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[プレイレポ]それは誰にとっての正義? それとも誰かが抱える闇?「黒洞々|KOKUTOTO」で,善悪の彼岸をたゆたう
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印刷2026/02/07 10:30

プレイレポート

[プレイレポ]それは誰にとっての正義? それとも誰かが抱える闇?「黒洞々|KOKUTOTO」で,善悪の彼岸をたゆたう

 整理整頓というものは,いつも人を裏切るところがある。カバンの中身が乱雑なら,当然目的のものは出てこない。しかし小まめに整理していたとしても,肝心なときに限って,名刺の代わりによれたレシートを引き当ててしまう。
 物事の境界をはっきりと分けるのは,思った以上に難しく,そして危うい一面がある。それはアドベンチャーゲーム「黒洞々|KOKUTOTO」が突きつけるテーマ──「善悪の彼岸」そのものでもある。

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 テンダゲームスが2026年1月30日にSteamでリリースした本作は,コンパクトながらいくつもの結末を楽しめるアドベンチャーだ。テンダゲームスとは「トライアングルストラテジー」で重厚な群像劇のシナリオのディレクションや演出を担い,「AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ」では捜査パートの実装を手掛けた実績あるデベロッパだ。
 そんな彼らが,大規模開発の「外側」で,あえて現代社会の暗部を扱ったゲームを世に問うたわけだ。

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「尊厳」という名のタイムリミット


 本作は,歌舞伎町を象徴するあのきらびやかなアーケードを「羅生門」に見立てている。いや,登場するのは「東京辺獄一番街」ゲートで,もちろんそのものではない。「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ……」いや惜しい。それはダンテの「神曲」に出てくる地獄の門だ。

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 「羅生門」とは,平安京のメインストリートである「朱雀大路」の最南端の門。平安時代末期,この門は修繕されることもなく,狐狸(こり)がねぐらにし,身寄りのない死体の捨て場となっていたという。(今昔物語集より)
 要は,この煌びやかな歓楽街のゲートは,現代における「追い詰められた人々が身を寄せる街」の入り口としても読み解ける。

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 本作の主人公である「男」の胸には,奇妙な穴が空いている。そこから彼の「尊厳」が絶え間なく流れ出し,男の逃れがたい死を予感させる。死が訪れる前にこの街を脱出したい──本作はそんな導入ではじまる。

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 この「尊厳」は,画面上部のバーで可視化されている。面白いのは,良きにしろ悪しきにしろ,何か「決断」を下すごとに,男は流れ出した尊厳をわずかに回復させることだ。何事も決断をしなければ始まらないし,それは人に力を与えてくれる。

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 ただし,闇雲に決断できるわけでもない。決断するためには,街の住人たちと会話することで,彼らの思考の一部である「心得」を集め,自分の中にある「善悪の彼岸」を超えなければならない。

「善悪の彼岸」はゲートとして表現されており、正しい選択肢を選ぶ必要がある。とくにペナルティはないので気楽にどうぞ
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 まあ「普通のアドベンチャーゲーム」的な言葉に置き換えれば,各地で手がかりやヒントを集めることで,ロックされていた重要な選択肢が選べるようになる,ということだ。
 ビジュアルは歌舞伎町,精神的には「羅生門」をモデルにしたゲートをくぐり,プレイヤーはさほど広くもない街をうろうろして,住人たちの言葉を集めていくことになる。

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 本作はテキストの積み重ねを楽しむ,いわゆる「読み物」としての性質が強いアドベンチャーゲームだ。そこがプレイヤーを選ぶとも言えるが,昨今はかえって遊びやすいと感じる人も多いかもしれない。


滲み出す「優越感」という名の歪み


 この街で出会うのは,医者,闇金,ヤクザ,配信者,宗教家といった,いかにも歌舞伎町……ではなく,東京辺獄一番街に居そうな12人の住人たちだ。

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 彼らとの対話は,どれも「それっぽく」思えるもので,その言葉の端々からは他者への歪んだ優越感が隠しきれない。この悪意の混じったテキストを,モニター越しに俯瞰した気になる愉悦が,本作の特徴と言えるだろう。

 しかし,本当に面白いのはここからだ。それらに対する主人公の受け答えや,決断を下す際の独白もまた,意図的に「浅い」ように感じる。相手を勝手に決めつけ,偏見を隠そうともしない彼の思考にもまた,ある種の歪んだ優越感が宿っているのだ。

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 と,そうやって物語の構造を分析してみせる筆者や,「なるほど,嫌だなあ」と納得している読者の皆さんは,果たして「善良な人間」と言えるのだろうか。誰かの愚かさや社会の罠を指摘して悦に浸っている時点で,我々もまた,このシステムの歪みを肯定している側ではないのか……。

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 また,そうした社会悪を断じるときにこそ,人間は他者に対して酷薄なふるまいを見せる。まあ「それがごく普通の人間の姿であり,人間の怖いところだ」というのが,かつて「羅生門」などの作品でエゴイズムの深淵を描いた文豪・芥川龍之介が突きつけた世界観だが。

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 そういう意味で,本作は紛れもないガチ芥川──いわば“ガチタガワ”と言っても差し支えない,知的で残酷な愉悦に満ちている。


どん底で出会う「晴れ晴れとした何か」


 本作の主人公の運命は,なかなかに泥沼な感じだ。行き倒れから金を奪い,その金で医者に頭を下げ,クスリを買って命をつなぐ。あるいは盗んだバッグをネタにヤクザから強請(ゆす)られ,配信者の承認欲求の餌食にされる。

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 正直に言って救いはない。読み進めても明るい気分になれるとは言い難い。だが,最後まで終えて,どん底まで突き抜けた先には,不思議と晴れ晴れとした何かが残った……かもしれない。

 そんな殺伐とした話の一方で,ゲームシステムそのものは驚くほど「優しさ」に満ちている。エンディングは全13種類用意されているが,収集した「心得」は周回プレイ時に引き継ぎが可能だ。一度条件を満たせば「彼岸の門」の演出すらスキップできる。

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 とことんプレイヤーの負担を減らそうとする,現代的な設計だが,その徹底した利便性は,筆者には作者の「今のゲーマーへの諦念」のようにも感じられてしまう。まあ,気のせいということにしておこう。

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 羅生門が描いた平安朝末期の飢餓。芥川がそれを綴った第一次大戦後の不況。そして,現代日本。 時代は変われど「人間のリアル」は変わらない。本作はそれを弁護するわけでも,声高に断罪するわけでもない。ただただ,そこに「ある」ものとして静かに置いてみせる。だからこそ,筆者は本作から,芥川龍之介やその作品群に対する,確かな愛を感じるのである。

外には,ただ,黒洞々たる夜があるばかりである。
羅生門 芥川龍之介(青空文庫より リンク

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    黒洞々|KOKUTOTO

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