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Access Accepted第333回:危機に立たされた大手パブリッシャ,THQ
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印刷2012/02/06 17:15

業界動向

Access Accepted第333回:危機に立たされた大手パブリッシャ,THQ

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第333回:危機に立たされた大手パブリッシャ,THQ

 北米でトップクラスの大手パブリッシャであるTHQだが,最近は業績が悪化し,NASDAQ(ベンチャー企業向けの株式市場)から上場廃止の警告を受けるという窮地に立たされている。開発スタジオの閉鎖や人員整理も始まっており,今後数か月は予断を許さない状態だ。今週は,「THQとはどんなメーカーなのか?」について,その歴史を概観しながら現状を紹介してみよう。


あのTHQが上場廃止の危機に


 「Homefront」「Red Faction: Armageddon」,そして「Saints Row:The Third」のスマッシュヒットで知られるTHQの収益が悪化。2012年初めの株価が1株1ドルを割り込んだため,NASDAQから上場廃止の警告を受けている。これから180日の間に1ドル以上の値に戻すことができなければ,正式に上場廃止になるという大きな危機に見舞われているのだ。
 THQの業績悪化は,過去5年ほどにわたる継続的なものであり,チャートを見ると5年前には1株30ドル程度だった株価が,年を追うごとに落ち込んでいったのが分かる。話題を集めたSaints Row:The Thirdなどのヒット作をリリースしているTHQに,何があったのだろうか?

「Homefront」や「Saints Row: The Third」など,人気作も多いTHQだが,株価の長期低落傾向は止まらなかった。NASDAQの上場廃止/継続については,半年後の2012年6月30日のデッドラインまでに,どれだけ業績を改善できるかで決まるという
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 THQの前身は,1989年にカリフォルニア州ロサンゼルスに近いアゴーラヒルズ(Agoura Hills)で設立されたTrinity Acquisition Corporationというゲームメーカーで,1991年にToys Head Quartersという玩具会社を買収した。社名のTHQは,その頭文字を取ったものだ。1994年には,スーパーファミコンやゲームボーイ向けタイトルのセールスが好調であったため,玩具製造を止めてゲームビジネスに集中することになった。
 初期の代表作は,1997年にPlayStationやNintendo 64向けに開発された「WCW Nitro」で,それ以降「WWC」や「UFC」などのライセンスを取得した格闘ゲームを作り始めている。

 現社長のブライアン・ファレル(Brian Farrell)氏は,THQを早い時期から引っ張ってきた人物だ。Toys Head Quarters買収に関わった経営コンサルタントの出身で,30代後半だった1993年に社長に就任し,それ以来19年間,THQの頂点に君臨してきた。彼の元でTHQは年間50%を超える急成長を続け,経済誌のフォーブスでは2001年から2年連続で「全米小企業ベスト200」に選ばれ,さらに2005年には「全米中企業ベスト200」に格上げされた。

 この頃のTHQは飛ぶ鳥を落とすほどの勢いであり,2000年に「Red Faction」シリーズのVolitionを買収したことを皮切りに,2004年には「Company of Heroes」のRelic Entertainmentを,そして2006年には「Darksiders」のVigil Gamesを買収している。
 また,アニメキャラを使ったライセンスものタイトルが多いのもファレル氏の戦略で,プロレス団体以外にも,ゲーム市場に参入する前のディズニーや,子供向けケーブルテレビ局のニコロデオンとライセンス契約を交わし,「スポンジ・ボブ」などのタイトルを制作。高い人気と利益をあげていた。


2012年以降のTHQタイトルはどうなるのか?


 2011年,ファレル氏は「我々THQは,コアゲーマー向けのブランドへの変化をとげつつある」と述べており,同年は上記のようにHomefront,Red Faction: Armageddon,そしてSaints Row: The Third,さらに「Warhammer 40,000: Space Marine」「WWE'12」などの話題作,注目作を次々に市場に投入。傍目からは非常に活気のあるパブリッシャに見えていた。
 しかし,現実はそうではなかったようで,最新の会計報告によると,2011年10月1日から12月末までの第3四半期は,前年比で約3倍にもなる純損失5590万ドル(約43億円)を計上しており,激戦だった2011年のショッピングシーズンでは,Activision BlizzardやElectronic Artsに惨敗した姿が浮き彫りになる。

日本でも発売されたTHQのシリーズ最新作「セインツ・ロウ・ザ サード」は,子供には絶対に見せられないぶっ飛んだ世界観が魅力で,380万本のセールスを記録するヒット作になった
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 もっとも,経営悪化の原因となったのはゲームというより,周辺機器として発売された「uDraw Gaming Tablet」の想定を下回る不振であり,THQの最新の業績報告では,倉庫代その他を含め,3300万ドル程度のマイナスの影響があったとされる。

ニンテンドーWii専用ハードウェアとして2010年8月にリリースされた「uDraw Gaming Tablet」。ファレル氏は「これはプラットフォームだ」としてサードパーティの参加を呼びかけたが,大きな話題にはならなかった
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 上場廃止の危機を迎え,ファレル氏は大規模なリストラ策を打ち出しており,ゲーム情報サイトGamasutraの記事によれば「deBlob 2」を開発したオーストラリアのBlue Tongue Entertainmentや「MX vs. ATV」を制作したTHQ Digital Phoenixでのレイオフのほか,ブランチの閉鎖などが発表されている。ファレル氏自身も75万ドル(約5700万円)だった年収を,1年限りではあるものの50%カットすることを発表しており,「以前のようなパブリッシャとしては機能しない」という同社の未来像を正直に語っている。

 これに関連して,THQが2014年以降の発売予定タイトルを見直したという報道もあったが,その後,THQはラインナップの完全なキャンセルに関しては否定している。いずれにせよ,2012年には「Metro: Last Light」「Darksiders II」「South Park: The Game」「UFC Undisputed 2012」などの発売がアナウンスされており,さらに2013年にはヴァルハラ・ゲーム・スタジオの「Devil's Third」,映画監督グイユモ・デル・トロ氏が監修する「inSane」,そして「Assassin's Creed」シリーズの生みの親といわれるパトリス・デジーレ(Patrice Desilets)氏の新作などの有望タイトルが予定されていただけに,ゲーマーにとってもTHQの今後が気になるところだ。

 もともとTHQは,プロレス団体やニコロデオンなどに高額なライセンス料を支払い,そのIPを利用してゲームを売ってきたメーカーだ。コアゲーム路線への転換を打ち出し,それなりの成果は挙げたものの,試行錯誤を繰り返しながらオンラインサービスやソーシャルゲームの分野で結果を出しつつあるElectronic Artsなどに比べると,時代の変化に応じたビジョンを持ち得ていないように筆者からは思える。株価改善のタイムリミットは,上にも書いたように7月23日。今後のTHQの動きには注目していきたい。

2012年2月7日追記
 初出時,ニンテンドーWii版「uDraw Gaming Tablet」が経営悪化の原因になった旨の記述がありましたが,THQの業績報告レポートにあるように「uDraw Gaming Tablet」の不振を示すべきものでした。記事を訂正するとともに,深くお詫びいたします。


著者紹介:奥谷海人
 本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるはず。
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