業界動向
Access Accepted第624回:Apple Arcadeの登場で,欧米ゲーム市場は新世代へ移行か
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Appleのゲーマー向けサブスクリプションサービス,「Apple Arcade」が2019年9月20日にスタートした。日本では,月額600円(税込)で,リストアップされている100タイトル以上が遊び放題という嬉しいサービスだが,これを待ち構えていたかのように,Googleが北米で「Google Play Pass」を開始し,さらに「PlayStation Now」の価格が引き下げられるなど,サブスクリプション界隈が賑やかな状況になってきた。世界累計で15兆円を越えるといわれるゲーム市場に大きな影響を与える変革は始まったのだろうか。
1か月600円で遊び放題の
「Apple Arcade」と「Google Play Pass」
欧米のゲーム業界ではよく,「世代」(Generation)という言い方で産業の進化を表現する。1972年にMagnaboxというメーカーが「Odyssey」と呼ばれるコンシューマ機をリリースしたのが第1世代で,「PlayStation 4」と「Xbox One」,そして「Nintendo Switch」がリードする現在の市場は第8世代にあたる。2020年には「Project Scarlett」(開発コードネーム)や次世代PlayStationが登場し,第9世代が始まると言われるが,オンラインサービスの比重が高まる今,第8世代から第9世代への移行はすでに始まっていると見るべきなのかもしれない。
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9月20日,Appleがゲーマー向けのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」をスタートさせた。月額600円(税込)で100以上のタイトルが遊び放題という,ゲーマーにとって嬉しいサービスであり,プレイできるタイトルの数は日ごとに増えている。イギリスの経済誌Financial Timesなどの報道によれば,Appleは数百億円単位の予算を用意してデベロッパやパブリッシャとの交渉を行っているとのことで,Android版を一定期間提供しないというエクスクルーシブタイトルも出現しつつある。
今のところApple Arcadeのエクスクルーシブタイトルはすべてモバイル向けで,コンシューマ機やPC向けのゲームはないものの,それもいずれは変わってくるかもしれない。
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さて,最近の欧米ゲーム市場の大きなトピックとして,「クラウドゲーム」があることは,本連載の読者ならよくご存じだろう。簡単に説明すると,プレイヤーの入力を受け取って,グラフィックスや物理演算,AIなどの処理をすべてサーバー側で行い,結果をプレイヤーにストリーミングするという技術だ。プレイヤーはゲームをダウンロードする必要がなく,さらに手元のデバイスの性能を気せずに,どのようなゲームでもプレイできる。
今のところApple ArcadeとGoogle Play Passはクラウドゲームサービスではなく,セーブデータをサーバーで管理する,「クラウドセーブ」止まりだ。クラウドゲームが近い将来,ゲーム産業を牽引する技術になるのは間違いないと考える筆者だが,11月にはGoogleのクラウドゲームサービス「Google Stadia」がローンチする予定になっており,再び欧米ゲーム業界に大きな影響を与える風が吹きそうだ。
クラウドゲームサービスの
「PlayStation Now」が半額に
7月29日に掲載した本連載の第619回「PCゲームの復権とコンシューマ機の将来」で書いたように,PC/コンシューマ機にもサブスクリプションサービスが次々に登場している。
振り返れば,2011年に自社で運営する10作以上のMMORPGが遊び放題になる,Sony Online Entertainment(現Daybreak Games Company)の「SOE Access」(現「Daybreak All Access」)あたりが嚆矢と呼べそうだ。2014年には,Electronic ArtsがXbox One向けの「EA Access」を開始し,2015年にはSony Computer Entertainment(現Sony Interactive Entertainment)が「PlayStation Now」をスタートさせた。そして2017年にはMicrosoftが「Xbox Game Pass」のサービスを開始しており,2019年にUbisoft Entertainmentが「UPlay+」をスタートさせるなど,北米ゲーム産業のメジャープレイヤーが,ことごとくサブスクリプションビジネスに手を付けているというのが,現在の鳥瞰図というころだろう。
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パブリッシャにとってサブスクリプションサービスの利点は,月単位で得られる固定的な収入によってビジネスの計画を立てやすいことだろう。また,自社タイトルをまとめて管理できることもメリットだ。さらに,ユーザーの囲い込みも期待できる。
プレイヤーにとっても,ゲームを1本ずつを購入するよりずっと安い価格でゲームをよりどりみどりにプレイできるのは嬉しい話で,「Netflix」や「Hulu」「Amazon Prime Video」が市場で確固たる地位を築いたのと同じ動きが,ゲーム市場にも到達した印象だ。
さて,大手パブリッシャのさまざまなサービスの中で毛色が異なるのが「PlayStation Now」で,現時点で唯一,完全な形のクラウドゲームサービスを提供している。10月1日に掲載した記事にもあるように,その「PlayStation Now」の月額料金が従来の半分以下となる1180円(税込)に引き下げられ,さらに「ゴッド・オブ・ウォー」「inFAMOUS Second Son」「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」といった自社タイトルのほか,「グランド・セフト・オートV」などの魅力的なタイトルを新たに追加した。
Apple ArcadeとGoogle Play Passという低価格サブスクリプションサービスが,今回のSIEの判断に影響を与えた可能性は十分にあるだろう。
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上記の「Google Stadia」は当面,「PlayStation Now」のライバルだが,5Gネットワークの整備が整う数年後にはサービスの範囲も広がり,それに伴ってどちらも利用者数は大きく増えていきそうだ。
クラウドゲーミングの最大の利点は,ネット環境さえ整っていればハードウェアを選ばないことで,ゲームに限って言えば,PCとコンシューマ機,そしてモバイルデバイスの垣根が取り払われることになる。プレイヤーがサービスを選ぶ基準は,料金や安定性,そして魅力的なタイトルの存在となり,ゲームハードの意味自体がなくなるかもしれない。SIEを始めとするプラットフォームホルダーは,来たるべき時代に備えて難しい舵取りを迫られてもいる。
ちょっと前までは夢物語のように思えたが,プレイヤーが月額課金で好きなゲームを選び,クラウドゲームサービスで,いつでもどこでもゲームをプレイするといった時代が,いよいよ現実味を帯びてきたようだ。今後の動きにも注目していたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
2019年10月21日掲載予定の「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のため休載となります。
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