連載
奥谷海人のAccess Accepted / 第200回:2008年Access Accepted大賞

200回という大きな節目を迎えたAccess Acceptedは,5回目となるAccess Accepted大賞と重なった。ちなみに,この賞は当連載を執筆している奥谷海人が,その年にアメリカで発売されたPCゲームから独断で選ぶもの。筆者自身がハマッたり,何かを考えさせられたりしたものを選ぶ傾向があるので,あまり賞そのものにはこだわらず,ゲーム的見地から2008年を振り返ってもらいたい。

開発元: Ubisoft Montreal 発売元: Ubisoft
Far Cry2
相変わらず高いレベルの作品が多いFPS。新しもの好きの筆者としては,「Left 4 Dead」を選んでおきたいところだが,毎年FPSはValve系製品を選んでいる気がするので,今年は内戦で分裂する国の緊張感を見事に描いた「Far Cry2」を選出したい。
マップが巨大なため,移動に時間がかかり過ぎるという声もあるが,どこからどんな風に戦闘を始めても,ゲームとしてちゃんと成り立っている点は評価したい。マップは巨大でも行ける場所が限られているゲームが多いなか,自由度の高さとゲーム性の高さがうまく両立しているといえる。
また,火炎の表現は過去のどんなゲームよりも優れているといっても過言ではないだろう。もちろん,これまでも火炎放射器で敵を攻撃できるゲームはかなりあった。だが本作では,そこらじゅうの枯れ草などに火が燃え移り,風向き次第ではプレイヤーキャラクター自身にも火が燃え移ることがあるのだ。そんなマニアックなこだわりもポイントが高い。
- Crysis Warhead
- Call of Duty: World at War
- Left 4 Dead
- Tom Clancy's Rainbow Six: Vegas 2
開発元: Ubisoft Montreal 発売元: Ubisoft
Prince of Persia
ここ数年のマルチプラットフォーム化の波により,贅を尽くした大作感のあるゲームが量産され始めた。とくに,アクションアドベンチャーというジャンルには,各社の看板タイトルともいえる作品が多い。独特の世界観を確立したゲームや,スタイリッシュなグラフィックスのゲームなど,ユニークな作品が目立った2008年だが,筆者が気に入ったのは「Prince of Persia」だ。
特徴のあるセル画風グラフィックスやシネマティックな戦闘シーンなど,特筆すべきポイントの多いPrince of Persia。そんな中で,Erikaというサポートキャラを利用したシステムが最も評価できる。
彼女の存在によってゲームオーバーがなくなり,ファンタジー世界からプレイヤーが引き離されないようになっているのだ。アクションは,やや単調な繰り返し部分こそあるが,従来作よりも,はるかに遊びやすくなっている。
- Assassin's Creed
- Dead Space
- Grand Theft Auto IV
開発元: EALA 発売元: Electronic Arts
Command & Conquer: Red Alert 3
堅実なゲームプレイを評価して,いぶし銀のような「Sins of the Solar Empire」に一票を投じたいところだが,ここはぶっ飛んだノリで暗い世の中を明るくしてくれた「Command & Conquer: Red Alert 3」を選んでおこう。グラフィックス的に地味な作品が多かったストラテジージャンルにおいて,まさに孤軍奮闘といったところだ。
Command & Conquer: Red Alert 3では,これまでの西欧/アメリカvs.ロシアという構図が歴史的な歪みで壊れてしまい,ヨーロッパのほとんどを占領したロシア軍に米英連合が対抗し,そこに日本風の国がからんでくるという三つ巴の戦いが描かれている。凝りに凝った実写ムービーに加え,「飛行の死」と書かれた風船爆弾や,街角にある「幸運な猫の写真」という看板,そして巨大ロボや超能力少女などによる独特の世界観が構築されており,筆者のツボにハマった。
- Europe Universalis: Rome
- Imperium Romanum
- Sid Meier's Civilization IV: Colonization
- Sins of the Solar Empire
開発元: Bethesda Softworks 発売元: Bethesda Softworks
Fallout 3
2008年に発売されたRPGの中でも,作り込みの深さが圧倒的だったのは,なんといっても「Fallout 3」だろう。
Fallout 3は,21世紀後半に勃発したアメリカと中国の核戦争により,荒廃してしまった未来の地球を描いている。人々はVaultと呼ばれる核シェルターの中で生活を続け,そこで生まれ,そして死んでいく。だが核戦争から200年後,一人の人物がシェルターを出て行くというところから物語は始まるのだ。
世界観や自由度の高さなど,従来作を継承した部分もあるが,戦闘を止めてターゲットを部位ごとに狙うV.A.T.S.システムなど,新しい要素も少なくない。また,プレイヤーキャラクターのカスタマイズ性の高さに加え,2009年に予定されている追加コンテンツなどもあり,長く楽しめそうな作品だ。
- King's Bounty: The Legend
- Mass Effect
- Mount and Blade
- Sacred 2: Fallen Angel
開発元: Electronic Arts 発売元: Electronic Arts
SPORE
「SPORE」には,愛と憎悪が渦巻いている。意外と早く飽きてしまうゲーム性や,コピー防止ツールに対するゲーマーの反発(関連記事)など,マイナス面も目立つ。しかし,イノベイティブでクリエイティブなアイデアがぎっしりと詰まっており,十分に評価されてしかるべき作品であろう。
本作は,文明誕生シミュレーション,もしくは進化論シミュレーションとも表現できるもので,単純な生物から集落での生活,さらには都市文明の誕生や宇宙制覇までを,さまざまなゲームシステムで体験していくという内容だ。プレイヤーは,ゲーム中に獲得したポイントを使って,自由にクリーチャーを作り上げ,建物や乗り物をデザインする。どんな形の生物を作っても,それなりに動き回るというのも凄い。
- Deadliest Catch: Alaskan Storm
- Football Manager 2009
- Rail Simulator
開発元: EA Mythic 発売元: Electronic Arts
Warhammer Online: Age of Reckoning
「Warhammer Online: Age of Reckoning」は,レルム対レルムにスポットを当てることで,ベースになったボードゲーム版ウォーハンマーの世界観を見事に再現したMMORPGである。
本作の舞台は,OrderとDestructionという2勢力が死闘を繰り広げるファンタジー世界だ。それぞれの勢力に複数の種族が用意されており,さらに種族の中に,タンク系,アタッカー系,ヒーラー系など4種程度のアーキタイプと呼ばれるキャリアが存在する。本作の特徴はなんといっても,前述のようにOrderとDestructionのRvRなわけだが,中でもプレイヤーにとってありがたいのは,キャラクターレベルが1でもRvRに参加できるところ。レベル10刻みくらいで戦場は分割されているので,果てしなくレベルが上のキャラクターになぶり殺されることもない。
メインコンテンツであるRvRに触れるためには膨大な時間をかけてレベルを上げねばならない作品が多い中,このシステムは素直に歓迎できる。
2008年は,拡張パックも含めて,レベルの高いMMORPGがリリースされた一年だったが,今後の成長への期待も含めWarhammer Onlineを選びたい。
- Age of Conan: Hyborian Adventures
- Pirates of the Burning Sea
- The Lord of the Rings Online: Mines of Moria
- World of Warcraft: Wrath of the Lich King
Bethesda Softworks (Fallout 3)
今年のBestスタジオは,Bethesda Softworksを選びたい。非常にマニアックなファンのいるFalloutシリーズの新作を開発するにあたり,その持ち味や世界観を生かしつつも,彼らなりのアレンジを加えた勇気は素晴らしい。同スタジオは「The Elder Scrolls IV: Oblivion」を大成功させていただけに,そのプレッシャーを見事に跳ね返してFallout 3を作りあげたことは賞賛に値する。
Bethesda Softworksは,1985年に設立された当初,ホッケーやボーリングといったゲームを開発して成長したメーカーであった。The Elder Scrollsシリーズの第1作「The Elder Scrolls: Arena」が発売されたのは1993年のことで,垢抜けないグラフィックスで,システム的にも偏った,中途半端なゲームだったのを記憶している。
1998年までDOSゲームを作り続けていたこともあり,ほかの古参メーカーに遅れを取ってしまったが,2002年の「The Elder Scrolls III: Morrowind」で400万本という大成功を収め,さらにXboxなどコンシューマー系プラットフォームでも着実に足場を築き上げた。
今後は,The Elder ScrollsとFalloutという2本立ての開発が進められていくだろうから,同社の名を耳にする機会がさらに増えていくに違いない。
- Black Rock Studios (Pure)
- Turtle Rock Studios/Valve (Left 4 Dead)
- Ubisoft Montreal (Far Cry 2など)

というわけで,Access Acceptedベスト オブ ザ イヤー賞はFallout 3で決まりだ。Fallout 3のPC版は,クラッシュバグなども多いようで,このあたりはぜひ早急に改善してほしい部分。
そんな文句もあるのだが,それでもFallout 3を大賞として選ぶ価値があると思うのは,そのストーリーの深さにある。アメリカが冷戦時代に感じていた核の恐怖を,暴力的かつコミカルに描きつつも,「核戦争が起こったら,こんな世界になるのだろうか」と思わせるリアリティがある。荒廃した世界を歩き回る孤独感や,身内をなくす悲しさなどが,とてもうまく表現されているのだ。
また,自分と同じような境遇の子供に,家を探してあげるというサブクエストや,ミュータントであるGhoulの一人が,過去に差別された経験があるという理由で,罪もないスムーズスキン(普通の人間)の暗殺を依頼してくるといった,法律のなくなった無秩序な世界がしっかりと描かれている。とくに,最初に出くわすGhoulの母親で,宿屋をしているCarolという女性が,「大きな光に包まれた後,父親のいた場所に戻ると父の影だけが残されていた」という被爆体験を語るセリフなどに,Bethesda Softworksのリサーチ能力の高さを感じた。一見殺伐とした世界で,暴力的な描写も多い中,非核思想のようなものまで感じられる。そんな奥の深いゲームなのだ。
さて,話はガラリと変わるが,Access Acceptedは今回で200回を迎えた。移り変わりの速いウェブ媒体において,第1回より数えて4年と3か月という長きにわたって続けてこられたのは,ゲーム業界が面白いテーマで溢れている証拠だろう。
現在は,世界同時という未曾有の経済危機にあって,「不況知らず」と言われてきたゲーム業界も楽観できない状態にある。多くのパブリッシャやデベロッパがリストラを行っている最中であり,明るいネタが少なくなりがちだ。だがAccess Acceptedでは,今後も素直に,ときに筆者の個人的な見解を交えつつ,日本には伝わりづらい欧米のゲーム事情をお伝えしていきたい所存である。
言いたい放題を見逃してくれる編集長,筆者のアメリカ人化しつつある頭で書いた原稿を整えてくれる歴代の担当編集者,ことあるごとにカッコ良いグラフィックスを用意してくれるデザイナー,ネタを提供してくれる関係者,そして何よりもこの連載を読んでくれている読者の皆さんに,この場を借りて心から感謝を申しあげます。今後とも当連載を宜しくお願いします。Happy Holiday!
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