インタビュー
「アストロシティミニ」発売目前! Hiro師匠&光吉猛修氏に聞く,FM音源に彩られた1980〜1990年代セガ・サウンドの裏側
進化するPCMと役目を終える内蔵音源。環境が激変した1990年代
4Gamer:
今お話に出たサウンドドライバですが,「レンタヒーロー」の後,師匠はしばらくそちらの開発に就いていたとか。作曲から開発へシフトしたときの心境はいかがでしたか。
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「プログラムってやっぱり面白いなあ」と。
メガドライブのサウンドドライバは,もともとCS(コンシューマゲーム開発チーム)のほうで作られた“セガドライブ”というものがあったんです。でも,その性能があまり良くなかった。メガドライブって,ハードウェアを見る限りでは,ドライバ次第ですごい音を出せるシステムなんですよ。
なので,自分でドライバを書いて,そしたらプログラムが面白くなってきて,System 24とかST-Vとか,System 16やSystem 32もやったかな。それでMODEL1,2,3(※22)くらいまでドライバとツールをやっていましたね。それはそれで,すごく楽しかったです。
※22 いずれもアーケード基板。使用タイトルの一例は,System 24が「ゲイングランド」,System 16(B)が「ゴールデンアックス」,System 32が「ラッドモビール」,MODEL1が「バーチャファイター」,ST-Vが「ダイナマイト刑事」,MODEL2が「デイトナUSA」,MODEL3が「電脳戦機バーチャロン オラトリオ タングラム」(M.S.B.S.Ver.5.2 / 5.4)。
4Gamer:
そのころもポツポツと作曲されていたようですが,どのような形で携わられていたのでしょうか。
Hiro師匠:
自分で作ったドライバの負荷テストをするため,通常ではあり得ないくらいの音が鳴る曲を作ったりしていましたね。当時はストリーム方式と言って,メインCPUでサウンドCPUに波形を転送しながら音を出すというやり方だったのですが,どこまでそれに耐えられるかを試すために作ったのが「HANG-ON 愛のテーマ」です。
4Gamer:
「クールライダース」の楽曲ですね。そのころはエレメカの「スピードバスケット」やクレーンの「ドリームパレス」など,メカトロ系の楽曲を手がけられていたそうですが,それもドライバ開発の中で可能なサウンド制作ということだったのでしょうか。
Hiro師匠:
そういうマシンでもドライバと曲を作りましたね。でも,それは「ドライバを作ったから」というより,たぶん「曲を作りたくなったからやった」のだと思います。やりたいと言えばやらせてくれる,けっこう自由な環境でした(笑)。
光吉氏:
エレメカがやりたかったと。
Hiro師匠:
普通にビデオゲームを作っていると,ボタンを押すとリアルなボールが飛んで,それが実際にゴールして音が鳴る……みたいなことって無いじゃない。そういう物理的なゲームって,なんかワクワクするでしょ。
4Gamer:
開発としては最後に担当されたのがツールのSoundFactoryだったそうですね。これはどういったものだったのでしょうか。
光吉氏:
デベロッパ用の開発支援ツールですよね。
Hiro師匠:
仕様としては,プログラムの経験が無くてもMIDIさえ扱えれば曲とSEの組み込みからコントロールまで,全部できるというものでした。
4Gamer:
その後,聞くところでは「AM2研に残ってシステムをやるか,他部署で曲をやるか」の選択を迫られたとか。
Hiro師匠:
ちょっと違ってて,AM2研ではなくCRIですね。当時,サウンドのツールやドライバを作っている部署が独立してCRIに移籍することになったので,それについていくかどうかという話でした。
当時,そこの長をやっていたんですよ。皆と一緒に社外に行くか,社内に残って普通にサウンドをやるか……という岐路にあたって,音楽を作るほうを選択しました。ツール開発もすごくやりたかったんですけどね。そうなるとセガを辞めることになるわけで。
光吉氏:
出向みたいなやり方もあったかもしれないですけど,そのときはそんな感じでしたね。
Hiro師匠:
セガを辞めるかどうかというより,ドライバ開発とかプログラミングとかだけになって,曲を作れなくなってしまうので,だったら音楽を取ろうと。繋がりは今でもあるので,要望のやり取りなどはいろいろとしています。
4Gamer:
音楽とプログラムの楽しさはまた別物だと思うのですが,プログラムに楽しさを感じるのはどのような部分でしょうか。
Hiro師匠:
自分の思ったとおりに動くところですかね。頭の中で考えた「こうするとこうなるはず」というのを実際に組んでみて,動いた時が一番楽しいです。
4Gamer:
「ピタゴラ装置」的な気持ちよさがありますよね。
Hiro師匠:
あと,当時はバグが出るのがすごく楽しかったんです。バグって,出ないように作っても出てしまうものじゃないですか。すぐ直せるバグは良いんですけど,1日に1回だけ何かの拍子におかしくなるバグが出てきたりする。そういうバグが出るとワクワクしました。
光吉氏:
非常にマニアックな話になってきましたね(笑)。
Hiro師匠:
当時のイメージで言えば,「プログラムの中に犯人がいる」なんですよ。最初は「地球のどこかにいる」というところから犯人を追い詰めて,日本のどこか,東京のどこか……とだんだん狭めていって,「このビルの,この部屋の中に違いない!」というところまで行くと,もう勝ちですよね。デバッグをゲーム的に楽しんでいました。
光吉氏:
そういうゲームを作ればいいんじゃないですか?
Hiro師匠:
いや,実際にゲーム化したらつまらないと思う(笑)。
4Gamer:
私もprintf()でパラメータを追ってバグを探したことがあるので,何となく分かります。
Hiro師匠:
そうそう。RAMの中身を表示して,16進数のデータが書き込まれていくのを見るのは楽しかったですよ。ありえない数値が書かれたのを見つけたときの「これか!」というのが。そこから「なぜそういう動きをしたのか」を探すのも,また楽しいんです。
4Gamer:
話が(2000年ごろまで)飛んでしまったので,時系列を1990年代序盤まで巻き戻します。実際のアストロシティが発売されたのが1993年ですが,筐体デザインに関してサウンドチームからのオーダーはあったのでしょうか。
Hiro師匠:
それが,まったく記憶に無い。スピーカーは何が載るとか,どこに載るとか,何も関わってない。もちろんサウンドチームの誰かはやってると思うけど。
光吉氏:
僕も記憶に無いんです。「いつの間にか出来てた」的な。僕がアストロシティを現場で見たのって,AM2研になって「バーチャファイター」を作っているときが初めてだったんですよ。なので八研時代は全然知らないですね。
4Gamer:
では,サウンドの観点からだと,どういう印象を持たれましたか。
光吉氏:
スピーカーがしっかりプレイヤーの耳の位置に向けて着けられてるのは良いですね。コンパネとかに付けられちゃったら大変ですから(笑)。
Hiro師匠:
昔の筐体だと,下の方にスピーカーが付いてるイメージがあるね(※23)。それがちゃんと上に付いているのは,よくやったなと思います。音自体もそんなに悪くないですし。
※23 セガの筐体で上部にスピーカーが付いたのは,アストロシティの先代にあたるエアロシティから。
4Gamer:
「NEWアストロシティ」など,そのマイナーアップデート版になると,スピーカーが出っ張ってプレイヤーの方を向くことで,サウンドの指向性が強化されています。
Hiro師匠:
我々ではないですが,どこかのサウンド担当からのオーダーでしょうね。スピーカーをプレイヤーに向けたり近付けたりというのはすごく大事なことなので,今でもやっています。
4Gamer:
「maimai」だったら上部スピーカーから音を落とすように鳴らすとか,「CHUNITHM」だと上部スピーカーをツイーター(高音用スピーカー)にしたりとかですね。
Hiro師匠:
そういうのを最初にやったのは「アウトラン」で,「とにかくスピーカーは耳の近くに」とお願いしました。
4Gamer:
そういえば,「スピーカーが動く」という案が「アフターバーナー」であったとか。
Hiro師匠:
案というか,裕さんが言い出したんです。3D音響をやりたかったそうなのですが,当時の技術で音を動かすのは難しかったので,それならスピーカーを動かせと。ミサイルが飛ぶのと一緒にスピーカーを動かすんです。
4Gamer:
力技ですね……。
光吉氏:
でもやらなかったんですよね?
Hiro師匠:
スピーカーを物理的にモーターで動かすんだよ? 設計としてあり得ないでしょ(笑)。
光吉氏:
めっちゃ“セガっぽい”じゃないですか。僕は大好きですよ。そういうのが大事かなって(笑)。
Hiro師匠:
まあ大事だね。でもミサイルが飛んだ後に,スピーカーを戻さなきゃいけないんだよ。それならまだ,スピーカーを4つ付けた方がいい。
4Gamer:
しかも壊れやすくて,ゲームセンターの店員が苦労しそうです。
Hiro師匠:
壊れますね。真っ先に壊れます。
4Gamer:
また余談に流れましたが,1993年と言えば光吉さんはB-univ(※24)としての活動がスタートしますよね。それに至ったエピソードをお聞かせください。
※24 S.S.T.BAND解散後に設立された,光吉氏と並木晃一氏によるユニット。東芝EMIのユーメックスレーベルから「VIRTUA RACING & OUTRUNNERS」や「Virtua Fighter "SEGA SATURN" IMAGE by B-univ NEO RISING」などをリリースした。
光吉氏:
正直なところ多くは語れないんですけど,「バーチャファイター」が出たりして,セガ的には「3Dポリゴンでやっていくぞ」という方向転換のタイミングだったので,そういう勢いを借りて動いたところもありました。自分自身もS.S.T.BANDに引き続きバンド活動をやっていきたいという意向を示していて,それを上の人に汲んでもらいつつ……といった感じですね。
4Gamer:
「バーチャファイター」といえば,アキラとカゲのCVを光吉さんが担当されていますが,セガにおける社員CVの採用はどういった形になっていたのでしょうか。
光吉氏:
あれは仮入れで組み込んでいたものが,そのまま製品になってしまったんですよ。当時の“あるある”です。「バーチャファイター2」だとアキラのCVは三木眞一郎さんになったり,しっかり声優さんを使う方式になるんですけれど。
あと「レンタヒーロー」も僕がやったらしいのですが,実はあまり覚えてないんですよ。
Hiro師匠:
主人公の声だよね。ドリキャスの「レンタヒーロー No.1」では俺も入ったけど。
光吉氏:
ゾンビ役でしたよね。陰でメチャメチャ笑ってましたよ(笑)。
Hiro師匠:
「レンタヒーロー No.1」ではゲームが出る前から開発者を前面に出してプロモーションしていこうっていうコンセプトがあったので,声も社員で入れていました。最近でも,けっこう社員が声をやったりはしているんですよ。
4Gamer:
maimaiちゃん(初代)は社員さんでしたが,そういうのとはまた別ですか?
Hiro師匠:
maimaiちゃんもそうですが,例えば「三国志大戦」で,武将の後ろにいっぱいいる兵士が「やあ!」とか「えい!」とか言うんですけど,その声は全員開発陣です。
光吉氏:
確かに人数がたくさん要るやつはそういうのをやっていますね。
4Gamer:
割と現役な手法なんですね。CVのほか,光吉さんと「バーチャファイター」といえば印象的なのが,アニメ版の後期主題歌「愛が足りないぜ」です。あの企画はどのように発生したのでしょうか。
光吉氏:
それも裕さんだと思います。割と急に「歌ってみたら?」という感じでしたね。その前に,「バーチャファイター2」のイメージボーカルアルバム「Virtua Fighter 2 Dancing Shadows」を出したんですけれど,そこでも3曲くらい「歌ってみて」って言われていて。なので裕さんの中では「光吉もう歌ってるよね」みたいな認識があったのかもしれないですね。
自分的には,ゲーム関連ならまだしも,TVアニメの主題歌というのは……みたいな感じで,良くも悪くもビックリしました。でも,子供の頃からアニメの主題歌が大好きでたくさん聴いてきたりもしたので,嬉しくも不安な気持ちで挑戦しました。
4Gamer:
この「愛が足りないぜ」の作曲がC-C-Bの米川英之さん,ほかB.B.クィーンズのボーカルアレンジアルバムがあったり,「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のBGMはDREAMS COME TRUEの中村正人さんだったりと,1990年代初頭のセガサウンドは今で言うコラボをよくやっていた印象があります。あれは「ゲーム音楽の裾野を広げていこう」みたいなプロジェクトがあったのでしょうか。
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光吉氏:
とくにそういったことを続けていこうという流れがあったわけではないですね。僕の「愛が足りないぜ」と,大黒摩季さんが「アフターバーナー」を歌っていたビーイング系のアレンジアルバムって,時期がちょっとずれていたりもしますし。でも,「愛が足りないぜ」をアレンジした人(※25)が元ビーイングだったりと,運命めいたものはありました(笑)。
※25 現在はMisty Entertainmentに在籍の大堀 薫氏。B.B.クィーンズの「We Are B.B.クィーンズ」や椎名へきるさんの「NEVER EVER」などで編曲を務めたほか,セガ・エンタープライゼスが1996年にリリースした「スカッドレース」に楽曲を提供したりもしている。
4Gamer:
時代性みたいなものかもしれませんね。
光吉氏:
そういえば,大黒さんが「アフターバーナー」を歌うという企画のときは,師匠はどうしていたんですか?
Hiro師匠:
全然知らなかった。
4Gamer:
けっこう「自分の知らないところでアレンジされている」というのは多いのでしょうか。
Hiro師匠:
と言うか,当時はほとんど知りませんでした。たまに「データちょうだい」みたいなのがあった気はしますけれども,何に移植されるとかいう話までは,あまり聞かされませんでした。当時は次のプロジェクトがすぐに入ってきたので,自分で移植用のアレンジをすることはなかったです。
4Gamer:
世に出てから,だいぶ後になって知ることも多いのでしょうか。
Hiro師匠:
そうですね。以前,「アフターバーナー」のCD-BOX(※26)が出ましたが,その収録曲は大半が知らないものでした。聴いてみて「こんなバージョンがあったのか!」みたいな(笑)。でも「ここの音を取るんだ!」とか,人によって注目する部分に差があって面白かったですね。
※26 ウェーブマスターから2007年にリリースされた,6枚組の「AFTER BURNER 20th Anniversary Box ORIGINAL SOUND TRACKS SPECIAL BOX SET」。
4Gamer:
1994年に,アストロシティミニ収録タイトルの1つ「イチダントアール」が出ていて,その中にあるミニゲーム「デートなUFO」で光吉さんのボイスを聴けますが,制作には関わられているのでしょうか。
光吉氏:
「イチダントアール」は声だけで,それ以外には関わっていなかったと思います。
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4Gamer:
最初に「お2人の関与タイトルがあまり無い」という話をしましたが,アストロシティが発売されてから後継のブラストシティやネットシティが台頭するまでの間,師匠は先ほどのドライバ開発,光吉さんは「シェンムー」に携わられていて,汎用筐体向けタイトルに関わる機会が無かったのかなと思うのですが,いかがでしょうか。
光吉氏:
「デイトナUSA」の後だから,1995年か……そこからの大半は確かに「シェンムー」でしたね。作曲自体は,セガサターン版の「バーチャファイター2」とか,「バーチャファイター3」とかもやっていましたが。
4Gamer:
「バーチャファイター3」と言えば,基板のMODEL 3にはFM音源が搭載されていますよね。セガの基板は比較的遅くまでFM音源を使用していた印象があります。
Hiro師匠:
と言っても,PCM音源によるフルストリーム再生自体はST-Vくらいからできるようにはなっていたよね。容量やサンプリングレートは低いんだけど,それなりの曲数を入れることは可能だった。
光吉氏:
そうですね。それに,実は「バーチャファイター3」って,FM音源をほとんど使っていないんですよ。
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Hiro師匠:
でも俺は,PCMで曲自体を再生するのは最後まで抵抗していました。「曲は内蔵音源で鳴らしたい!」と思っていたんです。
4Gamer:
それはどういった理由なのでしょうか。
Hiro師匠:
PCMはCDと同じで,データになった曲を鳴らすものじゃないですか。そうじゃなくて内蔵音源の「基板がリアルタイムに曲を作り出す」というシステムが,すごく好きなんですよ。しかもドライバだったり音色だったり,手を加えれば加えるほどクオリティも良くなるというのが面白くて。そういう内蔵音源で最後にやったのが,「エアトリックス」(※27)でした。
※27 2001年にリリースされた,スケートボードをモチーフにしたヒットメーカー製の体感ゲーム。基板はSEGAHIKARUで,サウンドチップは315-6232。
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Hiro師匠:
磯崎さん(※28)と2人でやっていたのですが,磯崎さんは「内蔵音源じゃなくて普通にPCMで出しましょうよ」って最後まで言ってましたね。でも,このプロジェクトの後はもう完全にPCMでやらざるを得なくなるだろうから,これを自分の「内蔵音源を使った最後の楽曲」なんだと思って作っていました。
※28 磯崎 剛氏:「クレイジータクシー」シリーズや,「龍が如く OF THE END」「龍が如く5 夢、叶えし者」などに携わったコンポーザー。
光吉氏:
「シェンムー」でも同じことがありましたよ。自分はサウンドディレクターをやっていたんですが,やっぱりスタッフから「曲はPCMで流しましょう」って散々言われて。実は僕もそうしたかったんですけど,ロードが入ると曲が切れたりして,技術的な理由でほぼ内蔵音源で鳴らすことになりました。
4Gamer:
非常にざっくりした質問になってしまうのですが,FM音源というものは振り返ってみるとどのような存在でしたでしょうか。
Hiro師匠:
ゲームにマッチしたチップだったな……という感じですね。
もともと楽器用のチップで,アクセスがちょっと遅かったり,ウェイトを入れないと音色が変わらなかったり,ちょっとゲーム的でない部分はあったんですが。逆に,プログラムでどう制御するかというのが楽しいところだったりもして。
光吉氏:
FM音源って,とくにゲームセンターで音抜けがすごく良くて,それが僕の中での印象的なイメージですね。正直,僕は思った通りにはあまり作れなかったんですけど,作っていく中で面白い音が偶然できたりして,そういうところも特徴の1つでした。
4Gamer:
フルPCMに移行してからはいかがでしたか。
Hiro師匠:
最初は難しかったですね。内蔵音源だと,使える発音数もバランスのパラメータも少ないじゃないですか。でも,PCMだといくらでも音を重ねられる。そこの頭の切り替えが大変でした。
4Gamer:
「自由度が高すぎる」というわけですね。
Hiro師匠:
いくらでも音を足せてしまうので,ガチャガチャして音が埋もれてしまったり,内蔵音源とは違う考え方で作らなければいけませんでした。とても難しかった。
光吉氏:
一方で,直感的に音を作れるようになったところは大きかったですね。声っぽいものを入れたければ声を入れてしまえばいいし,という。それが「デイトナUSA」のサウンドデザインにもつながっていきます。
4Gamer:
歌ものだと恩恵は大きいですよね。ただ個人的には,「デイトナUSA」の「Let's Go Away」と「カルテット」の「OKI RAP」が,時代は離れていても方法論的には似てると感じていたりして,フルでない限定的なPCMによる作曲という時代も面白く感じたりします。
光吉氏:
「デイトナUSA」では,短いサンプリング音源をつなげてボーカルを作っていましたが,実は「カルテット」みたいな前例があったのを知らなかったんですよ。「カルテット」を知ったのは,[H.](※29)で演奏することになってからでした。
※29 ヒットメーカー時代に誕生したセガのゲームミュージックバンド。読みは「エイチ」。2011年にはウェーブマスターから結成10周年記念のファーストアルバム「SEGA Sound Unit [H.] 1st Album」がリリースされた。
2020年,レトロゲームブームによるアストロシティミニや「OTORII」などの誕生
4Gamer:
アストロシティミニ自体に関してうかがっていきたいのですが,まず最初にこの製品を知ったときの感想はいかがでしたか。
Hiro師匠:
単に「あ,出るんだ」と。正直言うと,それですね(笑)。
最初に企画を知ったのは,社名がセガになって,新しい部署になってからだから,5月ごろだったかな。そこで「うってつけだと思うのでやりませんか?」って言われたんです。で,楽しそうなので「やるやる!」と二つ返事。最終的にどんな形になるとか,ゲームは何が入るのかとか,知らないまま参加しました。
光吉氏:
そのときの発注は曲の依頼だったんですか?
Hiro師匠:
システム周りの効果音と曲。電源を入れたときのジングルだったり,とにかくシステム周りの音が欲しいと。
最初はイメージボードも無くて,「メニュー画面があるんだったら,こんな曲が要るだろう」みたいなことを考えながら作っていきました。
光吉氏:
メニュー画面はFM音源っぽい曲ですよね。
Hiro師匠:
YM2151そのものじゃないんだけど,VST(※30)のFM音源と,「KORG Gadget」のOTORIIを使った。あの音源を作っておいて良かったよ。
※30 DAW(Digital Audio Workstation)で使われる,主流な音源プラグイン形式の1つ。簡単に言うと,DAWがスタジオ,VSTなどのプラグインが楽器にあたる。
光吉氏:
OTORIIで作ったんですか。
Hiro師匠:
ドラムをね。「ファンタジーゾーン」のドラムってFM音源だから,あれが入るだけで当時っぽいFMらしい曲になるんだ。今のFM系VSTってドラム音を作りにくいじゃない。
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4Gamer:
光吉さんがアストロシティミニを知ったのはいつごろでしたか。
光吉氏:
僕はもっと後で,担当の方からPVのナレーションをしてほしいという話が来たときです。この前に「メガドライブミニ」が盛り上がって,さらに「ゲームギアミクロ」があってからのコレなので,「そういう流れか! 面白そうだな」と思いました。携わったタイトルもいくつか入っているので,何か協力できることもあるかなと。
4Gamer:
収録時のエピソードなどはありますでしょうか。
光吉氏:
例えば,「バーチャファイター!」とか,「アレックスなんとか!」とか言うじゃないですか。そのとき,いちおうゲームの画面を見ながらやるんですが,頭の中で「懐かしいなあ」と回想しつつタイトルコールをするのは,感慨深かったですね。
収録は1回で終わりだと思っていたんですけど,2回,3回と呼んでいただいて,新しく発表されたタイトルを「こんなタイトルも入れるんだ」とユーザー目線で楽しみながら収録できました。
Hiro師匠:
あの声って編集した? 声が若く聴こえるんだよね。
光吉氏:
若返ったんですよ(笑)。まあ,最近はナレーション系の仕事が増えているので,普段よりもゆっくりとしゃべるとか,語尾を無声音にせずちゃんと出すとか,そういうのを心がけています。それが反映されたのかもしれないですね。
Hiro師匠:
スキルアップしたと。素晴らしい(笑)。
光吉氏:
褒められてしまいました(笑)。
4Gamer:
ところで「このタイトルが入ったのか」的なところでいうと,「ドットリクン」っていかがでしょうか。
光吉氏:
アストロシティに最初から入っているゲームなんですよね。僕はなぜか遊んだ記憶があるんですが……。
セガ広報:
「ドットリクン」の元になった「ヘッドオン」かもしれないですね。
光吉氏:
ああ,それか! ちょっと勘違いもありましたが,「これも遊べるんだ」という驚きはありました。
Hiro師匠:
俺は全然知らなかった。一番最初に受け取った,試作版のアストロシティミニにも入っていたんですよ。でも,まだ本番のゲームを実装していないところに仮入れしている,テスト用のタイトルだと思っていたんです。その「ドットリクン」が製品版にも入るって聞いて,ググって調べました(笑)。
このゲーム,音が無いんですよね。言ってくれれば音を付けたのに。
4Gamer:
Hiro師匠はクオリティチェックという形でも携わっているそうですが,それにあたってはどういった部分を確認したのでしょうか。
Hiro師匠:
基本的には,自分が関わったシステム周りのレイアウトがちゃんとしてるかを見たりしました。あとは実機から音がどう聴こえるかの確認。最初の試作版は音がダメだったので,直してもらったり。
光吉氏:
最初のは何が違うんですか?
Hiro師匠:
まず素材が違う。たぶん3Dプリンターで作ったやつだよね。コンパネの印刷がズレていたりもする。で,音がショボかった。
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4Gamer:
それはシステム的な問題でしょうか。それともハード的な?
Hiro師匠:
ハードウェアでした。改良版はコンデンサを変えたみたいですね。
4Gamer:
出音的には,アーケードの再現なのでしょうか。それとも家庭用に向けたチューニングなのでしょうか。
Hiro師匠:
というより,この筐体でよく聴こえるような形ですね。あとはバランスとか。あまりにゲームがいっぱい入っているものだから,デフォルトだと音が大きいものとか,逆に小さいものとかがあったんです。とくに「バーチャファイター」だけ,なぜかものすごく音がデカくて。
光吉氏:
たぶん基板ごとにデフォルトの音量が違うんですよね。そこはソフトウェア的にしっかり調整しないといけない部分ですね。
Hiro師匠:
あとバグも発見したんですよ。電源スイッチが「切」になっているのに,電源が入りっぱなしになるという。
光吉氏:
結果的にデバッグもやったわけですね(笑)。
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4Gamer:
アストロシティミニには隠し玉として,"BGMモード”なる機能が搭載されているとか……。
セガ広報:
BGMモードは,メインBGMを流し続けられるものです。10タイトルが対応していて,「スペースハリアー」や「バーチャファイター」,「エイリアンストーム」などの曲を聴くことができます。
光吉氏:
「エイリアンストーム」,これ聴いたなあ……。
Hiro師匠:
今聴いても斬新だよね。
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Hiro師匠:
これ,全タイトルが入ってないのは何でなんだろう。仕様的な問題なのかな。
セガ広報:
そこまでは把握してなくて……ちょっと開発の人間を呼んでみます。
Hiro師匠:
おっ,来ましたね。
セガトイズ開発:
BGMモードは,当時のセガのゲームミュージックが巻き起こしていたムーブメントを,改めて皆さんに体感していただきたいと思い,企画しました。「アストロシティミニ」はセガトイズが開発を手がけているわけですが,おもちゃメーカーの視点ならではの工夫も施されています。ゲーム機とおもちゃの違いは「遊ばないときでも飾っておける」ということです。僕個人がファンということもあり,セガのゲームミュージックを環境音楽としてずっと聴けたら素晴らしいと思って,本当に無理を言って,代表的なものを10曲,流れるようにしてもらいました。
Hiro師匠:
10曲しか入っていないのは,開発期間的な問題ということですか?
セガトイズ開発:
容量的な問題です。とくに「ゲイングランド」のBGMは4分半くらいあって,それだけで容量を相当取られています。音源は既存のCDからではなく,基板から収録しました。
気軽にセガのゲームミュージックを楽しんでもらいたいと思い追加した機能になります。おそらくセガで初めてゲームのメインテーマをループで聴き続けられる商品です。ただ,「カルテット2」だけ冒頭の“ブイーン”という音がループするたびに鳴ってしまうのですが。
光吉氏:
全部説明していただきましたね。我々から言うことは何もない感じです(笑)。
Hiro師匠:
でも,それだと「スペースハリアー」はどうやって繋がっているんだろう。
光吉氏:
そのまま収録すると,アウトロとイントロで同じメロディが2度流れるわけですよね。
Hiro師匠:
……ちゃんと繋がってる! 切ったんだ!
光吉氏:
新鮮な驚きがありますね(笑)。
4Gamer:
BGMと言えば,アストロシティミニと同日にアレンジアルバムの「ASTRO CITY mini - Celebration Album -」がウェーブマスターから発売されますね。こちらの制作に師匠は関わっていらっしゃるのでしょうか。
Hiro師匠:
その制作は基本的にウェーブマスターの方で行われています。まあ,メニュー曲は入りますし,時間があれば1曲くらいはアレンジしたいところなんですが,ちょっと厳しくて。[H.]のときに作ったオマケの1曲が入ります。
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4Gamer:
来年発売の「GO SEGA-60th ANNIVERSARY Album-」は,選曲にHiro師匠が関わられているとか。
Hiro師匠:
「これ入れてね」と言うくらいですが,絡んではいます。自分が入社する前のセガのゲームの音も入れてほしいと思ってるんですよ。できれば,セガで一番最初に音が出たゲーム。それは「ヘッドオン」なのかエレメカなのか分かりませんが,「そこからセガの音が始まった」的なものが入ると良いですね。
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Hiro師匠:
あと,社歌は入れなきゃダメかなと思ってます。
4Gamer:
「若い力」ですね。
Hiro師匠:
でも「どこに入れるか」っていうのと,「どっちを入れるか」が悩みどころだよね。CD4枚組なんだけど,最後に入れるのは違うような気がするし,社歌って歴史的にはそんなに古くないから最初に入れるのもどうかなと。あとアニメ版。
光吉氏:
「Hi☆sCoool! セハガール」版ですか。
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Hiro師匠:
あっちのほうが良いのかなとか……。
光吉氏:
あっちのほうがいいってことは,オリジナル版も検討しているってことですか?
Hiro師匠:
オリジナル版で考えてたよ。だって社歌だもん。
光吉氏:
てっきりセハガ版だと思ってましたよ。じゃあ,135(※31)のオリジナル版とセハガ版,両方入れたらいいじゃないですか。最初にオリジナル,最後にセハガ! 社歌に始まり社歌に終わる!
※31 梶原茂人氏,高木茂治氏,本田義博氏によるバンド。読みは「いちさんご」。ボーカルを担当した「若い力」は1991年にセガの社歌として制定された楽曲で,妙に壮大なスケールの歌詞が特徴的。「宇宙」と書いて「あおぞら」とルビが振られていたりする。
Hiro師匠:
そういえば光吉って社歌は歌ってないんだっけ? 新録して入れようか。
光吉氏:
ライブでは何回か歌いましたし,これから歌う予定もありますが,自分用のオケというのは録ってないんですよね。
Hiro師匠:
まあ,考えましょう(笑)。
4Gamer:
「若い力」からの「セガガガ・マーチ」みたいな曲順だったら,熱いものがありますね。
Hiro師匠:
金さん(※32)ね。あの曲は良いですよね。そういうユーザーからの要望があれば,まだ間に合います(笑)。
※32 金子 剛氏。ドリームキャスト用ソフト「セガガガ」でメインコンポーザーを務めたほか,「龍が如く 極」や「龍が如く6 命の詩」などに楽曲を提供している。
4Gamer:
要望はどちらにお送りすれば良いのでしょうか。
Hiro師匠:
俺のTwitterに……。
光吉氏:
そうテキトーなことを言わずに,やるならちゃんと広報にやってもらいましょう!(笑)
Hiro師匠:
まあ,4枚組なことは決まっていて,60年の歴史が詰まったものにしたいと思っています。それで,手に取った人が笑顔になれるものにしたいですね。
4Gamer:
光吉さんはいかがでしょう。
光吉氏:
アルバムについては師匠が言ってくださったので,僕からは関わりが強い「SEGA 60th ANNIVERSARY LIVE」について述べさせていただきます。60周年ということで,ライブなどいろいろとやらせていただいてますが,これは言ってみれば「セガのお祭り」です。「そもそもセガというのは何なのか」を皆さんに改めて知ってもらえる機会でもありますので,自分も楽しみつつ,皆さんと一緒に盛り上がっていきたいです。
Hiro師匠:
あのライブって,もともとはちゃんと観客を入れて開催するつもりだったんです。このご時世なのでオンラインになりましたが,世界中の人に聴いてもらえるということでもあるので,そこは逆に良いのなと思っています。
光吉氏:
「東京ゲームショウ2020 オンライン」もそうでしたしね。
4Gamer:
光吉さんは,「光吉猛修 30周年記念アルバム 〜From Loud 2 Low FOR ボーカル★ベスト〜」の発売も予定されていますが,そちらについてはいかがでしょう。
光吉氏:
これもディナーショーと共に延期となっていますが,着々と制作は進めていますので,そちらもご期待下さい!
4Gamer:
実際のところ,今年中に発売されるのでしょうか?
光吉氏:
まあ,年度で言うと来年の3月31日までは僕の30周年なので。そういう捉え方で待って頂けると良いかなと(笑)。
4Gamer:
これからアストロシティミニを購入する人に遊んで欲しいタイトルを3つ挙げるとしたら,何になるでしょうか。
Hiro師匠:
もちろん自分がやったタイトルです!
4Gamer:
そういうお返事になるとは思っていました(笑)。
■Hiro師匠の「これを遊べ」!
- スペースハリアー
- ファンタジーゾーン
- アレックスキッドwithステラ ザ・ロストスター
Hiro師匠:
アレックスは曲だけ聴いてくれればいいです(笑)。
でも,テストモードが無いからゲームしないと聞けないのかな。
セガ広報:
途中セーブ機能が付いているので,時間をかければクリアすることも可能です。
Hiro師匠:
それでも厳しいんじゃないかな……(笑)。
光吉氏:
僕はやっぱり,非常に思い出深いので「バーチャファイター」と,あとはプログラムを初めてやった「タントアール」で,もう1個はそうだなあ……「サンダーフォースAC」かな。ラスタースクロールにはビックリしたので,あれがまた体感できるというのは嬉しいです。
■光吉氏の「これを遊べ」!
- バーチャファイター
- タントアール
- サンダーフォースAC
Hiro師匠:
あと川上先生の「スクランブルスピリッツ」の曲は聴いてほしいですね。良い意味で「セガっぽくない」曲ではあるんだけど,彼の世界観が表れている。
4Gamer:
最後に,東京ゲームショウ2020オンラインの配信番組内で,宮崎浩幸さんが「(アストロシティより後の時代のゲームも)応援してくれれば将来的にラインナップとして検討する自信ができる」と述べられていましたが,「アストロシティより後の時代」に限らず,“ミニになってほしいセガのもの”はありますでしょうか。
Hiro師匠:
R360。
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Hiro師匠:
マシンのミニチュアが本体で,コントローラのレバーが外にあって,HDMIでテレビに繋ぐんだよ。操作するとミニチュアがくるくる回って,ほとんど見られないけどそっちの画面も映ってるっていう。
光吉氏:
たしかに自分が操作したとおりに動いてくれないと面白くないですよね。R360って2種類くらいしかゲームがありませんでしたけど,もっとたくさん入れて「もしR360にあれが入っていたら」みたいなのはどうですか(笑)。
Hiro師匠:
「ハングオン」だったら,コケたときぐるぐるーって回るわけだ(笑)。
4Gamer:
それ1/12スケールで欲しいですね。figmaのアキラを入れて回したくなります。
Hiro師匠:
R360って,実際に見た人はそんなにいないと思うので,「セガってこんなの作ってたんだ」と思ってもらう意味では面白いんじゃないかな。
光吉氏:
でも,R360を言われちゃうと続けるのが難しいですね。メガドライブミニやアストロシティミニといった流れから行くと,やっぱりセガサターンミニは欲しいですが。それで「バーニングレンジャー」が入ってくれれば。
4Gamer:
実際,セガサターンミニを望む意見はSNSでよく目にします。
光吉氏:
それを言ったら,ドリームキャストも……そうか,ドリキャスミニでシェンムーを遊ぶってのもあるか。いや,でもR360にはネタ的に勝てませんね(笑)。
4Gamer:
つまり……「R360に勝てなかったR三郎丸(※33)」というわけですね!
※33 S.S.T.BAND時代に使用されていた光吉氏の名義。
光吉氏:
お後がよろしいようで(笑)。
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- 関連タイトル:
アストロシティミニ
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