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[TGS 2021]「VR元年は2020年で終わり,2021年は2年目」。VR市場の現状を語るパネルディスカッションの模様をレポート
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印刷2021/10/02 23:45

イベント

[TGS 2021]「VR元年は2020年で終わり,2021年は2年目」。VR市場の現状を語るパネルディスカッションの模様をレポート

 「VR元年」が毎年のように叫ばれて久しい半面,Oculus Quest 2の登場によってVR市場は一気に広がりを見せている。果たして今後,どんなVRゲームが注目を集め,何がきっかけとなり市場が大きく花開くのかという点について,TGSフォーラム「VRが変革するゲームビジネスの未来」と題したパネルディスカッションが開催されたので,その模様をお届けしたい。
 登壇したのは加藤直人氏(クラスター代表取締役),國光宏尚氏(Thirdverse代表取締役CEO / Founder),岸上健人氏(MyDearest代表取締役CEO)の3名。モデレーターは松元英樹氏(日経BP 日経クロストレンド副編集長)だ。まずはそれぞれ,登壇者の自己紹介を簡単にまとめてみたい。

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・加藤直人氏
 京都大学理学部大学院を中退してから3年のあいだ引きこもりになっていた加藤氏は,「家からイベントに参加したい!」という思いで集まるためのプラットフォームとしてのクラスターを作成。
 クラスターはクリエイターキットというSDKを有し,Unityを用いることでユーザーが自分のワールドに様々なイベントやコンテンツを設置できる(もちろんゲームも設置可能だし,カフェやバーといった施設を運営することも可能)。ワールドは5000近く公開されているが,そのコンテンツはすべてユーザーが作っている。
 クラスターでは法人が主催となるイベントも数多く開催されており,最近では渋谷区公認の「バーチャル渋谷」が有名だ。またポケモンのテーマパーク設置や,RAGEのバーチャル開催なども行われてきた。

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・國光宏尚氏
 元gumiの國光氏は,VRゲームからメタバースを作っていく「Thirdverse」を新たに設立。「Third Place(学校や職場などに次ぐ第3の場所)」の成立とメタバースを1つのテーマとしている。
 スタッフは東京オフィスとサンフランシスコオフィスで合計65名前後。すでに「Sword of Gargantua」をリリースしており(こちらの作品はOculus Quest 2発売以降,とくに好調とのこと),いまも東京で1本,LAで1本の新作を作っているそうだ。新作の発売予定は来年で,秋口に情報公開が始まるとのこと。

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・岸上健人氏
 岸上氏が率いるMy DearestはVRゲームの制作会社だが,一般的にアクション系のゲームが多いVRゲームにあって,オリジナルIPかつ物語性が強い,アドベンチャーゲームを制作していることで知られる(「東京クロノス」「ALTDEUS: Beyond Chronos」など)。こちらもOculus Quest 2発売以降,売れ行きがぐっと伸びたようだ。
 これまで制作してきた作品は世界観レベルで連続性を有しているほか,それぞれの作品はVR以外にも小説その他でのメディアミックス展開がなされている。
 最新作「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」はTGS2021で発表されている。

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VR市場の現状


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 パネルディスカッション最初のテーマは,「20年後半〜21年前半のVR市場をどう評価するか?」という,ある意味で現場の確認となるテーマである。

 この点について加藤氏は「コロナ禍の影響もあり,『家から出ない』人が増えた結果,『家でVRコンテンツにふれる』というニーズからユーザー数が増加した」と指摘。VRコンテンツに触れる人の規模は一気に増大しており,もはや「VR元年は終わった」と語った(もっともコロナ禍はVRにとって良いことだけでなく,ロケーションベースVRは大打撃を受けたという側面もある)。

 國光氏は「Oculus Quest 2がゲームチェンジャーになった」とする。Oculus Quest 2は発売後8か月で500万台ほど売れており,年内には1000万台超えをするのではないかと国光氏は予測。このペースはPS5に匹敵するものだ。
 また現状でVRゲームのミリオンセラーは6本。そのうち最も売れている「Beat Sabre」は500万本を超えており,「良いゲームがたくさん売れる」市場として成り立っている。
 加えて,2022年にはPS5向けの新型VRシステムが登場。中国においてもByteDanceがHMD産業に参入したことから,Tencent,Netease,Alibabaといった中国のテックジャイアントがこれに続くのではないか(例えばHTCを買収するなどして)というのが國光氏の予測だ。
 一方,現状のVRコンテンツ市場としては北米が8割程度を占めており,日本は5%程度に過ぎない。このため国内市場の盛り上げが重要な目標になると國光氏は指摘した。

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 岸上氏は,加藤氏の「VR元年は終わった」という言葉を受け,「VR元年は2020年に終わり,2021年は2年目にあたる」と指摘。日本市場についても,Facebookが日本を重要な市場とみなしていることもあり,今後は日本市場における開発会社の増加,ユーザーの増加がポイントになると語った。


メタバースとゲーム


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 続いてすっかりバズワードとなった「メタバース」とVRゲームの関係について。

 これについては國光氏が「メタバースという概念には,4つのアングルがある」と指摘した。以下,それぞれの視点を見てみよう。

・次世代SNSは何か
 SNSはネットビジネスのなかでも巨大な産業となっている。その一方,技術が進歩するに従い,従来とは違うSNSが盛り上がってきたという流れもある(テキスト時代はTwitterやFacebook,写真の流通力が高まるとInstagram,動画が手軽になってTik Tokといった流れ)。そしてここには通信速度の向上という点も大きく影響している。
 ここにおいて5G接続による通信速度の高速化がなされていること,そしてSNSが扱うコンテンツがどんどんリッチになっているという流れをあわせると,次世代のSNSとしてメタバース的なものが見えてくる。

・ゲーム自体のSNS化
 これまでSNSにおいては,リアルグラフ(リアルな友人たちとつながる)とバーチャルグラフ(バーチャルな趣味でつながる)が大きな問題となってきたが,結果を見るとリアルグラフを主体としたSNSが市場を席巻してきた。この理由として國光氏は,「バーチャルグラフでは話題が続かない」ことを指摘する。
 だが,これまでことごとく失敗してきたバーチャルグラフ主体のSNSにあって,オンラインゲームは唯一の成功例となってきた。オンラインゲームは参加者に目的があり,ゲームという共通の話題があるため,バーチャルグラフ主体のSNSが持つ「話題が尽きる」という問題を克服しているからだ。
 とはいえ,これまでオンラインゲームはそれなりにハイエンドな環境が必要だった。だが昨今,それがスマートフォンやSwitchといった手軽な環境に降りてきている。結果,「ついにバーチャルグラフで成功するSNSが生まれそう」な機運がある,と国光氏は語った。

・VRの持つ「プレゼンス」(そこにいる感)
 コロナ禍によりZOOMなどによるオンラインミーティングが普及した結果,それによってできることとできないことも分かってきた。例えばZOOMを介して宴会をする「ZOOM飲み」が一時期流行ったが,國光氏は「結局面白くないので,普及しなかった」と指摘する。
 ZOOMで飲み会を開いても面白くない理由として,國光氏は「プレゼンスがない」点を挙げる。ZOOMではレイテンシ(遅延)が発生するため,ノンバーバル(言葉に依存しない)なコミュニケーションが成立せず,リアルだとノンバーバル・コミュニケーションでカバーしている領域が伝わらないというわけだ。
 だがFacebookが提供する「Horizon Workroom」のようなVR環境ならば,この問題は解決する。國光氏は「これによって,より強い人間関係が構築できる可能性がある」と語った。

・ブロックチェーン
 これについて國光氏は「話すと長くなるのだけれど」と前置きしつつ,「バーチャル空間上に経済圏が作れるようになった」ことが重要であると指摘した。

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 この4つの視点が交わった先に成立するのがメタバースだが,現状ではこのすべてを全部同時に見ている人がおらず,またそれぞれの視点においてそれ専門の人々がいるため,「メタバースとは何か」という点が離散しがちだと國光氏は語る。あくまでメタバースは「その全部」というわけだ。

 岸上氏は「現状ではメタバースには定義がなく,3D空間の上に集まって何かをすることを漠然と指している」と指摘。そのうえで「コミュニケーションだけだと飽きるが,ゲームだと目的があるから飽きない。あくまでゲームが先で,コミュニケーションはあとからついてくる。なのでメタバースはゲームから生まれてくるというのが,大きなトレンドになるだろう」と語るとともに,「SNSとゲームが一体化した,みんなで遊べるVRゲーム」制作に対する意欲を示した。


VRとリアルの連携


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 続いてはVRとリアル世界の連携について。3人のなかで最もこの論点に近い加藤氏は「難しい問題」とする。

 加藤氏は,「フィジカルの消費が増える方向に対してVR技術が使われるのでは,つまらない」と語る。それでは広告宣伝技術でしかないというわけだ。
 加藤氏としては,人類が次のステップに進むためには質量を捨てる必要があり,「そうは言っても簡単には質量を捨てられない人類の,質量との戦いが,リアルとVRの接続だろう」と指摘した。
 確かに加藤氏はVR渋谷といった形でリアルとVRを接続する試みにも参画しているが,これはあくまでVR世界には歴史がないのでリアルを持ってきただけであって,加藤氏としては「バーチャルなものをVR世界で作って,売買することで,世界が成り立ってほしい」「リアルでは服を持っていないが,バーチャルな服ならたくさん持っている」というのが理想と語った。つまりリアルとVRの接続は,あくまで過渡期なのである。


「キャズムは我々かもしれない」


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 続いて「VRがキャズムを越えるための課題」について語られた。

 この点について國光氏は,「もはや課題と呼べるものはそれほどない」と語る。Oculus Quest 2は性能的にも十分だし,値段も安く,ソフトも面白いものが揃ってきている。キャズムを越えるのは時間の問題であろうし,北米ではすでに越えたと言っても構わないかもしれない,というのが国光氏の見解だ。ただしHMDの内部は他人には見えないため,VRゲームを実況配信できる仕組みやそういったマーケティングは必要になるだろう,とも予測している。
 むしろ問題となるのは日本国内におけるキャズムであり,そのためには「我々が頑張って,みんなが遊びたくなるゲームを作らなくてはならない」と語った。これに対し岸上氏は「僕ら自身がキャズムかもしれない」と場を沸かせつつ,オリジナルのゲームで日本市場を活性化したいと語った。

 一方,加藤氏はコンテンツの問題として,アバターという軸もあると指摘。
 現状ではお気に入りのアバターをInstagramに投稿してもまるで反応は得られず(Twitterでは大いに反応があるにも関わらず!),親族にアバターの画像を見せると「気持ち悪い」と言われることすらあるという。そういう意味で,もっとスタイリッシュなアバターが必要になってくる可能性があると加藤氏は指摘する。

 ちなみにハードウェア側の課題としては,國光氏は「ゲームは現状あるハードウェアにあわせて作るもの」としつつも,現状のOculus Quest 2でMMORPGを作ると同時に表示できるプレイヤーの数がせいぜい10人程度にとどまるため,「マルチを作るとなると性能向上は必須」と語った。
 だがその一方で,あまりに早く性能が向上すると,コンテンツ制作費用も急激に上昇するという問題もある。岸上氏は「現状は日本のベンチャーが戦いやすい状況」と指摘した。


これから10年先を目指して


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 最後に,今後の目標について。

 加藤氏は「コミュニティには目標があったほうがいい」とし,「バーチャル内で目標を共有し,ものの売買が組織的にできるようにしていきたい」と語った。そしてこれによってバーチャル空間内に人生を移していく人が増えていけば,やがて(現状のFacebookのように)10億人以上がそのような生き方をするようになるだろうし,クラスターはそのような規模のバーチャルSNSを目指していくと語った。

 國光氏は「ソード・オブ・ガルガンチュアでスタート地点に立てた」と語るとともに,「来年発表する2作品でどちらもミリオン超えを果たすことで,VRゲーム産業におけるTier1企業になる。次に,パズドラやモンストのような,歴史に残るVRゲームを作る。それからソードアート・オンラインのようなVRMMORPGへと進み,そこにブロックチェーン技術も組み合わせることで,レディ・プレイヤー1のオアシスのような世界を作る。これを10年以内にやりきる」という計画を示した。

 岸上氏もまた,「ミリオンを超える」「FFやドラクエ,パズドラやモンストのような作品を作る」ことを1つの目標としつつ,それによって日本にVRブームをもたらしたいと語った。またマルチプレイで楽しめるVRゲームは現状では北米が中心となっているので,そこに日本企業が進出するという目標も語られた。

 様々な分析や展望が語られたパネルディスカッションだったが,冒頭でモデレーターの松元氏が指摘したように,DVDしかり,ホームサーバーしかり,Blu-rayプレイヤーしかり,ゲームは家庭に先端技術をもたらす役割を果たしてきた。
 VRが普及するにあたっても,ゲームが中心的な役割を果たす可能性は高い……そんなことを思わせるパネルディスカッションだった。

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