インタビュー
「JOGA」っていうオンラインゲームの団体は,一体何をしているんだろう?――JOGAに直接聞いてみた
ゲームのデータはパブリッシャーのもの。だからこそ,改めて状況の整備が必要
4Gamer:
こういう話になったので改めて聞いておきたんですが,オンラインゲームのデータというのは何者なんでしょうか。
植田氏:
何者,というのは?
4Gamer:
リーガル上での話です。
植田氏:
JOGAとしては,所有権は運営サイドに帰属すると理解しています。
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各社さんの利用規約では利用権として規定していますね。
植田氏:
解釈の仕方はいろいろとあると思いますが,我々運営サイドとしてはそういう認識になります。
4Gamer:
ええ,おっしゃることはよく分かります。データは各社さんの所有物であるという現状の通例認識には納得しているんですけれども,つまり所有権がパブリッシャーさんにあるということは,ユーザーからは何かアクションを起こせないわけですよね。言うなればこれレンタル品なので。
川口氏:
アイテムにしろアバターにしろ特定のゲーム内でしか利用できませんから。
4Gamer:
はい。例えば,ハッキングによって僕のレベル70のキャラが消えましたというときに,悲しいのは僕で,被害にあっているのも実質僕だけど,パブリッシャーさんが動いてくれないことにはどうしようもないわけじゃないですか。
植田氏:
そうですね。
4Gamer:
その部分がやっぱりまだもどかしいし,リーガルが――リーガル,と言っていいのかどうか微妙な部分ではありますが――実情を反映していないという気持ちが昔からあります。昔から思ってはいるんですけど,まだ何も,そこに対しての動きはないという。
むろん,あれが財産なのかと問われると「うーん,違うかな」とも思います。財産認定すると,もう全然違うレイヤーの話になってしまいますし。しかし,非常にグレーなままずっと推移していて,この先何年もこのまんまなんでしょうか。
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今までそういう概念がなかったので定義されていなかっただけですよね。
4Gamer:
そうです。だからこそ定義するべきだと思うんです。かつて原島先生は「ゲームが産業として認知されるにはまだ時間が全然足りていない」とおっしゃっていましたが,例えばDiabloあたりをその発端とするならば,もう15年ほど。ITというジャンルにあっては相当な時間が経っていると思います(関連記事)。
このあたりのことは,パブリッシャーのみなさんは,どう思ってるんでしょうか。
植田氏:
パブリッシャーの見解としては,ほとんど総意に近いと思います。
4Gamer:
そうですよね。……しかし,見解はまとまっているのに対応はばらばらですよね。
我々のところにも,読者からのタレ込みでいろいろなメールがきます。個人の匿名のメールが多いので100%を鵜呑みにするのは危険ではありますが,そこをさっぴいて読んでもなお,各社によってあまりにも対応が違いすぎると思うんですが。
植田氏:
実はそうなんです……。総意はほぼまとまっていると考えているんですが,問題はむしろ,そこに対するハッキングなどの被害に対して,おっしゃるとおり,各社の対応がまちまちになっている点にあると思います。なのでJOGAでは今,統一マニュアルを作ろうとしています。
また警察庁からもいろいろとヒアリングや相談も受けています。
オンラインゲームや不正アクセスってここ10年くらいで急に増えてきた問題で,警察の現場の方も理解がまちまちで苦労されているみたいで……。我々も,少しでも警察の対応がスムーズに進むように協力していってます。もちろん警察のお世話になるような事態を未然に防ぐのも重要なんですけど。
4Gamer:
完全に余談ですが,JOGAに入っていない企業さん絡みのクレームが,よく4Gamerに送られてきます。会社は相手にしてくれないし,警察に問い合わせても取り合ってくれないし。そういう問題をツブしていくためにも,警察との協力体制は外せないと思うんです。
植田氏:
あぁそちらにもクレームがいくんですね……。確かに個人が警察に問い合わせてもまともに取り合ってくれないこともあるかもしれませんね。
4Gamer:
現状では仕方のないことですが,やっぱりキチンと整理すべきだと思います。
植田氏:
はい,おっしゃるとおりです。ちゃんとやっておかないと……。
4Gamer:
警察は警察で「なんか問い合わせばっかり多くて手間取らせるな」って思うかもしれませんし,それで面倒になって規制する方向とかに走られちゃうとちょっと困っちゃうので。
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オンラインゲームに関する件数はかなり多いらしいですね。なので,会員企業においては,警察への対応も含めてある程度ベストプラクティス化できないかと思っています。
4Gamer:
警察も嫌がっていて,メーカーさんは困ってて,ユーザーさんは怒ってて,誰もハッピーじゃないですよね。あ,悪いことしてる奴だけがハッピーか。でも,その状態から早く脱却したいです。
川口氏:
今年の5月ぐらい目処に目下協議中です。
4Gamer:
おや,意外と早いですね。
川口氏:
去年から協議を開始しているので。
植田氏:
実際警察庁とかとも何度も話し合いはして,問題点を洗い出して情報共有もやっているので。とはいえ,警察庁の中でも色々と課があって,考え方とか対応とか違うので,なかなか難しいんです。官公庁としては,警察庁と経産省と,あと……。
川口氏:
国民生活センターとは情報共有しています。オンラインゲーム,ソーシャルゲームなどネットワーク系ゲームに関するクレームは,PCであれモバイルのものであれ,全国の国民生活センターからいただくようにしています。
植田氏:
最近だとモバイル系は結構多いですね。
4Gamer:
モバイルもたいがいひどいですからねえ。
植田氏:
モバイルコンテンツフォーラムさんとも情報共有はしていますよ。
4Gamer:
結構手広いですね。
植田氏:
モバイル関係の専門知識ではお役に立てるはずもありませんが,不正アクセスとかRMTとか,そういった部分の知見は,やはり我々のほうに一日の長があると思うんです。まぁあんまり嬉しくはないですけど……。
ともあれそのへんをぜひ共通化して,お互いに同じ認識にしていきたいなと思ってます。
川口氏:
スマートフォンもPC端末の一つですので,これまでPCで起こったことと同じことが繰り返されると思っています。
アカウントハックの被害に遭ったら,まずパブリッシャーに
4Gamer:
ところで話が大きくなっていってしまったのでちょっと戻したいんですが,例えばユーザーさんがアカウントハックなどの被害にあった場合,まず最初になすべきことはなんですか?
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まずは,サービス会社に対してきちっと事実を伝えてください。
4Gamer:
それにキチンと対応してもらえないからユーザーさんが怒るんだと思うんですが。
植田氏:
うーん……。それに対処するのがサービス会社の使命だと思うんですけれども,現状出来てないところもあるのは事実ではあるかもしれません。
4Gamer:
JOGAの会員企業はどうですか。
川口氏:
正直なところ,現状全社ができているわけではないと思います。
4Gamer:
まぁそれはそうですよね。そこをことさら責めるつもりはありません。
植田氏:
結局のところ,どう対応していいか分からないんですよね,運営会社のほうも。だからそれをガイドラインとしてきっちり作ろうという話なんです。要は運営会社に対してのマニュアルなんですよね。
4Gamer:
しかしまぁアカハックとかであれば,「ログを拾って調査します」という大枠はぶれないと思うんですが。
植田氏:
それはもちろんそうですね。でも時間かかりますし。
4Gamer:
せっかくなので聞いておきたいんですけれど,その問い合わせがあってから,パブリッシャーさんが調査を開始してそれなりの結果が出るまで,タイムギャップはどれくらいになるんでしょうか。
植田氏:
難しい質問ですね……。
4Gamer:
かつて4Gamerがアタックされたときの経験上,通常業務をやりながらである場合,キチンと公開できる結果を出すまで,最低でも2週間くらいはかかると思ってるんです。確度の高い結果を出すまでには,できれば20日間くらいは欲しいかもしれない。ログの洗い出しって結構大変じゃないですか。
植田氏:
確かに大変で,会社によっては全部追えないっていうケースもありますし。あとはスキルの問題ですよね。ログを取り出して抽出してきちっと分析するまでのスキルを持っている社員が内部にいない,という会社も中にはあるんですよね。
4Gamer:
かといって毎回毎回LACに頼むのも,コストも時間も非現実的ですしねえ。
しかしたぶん,ユーザーさんとしてはなんらかの明言が欲しいと思います。「これくらいは待ってて」という。でもそれを誰かがちゃんと公の場で言ったことはないのかもしれないですし。
ユーザーさんはログ解析の面倒さをあまり知らないでしょうから,「ログを確認するだけだろ」ていう人もいるし「1か月くらいかかるんじゃないの?」っていう人もいるし。むろん,それは仕方のないことですが,そういうバラバラな反応が,ネガティブで懐疑的な空気を醸し出す要因になっているのかもしれません。
植田氏:
感覚的には3日から10日,っていう感じでしょうか。それくらいである程度の結論というか回答を出さないと,ユーザーさん的にはそこまで待ってくれない気がします。もちろん,解析できないケースもあると思いますので,状況によって異なると思いますが。
4Gamer:
オンラインゲームって,毎日使うものですしね,ある意味。
「アイテム課金システムの規制」について
4Gamer:
そういえば冒頭で植田さんがちょっと触れた,御影社長のツイートですが。
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はい。
4Gamer:
単刀直入に聞きますが,ああいう話は,JOGAのほうでは耳にしていますか?
植田氏:
いいえ。そしてこれはあくまでも推測ですけど,そういう話は実際には動いてないんじゃないかと思っています。むろん,話題には上がるとは思いますけど。
割と世間では,オンラインゲームとモバイルゲームを一緒くたにして扱ってしまったりしてますし,具体的な内容をうかがっていませんし,何とも言えません。
4Gamer:
なるほど。しかし先ほどの話を聞いていると,省庁関係にもそれなりにちゃんとしたコネクションがあるようなので,JOGAが聞いてないとなると,モバイル系だけなのか,それともそもそもそういう話が(正式には)動いてないのか,そんなところですかねえ。
植田氏:
むろんそういう問題は起きているとは思うんですけど,もし仮にそういう規制があるのならば,業界団体に話があるはずです。例えば我々のような。
仮にこないのであれば,これは完全に業界自体を無視した動きになると思うんです。我々は自分達で「機能している団体」だと思っているので,何か動きがあるのであれば,必ず事前になにかあるはずです。こないのならこないで,それはとんでもない話ですよね。
4Gamer:
ゆゆしき問題ですよね,確かに。
川口氏:
省庁では色々な研究会が動いています。警察庁とか経済産業省とか。
4Gamer:
それは何に関してなんですか?
川口氏:
ユーザーにとっても我々にとってもトラブルの原因の多くが,RMTがらみです。RMTに対する研究会を開いていたり,RMTの実態を調べたりということのようです。
4Gamer:
それで,興味本位で聞くのですが,省庁はRMTの何を問題にしているんでしょうか。
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問い合わせを減らしたいんだと思います。
4Gamer:
なんというか,良くも悪くもお役人様的というか。
では返す刀で逆質問ですが,JOGAはRMTの何が悪いと思いますか?
植田氏:
結局それに伴って,トラブルが起こるわけじゃないですか。アカウントハックがあったり不正アクセスがあったりBOTがいたり。それで無関係な被害者が増えるというのが,一番の問題だと思います。
4Gamer:
ではRMTそのものは?
植田氏:
うーん……。
4Gamer:
立場上言いづらいでしょうから私から発言しますが,たぶん「RMTそのもの」は実は「悪」ではないと思うんです。それに付随するさまざまなことが大きく問題になるのは事実ですが。
植田氏:
私は,RMTを認めているわけではありませんが,ただそこに付随する悪い奴らが,人をだましたりとか,大挙して中国から押し寄せてきたりとか,ゲームのバランスを崩すようなことをしたりとか,BOTをどんどん作ったりだとか,そういうことをするのがよろしくないんです。
川口氏:
RMTワーキンググループでは,RMTが非かは議論していません。それよりも現実的に起こっているRMTがらみのトラブルや犯罪を減らす対策の方が急務ですので,そちらに専念しています。
植田氏:
そこに付随する問題が,一番の問題なんですよね。業者なども含めて。
4Gamer:
意外とまぜこぜで語られるんですよね,いつもこの問題は。
植田氏:
だからRMTにとりまく悪い奴らを取り締まりたいというところなんですよ。現状警察庁などと話してても,中国から来る奴らはなかなか取り締まれない,と。ISPなんかにも「IPを遮断してくれ」ってお願いはするんですけど,なかなか。
4Gamer:
普通に踏み台とか使いますし厄介ですよね。
チートツール販売会社とも戦うJOGA
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4Gamer:
しかしこうしていろいろ聞いていると,地味にいろんな活動してますね。
植田氏:
そうなんです。ぜひちゃんと書いておいてください。
4Gamer:
いや,我々にもリリースが出されることは少ないしメディアに表立って出てきたこともたぶんほとんどないでしょうし,不勉強ですがキチンとは知りませんでした。
ところでJOGAそのものを運営してる人達は職員ですか?
川口氏:
基本的に会員企業が問題意識をもち,自主的にいろいろな分科会やワーキンググループに参加し,それぞれを運営しているという現状です。現在3つの分科会,5つのワーキンググループが活動を行っており,そのほかにトピックス的なセミナーも開催しています。
4Gamer:
会員企業が……ということは,ボランティアのようなものでしょうか。ボランティアと聞いて思い出すのはCEDECの話でして,やはり私は,最後は「ボランティアのみなさんのご厚意」に頼るのはよくないと思っているんですが(関連記事)。
植田氏:
いやボランティアっていうかあれですよ。会員企業の方なので……。
4Gamer:
あ,そうか。みなさん「直接的な実利」のために責任を持って前向きにやってるんですね。
植田氏:
ええ,広い意味で。
直結するんですよ結局。RMTの問題にしても,不正アクセスにしても,もう今ちゃんと我々が取り組んでいかないと,将来とんでもないことになるな,と。だから,皆さん自主規制もするし,自浄作用も働くしという感じになっていると思うんです。
4Gamer:
ならある意味安心ですね。結局のところ,この業界に責任を持ってない人がやっても仕方ないと思うんです,こういう団体は。
川口氏:
オンラインゲームに関するトラブルの情報などは,会員企業会で共有されていると思います。どういう方法が有効か,または有効でないかとか。
植田氏:
チートツールの話なんかも,一時期議題に。
川口氏:
チートツールは,JOGAとして販売事業者に対して警告を行いました。チートツールを使っていないユーザーさんからすれば迷惑行為になるので。実際そういうクレームも多いそうです。
植田氏:
チートツールを販売していた会社なんですけど。このゲームとこのゲームとこのゲームで,こんなことができますよ,みたいな。
4Gamer:
あー……ありましたね,そういう会社。
植田氏:
そこに対して,弁護士も雇って2回ほど警告を送りつけて。そしたら全部バージョンが変わったので,JOGAの各社さんが全部それをチェックしてレポートを作ってまた警告を送りつけて……。
4Gamer:
武力行使で戦ったこともあったんですね。
失礼ながら,なんちゃらフォーラム,ってロクに活動していないイメージがあって,JOGAもなんとなくそんなイメージでみてました。失礼しました。
植田氏:
ちゃんといろいろやってます。もっとアピールしなきゃダメですね。
4Gamer:
したほうがいいと思います。いろいろな意味で。
ともあれ,長時間ありがとうございました。
日本オンラインゲーム協会(JOGA)公式サイト
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