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大手ゲーム会社が語るメタバースやグローバル展開とは。「Mobile Leaders Summit 2022」で行われたセッションをレポート
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このセッションは,スクウェア・エニックス,セガ,バンダイナムコエンターテインメントといった大手メーカーの執行役員が,グローバル展開やメタバースについて語るというものだ。本稿では,そのレポートをお届けしよう。
●「日本を代表する大手ゲーム会社が語る『グローバルマーケット攻略法』」参加者一覧
■スピーカー
- 広野 啓氏(スクウェア・エニックス 執行役員 第四開発事業本部 副本部長 ディビジョン1 ディビジョンディレクター FFBEシリーズ プロデューサー)
- 木岡勝利氏(セガ 執行役員 ゲームコンテンツ&サービス事業本部 第4事業部 事業部長)
- 手塚晃司氏(バンダイナムコエンターテインメント 第1IP事業ディビジョン 執行役員)
- 岡田和久(Aetas CEO兼4Gamer編集部編集長)
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アプリの大きなテーマ,グローバル展開
日本からアプリを世界に発信するうえでの苦労とは
最初のテーマは「グローバル展開について」。ここでは海外を視野に入れての開発やカルチャライズなどが語られた。
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バンダイナムコエンターテインメントの手塚晃司氏は,現在のIPモノのアプリについて「売上の半分くらいは海外からのもので,家庭用ゲームやPCゲームを含めると,もっと海外の比率は上がる」と語る。
今やアプリは日本と海外で同時リリースされることも当たり前になっており,ローンチ前にチェックすべき部分も膨大にはなっているものの,時間を掛けることで解決しているという。
また,海外展開を行ううえでカルチャライズも大切とのことで,手塚氏によれば,「青」という色1つ取っても,日本ではクールで知的なイメージだが,北米だとアダルトな感じと捉えられるというように,地域の文化には違いがあるのだという。
この例では,クール,大人びているという両者のイメージは比較的近いものの,そうでない場合は,キャラクターのイメージカラーやキービジュアル,アイコンの色などに大きな齟齬が生じる。バンダイナムコエンターテインメントでは,各国で共通的に使えるイメージやUI配置などを使いつつ,現地の人に確認してもらうというプロセスを踏んでいるという。
セガの場合は,コンシューマ機向けゲームやPC向けゲームの売上は,海外市場の方が大きいと木岡勝利氏は述べる。ストラテジー「Total War」シリーズで知られるCreative Assemblyや,サッカークラブ経営シム「Football Manager」を手がけるSports Interactiveなどをグループ会社に持つセガらしいデータと言えるだろう。
一方,モバイルアプリへの取り組みについては「国内開発タイトルは,まだまだ後手に回っている」というのが木岡氏の認識である。日米同時リリースも行い,事前登録こそ大きな数値が出たタイトルも,ダウンロード率や継続率といったところで伸び悩んだという。こうした状況を受け,木岡氏は「期待されたものからズレていたのではないか」と自己分析する。現在はターゲット層へアプリを届けるため,ニーズのくみ取りやコミュニティの形成などの取り組みを改めて進めているという。
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スクウェア・エニックスの広野 啓氏は,「ワールドワイドで勝つための企画というものがなかなかうまくいかない」と語る。日本市場は特殊なだけに,そこに従事する開発者が海外市場を想像して開発を進めても,作品にはどうしてもズレが出てきてしまい,これをチューニングするのが大変なのだそう。
そうした中で,自分たちが面白いと思うものをシッカリ作りきれば,海外市場では珍しいものとして受け入れられるのではないかと考えているそうで,海外市場で入れるべきゲーム内の要素は何であるかをチェックするアンテナが必要だと,広野氏は語る。
かつては,こうしたトレンドも,アニメやコミック系のオフラインイベントで掴めたが,今はコロナ禍のため,そうもいかないという悩みもあるようだ。また,キャラクターの人気などは,日本と海外でまったく異なる傾向を示すそうなので,どこに照準を合わせるかも大切になってくるという。
マーケティングにおいても,国ごとの違いが出てくる。日本ではTVCMが有効だが,海外では,セレブにゲームへ出演してもらうという取り組みが成果を挙げたそうだ。
2018年には「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」のグローバル版がシンガーソングライターのケイティ・ペリーさんとコラボし,彼女自身がキャラクターとなった「Popstar Katy」がゲーム内に登場している(関連記事)。
日本でセレブと言われてもいまいちピンとこないが,このギャップこそが海外ならではの事情であり,広野氏によれば「1人1人がメディア」と言えるほどの影響力を持つと言う。また,海外への情報発信についても,今後は外国語による同時通訳などが必須になる可能性があると考えているとのこと。
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大手3社の執行役員が考えるメタバース観,そしてメタバースにおける法について
続いてのテーマは「メタバース」。メタバースはバズワード化しているものの定義は明確ではない。「あつまれ どうぶつの森」「Roblox」「フォートナイト」など,ジャンルもさまざまな既存ゲームがメタバースであるといわれる一方,各社が独自のメタバースを構築する取り組みも進んでいる。バンダイナムコホールディングスでは,IPごとのメタバースを開発する計画が進行中であるという(外部リンク)。
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また「Pokémon GO」で知られるNianticは,「メタバースはディストピアの悪夢です。より良い現実の構築に焦点を当てましょう。」(外部リンク)という記事を発表。VR(仮想現実)的なものよりは,「デジタルと物理的な世界が出会うところにある情報やサービス,体験により大きく関係する」AR(拡張現実)的なものが望ましいとしている。
このように,メタバースの定義やどのようなサービスになるかが混沌としている状況において,大手3社の執行役員がどのような見解を示すのかが見どころとなった。
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木岡氏は,ユーザーの目的をどこに設定するかによって,サービスの様式は異なってくるのではないかと語る。セガとしてはゲーム性にこだわる風土から,ゲームから人同士の触れあいやコミュニティをどう作るか,アバターを通じての触れあいをどう作るかを考えていくのではないかと予想していた。
手塚氏は,バンダイナムコエンターテインメントとしての公式見解については,サイトを参照して欲しいと前置きしつつ,自身の見解をオンラインゲームに例えて語った。
オンラインゲームは,狩りや謎解きといった目的があってのごっこ遊びを頑張るものであり,この目的をゲーム的なごっこ遊びではなく,他人との親交を深めるなど社会的な欲求にできれば,毎日アクセスする意欲を喚起できるのではないかと考えているという。
そのうえで,人間が持つ基本的欲求のうち,何をメタバースで叶えるかの勝負が起こるのではないか……と,メタバース戦国時代を見据えた見解を示した。
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広野氏が注目するのは,メタバースと経済のリンクだ。メタバースにいるとはいえ,現実の自分は空腹になる。食事しなければならないが,そのためにはお金が必要である。メタバースの中でお金を稼ぎ,これを使って現実で食事を採れるようになれば,メタバースと経済がリンクしていると言える。これを実現するブロックチェーン(分散型台帳技術による,複製できないデジタル資産)が注目を集めるのではないか,と広野氏は考えているという。
既にdoublejump.tokyoとスクウェア・エニックスは,ブロックチェーンによるNFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」を共同開発している(関連記事)。これらNFTを販売する「LINE NFT」も2022年4月13日からスタート予定となっており,そうした意味ではメタバースと経済のリンクも完全な絵空事ではないと言えるかもしれない(関連記事)。
また,広野氏はフィクショナルな物語が好きだそうで,個人的な考えとして「どの国にも所属しない海上プラントや宇宙空間にあるメタバースが,独立した経済圏を持つ独立国家となって人を集めるようなことがあれば,非常に面白いものがあるのではないか」と語った。
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この発言を受け,モデレーターの岡田は「メタバースの法」というテーマを提示する。現実におけるモラルや法をメタバースに持ち込むべきか,そしてさまざまな国の人がメタバースに集うなか,トラブルはどこの法で裁かれるべきなのか,という疑問だ。
これについては,「メタバースにおいても一定のルールは必要である」という点で3人の意見は一致する。「グローバルに見ても,(人間が暮らすうえでの)ルールにはそう違いはない。人が傷つかないように何らかの制限は必要」(手塚氏),「ゲームのように一定のルールは必要。どういう形になるにしろ,自ずと統制は効いていくのではないか」(木岡氏),「国ごとに法律が違うように,メタバースごとにルールも異なっていくのではないか」(広野氏)とそれぞれの見解が語られた。
自然発生する集団とルール,その適用という観点からも,メタバースの今後が楽しみに感じられたセッションだった。
「Mobile Leaders Summit 2022」プログラム一覧
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