2017年10月14日と15日,シンガポールで開催された
「GameStart Asia」(以下,GameStart)は,シンガポール最大で,かつ東南アジアでもかなりの規模を誇るゲームイベントだ。知ってました? 筆者は残念ながら知らなかったのだが,このたび現地で取材をする機会を得たので,その模様をお伝えしよう。なんと,東京から飛行機で約6時間のシンガポールへ出張だ。
「GameStart」の会場となったサンテック・シンガポール国際会議展示場
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Elicia Lee氏
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まず,イベントを主催するマーケティング企業EliphantのDirectorを務める
Elicia Lee氏に話を聞いたので,その内容から。今年で4回めを迎えるGameStartは,最初の年(2014年)の入場者数は約1万2000人だったが,昨年(2016年)は2万人を超え,年々伸びている。また,今年の出展社数は約55で,最初の頃は外国企業が多かったが,現在はシンガポールや東南アジアの企業が増えつつあるとのことだ。
また,GameStartの併催という形で,会場はだいぶ離れているが,主にゲーム産業の関係者や開発者向けのイベント(一般参加も可能),
「SEA Summit」(The Game Confernce for Southeast Asia)が10月12日と13日に行われ,
「NieR:Automata」の
ヨコオタロウ氏と
齊藤陽介氏がレクチャーを行っている。このときの模様は,追ってお伝えしたいと思っている。
メインステージ。人の姿がないのは,開場前に撮影したから
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開場前からこの状態
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会場は,シンガポールのマリーナ地区にある複合展示施設
サンテック・シンガポール国際会議展示場(Suntec Singapore Convention & Exhibition Centre)の,4階の3つのホールを使っているが,会場の広さや来場者数,参加企業数など,ドイツのgamescomや東京ゲームショウ(TGS)と比べればかなり小さいという印象だ。人口約561万人のシンガポールはゲーム市場の規模も小さく,これは,当然と言えば当然なのだが,それだけにGameStartをさらに大きくしていくことはやりがいのあるチャレンジだとLee氏は言う。
実際,開場前には入口に長い行列ができ,開場後には,多くの来場者でごったがえし,昼頃には会場内の移動もままならないほどになった。やってきた人々の熱気はかなり高かった。
GameStartは基本的にファンイベントで,試遊がメインだ。友達と一緒に来て,対戦したりするという楽しみ方が中心となる。コンシューマゲームのほかに,PCやモバイルなどの試遊台も展示されており,e-Sportsのトーナメントが行われるかたわらに,かなり広めなボードゲームのコーナーが用意されていたり,同人誌やイラストを展示,販売していたりなど,割とカオスな雰囲気。Lee氏によれば,最初はゲームだけだったが,さまざまなコミュニティから出展させてほしい,一緒にやろうという声がかかったため,このようになったとのこと。また,同人ブースの出展も可能であり,この場合,出展費用をちょっと下げているという。
ちなみに,Lee氏はいくつかの会社を経営しており,その1つにゲームに特化したマーケティングエージェンシーがある。東南アジアへの進出を考える企業をサポートするという仕事で,イベントに参加した外国企業の多くは,その関連で誘致したとのこと。会場をざっと見たところ,ソニー・インタラクティブエンタテインメントやバンダイナムコエンターテインメントのプレゼンスが非常に大きく,一方で欧米ゲーム会社のブースはなく,出展タイトル数も少ない。
これについてLee氏は,シンガポールの人達は日本のゲームやポップカルチャーに非常に興味があり,日本のゲームを遊ぶために日本語を学ぶ人もいるくらいだと述べた。実際,昨年のGameStartでは,シンガポールではまだサービスの始まっていない
「刀剣乱舞」のステージイベントが行われ,非常に評判が良かったという。また,今年は「NieR:Automata」のステージイベントが実施されており,こちらも多くの来場者を集めた。GameStartは毎年1人ないし1組のゲストを日本から呼ぶことにしており,シンガポールの人達が日本の開発者の話を聞く機会はほとんどないため,今後も有名な人を呼んでいきたいとのことだった。
ボードゲームのコーナーは,かなり広い
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GameStartはプレイアブル展示だけではなく,新作をシンガポールの人々に紹介するという役割も持っている。ソニー・インタラクティブエンタテインメントとバンダイナムコエンターテインメントは,第1回から参加しているが,毎年にように新作を持ち込んで,シンガポールのゲームファンに紹介している。一方で欧米ゲーム企業の参加が少ないのは,基本的にシンガポールにブランチのあるメーカーが主体となるためだが,昨年はBlizzard EntertainmentやWarner Bros. Interactive Entertainmentが参加した実績があり,今年がたまたま日本のメーカーが多かったということらしい。ただ,来場者に人気なのはやはり日本のゲームだそうだ。
日本人選手も参加したe-Sportsのコーナー。人が少ないのは,開場前に撮影したからで,開場後は近づくことも難しかった
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「鉄拳7」や
「FIFA 18」のトーナメントに人々が熱狂する姿も印象的であり,シンガポールでもe-Sports人気が高いようだが,第1回のときには,非常に規模が小さく,GameStartと一緒に育ってきたようなところがあるという。Lee氏の会社がカプコンの
「ストリートファイター」シリーズのパブリッシングのサポートをしており,またアジアにおける
「Capcom Pro Tour」のオーガナイズも行っており,そういう関係もあってe-Sportsに力を入れている。
今回はさらに,今をときめく韓国の
「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」の試合も行われており,これまで以上に,いろいろな国のタイトルを持ってきたいと考えているという。PUBGはシンガポールでも大人気で,Lee氏のオフィスでは全員がプレイしているそうだ。
東南アジアのほかの国々に比べて,シンガポールの人達はエンターテイメントにお金を使い,所得も多いため余裕があるとのこと。とはいえ,人口が少ないためGameStartの成長には限界があり,今後,台北のゲームショウなど,ほかの地域のイベントとコラボしたり,ほかの国でもイベントを開催できるようにしていきたいとLee氏は考えている。東南アジア全体から来場者が集まるような施策も行っていきたいという。
シンガポールの市場は小さいが,東南アジア全体の潜在市場性は高く,かつては,生活水準が高くなかったため,娯楽にお金が使えず,また簡単にゲームが手に入らないという問題もあったが,現在はそれらの点がかなり改善されて,購買力も上がっている。したがって,将来性は高いとLee氏は述べた。
Lee氏の会社にはライブストリーミングを専門とするチームがあるため,Twitchによるステージやトーメンとの生中継は,第1回のGameStartから行われてきた。昨年と今年はTwitchのほかにFacebook Liveでも配信しているので,もしかすると見たという人もいるかもしれない。欧米のイベントと違って時差もほとんどないので,日本からも視聴しやすいし,日本人のステージイベントなら翻訳もとくに必要ないので,来年あたり,配信スケジュールの告知ができたら幸いだ。
レトロハード&ゲームのコーナー。古い本やソフトの販売が行われていた
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Lee氏は最後に,2017年のGameStartには満足しており,彼女のチームは小さいが,ここまでのことができたことを嬉しく思っていると述べた。来場者からもいいフィードバックを得ているし,個人的に日本の文化や日本企業とのコラボが好きなので,日本のゲームファンにもぜひ来てほしいとして,インタビューを終えた。
SOZOのManager Director,Shawn Chin氏。ちょっと外に出てポーズを取ってもらった
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続いては,今年からGameStartに協力することになったシンガポールの企業SOZOでManager Directorを務める,
Shawn Chin氏に話を聞いてみよう。
SOZOのフラグシップイベントは,2008年に始まり,今年で10回めを迎える
「アニメフェスティバルアジア」(Anime Festival Asia。以下,AFA)だ。今年は11月24日〜26日,GameStartと同じサンテック・シンガポール国際会議展示場で開催される予定だが,GameStartが3つのホールなのに対して,AFAは6つのホール,4階全部を使って行われるかなり大規模なイベントだ。
タイトルにはアニメとあるが,実際はアニメだけでなく,マンガやコスプレ,そしてアニソンライブなど,日本のポップカルチャーを広く取り扱っている。とくにライブでは,公式サイトにもあるように,初の海外公演となるClariSや乃木坂46が出演が予定されるなど,あまりこういうことに詳しくない筆者も驚くようなラインナップになっている。
インディーズゲームのコーナー
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海外で行われるイベントとしては,おそらく最も多くの日本人アーティストが参加しているとChin氏は胸を張るが,2008年の第1回AFAのときは,May'nさんと水木一郎さんの2組しか呼べなかったという。第1回のときは,日本のポップカルチャーにフォーカスしたイベントは誰もやっておらず,もともと日本のコンテンツが好きだったChin氏はそこにビジネスチャンスを見い出したわけだが,最初の2年はシンガポールの人にほとんど知られておらず,非常に苦労したという。さらに国際政治や経済などでも問題があり,2013年頃までなかなか形にならなかったが,ここ数年は,日本人が東南アジアに目を向けるようになったこともあり,ようやく上向きになってきたという。現在は,6回めとなるインドネシアや2回めのタイ,そしてマレーシアなどでもAFAを開催しているという。
そんなSOZOが,GameStartに「共催」という形で協力することになったのは,そこに,かつて自分達が苦労して開拓したノウハウを活かせると思ったからだという。シンガポールでは過去にも大きなゲームイベントがあったが,これは政府が主催し,ファンに向けたものではなくビジネスが主体だったため,いつの間にかなくなってしまった。GameStartからは,ゲームに対する情熱が感じられるとChin氏は述べる。AFAもそうだが,ファンイベントは何よりも気持ちの部分が大切なのだそうだ。そういう点で,ゲームファンはアニメファンとクロスオーバーする部分が多いという。
実際,彼らのファンベースにアンケートを取ったところ,アニメファンの多くが1日3〜4時間ゲームをプレイすると答えており,さらに,全体の6割近くが「ゲームに課金する」と返答している。シンプルに「ゲームをやるか?」という質問については,99.9%以上が「やる」と答えている。
大盛況のコスプレステージ
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今回もたくさんの人が訪れたGameStartだが,以上のようなアンケートなどからChin氏の見るところ,共催によってゲームだけでなく多くのアニメファンを取り込めたことが盛況の理由の1つだ。今後はAFAでも,とくにアニメに紐づいたゲームタイトルを取り入れていけば,集客の効果が図れるのではないかという。
e-Sportsも,これから成長していく分野だとChin氏は述べた。東南アジアではMOBAやRTSよりも,格闘ゲームやサッカーなど,「見て分かりやすい」ゲームジャンルがアピールする傾向があるため,日本の格闘ゲームコンテンツに期待しているとのことだった。
今後,GameStartをさらに成長させていくための施策として,AFAのようなゲーム音楽のコンサートを行うことなどを考えているが,詳細はこれから詰めていくそうだ。
人種の坩堝で多言語,趣味嗜好もさまざまなシンガポールだが,日本のコンテンツは非常に強く,多くの人が興味を持っている。いろいろな国のゲーム友達を作ることもできるので,ぜひ日本の皆さんもシンガポールへ来て,イベントに参加してほしいと述べて,Chin氏は話を締めくくった。
東南アジアのゲームマーケットは,個人的には未知の領域だったが,いろいろな人から話を聞いて,ちょっと詳しくなったような気がしている。日本のコンテンツ,強いみたい。東南アジアのゲーム市場は現在,スケールは小さいが伸び率は非常に大きいという。
また,ゲームの生産量も少ないものの,さまざまなゲーム企業のアウトソーシングを引き受けることで,地力は上がっているとのこと。規模的には小さいGameStartだが,そうしたことを背景に大きく成長する可能性があるので,今後も注目してきたい。来年の今頃,シンガポールを訪れる予定のある人は,ちょっと足を運んでみるのもいいかもしれないが,先の話すぎですか?