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印刷2025/12/26 12:00

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「オホーツクに消ゆ」の内幕から,「ドラクエ」を作りながらライターもこなす超人ぶりまで。創作の原点が語られた,塩崎剛三氏×堀井雄二氏トークイベントレポート

 SBクリエイティブは2025年12月20日,東京・ヨドバシカメラ マルチメディアAkibaにおいて,トークショー「ファミ坊(塩崎剛三)とゆう坊(堀井雄二)クリスマストーク!in Yodobashi Akihabara!」を開催した。
 塩崎氏はパソコン雑誌「ログイン(LOGiN)」やゲーム雑誌「ファミコン通信」の元編集長として知られる人物だ。氏が「ログイン」時代から「ファミ通」立ち上げまでの狂騒の日々を綴った著作「198Xのファミコン狂騒曲」が2024年に発売され,大きな話題を呼んだのは既報の通り。

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 書籍「198Xのファミコン狂騒曲」の発売記念イベントが,2025年2月16日に開催された。著者の塩崎剛三(東府屋ファミ坊)氏のほか,水野震治(水野店長)氏,上野利幸(ゲヱセン上野)氏,荒井清和(荒井ちゃん)氏ら雑誌制作の関係者も登場し,多彩なエピソードを披露した。

[2025/02/28 11:00]

 そんな塩崎氏の最新作であり,1982年〜1996年の業界動向を記録した「199Xのウッドボール通信」が2025年12月20日に発売された。これを記念して行われたのが今回のトークショーだ。「オホーツクに消ゆ」をはじめとする数々のプロジェクトでタッグを組んだ塩崎・堀井両氏が,当時を振り返るファン垂涎の趣向である。
 司会は,リメイク版「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ 〜追憶の流氷・涙のニポポ人形〜」PC / Nintendo Switch)でシュン役を演じた後藤ヒロキ氏が担当。会場に詰めかけた多くのファンが,次々と飛び出す貴重な証言に聞き入った。本稿では,第一部の様子をレポートする。

写真左から,堀井雄二氏,後藤ヒロキ氏,塩崎剛三氏。後藤氏は「子供のころから『オホーツクに消ゆ』を遊んでいるし,声優になってシュン役をやらせてもらえるとは思ってもいなかった。作品を産んでくれてありがとうございます」と堀井氏に感謝の言葉を伝えていた
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イベント会場もファンでいっぱいに。朝の6時から並んでいた人もいたという
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「オホーツクに消ゆ」の内幕,「ドラゴンクエスト」とADVゲームを作り,ライター仕事もこなす堀井氏の超人ぶり


 塩崎氏と堀井氏の出会いは,「ポートピア連続殺人事件」が発売された1983年にまで遡る。月刊化されたばかりの「ログイン」編集部に送られてきた同作をプレイした塩崎氏は,その非凡さに衝撃を受け,開始からわずか1時間半で堀井氏にコンタクトを取ることを決めたという。
 興味深いのは,堀井氏がアドベンチャーゲーム(AVG)を作るきっかけとなったのが,塩崎氏も携わっていた「月刊アスキー」だったという点だ。デビュー作「ラブマッチテニス」に続く次回作を模索していた堀井氏は,同誌でAVGというジャンルを知り,「パソコンを使い,文章で物語を書いて,人に読んでもらえるならやってみよう」と思い立った。

 驚くべきことに,堀井氏は「ポートピア」を「ほぼ想像だけで作った」と語る。当時のBASICの知識も「INPUT」「PRINT」「IF」「GOTO」「RETURN」といった数少ないコマンドのみで,やりたい表現が出るたびにマニュアルを引いて実装していたそうだ。当時のAVGはパズル的な謎解きが主流だったが,堀井氏はあえてサスペンスを選び,物語性を重視した。後の「ドラゴンクエスト」で結実する「堀井節」と呼ばれるストーリーテリングの原点は,この初志にこそあったと言えるだろう。

「199Xのウッドボール通信」が発売されたばかりの塩崎氏。「ラブマッチテニス」をプレイした際,スポーツゲームなのにキャラクターがしゃべるテキストが凝っていることから,堀井氏に注目していたという
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堀井氏は先日,国の勲章である「旭日小綬章」を授与されたばかり(関連記事)。事前に「勲章を受け取るかどうか」という確認の連絡がある,と舞台裏を明かしていた
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「ログイン」誌上に堀井氏が登場した「スターゲームデザイナー登場!」。この頃同誌はゲーム開発者をフィーチャーした特集を組んでおり,その中で堀井氏も取材されることとなった。当時は「スタープログラマー」という表現も使われており,開発者に目を向ける取り組みがかなり早い段階から進んでいたことが分かる
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 名作「オホーツクに消ゆ」の制作は,堀井氏が「軽井沢誘拐案内」の開発中に「作りたい構想はあるが,一人では手が足りない」と塩崎氏に漏らしたことから,「ログイン」誌のプロジェクトとして始動した。
 本作では,当時としては画期的だったプログラマーとの分業体制が敷かれ,ゲーム業界初とも言われる「ロケハン」が実施された。綿密な下調べを経て北海道へ赴いた一行だが,現地で偶然見つけたニポポ人形を急遽シナリオに組み込むなど,ライブ感のある開発だったという。
 また,叙情的なタイトルについて堀井氏は「“オホーツクに消える”では収まりが悪いので,カッコいい“消ゆ”にした」と明かした。これもまた,ライターとしての鋭い言語センスの賜物だろう。

ゲーム史上初となるロケハンは「ログイン」の記事にもなった。シナリオがかなりの段階までできあがってからロケに臨んだことなどが明かされている。開発の過程を記事にするのは,2025年現在からしてもかなり珍しい取り組みである(上写真)。PC版の「オホーツクに消ゆ」では劇画調のキャラクターデザインで,後に「ウィザードリィ」で有名になる末弥 純氏が手掛けていた(下写真)
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 開発は締め切りとの戦いだった。上野利幸氏(ゲヱセン上野氏)が高熱で倒れ,PC-6001版の開発が一時ストップしたエピソードからは,1人1機種を担当していた当時の制作規模がうかがえる。苦労の末に発売された本作は,PC各機種の合計で約1万5000本を販売。5000本でヒットと言われた時代において,異例の成功を収めた。
 この頃,堀井氏はRPG「ウィザードリィ」に心酔。「AVGは行き詰まると進めなくなるが,RPGはレベル上げで停滞を打破できる」という遊びの幅に感銘を受けたという。「軽井沢誘拐案内」にRPG要素が混在しているのはその影響であり,堀井氏の好奇心とフットワークの軽さを物語っている。

 当時の堀井氏は,自身の本職をあくまで「ライター」だと考えており,塩崎氏からライターの仕事を受けている。「ファミリーコンピュータ マル秘 ゲーム攻略テクニック」のコラムが連載「虹色ディップスイッチ」へつながっていったのも有名な話である。塩崎氏曰く「ゆう坊(堀井氏)は有名になっていたので,記事に起用すれば,その注目度はTVの視聴率に例えて数%は上がった」というから,ライターとしての人気も一流ということだ。

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 驚嘆すべきは,その仕事量だ。「虹色ディップスイッチ」を執筆しつつ,「ドラゴンクエスト」を世に送り出し,AVG「九龍の牙」「白夜に消えた目撃者」を手がけ,さらに「ドラクエII」とファミコン版「オホーツクに消ゆ」を同時進行。その後,すぐに「ドラクエIII」へ。現代では考えられない過密スケジュールをこなしていた。

 多数の作品を同時進行させていたため,相互に影響を与えていたと塩崎氏は指摘する。例えば,「白夜に消えた目撃者」のためにサマルカンドへ取材に行ったことが,「ドラゴンクエストII」に「サマルトリア」という地名が出るきっかけになった。
 そして「オホーツクに消ゆ」も同時に制作されていたため,プレイヤーが行き詰まって芸者遊びをした際に,「時間の無駄」と嫌味を言われるシーンと,サマルトリアの王子を探してのすれ違い劇には,「プレイヤーをいじる」共通点があるという。この辺りは,間近で堀井氏を見続けてきた塩崎氏ならではの視点といえるだろう。

 「オホーツクに消ゆ」では,コマンド選択式を取り入れたのもゲーム史的には重要なトピックだ。当時のAVGは「マド アケル」などコマンドを全て自力で入力する,言葉探しの側面を持つものが主流だった。
 しかし,「オホーツクに消ゆ」ではあらかじめ用意されたコマンドを数字で指定する方式として物語に集中できる環境を作り,以降のAVGに多大な影響を与えている。

 これは「ポートピア連続殺人事件」の発売後,堀井氏がパソコンショップに出かけ,プレイヤーが遊ぶ様子を観察したことがきっかけである。プレイヤーがいろいろな言葉(コマンド)を入力するが,「ゲーム側が想定したものではないため反応を返してくれない」という光景を見て,コマンドを選ばせる方式を考えたのだそうだ。

 古くはアーケードゲームにおけるロケテスト(稼働テスト)から,新しくはSteamのアーリーアクセスまで,実際のプレイから改善点を洗い出す手法は広く使われてきた。
 この場合,ユーザーの反応を見たことがAVGそのものを変えたばかりか,「ポートピア連続殺人事件」のファミコン移植にもつながり,同ジャンルが現代まで続くきっかけの一つにもなっているわけで,ユーザーの反応がいかに大事であるかが分かる。
 個人的には,堀井氏が「プログラミングしていない言葉を入れていないから,反応しないのも当たり前」「今度はもっとたくさんの言葉を用意しておこう」といった結論にたどり着かなかったことも興味深い。「ドラゴンクエスト」において,当時マニアックなジャンルだったRPGを徹底的に分かりやすくした堀井氏だが,こうした姿勢が一貫している。

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 「オホーツクに消ゆ」は容量不足に悩まされており,塩崎氏曰く「CGとシナリオがメモリを取り合っていた」ような状況だったが,ここに吉報が舞い込む。「ドラゴンクエスト」と同じ1MビットのROMを使っていたのだが,2MビットのROMが使えるようになったのである。
 いきなり容量が2倍になったことから,堀井氏はシナリオの刷新を提案する。1Mの時点では「夕張中央炭鉱」の3Dダンジョンもなかったし,ラストはもっと地味なものだったというから,容量アップさまさまだ。
 また,CGも荒井清和氏が参加して描きなおすことになった。こうしたボリュームアップのおかげでバグも多数発生し,「198Xのファミコン狂騒曲」でも触れられた百合ヶ丘での合宿が行われたのだ。

 ファミコン版では堀井氏の提案により,めぐみのバスタオルが取れる裏技が用意されたが,胸の先端をどうするかで激論が交わされたという。当初はピンク色のドットを入れようとしたものの規制により断念し,無色のドット,塩崎氏曰く「空白の1ドット」を置くこととなった。

 ここで面白いのが,TVのメーカーや機器の調子によって,空白の1ドットの見え方が変わったことだ。当時はファミコンをブラウン管のTVに接続しており,RF出力に独特なドットのにじみがあったため,こうした現象が起こった。同じ機器でも日によって色が違ったというから,今では考えられない出来事だ。
 結局,「遊ぶ人にTVを選んでもらえばいい」ということで空白の1ドットはそのままにされた。なお,この裏技は2024年の「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ 〜追憶の流氷・涙のニポポ人形〜」でも使うことができるが,これはパブリッシャに理解があったことからそのまま裏技を残すことができたのだそうだ。

ファミコン版「オホーツクに消ゆ」の発売前,開発状況を伝える記事。完成2か月前にテストプレイヤーに遊ばせたところ,「プレイ時間が短すぎる」ことが明らかになり,難度を上げるのではなく,シナリオを充実させることでプレイ時間を増やすことになった……と伝えている。ゲームが簡単であることは問題ではない,という姿勢が強調されており,作品や堀井氏への信頼を醸成するのに役立ったことだろう
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 名作「オホーツクに消ゆ」の内幕,そして様々なAVGを手掛けつつ,「ドラゴンクエスト」シリーズも作り,さらにはライターとしての仕事までこなす堀井氏の大活躍,大忙しの日々の内幕が当人たちから語られた。
 トークショーの後にはサイン会も行われ,抽選で選ばれた20人が直筆サインをもらうことができた。当初はもっと少ない人数が予定されていたが,両氏の意向で枠が増えたのだという。こうしたサービス精神がある2人だからこそ,「オホーツクに消ゆ」が遊びごたえのある作品に仕上がった,ということを改めて確認できた。

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    北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ 〜追憶の流氷・涙のニポポ人形〜

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    北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ 〜追憶の流氷・涙のニポポ人形〜

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