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「eスポーツなら有機EL」の時代が来るか? JOLEDがeスポーツ向けを謳う垂直144Hz対応有機ELパネルを披露
2018年12月5日から7日まで,千葉の幕張メッセで,「液晶・有機EL・センサ技術展」(ファインテック ジャパン)という展示会が開かれている。この展示会に,日本の有機ELパネル専業メーカーであるJOLED(ジェイオーレッド)が,eスポーツ向けを謳う有機ELディスプレイの試作機を出展していたので,いったいどのようなものなのかをレポートしたい。
JOLEDは,かつてソニーやパナソニックといった企業で有機ELテレビの開発に取り組んでいた技術者たちが合流した日本メーカーで,インクジェットプリンタのような装置で素材を塗り分けてパネルを成形する「印刷方式」を使った有機ELパネルの開発と生産に取り組んでいる。
JOLED製有機ELパネルの特徴については,西川善司氏によるASUSTeK Computer(以下,ASUS)製有機ELディスプレイのレポート記事に詳しくあるので,そちらを参照してもらうとして,ここでは取材レポートを続けたい。
今回のテーマであるeスポーツ向け有機ELディスプレイは,当然ながら試作品であり,このディスプレイ自体をJOLEDが製品化しようとするものではない。JOLEDはパネルメーカーであり,展示しているのはあくまでも,「同社製有機ELパネルを使えば,こんな製品が実現できますよ」という提案のためのもの。この提案を受けて実際に製品を作るのは,ディスプレイメーカーである。
それを踏まえたうえで,展示されていた試作機を見ていこう。
会場で表示されていたのは,「League of Legends」(以下,LoL)の国内大会を素材にした中継映像のビデオであり,ライブのゲームプレイではなかったことはお断りしておく。
有機ELパネルを使ったテレビやディスプレイで,高リフレッシュレートの表示に対応するものはまだ少ないので,ここは重要な差別化要因であろう。
また,有機ELパネルの利点である応答速度の速さもポイントだ。JOLEDの説明員氏は,応答速度は液晶パネルの10分の1とアピールしていた。
それに加えてJOLEDの有機ELパネルは,RGB 3色のサブピクセルで構成した画素による発色の良さも利点であり,液晶パネルが苦手な低輝度部分での色再現性にも強みを発揮するという。
ちなみにJOLEDでは,LoLの国内プロリーグでも活躍するプロゲームチーム「Burning Core」とパートナーシップ契約を結んでおり,同チームの選手たちから意見を聞きながら,開発を進めているそうだ。
実は,この試作機で使っている21.5インチサイズの有機ELパネルは,JOLEDブースに展示されていた21.5インチサイズで4K解像度(3840×2160ドット)の医療用途向け有機ELディスプレイと同じものであるという。ちなみに,ASUSの有機ELディスプレイである「ProArt PQ22UC」のパネルも,スペックから想像するに,これらと同じものと思われる。
ただ,有機ELパネルに付きものの焼き付きや,焼き付きに対処するための表示遅延といった課題をどう克服するのかまでは踏み込めなかった。
さて,気になるのは,「仮にこのパネルを使った有機ELディスプレイができたとしたら,値段はいくらくらいになるのか」だろう。繰り返しになるが,JOLED自身はパネルメーカーであり,ディスプレイメーカーではないので,製品がいくらになるのかは決められない。それを踏まえたうえでの話になるが,「ローカルディミング対応の(ハイエンド)ゲーマー向け液晶ディスプレイ並みになるのではないか」という回答を得られた。
直下型LEDバックライトのローカルディミング(エリア駆動)に対応するゲーマー向け液晶ディスプレイと言えば,ASUSの「ROG Swift PG27UQ」が思い浮かぶ。発売当初は30万円以上,現在でも26〜29万円台で販売されている製品だ。また,同じ有機ELパネルを使っていると思われるASUSのProArt PQ22UCは,4000ドル前後(約45万1800円)の価格になると言われている。つまり,現時点でゲーマー向けディスプレイとして製品化しても,30〜45万円程度はする超高級ディスプレイになってしまうわけだ。
JOLEDは現在,石川県能美市のJOLED能美事業所で,印刷方式有機ELパネルの量産ラインを2020年に稼動させようと取り組んでいる。これが本格的に動き出せば,もう少し手の届きやすい価格帯で,ゲーマー向け有機ELディスプレイが登場する可能性もあるだろう。
2年後くらいのゲーマー向けハイエンドディスプレイに,有機ELパネルという選択肢が加わっていることを期待したい。
JOLED公式Webサイト
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