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ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオのようなもの――スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは
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印刷2011/06/29 00:00

インタビュー

ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオのようなもの――スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは

1000万人単位で人に届けるジブリの凄さ


4Gamer:
 しかし,いわゆるマスマーケティングというものを考えるときに,スタジオジブリがやっていることというのは,ゲームで言えば,例えば任天堂とかポケモンとか,そういう企業でしか成し得てないレベルのことですよね。

川上氏:
 まぁ,そうですね。

4Gamer:
 僕も一応,4Gamerというサイトをやっていて,いろいろと考えるのですが,大体10万〜20万人くらいまでの規模だったら,「こうすればこのくらいの人に届くだろう」というのが“見える”んですよね。ただ,それが100万人に近づいてくる単位になると,正直なところ,途端にまったく見えなくなるんです。

画像集#017のサムネイル/ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオのようなもの――スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは
川上氏:
 スタジオジブリの場合で言えば,そこを1000万人とかいう単位で届けてるわけですよね。任天堂も,おそらくはそれくらいの単位で物事を考えている。ニコ動は100万人単位の下のほうくらいだったら届けられるかもしれないけども,500万人とか言われると厳しいわけです。いや,ユーザーの数自体はいるんだけれども,何か一つのことに動員できる力という意味では,やっぱり100万人くらいが上限になっていると思うんですよね。

4Gamer:
 ニコニコ動画とかでも,もう実装されてからずいぶん経ちますけど,「時報」みたいな同報性の強い仕組みが導入されましたよね。あれは言ってしまえば,「ニコニコ動画に滞在しているあまたのユーザーに情報を届ける試み」だったと思うのですが,そういった仕掛けを駆使しても“届かない”という認識ですか?

川上氏:
 マクロな視点で見たら,あんまり届いてないですよね。コアなユーザーにはかなりの割合でリーチできるのですが,あれが何か世の中を動かす,あるいは全ニコニコユーザーを動かす仕組みかといえば,そうはなっていないと思うんです。もしかしたら,バイラル効果が生まれる最初のきっかけにはできるかもしれないけど,それのみで完結ってところまではいかない。
 さっき100万人くらいが上限と言いましたけど,例えばニコ動では,総選挙に併せて世論調査をやったりしていたんですが,そこで調査できる人数っていうのが,だいたい100万人なんですよね。

4Gamer:
 100万人っていうのも十分凄いと思いますが,テレビの視聴率でいったら――視聴率という指標が今となってはどうなんだ,という議論はあるにせよ――1%とか,そういう世界ですよね。

川上氏:
 そうです。だからニコニコ動画といえども「まだまだ」なんですよ。まぁテレビの1%というのはちょっと怪しいから,正直1%以上よりはもう少し影響力はあるんじゃないかなって気はしますけど。とはいえ,テレビの影響力と比較すると,まだそんなに大きな存在でないのは確かだと思います。

4Gamer:
 その意味で言うと,ニコニコ動画を含めて,インターネットやWebというものがマスマーケティングに使えるようになるには,何が欠けているんでしょうか。例えば,ぼんやりとでもいいんですけど,仮にどういうものがあったらテレビに置き換わる(ほど影響力のある)メディアになり得るんでしょうかね。

画像集#033のサムネイル/ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオのようなもの――スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは
川上氏:
 いやぁ,それはとても面白いテーマだと思うんですけど,その話はすっごく長くなるんじゃないかな(笑)。それは,ずっと僕が持っている問題意識でもあるんだけど。

4Gamer:
 昔からネットメディアの議論って絶えないじゃないですか。双方向性メディアだとか市民メディアだとか。例えば,ブログが出るとやれ新しいメディアの登場だといって,テレビの時代は終わった!とか騒ぐ人が出てきますよね。YouTubeが出たらYouTubeは云々,Twitterが出たらTwitterは云々,みたいな感じで,性急な議論が展開されがちです。でも,着実にネットの影響力や社会への浸透度が増していっているとはいえ,まだ「何かが決定的に欠けている」と思うんですよね。

川上氏:
 それは僕の中のテーマの1個でもあるんですよ。それは「ユーザーって一体なんだ?」って話でもあって。ネットを利用しているユーザーというのは,実際のところはどのくらいの人がいて,さらにネット上で“見えてるユーザー”というのは,そのうちの何人なんだろうかと。見えてないユーザーの意見というのは,本当に見えているユーザーだけで判断できるのかと。

4Gamer:
 凄く小さな話になってしまって申し訳ないんですが,4Gamerを例にすると,例えば「ファイナルファンタジー」の記事ってめちゃくちゃアクセスがあるんですけど,その一方で,いわゆるTwitterのコメントなんかはほとんど付かないんですよ。でも,例えば「アイドルマスター」みたいなタイトルは,アクセスは一定のラインで止まるんですけど,Tweet数やはてブでは凄い反響になる。

川上氏:
 反応が全然違いますよね。

4Gamer:
 そういうところを踏まえて,次世代のマスマーケティングというものを考えた時に,やっぱりネットの世界であっても,そういう「見えない注目度」って重要なのかなと。コメント数がばーっと付いて,いかにも「クチコミで大反響!」みたいな方法論がある一方で,サイレント・マジョリティの動向というか,物言わぬ多数派へのアプローチも,今後はもっと重視すべきなんだろうという問題意識があります。

川上氏:
 そういう視点で言うと,Twitterとかで「ジブリ」で検索してみると,映画も出てないのにジブリっていう単語が日常会話に出てきてるんですよね。やっぱりそれは凄いことだと思うし,すごい浸透率だと思う。ジブリは日本の至る所にあまねく存在しているわけですよね。

4Gamer:
 確かに。

川上氏:
 美少女アニメファンがジブリの作品を見ないかというと,別にそんなことないですよね。ジブリが一番ではないかもしれないけど,ジブリが自分の世界に入っていない人って,日本ではもうあまりいないと思うんですよね。

4Gamer:
 そうかもしれません。

川上氏:
 だから例えば,新しい深夜アニメが始まったという時でも,みんな「ジブリっぽい」とか言って判断するわけですよ。ジブリっていう世界観が,脳の中にできているんですよね。

4Gamer:
 僕もスタジオジブリには凄く興味があって,宮崎 駿さんの書いている本とかをひと通りは読んだりしているんですけど,そもそも志の高さというのか,目線の置きどころからして,凄まじく高いですよね。それも別に大御所になってからというわけでもなくて,若い頃からすでに目線が高いんです。

川上氏:
 ジブリの作品は,いろんな意味で普通のアニメとは違いますよね。ビジネスモデル,作品の作り方,内容,すべてがジブリとその他で分かれているじゃないですか。ジブリ一社で別の世界作ってますからね。そういう意味では任天堂に似てますよね。まさにアニメのジブリとゲームの任天堂。僕は,そこに並べるのはおこがましいんだけれど,ドワンゴもかなり特殊で,ネット業界では孤立している会社だと思うんですよ。

4Gamer:
 オンリーワンというか。

川上氏:
 我が道を進んでますよね。周りを無視して(笑)。

画像集#025のサムネイル/ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオのようなもの――スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは


ジブリの原点は,「絵が動く」という感動


4Gamer:
 ところで“コンテンツ”というものを考えたときに,最近の風潮ってどう思われます?

川上氏:
 風潮って?

4Gamer:
 例えば最近,とくにここ5年くらいの傾向でいうと,割と「小さなコンテンツ」がもてはやされていると思うんですよね。ゲームであれば,ソーシャルゲームのような短時間で遊べるものだったり,映像コンテンツとかも動画サイトのムービーだったり,テレビでもお笑いとかバラエティとか。やはり,短時間/単発で楽しめるものが人気です。

川上氏:
 ああ,なるほど。

4Gamer:
 そうした環境の変化の中で,スタジオジブリの作品でさえも変わっていくのだろうか?という純粋な疑問がありまして。

川上氏:
 んー……小さなコンテンツということで言えば,ジブリのアニメは“細切れにされるコンテンツ”の代表格だとは思うんですよ。1次ソースのポジションをこれほど確立しているコンテンツはそうはありませんよね。
 で,「コンテンツってそもそもなんだろうか?」というのを考える上で,やっぱり原典の一つになっているジブリというものに興味が沸くのは,当然のことだとは思うんです。

4Gamer:
 すべてのエンターテイメントに必要かどうかは分かりませんが,本当に支持されるコンテンツを作るには,“根っことなる何か”が必要だよねって話があると思うんです。それはテーマ性だったりメッセージ性,あるいはゲームだったらゲーム性みたいな言われ方をすると思うんですが,スタジオジブリに入ってみて,そういうものに対するジブリの姿勢って何か感じられましたか?

画像集#029のサムネイル/ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオのようなもの――スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは
川上氏:
 僕がジブリという組織に入ってみて,「これは思っていたのとは違ったな」と感じた部分で言うと,例えば,ジブリの作品って,やっぱりストーリーがとてもいいじゃないですか。シナリオが奥深いし,見た後に心に残る何かがありますよね。
 だから僕は,スタジオジブリにおける映画の制作工程では,このシナリオっていう部分を凄く大事にしているんだろう。シナリオに凄いこだわりがある集団なんだろうって思っていたんですね。

4Gamer:
 ……違うんですか?

川上氏:
 シナリオはもちろん大事にしているんですけど,スタジオジブリの人たちが一番大事にしているのは,別にそこじゃないんですよ。彼らの原点は,あくまでも「絵が動く」というところにあるんですね。

4Gamer:
 ああ……。

川上氏:
 例えばですが,「東映アニメーション」という会社は,元々は「東映動画」って名前だったんですよね。動く画(え)と書いて「動画」ですよね。すなわち動画っていう単語は,昔はアニメーションのことを指していたわけですよ。

4Gamer:
 それはゲーム業界でも似たような感覚があるんですよ。ファミコンとかそれよりも昔からゲームを作ってきてる方々っていうのは,純粋に「コンピュータで処理ができる」「何かを入力したら,反応がある」というシンプルな部分に感動を覚えた人たちなんだなと。ストーリーどころか,いわゆるゲーム性云々ですらなくて,単純にプログラムを打って画面が出た! みたいなところに可能性を見出した人達なんだなと感じることがあって。

川上氏:
 アニメーションというものが世の中に出たとき,画が動くということ自体に感動した人達が,今のアニメ産業の礎を築いたわけですよ。画が動くという喜びを伝えたくて,そういう仕事を選んだというのが,宮崎 駿さんや高畑 勲さんの世代なんだろうなと僕は思いました。

4Gamer:
 根源的な感動っていうんですかね。

川上氏:
 「こんなことができるんだ!」っていう驚きですよね。一番最初に何で感動をしたか。その何を凄いと思ったかが,きっとクリエイターとしての原点になるんですよね。だから,絵を動かす喜び,動く絵を見る喜びっていうのが,ジブリの一番の原点なんだと思います。

4Gamer:
 そういえば,宮崎 駿さんが書かれている「出発点―1979〜1996」という本を読んで,とても印象的だった箇所があったんですよ。

川上氏:
 どのあたり?

4Gamer:
 1980年前後に宮崎さんが書いたコラムにあった話なんですけど,要はアニメが産業として大きくなっていく一方で,作業の大規模化やそれに伴う分業制,役割分担みたいな効率化が進んでいくわけですが,そこで,いわゆる「アニメーターの特権」がなくなってしまったと,当時の宮崎さんが切々と訴えているんですよ。

川上氏:
 どんな分野でも聞く話ですよね,それは。

4Gamer:
 ええ。昔はアニメーターというと,絵を動かして,世界を作って,お話を作って,とまるで神様みたいな役割だったのに,ある時から,アニメーターは単純に作画をするだけの人を指す言葉になってしまった。それでいいのかっていう話です。

川上氏:
 それってゲーム業界でも同じじゃない?

4Gamer:
 ゲームでも,プログラムから何から自分で全てを創り上げた世代がいますもんね。ゲーム業界でも,やっぱり黎明期で活躍してきた方と,新しい世代のクリエイターでは,視点が大きく異なるのは確かだと思うんですよ。

川上氏:
 その違いっていうのは,やっぱり最初の人って,いろんな方法を模索するんですよ。表現方法とか演出とか,そういうのを片っ端から試していって,その中で「これがいい」というのを選んでいくわけじゃないですか。

4Gamer:
 そうですね。

画像集#019のサムネイル/ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオのようなもの――スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは
川上氏:
 ところが,後から来た人というのは,その結果のこれがいいよねっていう,決まった答えの中で作品を作ろうとしちゃうんじゃないですかね。そうすると世界が狭くなっちゃいますよね。
 しかも,市場が成熟するにつれて,だんだんとコンテンツを作るためのコストが上がっていって,結果として事業のリスクが高くなって,若い人が実験をしづらくなってしまう流れもある。そういうコンテンツ業界全体に言える構造が,新しい発展を拒んでいるんだと思うんですよ。

4Gamer:
 まったく仰るとおりですね。構造的な問題はありそうだなぁ。

川上氏:
 そういう意味では,黎明期は有利ですよね。だって黎明期って多少失敗したプロジェクトであっても,ヒットしますから。ちょっと踏み外したって成功するんですよ。

4Gamer:
 よく「マーケットの隙間を狙う」なんて表現がありますけど,成熟した産業や市場では,だんだんと針の穴を通すような,「狙い澄ました商品」じゃないと成功しづらくなるんですよね。

川上氏:
 市場に参加するプレイヤーが増えて,さらに市場がピークアウトみたいな状態になると,どうしてもそうなってしまうんですよ。
 さらに,昔から業界で活躍している古参のクリエイターであれば,新しいことに挑戦するだけの基盤を持っていますけど,新参の若い人には当然そんなものはない。会社がお金を出せないよって言ったらそこでおしまいなんです。

4Gamer:
 うーん,難しいなぁ……。

川上氏:
 IT業界だって,やっぱりね。いろんなパターンが出来上がってるじゃないですか。定石が。

4Gamer:
 その点,話は戻りますけど,スタジオジブリはゴールデンルールがあるように見えて,毎回凄い博打をしている会社ですよね。普通の会社であれば,人気のIPを使って収益を安定化させて……みたいな考え方になると思うんですが。

川上氏:
 結局,「何が目的か」なんじゃないですか。お金儲けが目的なのか,そうではなくて,作品を作るのが目的で,そのためにお金儲けもしなきゃいけないのか。スタジオジブリのスタンスは,明らかに後者なんですよね。というか,恐らくはちゃんと物を作っているところというのは,多分そういう組織だと思うんです。

4Gamer:
 そうかもしれません。

川上氏:
 お金儲けが最終目的になってないけど,それが商業的な成功に結びつくのが,エンターテイメント,コンテンツの世界だと思います。

4Gamer:
 けれど,そこの両立はやっぱり難しいですよね。

川上氏:
 まったくその通りです。ただ,そこをかなり危険なところまで振り切ってやっているのが,スタジオジブリだと思うんですよね。物づくりのために,文字通り「命」を賭けているんです。

画像集#028のサムネイル/ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオのようなもの――スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは
 
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