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ゲームの中にどのような感情を込め,それをどう伝えるのか。Mad Head Gamesのアーティストが語った講演をレポート
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印刷2018/04/21 15:20

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ゲームの中にどのような感情を込め,それをどう伝えるのか。Mad Head Gamesのアーティストが語った講演をレポート

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Vid Rajin氏
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 日本での知名度はやや低いかもしれないが,セルビアにMad Head Gamesというデベロッパがある。カジュアルなアドベンチャーや,ヒドンオブジェクト系(画面内に隠れているものを探す)のタイトルを作ってきた会社だが,次回作では大手のWargaming.netがパブリッシングを担当することが発表されており(関連記事),今後は日本での認知度も上がっていくかもしれない。
 そんなMad Head Gamesでコンセプトアーティストを務めるVid Rajin氏が,クロアチアで開催中のゲーム開発者向けイベント「REBOOT Develop 2018」で講演を行った。「Emotional Side of Video Games」と題された講演は,ゲームの中でプレイヤーが抱く「感情」をどのように扱うべきなのかを,たくさんのアドベンチャーを手がけてきたMad Head GamesのRajin氏が語るものだった。

「REBOOT Develop 2018」公式サイト



ゲームと感情


 小さい頃からゲームが好きだったRajin氏は,やがて美術を学ぶようになる。大きな衝撃を受けたのは,クリムトの絵画「Life and Death」を見たときで,絵の前に15分以上立ち尽くし,気がつくと涙がこぼれていたという。
 Rajin氏はこの体験を「生きることの楽しさと,生命は有限であることの気づきの対比」によるものだと分析する。

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 Rajin氏は,この「生きることの楽しさ」と「生命は有限であることの気づき」の対比は,ゲームにおいても変わらないという。多くのゲームは楽しさだけでなく,それとは少し異なる感情を内に秘めており,それらをうまくプレイヤーから引き出すことが,彼らのゲームの開発では重要になる。
 とはいえ,実際にゲームを作る段になれば,作業全体は実に混沌とし,必ずしも狙ったとおりにはいかない。ここでRajin氏は,「感情はいくつかに分類できる」と述べ,自らの分類に基いてゲームにおける感情を分析を始めた。


感情:楽しさ


 まず最初は,「楽しさ」「喜び」である。そもそもゲームは楽しいものだが,その根源が何かを探れば,それは,発見の楽しさだ。例えば「スーパーマリオ」は画面右に向かって移動し続けるしかないが,右は常に新しい世界であり,逆戻りできないことは,より遠くへ探索し続けるしかないということでもある。

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 発見の楽しさは,どんなゲームにも満ち溢れている。隠されたアイテムやドアだけでなく,コインを取ったらこんなことが起きたというギミックなど,ゲームは発見の宝庫だ。
 そのうえで,発見の楽しさとは別に「再発見」の楽しさもあるとRajin氏は指摘した。
 これはつまり,古い作品をもう一度遊ぶことで,「そういえばこんなステージがあった」「こんなズルい罠があった」などと再発見することだ。この楽しさは,多くのオールドゲーマーに分かってもらえるだろう。

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 さらに,「前進する楽しさ」もある。いわゆる進捗感だ。
 ステージを次々にクリアすることで「先に進んでいる」感覚を得たり(マップの色が変わることなどで,この感情は強調される),RPGでキャラクターを育てて「強くなっている」という感覚を得たりなど,この楽しさは,幅広いジャンルのゲームで見られる。
 Rajin氏がここで改めて強調したのは,前進している楽しさは,コンプリートできそうだという感情をプレイヤーに抱かせ,プレイヤーをゲームの最後まで引っ張っていく動因になるということだ。

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 そして,ゲームにはもちろん,「勝利の楽しさ」がある。
 シングルプレイのゲームなら,エンディングにまで到達することは勝利する楽しさだ。マルチプレイのゲームなら,勝つことの楽しさは改めて言うまでもないだろう。
 とはいえ,ここにはもう1つ重要なポイントがある。例えば「Overwatch」では,マッチが終わったときに「Player of the Game」が選出される。チームが勝った・負けただけでなく,マッチで最も活躍したのは誰かが選び出されるわけだ。
 Rajin氏はこのシステムを,自分がベストワンであることの楽しさをもたらすだけでなく,味方はもちろん,敵チームもそれを賞賛してくれるという楽しさがあるという。

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感情:悲しみ


 ゲームでは,「悲しみ」の感情もまた有効に活用できるとRajin氏は語る。
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 最初の例が,「ノスタルジー」だ。遊んでいるゲームが楽しければ楽しいほど――プレイヤーがどんなにゲームに集中していたとしても――そのゲームを遊んだときのことを記憶する。ファミコン世代がゲームの思い出だけでなく,友人の家に集まって一緒に遊んだときのこと合わせて記憶しているように,ゲームを遊んだ自分自身をプレイヤーは意外と覚えているものだ。

 そして,同じゲームを(あるいはリメイクを)遊んだとき,我々はかつてそのゲームを遊んだときのことを思い出すが,遊んだときの自分は二度と戻ってこない。
 この,いわば「体験の一回性」とでも言うべきものが,ゲームに対して強い影響を及ぼすことがあるとRajin氏は指摘した。

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 コンテンツとして悲しみを使うこともできる。その例が「喪失の悲しみ」だ(代表例としてRajin氏は,「The Last of Us」「Mass Effect」シリーズを挙げた)。
 ゲームではしばしば,プレイヤーとキャラクターの間に絆のような関係性が発生する。そのキャラクターが失われたり,あるいはキャラクターが何か大きな喪失を感じたりすると,プレイヤーもまた悲しみの感情を抱くことになる。

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 また,「過ぎ去った時間」も利用できる。時間の経過によって不可逆的に何かが変わってしまったというのは,ときに悲しみの感情を引き起こす。もっとも,興味深いことに,ここには「発見の喜び」も隠れている――プレイヤーが「××っていうのは,もしかして過去における◯◯なのか!」と気づく瞬間は,まさに発見の喜びだといえる。
 そしてその発見により,プレイヤーは何かが永遠に変わったことの悲しみが強調されるのである。


感情:恐怖


 「恐怖」は実に興味深い感情だとRajin氏は語った。
 もっとも分かりやすい恐怖が,いわゆる「原始的な恐怖」だ。人間にはどこかマゾヒスティックなところがあり,「怖い体験をしてみたい」という欲求を持っている。それを利用できるのである。
 とはいえ,恐怖には体験してみたいものと,そうでないものがある。Rajin氏はかつて「金を出せ」と銃を突きつけられたことがあるが,そのときに感じた恐怖は,ゲームにおける恐怖とはまったく異なったものだったという。現実に自分の命が危険に晒されるような恐怖を体験してみたい人は,それほど多くない。
 そういう体験をしたRajin氏は,ゲームの中の恐怖でも現実の恐怖と似たアドレナリンの高まりを感じるとも述べた。ゲームという自分が安全な状況にあってもなお,ゲームの中の恐怖はリアルな恐怖のいくばくかを模倣できるわけだ。

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 続いての恐怖は「不安」。これもまた,いささか原始的な感情だが,ゲームでは「こうなったらおしまいだ」という形でプレイヤーに作用する。
 例えば圧倒的に強力なエイリアンに追われ,プレイヤーにできるのは隠れることだけ(エイリアンに見つかったら死ぬしかない)という状況では,プレイヤーは「こんなことをしたら,見つかるかもしれない」「どうか気づかないでくれ」といった,さまざまな不安と戦い続けることになる。

 また,喪失の悲しみと同様,「喪失の恐怖」もある。最もうまくやった作品としてRajin氏は,ストレスの蓄積でキャラクターの関係がギスギスしてくる「Darkest Dungeon」を挙げ,精神的に追い込まれることでパーティが雪崩式に崩壊するこの作品は,喪失の恐怖を見事に描いていると述べた。

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感情:嫌悪


 「嫌悪」という感情は,ゲームではとても頻繁に見られるとRajin氏は指摘した。
 最も明白なのは,「敗北しつつあるときの,(敵に対する)嫌悪感」だが,同様に「勝ちつつあるときの(敵に対する)嫌悪感」もあるという。これは,敵に対して「どうだザマアみろ」と感じるもので,オンラインの対戦ゲームのファンなら双方の感情が大量に渦巻く状況を体験しているだろう。

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 また,「登場人物に対する嫌悪」として,ゲームに取り込むこともできる。最も一般的な手法としては,「憎き敵」を設定することで,Rajin氏はこの例として「Grim Fandango」の悪役を挙げた。


感情:怒り


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 「怒り」もまた,ゲームの中で頻繁に発生する感情である。
 最初に説明されたのが「煽り」で,Rajin氏は「DARK SOULS III」をプレイしたとき,「最初のボスと戦う段階でこの感情をたっぷりと味わった」という。
 「やってられるかこんなゲーム!」と(割と本気で)叫びながらずっと遊んでしまうのは,洋の東西を問わないようだ。

 また,「攻撃性」としても怒りは表現できる。これはキャラクターの特徴になることが多く,そのままキャラクターの個性ともなり得る。

 最後に「復讐」がある。下のスライドの左側の人物は復讐のために動いているが,表情は常に怒りを秘めている。復讐は怒りの感情なのだということを作り手が理解し,それをゲーム内できちんと表現することで,プレイヤーは正しく感情を受け取れるという。
 このことは,「Angry Bird」のようなカジュアルなゲームでも分かる。同作はゲームのコンセプトそのものが報復で,ゲームのすべてがその感情に基いて作られているとRajin氏は述べた。

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プレイヤーに感情が伝わらないときは


 このように,ゲームの中にはさまざまな感情が存在するが,制作側が意図した感情がプレイヤーに伝わらないこともある。その場合は,どうしたらいいのか? Rajin氏は3つの方針を示した。

・はっきりと表現する
 「The Elder Scrolls V: Skyrim」の主人公はドラゴンボーンで,その雄叫びで破壊をもたらせる。こうした,「絶叫して物が壊れる」といった分かりやすい表現を使って,これは怒りなのだなと直感的に理解させることができる。
 さらに,グラフィックスのトーンを変えて,プレイヤーが気づきやすいようにするのも効果的だ。

・ブレない
 例えば「未知のものを探求するゲーム」なら,そこからブレではいけない。未知のものを探求するゲームだと理解したプレイヤーは,ゲームに発見の楽しさを求めるはずなので,ゲームの方針がブレるとプレイヤーにうまく感情が伝わらなくなる。

・誠実であれ
 ゲームは物語を伝えるための強力なメディアであり得る。だからといって,こういう仕掛けをして,こういう盛り上げ方をすれば,プレイヤーは大泣きするに違いないなどといった計略を用いても,多くのプレイヤーのその意図を見抜き,シラけてしまう。プレイヤーは賢い。彼らを見下してはならない。

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 さらに,ゲームデザインではなく,技術的な問題によって伝えたい感情が伝わらないこともある。その原因と対策は以下のとおりだ。

・バグは修正しろ
 どんなに感動的なセリフでも,そのキャラクターが壁に埋まりながらしゃべっていては意味がない。

・要求水準を下げろ
 「The Witness」が代表例。緻密なポリゴングラフィックスでなくても,伝えることができる。

・プレイヤーのできることを減らせ
 「Papers, Please」が代表例だが,プレイヤーのできることを,自分が表現したいことに必要なものだけに徹底的に絞ることが重要。

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 そのうえで,さらに厄介な問題があるとRajin氏は述べた。それは開発者自身が,どんな感情を伝えたい作品であるのかを忘れてしまうことだ。これに対しては,2つの指針が示された。

・開発における感情の重要度を上げる
 「Cuphead」がクラシックなアニメーションを使ったノスタルジーの感情表現に集中したように,プレイヤーにどんな感情を抱かせるかはゲームにおける中心的な課題になる。その重要性をチーム内で徹底する

・プレイヤーのことを考える
 「プレイヤーにこんな感情を抱かせよう」ではなく,「これによってプレイヤーはどんな感情を抱くだろう?」という視点を持つ。

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 最後にRajin氏は「とはいえ感情というものは複雑で,ゲームにこれを取り込むのは簡単ではない,とよく指摘される」と告白し,この指摘に対しては,「難しいですね」と答えるしかない」と述べる。
 現実世界の感情は,単純なものではない。そしてそれは,ゲームの中でも単純化できない。「ゲームだからこれでいいでしょう?」は,感情という点において通用しないのだとRajin氏は語る。難しい問題に,簡単な処方箋は存在しないのである。

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 とはいえ,ゲームにおける感情問題は難しいので,そもそも避けてしまえばいいということではない。
 「なぜなら,我々がゲームを遊ぶのは,そこで何かを感じたいからであり,我々がゲームを作るのは,我々が感じていることを,プレイヤーと共有したいからだ」(Rajin氏)。
 そしてまた,「ゲームの中で感情がうまく表現できたときこそ,没入感が生まれる」とRajin氏は語る。我々は20年前に遊んだゲームのことを細部まで覚えているわけではない。だが,そのゲームを遊んだときの「感情」は,20年経っても忘れない

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 講演終了後,質疑応答の代わりに「聴衆の体験してきたゲームにおける感情」を語るコーナーが設けられたが,マイクの前に立った誰もが,「こんなゲームで,こんな感情を動かされた」ことを熱く語っており,そのことこそが,ゲームにおける感情の重要性を,なにより物語っていたように筆者は思う。

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