紹介記事
日本のゲーム開発者が見た,デンマークにおけるゲーム産業の今。ゲーム/アニメ系アクセラレーター「Ninoko」の模様をレポート
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NipponNordicと「Ninoko」は,現地のアニメーション教育機関「The Animation Workshop(アニメーションワークショップ)」と隣接するインキュベーション施設「The Arsenalet(アーセナル)」が協力している。私は,2017年度のNipponNordicではアーセナルに作業スペースをもらって滞在し,2018年度にはアーセナルに入居する企業をいくつか訪問して,詳しく話を聞く機会を得た。
そして今年度は,NipponNordicあらためNinokoがスタートし,再びアーセナルの中に用意してもらったワークスペースにて,この記事を執筆している。3年にわたりアーセナルに出入りすることで,個性的な創業を可能とする環境,産学連携の実態が明らかになってきたので紹介したい。
ヴィボー市,そしてThe Animation WorkshopとThe Arsenalet
前回の記事から時間が経ってしまったため,デンマークのヴィボー市とアニメーション教育機関The Animation Workshop(アニメーションワークショップ。以下,TAWと表記)についてもう一度簡単に説明したい。
ヴィボー市は首都コペンハーゲンから電車で5時間の距離にあり,人口4万人の小都市であるが,そんなに田舎という感じもしない独特の雰囲気を持つ街である。その街の中心にあり,文化的な空気の醸成に一役買ってるのが,ヨーロッパ最先端とも言われるアニメーション教育機関TAWである。
TAWは世界中から留学生やプロのアーティストを受け入れていて,最近ではゲーム系人材の育成にも力を入れている。そのTAWの敷地内にあるのがアニメ/ゲーム系のインキュベーション施設アーセナルである。この「アーセナル」という名称にピンと来た人は,おそらく海外サッカーのファンであろう。イングランドの名門クラブ「アーセナルFC」と同じく,この「アーセナル」もその名前の由来は「武器庫」である。
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隣接するTAWとこのアーセナルは閉鎖された軍事施設の建物を再利用している。地震がなく再利用できる建物が多いのも北欧の特徴と言えるだろう。そのアーセナルは,2011年にTAWとヴィボー市と地元ビジネス委員会によって設立された。「映像系企業にとって,デンマーク内でもっとも成長可能性のある場所」というのがその設立コンセプトである。また隣接するTAWとの産学連携も特徴とされる。
アーセナル入居企業にはTAWから人材を確保できるというメリットがある。前回の記事でも触れたが,ヴィボー市にとっては若年層の地元への定着は重要課題であり,なかでも生産性の高い知的産業の就業先を教育とセットで提供することに狙いがある。
実際にTAWとアーセナルの両方に出入りすると,どちらに在籍しているかに関わらずほとんどの人が知り合いだということが分かる。そして,アーセナル入居者同士なら当たり前のように全員が知り合いである。そのような産学入り混じった強固なコミュニティというのは日本ではなかなか見ない光景だ。ここからは,アーセナルに入居するゲーム系企業のいくつかを紹介したい。
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■ボードゲーム職人のLemuria
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Jønsson氏は私と共に2018年と2019年のNipponNordicにおいて,ゲームジャンルのメンターを務めたのだが,スクラム開発手法によるマネージメントと,常にポジティブなフィードバックで参加者全員から大きく頼られる存在となっていた。また,私にアーセナルのさまざまな企業を紹介してくれたのもJønsson氏であり,とにかく親切心溢れる人物である。
もともと教育系ゲームなどのデジタルゲームの領域で活動して来たJønsson氏だが,アナログゲームに転向した理由は「デジタルゲーム以上にフレンドリーかつ成長も期待できる業界だから」ということらしい。とくに最近のボードゲームはARを用いた仕掛けなど,スマートフォンとの連携がアドバンテージとなる場合もあり,Jønsson氏のデジタルゲームでの経験を活かせるという実感もあるという。
また,子どもがスマートフォンやPCと接触する時間「スクリーンタイム」を減らそうとする運動がデンマークを中心にヨーロッパで盛り上がり,アナログゲームが再評価されているという。
私がデンマークで見て驚いたのは,多くのスーパーマーケットや書店でアナログゲームが売られていたり,スターバックスに置いてあったりする光景だ。現時点でも,日本と比べると明らかにアナログゲームの市場が大きいと感じる。一方でアジア市場については,「正直なところ詳しくは分からない」としながらも,日本のアニメ作品とのコラボで道が開けるのではと語っていた。
彼と初めて会った2018年9月には,ちょうど私が開発に参加した「ちょいちょいドラえもん」というIPものゲームがリリースされたばかりだったこともあり,日本のアニメや漫画についていろいろと質問をされた。「ドンジャラ」のように日本の玩具業界にキャラクターを用いたアナログゲームを発売する習慣があることについては,興味津々のようだった。
また,日本の事情として一般的な書店でアナログゲームが売られることはないが,非常にコアなファンが集まる即売会が東京で行われていることを教えると,可能性としてとても興味を持った様子であった。
![]() 大きめのスーパーマーケットだと必ずアナログゲームのコーナーがある |
![]() スターバックス店内に積まれていたアナログゲーム。日本では見られない光景である |
2019年9月の時点でJønsson氏は,「来月にはデンマーク中の本屋で売られる」というARゲームブックを仕上げながら,中学校での職業/スキル教育に用いる「人生ゲーム」のようなボードゲーム,ヨーロッパの歴史あるすごろく「LUDO」をアレンジしたものなど,同時にいくつものゲームを手がけていた。
Jønsson氏の話を聞くだけでも現地のアナログゲーム市場に多くの可能性があるのが分かる。「デジタルゲームは5年かかるかもしれないが,アナログゲームならゼロからスタートしてパッケージを出荷するまで半年」というJønsson氏だが,同時に「手間をかけて丁寧に作るところはアナログゲームも変わらない」とも語っていた。
ではアナログゲーム開発の最大のメリットは何かと聞くと,ゲームを最初から最後までプレイする「通しプレイ」のテストが時間をかけずにできることだという。デジタルゲームの場合は,ゲームの仕様を変更するたびにプログラミングに時間を割かなければならないし,ゲームプレイとは直接関係ないプログラムのバグに時間を取られたりもする。
その点,アナログゲームは,ほとんどの時間を通しプレイによる検証とゲームデザインの改善に使えるというわけだ。
一方でアナログゲーム特有のリスクとしては,在庫を抱えること,逆に店舗での品切れで機会損失することを挙げていた。これは,ダウンロード販売が当たり前となったデジタルゲームの仕事ばかりしていると想像できないところであった。
ただし,物理的に存在するゲームということの最大のメリットとして,「ほぼ永久にプレイできる」ことも強調していた。実は私も「自分が作ったゲームがこの世から消える」体験をしており,「自分の作品を残す」または「ゲーム文化を保存する」という観点からこの点には強く興味を惹かれる。
最後にヴィボーやアーセナルで起業するメリットについて聞くと,「アナログゲーム制作において多様なスタイルを探している。その場合,自分1人でやるよりもさまざまなスタイルとスキルを持った人間に囲まれることが大事。ここにはそれがある。」と語った。自身の追求するジャンルの市場があり,必要な人材が揃っているという意味では,このアーセナルでの起業の成功例のように見えた。
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![]() ARアプリを用いて謎解きを行うゲームブック「ILDMESTEREN」。ゲームブックはボードゲームのパッケージと比べると量産生産コストが安く,場所も取らないので作りやすいらしい |
![]() 「どの家庭にもあるがつまらないLUDO」にプレイヤーキャラクターの概念を加えアレンジしたという「HELTE(ヒーロー)LUDO」 |
■新たな形のマルチプレイゲームを作るEvent Games
2016年創業のEvent Gamesは,文字通り「イベント用のゲーム」を開発する会社である。イベント会場や商業施設などにおいて,大型スクリーンやプロジェクションマッピングを用いて,その場に集まる不特定多数のプレイヤーで同時プレイ可能なゲームを提供するのである。
私自身も2017年に,このアーセナルの外壁を用いたプロジェクションマッピングのゲームを体験したが,スマートフォンを使って参加申請したら,あとは自分のアバターがスクリーン上で自動的にプレイを進めてくれるような内容で,その場にいる知らない人同士で手軽にライブ感を共有できるものという印象を受けた。
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ゲームデザイナーのKenneth Boris Jensen氏とプログラマーのMichael Barkholt氏は,「お年寄りはゲームパッドのようなものに恐れをなす。ワンボタンで老若男女が一緒に楽しめるものにしたい。商業的なイベントだけでなくホームパーティーで友人と楽しむなど,その場に一体感を作り出すことを目指している」とそのコンセプトを語る。
そのようなゲームを作ろうとしたきっかけについて聞くと,「最初からこのイベントゲームをやりたかったわけではない」と意外な回答があった。TAWの卒業生であるJensen氏は,元々アニメーターとしてテレビやCMの仕事をしていたというが,2016年にBarkholt氏と出会うことでようやくゲームが作れるようになったという。
両氏いわく,単に自分達が楽しめるゲームを作りたいというモチベーションしかなかったとうが,モバイルゲームの市場がすでにレッドオーシャン化していたこと,それでもネットワークプログラミングの技術を活かせる何かがないかと考えた時に,イベントゲームの形態に行き着いたと言う。
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そして現在のメインマーケットは映画館だ。映画の上映前,予告編の時間に観客達でゲームをプレイして,勝者がコーラをもらえるというものだ。私が日本に多くのシネコンがあることを伝え,日本市場での可能性はどうかと聞くと,「日本にも興味はあるが,行ったことがないので日本人の価値観はまだ分からない。テクノロジーの国なので我々のやりたいことと親和性はあると思うが外国企業が進出しにくい国だと思う」と,冷静な意見を持っていた。
では,ヴィボーの環境についてはどうかと聞くと,「家賃が安いことやTAWの学生と協業できることなどメリットは多いが,ゲーム産業にとってベストな環境とはまだ言えない。とくにモバイルゲームだと競争が厳しくて,このアーセナルから消えて行しまう企業もある。仕事を請けようと思ったらコペンハーゲンのほうが安定する」と,これまた冷静な意見である。
今後はコンサートやスポーツイベント,公共交通機関などへの進出を目標とするなど意欲的な姿勢を見せるが,熱に浮かれることなく常に冷静に客観的に可能性を評価するところは,日本のベンチャーとは対照的に感じた。
■プロトタイプ開発に特化するVizlab
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元々はTAW卒のコンセプトアーティストだったAndreas Husballe氏が1人でやっていた会社だが,コペンハーゲンのIT大学でゲームデザイン修士号を取ったJannick Petersen氏が2017年に合流した。Petersen氏は「自分のゲームデザインのスキルとアーセナルやTAWで出会えるアーティストのスキルを合わせることを考えた」という。
当初はモバイルゲームやインディーズゲームに挑戦しようと考えたそうだが,ほかの会社と同様に,市場の競争の激しさから別の分野,彼らの場合は企業相手の受託開発の道に進んだ。プロトタイプ開発という仕事については,「専業のプログラマーを必要とせずにゲームデザイナーとアーティストだけで開発が可能だけど,広範囲のスキルが必要」と語るが,これについては私も同じく,1人でプロトタイプ開発を行うことでキャリアを重ねてきた部分もあるので,よく理解できる話であった。
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現在はVRコンテンツの開発にも取り組んでいるらしいが,地元ヴィボーの図書館で利用する教育コンテンツなど,VRの公的な需要が高まっているらしい。フリーランスの人材を交えて最大4人のチームで開発をするという彼らだが,ヴィボーやアーセナルの環境についてはやはり高スキルのフリーランスを雇いやすいという利点をあげていた。
首都であるコペンハーゲンと比較したときに,ヴィボーだけで仕事をすることの難しさをあげる会社がいる一方で,Vizlabはその高度なスキルですでに需要のある分野に食い込んでいるようだった。
■コミュニティのハブとなるフリーランスクリエイター
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私が最初に彼と会ったのは,2017年のNipponNordicに参加した時だ。その時は,毎朝参加者にウォームアップとして即興コメディのようなことをさせるインストラクターとして来てくれた。そのように幅広く活動するMeldgaard氏に,これまでの経歴について聞いてみた。
元々キャラクターデザインやストーリーボードの仕事に憧れていたというMeldgaard氏は,TAWへと入学し,3Dキャラクターのモデリングからリギング,そのほかにも画面のレイアウトやコンポジットなどCGアニメーションに関するあらゆる専門技術,それだけでなく絵作りやデザインの発想などアーティストとしての中心的なスキルやチーム制作におけるコミュニケーションスキルも学んだという。
2011年にTAWを卒業したMeldgaard氏は,デザイン講師も兼任しながらオープンワークショップ(前回の記事で触れた,滞在型の自主制作プロジェクト)でTAWに残り,2013年にアーセナルに入ったという。
チームビルディングが得意なMeldgaard氏はこれまで,いくつものインディーズゲームプロジェクトの立ち上げを手伝い,ゲームジャムのオーガナイザーも務めるが,彼のような存在がアーセナル内で各人材や企業をつなぐハブとして機能することにより,本記事の冒頭で述べた「産学入り混じった強固なコミュニティ」を実現していることが分かる。
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Meldgaard氏がいたのは,1つの大きな部屋の中に複数のフリーランスが同居するコワーキングスペースのようなところだったのだが,そのような環境で横のつながりを作り,アーセナル外にも人脈をつなげて仕事の世話をし合うのは,まさにアーセナル設立時に目指した光景であろう。
ゲーム系のフリーランスだけが集まるコワーキングスペースというのは,少なくとも東京では見かけないし,あったとしても非常にプライベートで特殊なシェアアハウスなど,公共性の低いものだったりする。加えて,日本においてはフリーランスの人脈作りがほぼSNS上のコミュニティに偏ってしまっている現状があるため,このような公共性の高い物理的なハブがあればチャンスを掴める才能が増えるのではと思った。
しかし,Meldgaard氏はヴィボーやアーセナルの環境のメリットを述べながらも,やはりヴィボーだけで何かをするのは難しいとも付け加えた。チャンスを得るためにはほかの都市にも積極的に足を運んで人脈を作る必要があるそうだ。将来的には逆にデンマーク各地からヴィボーに足を運ぶ人が増えるのだろうか。いずれにせよ,Meldgaard氏の話からは,アーセナルの中でフリーランスがハブとなり,アーセナル自体がデンマークのゲーム産業のハブとなり得る可能性は感じられた。
■音楽シーンとの協業で個性を主張するアニメーションスタジオSønc
最後に紹介するSøncは,実はゲーム会社ではなくアニメーション制作会社である。私自身がこの会社のオリジナル作品である「FJER」に一目惚れしたことと,プロダクションにおいてインディーゲームにも通じるものがあったため,この機会に一緒に紹介することとした。「FJER」については,日本語字幕付きのパイロット版が公開されているので,まずはそれを見てほしい。
話を要約すると,「鳥のような姿をした人間が住む世界,ギャングのボスである男性から支配される女性主人公が,クラブの男性客たちの欲望を集める儀式に挑戦するも,何者かの妨害により一部の客が暴走,儀式は失敗してしまう。この儀式に失敗した場合は彼女の命で償う約束であったが――」という内容であるが,これは「Equinox Noir」という名のファンタジーユニバースの1つとして作られた物語らしい。
クリエイティブディレクターのJeanette Nørgaard氏は,「Equinox Noir」の世界観について,「人間の自由意志が物語のテーマであり,日常的に我々を取り囲む美しいものから非現実へと意識を拡張することを表現として目指している」と語ってくれた。そして,この世界を構想するにあたっては,本作で主人公キャラクターの声優を務めるデンマークの女性シンガーソングライターJenny Rossander氏(Lydmorというアーティスト名で活動)の存在が大きかったとも語る。
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そもそも,まだ構想が定まってない時に音楽からインスピレーションを得ようとした結果たどり着いたのがRossander氏のサウンドであり,彼女をモデルに主人公キャラクターをデザインしたという。その時は単に一方的にインスパイアされただけだったが,2014年にオーフス市で行われたミュージシャンとビジュアルアーティストのコラボイベントにて運命的にRossander氏と会い,ステージ演出という形で念願のコラボレーションが実現した。なお,実は両者は時期は違えど同じ高校を卒業していたという運命的なエピソードもある。そして,「Equinox Noir」初の作品であるミュージックビデオを共作した時から,ストーリーやキャラクターが一気に広がったというのだ。
上の映像は,Jenny Rossander氏とのコラボレーションで生まれた「SVARTZU」。Nørgaard氏が電話で5分コンセプトを説明しただけで,翌朝にRossander氏は完璧な楽曲を仕上げてきたという。
それまで,Nørgaard氏が複数のプロデューサーやファンドに対してこの企画をプレゼンしても,全然理解を得られず苦しんでいたというが,初めての理解者となったRossander氏と出会ったことで,彼女がプロジェクトの中心的存在となることを確信したという。
その通りRossander氏は,「FJER」においても全編の音楽と主人公キャラクターの声優を担当しているというが,一方でギャング風の男性キャラクターの声を担当するのは,日本でも人気のロックバンドMEWのボーカル,Jonnas Bierre(ヨーナス・ビエーレ)氏だと聞いて驚いた(私も好きなバンドである)。
これもRossander氏の紹介らしいが,元々ビエーレ氏自身が映像作家としても活躍しているため,アニメーションへの理解が深く,完璧にはまったという。このように音楽シーンと深く結びついたプロジェクトである一方,リードアニメーターなどのほとんどの参加スタッフはNørgaard氏のTAW時代の学友であるらしく,そのようなつながりで,ごく短期間でチームを結成できたことは非常に幸運だったというが,ここにも人材豊富なヴィボーの環境のメリットがうかがえる。
現在はミュージックビデオや教育系コンテンツなどの仕事で資金を作りながら「FJER」の制作を少しずつ続けているとのことだが,「FJER」が完成した後は,アニメーション以外の形態でも「Equinox Noir」という作品群を拡張していくプランがあると創作意欲をうかがわせた。
また,TAWに来ている日本人のアニメーション作家に依頼してパイロット版にすぐに日本語字幕をつけるなど,日本への展開についても意欲的な姿勢を見せるが,「作品の世界観は,日本の美学や哲学の影響も受けている。日本のオーディエンスからのフィードバックも楽しみにしている。」と,日本へのメッセージをくれた。
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■緩くも強い横の繋がりと挑戦を応援する空気
今回の取材対象者達が口を揃えて言っていたのが,「アーセナルは人や企業の出入りが激しい」ということだった。実際に最後に紹介したSøncも,2019年にはコペンハーゲンの方に移ってしまっていた。
もちろん,インキュベーション施設という性格上,オフィスを安く貸す期間を限定することでより多くのスタートアップにチャンスを与えているという事情もあるし,Søncのようにわざわざ家賃の高いコペンハーゲンに移動するのは成功例とも言えるが,フリーランスの個人の場合は,ここにいる間に何かしらの結果を出さないと,その後は人脈も分断されてしまい厳しいことになると感じた。
地元行政が重視する若年層の就業や定着という観点からは課題が残る。だが,そのように一度出て行った人もまた気軽に顔を出せるような「緩さ」がここにはある。TAWとの関係についても,そちらでプロフェッショナル向けのレジデンスをやっていることもあり,「学生/プロ」のような区別もなく,仲間意識の強さを感じた。
また,そのような緩い横のつながりというのは,縦の関係と比較すると肯定的な反応が得られやすい。ここでは,誰かが何かにチャレンジすれば必ず応援してくれる人がいる。それがここでの社交辞令であったとしても,言ってくれる人がいることそれ自体が大事だ。それが個性的な創業や高スキル人材の育成を可能とする環境であろう。
私自身,競争の厳しい日本のゲーム業界にいたことで批判的な性格が育った気がする。実際に毎年審査委員を務めるCEDECの「ペラ一枚企画コンテスト」においては,辛辣なコメントをすることが多い。それも「学生/プロ」という縦の関係性で臨んでしまうからかもしれない。
日本とデンマーク,東京とヴィボーの環境の違いを考慮すれば,一概に大学や専門学校のそばにインキュベーション施設やコワーキングスペースを作れば良いわけではないのは分かっているが,日本でも例えば,同人やインディーズゲームのようなコミュニティにおいては,「アマ/プロ」関係のない緩い横のつながりがあるのは私も認識しているし,奇しくも私が帰国直後に参加したUnite Tokyo 2019の会場で目にした「参加者が常に飲み食いを続け,常に眠たそうな目をしているが,誰もが満足げ」な緩い雰囲気,その辺にヒントがある気がしている。
「産/学」という区別を越えたコミュニティの力によってゲーム産業というよりは,ゲーム文化を進める時代が来たのかもしれない。
「Ninoko」公式サイト
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