるよう,後頭部をバンドで留めることもできる。
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短所は,真上方向へのトラッキングが苦手なこと。2点のカメラで動きを検出するため,明確に苦手な動きがあり,万歳などは角度によってはうまく動かなかった。
また,眼鏡型であるため,激しい動きには明らかに向いていない。「Beat Saber」などをプレイするのは,だいぶ厳しいだろう。
これを踏まえると,Xrostella VR1はVR初心者に向けたものではなく,ある程度慣れた人がより上位のHMDに乗り換えるとして,自分のプレイスタイルに合うなら有力候補といった立ち位置になるのではないかと思う。
というか,割とVRChatter狙い撃ちなのではないか。確かに弱点はあるのだが,それが困らない使い方,例えば「割と座ってしゃべってる時間長いし,激しい動きしないなぁ」とか,「V睡するのに眼鏡型だと楽だなぁ」とか,本製品の軽さや形状を生かせる人の場合,ほかの製品にはない魅力がある。
とくに,眼鏡型の形状は,クセは強くても便利な場面が多そうな印象を受けた。
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- 編集部:御月亜希
(C)2025 VRChat Inc.
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