北米時間の2016年4月27日〜29日,カリフォルニア州サンノゼの中心部にあるSan Jose Convention Centerにおいて,今年で第3回を迎える
「Silicon Valley Virtual Reality Conference & Expo 2016」(以下,SVVR2016)が開催されている。
Oculus VRの
「Rift」,そしてHTCの
「Vive」というVR(バーチャルリアリティ)対応のヘッドマウントディスプレイが正式に発売され,新たな産業として躍進が期待されているVR市場。立ち上がりはゲームが市場を牽引していくと思われているだけに,4Gamerとしても大きく注目している。
これまで一般的とは呼べなかった新市場だが,ソフトウェアはもちろんのこと,入力デバイスから撮影機器に至るまで,新旧メーカーが多数の新製品をリリースしており,北米だけでなくヨーロッパや中国など,150社を超えるメーカーがイベントに参加したという。2年前の第1回は,参加者がわずか20人ほどの小さなイベントだったそうだ。
さて,
4月26日にGamesIndustry.biz Japan Editionに掲載された記事,
「2016年は,VRを『売る年』ではなく『体験させる年』だ」でも述べられているように,VR対応ヘッドマウントディスプレイの出足はあまり活発ではなく,その大きな原因とされているのが供給不足だ。北米では1300万人が2016年内にVR関連機器を購入する予定だが,発売が予定されているSony Interactive Entertainmentの
「PlayStation VR」,そしてすでにリリースされたSamsungの
「Gear VR」を含めても,720万台しか供給できないだろうと試算されている。
そのうちの約半分がGear VRになると見込まれているが,そのため,より多くの消費者に本格的なVRをいかに体験してもらい,市場拡大につなげていくのかということが大きな課題になりつつある。
ハードウェアの供給不足はソフトウェア開発者にも影響を与え,Viveのバンドルソフトとしてある意味で優遇されているOwlchemy Labsの
「Job Simulator」でさえ,販売価格を下げなければならなくなったというのは,4Gamerの連載記事
「奥谷海人のAccess Accepted第496回:VRゲーム市場は立ち上がるか?」でも紹介したとおりだ。
クリフトン・ドーソン(Clifton Dawson)氏
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「マネタイズのことを今の段階で考えるのは良くない。資金回収のことは忘れ,より多くの消費者にアプローチできる方法を持つパートナーを探すべきだ」と語るのは,SVVR2016の初日に行われたカンファレンスで壇上に立った,Greenlight VRの
クリフトン・ドーソン(Clifton Dawson)氏だ。ドーソン氏はゴールドマン・サックス証券が試算した,VR対応ヘッドマウントディスプレイの供給が順調に進んだ場合のVR市場の規模は1100億ドルだが,遅れた場合は150億ドルになるという結果を例に出し,実に7.3倍の見積もり差のある不確定要素の大きい市場であるだけに,利益のみを追って市場に参入するのはやめるべきだと話した。
ステファニー・ヤマス(Stephanie Llamas)氏
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ドーソン氏の意見については,調査会社のSuperDataでVR市場を担当する
ステファニー・ヤマス(Stephanie Llamas)氏も賛成しており,VRが将来的に優良産業になるのは間違いない,としながら,現時点でElectronic ArtsやActivisionといった大手ゲームメーカーのほとんどがVRゲームへの参入に慎重になっていることを紹介した。
さらに,両社がそれぞれPopcap GamesとKing Digitalを買収したことを考えれば,「たとえ出遅れても,買収によって市場への影響力を強めることはできる」と述べた。VRゲームを開発するインディーズ開発者や中小メーカーにとって,大企業に高額買収されるのは1つの夢かもしれないが,ヤマス氏は「市場として安定するまでは生き延びることを優先させ,この2〜3年は投資を回収することを前提にビジネスを展開すべきだ」と述べる。
SuperDataが行った調査によると,年内にVR対応ヘッドマウントディスプレイを購入したいとする,いわゆるアーリーアダプターの平均年齢は39歳。1週間に5日は利用するつもりだが,デバイスやソフトの購入にあてられる費用として用意できるのは最高で379ドルだとしている。これは,RiftやViveはもちろん,最も低価格帯にあるPlayStation VRの販売価格も下回る。
ヤマス氏によると,需要の高さは想定を上回っており,VR市場のターニングポイントになるのは,ハードウェアの売上が,ソフトウェアのそれを下回ったとき。つまり,ハードウェアの生産力が向上して単価が下がり,市場に浸透する時期となる。SuperDataでは
2018年から2019年中にそうした状況になるだろうと考えている。2019年までの期間がVR市場にとってはいわば正念場であり,それ以降は大きく伸びるだろうということだ。
ヤマス氏の見解が正しいなら,VR関連のハードウェアおよびソフトウェアメーカーは2019年までをどのようにサバイバルしていくのかが最大の課題になる。果たして予想どおりVR市場はブレイクするのか。今後数年にわたって,注目していく必要があるだろう。