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まず触れておかなければならないのは,このゲームを作っているスタジオの来歴だ。Maverick Gamesは2022年に設立されたばかりの独立系スタジオだが,その中心にいるのはMike Brown氏である。同氏は,オープンワールドレースゲームの一つの到達点として高い評価を得てきた「Forza Horizon」シリーズの「Forza Horizon 5」でクリエイティブ・ディレクターを務め,シリーズの設計に長く携わってきた人物だ。
開放感あふれる運転体験を作り上げてきた面々が,新たな旗のもとに集まって世に問う一作,それが「Clutch」である。この事実だけでも,レースゲーム好きが注目するのに十分な理由になるだろう。
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そのうえで「Clutch」が掲げているのは,「AAA級のシネマティック・オープンワールド・ナラティブ・アクションドライビングゲーム」という長い肩書だ。要するに,映画のように作り込まれた物語と,オープンワールドを自在に走り回るドライビングとを,どちらも妥協せずに両立させようという狙いがある。レースゲームでありながら物語主導の体験を前面に押し出している点が,本作のもっとも大きな特徴といえるだろう。
舞台となるのは,地中海沿岸のいわゆるフレンチ・リヴィエラにインスパイアされた広大なオープンワールドだ。活気あふれる市街地,劇的に折り返していく山あいのスイッチバック,そして海沿いをどこまでも伸びていく高速道路。観光地としても名高い,この地域の華やかさと険しさが同居した光景が広がっている。
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なかでも目を引くのが,実在のモナコをさらに広く拡張して再現したというエリアだ。地下トンネルや高架道路が複雑に入り組み,立体的で密度の高いマップになっている。
この世界には,昼と夜という2つの顔がある。昼間に展開されるのは,プロフェッショナルの公式レースサーキットの世界だ。一方,日が落ちてからの顔は大きく異なる。
夜になると姿を現すのが「ミッドナイト・コレクティヴ」と呼ばれる集団で,これは法の目をかいくぐって行われるアンダーグラウンドなストリートレースの舞台を指す。整備されたサーキットを走る昼と,街そのものをコースに変えてしまう夜。同じ土地でありながら時間帯によって性格を変えるこの構造は,ゲームプレイにも物語にも奥行きを与えている。
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その物語は,単なるレースの勝ち負けにとどまらない。「Clutch」が描こうとしているのは,家族の崩壊と,そこからの再生というテーマだ。主人公はマルシャル家の兄妹の2人で,彼らの演技はフルパフォーマンスキャプチャによって収録されている。
兄のテオ・マルシャルは名の知れたスタードライバーで,夜のミッドナイト・コレクティヴのストリートレースに足を踏み入れていくことになる。そこで彼を支えるのが,フィクサーのエメリー・ホイットマンだ。テオはエメリーの協力を得ながら,ある事件の真相へと近づいていく。
妹のキャス・マルシャルはテオのチームメイトであると同時にライバルでもある存在で,物語の序盤こそ兄の影に隠れているものの,話が進むにつれて少しずつ存在感が増してくるという。
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物語の中心に据えられているのが,リヴィエラでもっとも権威あるモータースポーツイベント「リヴィエラ1000(R1K)」だ。テオは養父であるルド・マルシャルの指導のもとで成功を目指していくが,レースの終盤で悲惨な事故が発生してしまう。これを受けて,大会管理者のジョージ・マクブライドが事故防止のための新技術導入を打ち出し,それがドライバーたちのあいだに分断を生んでいく。
家族の崩壊と再生というテーマは,こうしたレースの世界の生々しい力学のなかで描かれていくようだ。
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肝心の運転まわりについても見ておこう。「Clutch」はUnreal Engine 5をベースに,独自の物理システムを組み込んでおり,その操作感は「シムケード」と表現されている。具体的には「Forza Horizon」に近い,車の重みを感じさせるハンドリングを目指しているという。あのシリーズの運転感覚を支えてきた人々が作っているのだから,この点は大いに期待して良さそうだ。
※シムケード……シミュレーションとアーケードを掛け合わせた造語。本格的な挙動再現を追求するシミュレーション寄りと,手軽な操作で爽快に走れるアーケード寄りの,ちょうど中間を狙った手触りを指す
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カスタマイズの幅も広い。単に速さを追い求めるパフォーマンス面の調整だけでなく,自分のアイデンティティやスタイルを反映させるための要素が深く作り込まれている。塗装やアフターマーケットパーツなどを通じて,自分だけの1台に仕立て上げていけるわけだ。
ミッション設計も独特である。本作のミッションの軸になるのは,ステルス的な隠密行動ではなく,車を駆使したカーチェイスや逃走だ。プレイヤーは自分の発想と,走り込んで身につけたオープンワールドの土地勘を生かして,思い思いの方法で追っ手を振り切る。
車体には視覚的なダメージ表現もあり,ぶつければパーツが外れたりするが,それで走行不能になってしまうわけではない。逃走そのものを楽しませることに,設計の重心が置かれているのだろう。
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「Clutch」はマルチプレイにも力を入れており,オープンワールドには最大16人が同時に参加できる。さらに,キャンペーン全体をCo-opでプレイ可能だという。つまり,物語の体験を誰かと並走しながら共有できるわけだ。加えて,チームに分かれてアイテムを盗み出しつつ,それを守るセキュリティと戦うPvPvEモードも用意されている。
音楽面の作り込みにも触れておこう。本作には映画規模のオリジナル楽曲が用意されており,ライセンス楽曲のプレイリストもあわせて楽しめる。さらに配信者に向けたストリーミングモードにも対応しているという(配信時に楽曲の権利問題が起きないよう配慮された音源を切り替えられる仕組みがある)。
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世界のなかにはアーケードゲームなどのミニゲーム的なアクティビティも点在しており,レースの合間に立ち寄れる遊びも仕込まれている。
ここまで紹介してきたとおり,「Clutch」は「Forza Horizon」の血を引く運転体験を土台にしつつ,そこへ映画的な物語と,昼と夜が交錯するオープンワールドを重ね合わせた一作だ。3年半におよぶ開発期間を見込んだプロジェクトであり,リリースは2027年春が予定されている。
本作は当初Amazon Game Studiosとパブリッシング契約を結んでいたが,2026年2月にこれを離脱。現在はMaverick Gamesが自社でパブリッシングを手がける形になっている。これだけの規模を掲げるタイトルを,新興スタジオが自前の体制で世に送り出そうとしているわけだ。
レースゲームとしての確かな手応えを期待させる来歴と,物語作品としての野心。その両方をどこまで両立させてみせるのか。実機でドライブできる日を,楽しみに待ちたい。
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