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ゲーミフィケーションを用いた“関わる楽しさ”を生むコミュニティデザインが語られたセッションをレポート。共鳴に大事な4つの要素とは
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ゲーミフィケーションは比較的新しい考え方ではあるものの,ゲーミフィケーション然とした特殊な施策を行わなくとも,コミュニティにはゲーミフィケーション的な要素が存在する。
2025年11月21日に行われた「Gamification conference 2025 Quest」で,セッション「共鳴するゲーミフィケーション──“関わる楽しさ”が生まれるコミュニティデザイン」が行われた。
こちらでは,コミューンのマーケティング&インサイドセールス部 部長 新山恒平氏と,コミューンコミュニティラボ所長である黒田悠介氏が登壇し,コミュニティとゲーミフィケ―ションに関する講演を行った。
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「共感」「欲求」「模倣」「協働」。コミュニティが本質的に持つ“暗黙的ゲーミフィケーション”で盛り上げる
コミュニティでは,ユーザーの振る舞いが影響を与え合うゲーミフィケーション要素が存在し,こうした作用を「共鳴」と呼ぶと黒田は語る。コミュニティでユーザーの行動が変わるわけで,「行動変容装置」という側面があるわけだ。
共鳴には「共感」「欲求」「模倣」「協働」という4つの類型がある。運営側が特に施策を行わなくても作用することから,黒田氏はこれらの4類型を“暗黙的ゲーミフィケーション的要素”と名づけている。
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●「共感」
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コミュニティやSNSの投稿に対し,これを見た利用者が「いいね」など共感を表明すること。共感されると,コミュニティへの帰属意識が高まり,さらなる積極的な参加につながる。
●「欲求」
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他者が認められているのを見て,自分も同じように認められたいと願う。黒田氏いわく,共感より前のめりの感情であり,満たされるとモチベーションが上がる。
●「模倣」
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他者の成功を見て,これを真似することで自分も成功を収めようとする。
●「協働」
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コミュニティに信頼関係が築かれると,ユーザー同士がお互いに質問しあったり,自身のスキルで協力し合ったりといった現象が起こる。協働がうまくいくと,帰属意識が高まっていく。
例えば,ある人がコミュニティ内で料理に関して投稿したとしよう。共感したユーザーからは,「いいね」や賞賛のコメントがつく。
これを見たほかのユーザーたちには自分もやってみたくなる欲求が生まれる。その中の一人が味付けや材料が違う,模倣した料理の投稿を行う。こうして料理に関する話題が盛り上がり,あるユーザーは料理会を企画し,またあるユーザーは料理会のパンフレットを制作する。
このように,コミュニティ内では,ユーザー同士が影響を与え合う共鳴が連鎖していく。そして共鳴が起こるとコミュニティは盛り上がり,新規ユーザーが増えて既存ユーザーの帰属意識も高まる。
本セッションで取り上げられるのは,企業主催のコミュニティだが,自社のアピールという設立目的も達成されることになる。つまり,企業が目的を果たすにも,ユーザーどうしを共鳴させることが大事であるわけだ。
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共鳴現象にしろ4類型にしろ,起こっている現象は当たり前のものである。これが“暗黙的ゲーミフィケーション”という分類をする理由だ。
ゲーミフィケーションといえば,ポイントやリワード,バッジにランキングといった専門的かつ技術論的な“明示的ゲーミフィケーション”が注目されがちである。しかし,こうした特殊な施策を行わずとも,当たり前の“暗黙的ゲーミフィケーション”を自覚的に用いれば,コミュニティを盛り上げられるのだ。
“明示的ゲーミフィケーション”は運営側が考えて実施する上意下達のゲーミフィケーションなのに対し,“暗黙的ゲーミフィケーション”はユーザーどうしで自然発生する横方向のゲーミフィケーションであることも大きな違いだ。
黒田氏は,横方向のゲーミフィケーションが存在することにコミュニティの可能性や面白さがあると考えているのである。
そして黒田氏は2つのゲーミフィケーションの関係性を料理とお皿に例える。“暗黙的ゲーミフィケーション”というお皿に“明示的ゲーミフィケーション”という料理が乗っているわけで「お皿も料理の一部と捉える」考え方が大事であると指摘した。
これは個人的な感想になるが,“明示的ゲーミフィケーション”の特殊な施策は派手だが,新規ユーザーが参加するハードルを上げたり,運営や改良の手間がかかったりするという側面もあると感じられる。
一方で,対外的なアピールやユーザー層増加にはこうした施策が重要であるのも事実で,限られた運営リソースを“暗黙的ゲーミフィケーション”“明示的ゲーミフィケーション”にどう配分するかを考えるかも重要であると思えた。
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現在は国内の企業もコミュニティを主催しているが,共鳴や“暗黙的ゲーミフィケーション”の考え方で紐解くと興味深い成功例がいくつも出ているという。講演では,こうした例についても解説が行われた。本稿では,セッションで紹介された事例の1つであるユーグレナ・エアポートの例を掲載する。
共感によってコミュニティが継続的に盛り上がった「ユーグレナ・エアポート」
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細藻類ユーグレナを活用するユーグレナ社が,Communeを活用し運用するコミュニティがユーグレナ・エアポートである。同社が開発した次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を通販に取り入れる取り組みにおいては,ユーザーが導入費用を支援でき,商品配送時のトラック輸送にサステオが使われる「サステナブル配送プロジェクト」を展開した。
これが好評だったことからユーグレナ社内のモチベーションも上がった。また,コミュニティのユーザー数が1.5倍に増えたのに加え,盛り上がりはプロジェクトの終了後も続き,第25回物流環境大賞の特別賞を受賞している。
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共鳴がうまく作用すると,ユーザーは単なる利用者から協創するパートナーへと変化するという。パートナーとなったユーザーはそうそう離れることがないため,企業の成長につながっていくのだ。
企業が大々的に何かを始め,会員登録やアプリのインストールなどの手間を強いるものの,ユーザー側のメリットが薄い。そうした上意下達形の施策は,残念ながら珍しいものではない。
講演で挙げられた例はユーザーをパートナーとすることで結びつきがより強まっており,興味深いものがある。結局のところ,ユーザーと企業もギブアンドテイクの関係だ。上意下達から共鳴に意識を変えることで,より効果的なマーケティングが行えるのではないか,と感じられた。
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