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「黒川塾 七十四(74)」聴講レポート。eスポーツの運営やプロライセンスなどを議題に最前線の5人が語る
「黒川塾」は,黒川文雄氏が定期的に開催するゲーム業界人向け勉強会で,インディーズゲームやVR,ゲーム業界論など様々な話題を取り扱ってきた。
今回は「eスポーツの運営」を主題とし,eスポーツの認知度を上げ,いかに多くの人に見てもらうか,運営面における課題やプロライセンスについて,5人のゲストが持論を述べた。
●「黒川塾」第74回「eスポーツ・リーグ運営事情AtoZ」登壇者一覧
・主催・司会
黒川文雄氏:メディアコンテンツ研究家
・ゲスト
古澤明仁氏:RIZeST 代表取締役
筧 誠一郎氏:eスポーツコミュニケーションズ 代表取締役
大友真吾氏:CyberZ eスポーツ事業部 RAGE総合プロデューサー
森畑 崇氏:サードウェーブ eスポーツマーケティング部
齋藤隆行氏:DMM GAMES/ PUBG JAPAN SERIES エグゼクティブプロデューサー
![]() 写真左から,筧 誠一郎氏(eスポーツコミュニケーションズ 代表取締役),古澤明仁氏(RIZeST 代表取締役),黒川文雄氏(メディアコンテンツ研究家),大友真吾氏(CyberZ eスポーツ事業部 RAGE総合プロデューサー),齋藤隆行氏(DMM GAMES/ PUBG JAPAN SERIES エグゼクティブプロデューサー),森畑 崇氏(サードウェーブ eスポーツマーケティング部) |
eスポーツシーンの最前線に立つ5人のゲストが語る
最初の話題はゲスト5人の活動について。
森畑氏は「ドスパラ」のブランド名で知られるサードウェーブにて,eスポーツ関連の事業を手がけており,JeSU(日本eスポーツ連合)への加入や,PCのレンタルによるeスポーツ部の発足支援,「全国高校eスポーツ選手権」の開催など多角的な取り組みを行っている。
全国高校eスポーツ選手権は,毎日新聞社がメディアパートナーを務めるうえ,地方のTV局が地元高校の活躍を追いかける例も多いそうで,eスポーツの認知度は確実に上がっていると言えるだろう。
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齋藤氏は,「PUBG」こと「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」の日本公式大会「PUBG JAPAN SERIES(PJS)」を手がけ,eスポーツ振興と選手の社会的地位向上をテーマとしている。PJSの興業化を重視しているそうで,日本から海外へ選手を輩出することにより,日本eスポーツの下支えをしたいと考えているという。
それにはお金が必要となるが,「回線やPCの環境を平等にすることがeスポーツとして重要」という信念の元,参加する64名の交通費やファイトマネーも支出。さらにJリーグを思わせるリーグ制を導入し,強さに応じた入れ替えを行うことでレベルアップを図っている。
試合の中継においては,オブザーバーを多数投入することで見応えのあるシーンを逃さず探しだし,番組としての面白さも追求しているとのこと。
こうした取り組みはPJSのためだけのものではなく,選手のレベルを上げることで観客を増やし,他の大会も観てもらうことでeスポーツ全体のファンを増やしていきたいとの願いが込められているのだという。
また,PJSはサッポロビールやバーガーキングなど食品業界とのコラボも積極的に行っている。これらの事例では,eスポーツの観客はロイヤリティ(忠誠心)が高く,コラボ先の商品を積極的に露出してくれる傾向があることが分かったという。
ファミリーレストランのガストとコラボした際は,Twitterで多くの人が呟いたため,ガスト側も大いに喜んでくれたそうだが,ここにはレストラン業界とガストの事情が絡んでいる。
レストランは,基本的にメニューの写真をSNSに投稿してもらって宣伝効果を高めたいと考えているそうだが,ガストは低価格帯のメニューが多いため,思ったほどSNSでの露出度が高くない。しかし,PJSとコラボしたことにより,観客がTwitterで積極的にメニューの写真を投稿して,高い宣伝効果を得られたというわけだ。
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eスポーツ大会「RAGE」の総合プロデューサーである大友氏が所属するCyberZは,RAGEの主催やゲーム動画配信の「OPENREC.tv」,eスポーツ特化のイベント制作・マーケティングのCyberEの運営に加え,新事業として「PLAYHERA」を立ち上げ,統合型eスポーツプラットフォームを目指している。
PLAYHERAは,2019年9月からβテストが始まったeスポーツ用コミュニティプラットフォームで,コンセプトは「大会運営の救世主」だ。PLAYHERAのアプリ内で選手の呼び出しやチャットができ,使いこなせば大会運営の負担を軽減できるとのことで,将来的にはイベントの開催者に収益を還元するエコシステムの成立を目指していくとのこと。
また,RAGEにおいても,バーチャルYouTuberによる大会を行うなど,eスポーツへの興味が薄くても楽しめる施策により,eスポーツの観戦文化を作っていきたいと大友氏は語っていた。
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今やeスポーツシーンではお馴染みのeスポーツ専用施設となった東京・秋葉原にある「e-sports SQUARE」だが,古澤氏によれば,2011年に市川で開業した初日はお客が誰も来ないような状況だったそうだ。
eスポーツへの認知度が低かったことが理由だが,その後はeスポーツ情報の発信基地といわれるまでに成長したという。
氏は,eスポーツ施設の役割を「ゲームセンター文化におけるゲームセンターのようなもの」と語る。同じ価値観を持つ仲間が集い,心を通わせ,感情が動く体験をできる場ということだ。ゲーム自体はオンラインでも遊べるものの,こうした空間の価値は高いものがあり,どんなに技術が発達してもそれは変わらないと考えているのだという。
同店は「WarRock」「SPECIAL FORCE 2」など様々なゲームで選手として活動し,現在はeスポーツキャスターになった“stansmith”こと岸 大河氏や,「FIFA」シリーズで勇名を馳せるプロゲーマーのマイキー選手など,多くのeスポーツ選手がスタッフとして在籍したことでも知られている。
こうした傾向は現在も変わらず,eスポーツファンや選手からスタッフ応募の履歴書が寄せられているという。「給料も要らないから働きたい」という声が上がるほど彼らのモチベーションは高く,大会の運営を通じて名刺交換の仕方から音響・映像の知識などを学べるということで,e-sports SQUAREは「ちょっとした職業訓練所」(古澤氏)となっているそうだから驚きだ。
eスポーツ業界の発展には,こうした雇用を生み出す施設が重要であり,古澤氏も義務感を持って運営に携わっていると語った。
そんな古澤氏のRIZeSTは,様々な地方自治体からeスポーツイベントの開催を打診されることが多いという。基本的に予算は少なく,現地に出向くスタッフはわずか2人程度となるそうだが,彼らからノウハウが伝われば,地方自治体が自分たちでeスポーツイベントを開催できるようになる……,ということで金銭以上にeスポーツ振興を重視したうえでの取り組みというわけだ。
こうした経験を活かし,2019年7月には,eスポーツを制作する人材を育成する「RIZeSTアカデミー」を開講。様々な企業や自治体で未経験にもかかわらずeスポーツ事業にアサインされた人,専門学校へ通えない社会人などを対象に1週間ほどでノウハウを伝授しているという。
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eスポーツの普及を目指すeスポーツコミュニケーションズ,その代表である筧氏は,自身を「eスポーツの何でも屋」であると語った。
ある時,とある学校から「eスポーツ部を設立したいので,eスポーツとは何か解説してほしい」というオファーを受けて現地に赴いたところ,PTAの父兄400人が待ち受けており,すさまじい質問攻めにあったという。この時,eスポーツの認知度は上がっているとはいえ,親世代にはまだまだ不安があるのだと実感したのだそうだ。
筧氏は13年前からeスポーツについて啓発を行っているが,あと4〜5年は活動を続けなければならないだろう,と今後の状況を予測した。
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eスポーツ情勢の変化や,プロライセンスについて語られたパネルディスカッション
続いて,パネルディスカッションが行われた。最初の議題は「ここ数年で変化したこと」。
ここで森畑氏が挙げるのは,イベントの開催頻度だ。現在はSNSで情報が拡散するため,告知が広く行えるうえに参加も用意になった。視聴者が増えたこともありネット中継も増加,週末などは複数の大会が林立するため,全て視聴するわけにはいかないような状態にもなっているという。
大友氏はモバイルゲームを使ってのeスポーツが増えたと感じているそうだ。プレイヤー層もPCゲームとは異なり,中でもバトルロイヤル系タイトルでは,eスポーツということを意識していない人も多いという。こうした層をeスポーツ観戦にいかに引っ張っていけるかが重要であると述べた。
社会的地位の変化を挙げたのが古澤氏。銀行がeスポーツ事業の話を聞いてくれるようになったことに加え,選手たちの影響力も増加し,これに企業が注目することも少なくないのだという。
次なるテーマは「eスポーツ大会の運営について」。
古澤氏のもとには地方自治体からeスポーツイベントについての問い合わせが多いことは前述した通り。そうした際は,まずは実際に大会を観てもらうことにしているという。熱気を直に伝えることで,eスポーツ事業を推進するエンジンとなる人を育てるためだ。
経済的な利益のみを期待するのではなく,毎日地元の活性化を考えている人がエンジンとなったうえで,スポンサーサイドにいるゲーム好きの担当者と繋がらなければeスポーツ事業の成功は難しいそうで,まずはそうしたキーマンを捜すことが重要なのだという。
これに同意するのが齋藤氏だ。eスポーツの経済効果だけに注目する人も多いが,彼らとは一緒に仕事をしてもビジョンを共有することはできないそうである。PJSにおいてサッポロビールとコラボした際も,担当者がゲーム好きであったことが成功の一因であったという。
こうしたファンを育てなければならないのはスポーツと同様であり,身近にeスポーツがある世界を作らなければならない,と齋藤氏は語った。
そのために,親世代へアプローチすることの重要さを指摘するのが森畑氏。第1回 全国高校eスポーツ選手権では,決勝戦の会場で父兄に試合を見てもらったところ,「うちの子供は,部屋に籠もってゲームばかりやっていて心配になったが,ステージ上で応援されているのを見て凄いと思った」とeスポーツに対する認識も変わっていったのだという。
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最後のテーマはプロライセンスについて。プロライセンスを発行するJeSUの会長・岡村秀樹氏は,東京ゲームショウ2019の発表会において「プロライセンスは形骸化してしまうものだが,ある種のステータスであると考えている」と語っている。こうした状況下でプロライセンスにこだわる必要があるかどうか,ということだ。
筧氏はステータスとしてのプロライセンスの効用を語る。eスポーツとしてメジャーではないゲームの場合,選手がどれだけ活動しても認められにくいが,プロライセンスを取ることにより,選手の家族をはじめとした周囲の人々に理解を得られたこともあるという。
一方,古澤氏はプロライセンス制度発足時の説明が充分ではなかったうえ,現状ではメリットが少ないと指摘する。ただ,実際のスポーツ選手のように,心技体揃った競技者としての資質や,ドーピングの誘惑をはね除けるだけの知識を持つことを証明するのがプロライセンスであるなら,取得者も増えるのではないかと語った。
齋藤氏が携わるPJSでは,プロライセンスの有無よりも「一般視聴者を魅了するプレイができるかどうか」「感動を与えられるか否か」に重きが置かれているという。人を感動させるのがスポーツであり,eスポーツもこうした領域に至っている,と齋藤氏はPJSにおける実例を挙げる。
PJSを病室で観戦する重病の児童に向けて,児童が好きなチームのユニフォームとサインを贈ったところ,児童に喜ばれただけでなく,選手のモチベーションも大いに高まったという。また,LagGamingのSkeeyy選手が急病で入院した際は,代役となったoka007選手がユニフォームを受け継いで健闘を誓っている。
どちらもスポーツを思わせるエピソードであり,eスポーツが感動を与えているというわけだ。
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eスポーツ運営にまつわる様々な話題が展開した今回の黒川塾。e-sports SQUAREにおける人材の成長,そしてPJSでのコラボの成功と観客のロイヤリティの高さなど,明るい話題も多いように感じられた。eスポーツの認知度を向上しなければならないという課題はこれまでと同様ではあるものの,少しずつ成果は上がっているという印象だ。
それも5人のゲストをはじめとした関係者の尽力あってのことというわけで,eスポーツのこれからにさらに期待が膨らむ講演であった。
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