連載
ルネサンス初期に活躍した医師/錬金術師パラケルススは,万物は土/水/火/風の4元素によって構成されているという説を主張していた。そして,パラケルススはそれぞれの元素を司る存在として,火にはサラマンダー,水にはウンディーネ,土にはノーム,風にはシルフィードという4精霊を設定した。ここでは,その中でもちょっと異質なノームについて紹介しよう。
いかにも精霊らしいサラマンダー,シルフィード,ウンディーネとは異なり,ノームだけは人間型の種族として描かれることが多い。髭を生やし,やや小太りで,老人のような顔をしており,暗い場所でも見える目を持っている。また地下に住居を構え,さまざまな道具を作り出し,ゴブリンなどと戦うという特性を見る限り,ドワーフとよく似た種族といえるだろう。
ただしドワーフとの違いは,彼らよりも体つきがやや小さいことと(資料によっては15センチくらいの身長となっている),近接戦闘だけではなく魔法も使いこなすといったところだろうか。
また性格に関しては,ユーモアにあふれ,冒険者に謎かけをしたり,言葉遊びをするようなイメージが伝わってくる。こうして考えてみると,真面目で頑固な職人気質を持つドワーフとは,やや異なる存在であることが理解できるだろう。
ノームはゲームにもよく登場し,TRPGの「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」や,コンピュータRPGの名作「ウィザードリィ」では,プレイヤーキャラクターとして選択可能だ。後者ではキャラクターメイキング時のボーナスポイントさえよければ,最初から比較的簡単に,上級職サムライに就ける種族であったことは,よく知られているところであり,彼らが魔法も近接戦闘も可能であるという設定が,よく反映された仕様といえるだろう。
ノームというネーミングの由来については諸説あり,ギリシャ語で大地の住みかを示すゲノモス(Genomos)とするものや,地に住むものを意味するゲノムス(Genomus),知恵を現すグノーシス(Gnosis)とするものもあるようだ。確かに,どれもノームの性格や特性をよく現している言葉である。
ちなみにノームという語は,種族名か男性形であり,女性はノーミーデス(Gnomides),もしくはノーミード(Gnomid)と呼ばれることがある。
ノームという単語を辞書で引くと,地の精以外に醜い子鬼という意味にも突き当たるので,少々違和感を覚える人もいるだろう。ひょっとすると,醜い子鬼と聞いてゴブリンやコボルドなどを思い浮かべる人もいるかもしれない。
しかし,それはあながち間違いとはいえないのだ。実はノームという語は,これまで説明してきたような一種族をさす言葉であると同時に,ドワーフ,ノッカー,ゴブリン,コボルドなど,地下に住む精霊/妖精達を総称する言葉でもあるのだ。
以前トロールの回で,犬の頭を持つノールという種族は,ノームとトロールを魔法で合成して作ったという珍説を紹介した。その中で,ノールは犬やハイエナに似た頭部を持っており,両者の特性を受け継いでいるとは言いがたいと解説していた。これは筆者の仮説であるが,今になって考えてみると,実はここでいうノームとは,種族としてのノームではなく,地の精を総称するノーム(もちろんコボルドを含む)なのかもしれない。コボルドとトロールを合成したものであれば,ノールの容姿が犬頭であることにも,説明がつかなくもないのだが,どうだろうか。
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