業界動向
Access Accepted第602回:規模縮小が予想される世界のゲーム市場
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「Fortnite」が牽引した2018年のゲーム市場
ニールセン傘下のゲーム産業専門のリサーチ企業,SuperDataによると,2018年で収益の最も多かったゲームタイトルはEpic Gamesの「Fortnite」で,なんと24億ドル(約2610億円)に達するという。「Fortnite」は,ライブストリーミングサービスの「Twitch」で最も視聴されたゲームでもあり,2018年6月に開催されたゲームイベント「Friday Fortnite」では880万人もの視聴者を獲得。これは,2018年前半の最高記録だった人気テレビドラマ,「ザ・ウォーキング・デッド」のシーズン最終エピソードの視聴者数790万人を上回るもので,まさに2018年の台風の目のような存在だった。
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2017年に一世を風靡したPUBG Corporationの「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」の人気は現在も継続しており,SuperDataによれば,2018年の収益は,2017年より19%多い10.3億ドル(約1120億円)だった。収益では「Fortnite」の後塵を拝してしまったが,それでも圧倒的な成績だ。この2作に,「FIFA 18」(7.9億ドル),「グランド・セフト・オートV」(6.3億ドル),「コール オブ デューティ ブラックオプス 4」(6.12億ドル),そして「レッド・デッド・リデンプション2」(5.16億ドル)が続いたという。
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「Fortnite」が広く受け入れられた理由としては,サーバーが安定しており,広すぎないマップで密度の濃いゲームが楽しめるなどいろいろ考えられるが,やはり,Free-to-Playでバトルロイヤルが遊べるというところは大きいだろう。キャラクタースキンやエモートが手に入るうえに,十分なゲーム内通貨ももらえる「バトルパス」のビジネスモデルは,高額でソフトを購入させながら,さらにマイクロトランザクションを強いる最近のAAAタイトルに比べて評判が良い。プレイヤーは積極的に課金しており,このあたりはモバイルゲーム市場に似た状況になっている。
2018年の「Fortnite」の躍進は,社会現象と呼んでもよさそうなもので,テレビ番組に招待されたミュージシャンがフォートナイト愛を語ったり,アメフトやサッカーの選手が,エモートと同じダンスをしたりという光景が見られた。エモートのダンスについては,自分がオリジナルだと訴えるミュージシャンやダンサーが訴訟を起こし,そのため「ダンスムーブ(の一部)は個人の知的財産として認められるのか?」といった議論までが大きく盛り上がった。
Twitchではストリーマ(ゲーム配信者)の新たなスター,“ニンジャ”ことタイラー・べレヴィンス(Tyler Blevins)氏が登場,彼の配信する動画の1年間の総視聴時間は,2億1800万時間におよぶ。これは,2位と3位の全動画を合わせたものよりも長く,一説ではべレヴィンス氏の収入は月に5000万円に達するという。
中国市場での規制やゲーム疲れにより,
市場規模は縮小へ?
北米時間の2019年1月23日にBloombergが掲載した記事によれば,ロンドンのリサーチ会社であるPelham Smithers Associatesが2018年のゲーム市場の規模は,世界全体で1365億ドル(14.8兆円)に達すると予想しており,これは映画産業と音楽産業を合わせたよりも大きな市場規模だが,前年度比で見れば約1%の下落になるという。
これまで,右肩上がりで成長してきたゲーム産業だけに,この予測のとおりなら,わずかとはいえ,前年を割るのは1995年以来,実に24年ぶりのことになる。
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これはあくまでPelham Smithers Associatesの予想であり,各メーカーが年間の業績報告を行い,各種データが公開されるまで,現実の市場がどうなっているのかは分からない。
しかし,先週掲載した本連載の第601回「欧米最大のパブリッシャActivision Blizzard,最近の気になる動き」でも書いたように,IT産業の株価下落に呼応して,大手ゲームパブリッシャも株価を落としており,それはActivision Blizzard,Electronic Arts,Ubisoft Entertainmentなどのほか,中国のTencentや,「レッド・デッド・リデンプション2」で成功を収めたTake-Two Interactive(Rockstar Gamesの親会社)も例外ではない。
記事中,Pelham Smithers Associatesはゲーム産業の規模縮小が予想される理由を3点挙げている。まず指摘されているのが,市場全体の49%を占めているモバイルゲーム市場が,中国政府の規制によって10%ほど落ち込んだことだ。中国では暴力表現や中毒性を理由にゲームの販売認可に制限を加えており,TencentやNetEase Gamesなどの中国企業も例外ではない。最近の情報によれば,制限は緩和の方向に向かっているようだが,先行きは不透明だ。
2つめの指摘は,市場全体の19%を占めるコンシューマ機市場で,2017年を超える大ヒット作品が出なかったこと。こうしたユーザーの「買い控え傾向」は次世代コンシューマ機が登場すると予想される2020年頃まで続くトレンドだとしている。「Ghost of Tsushima」や「DEATH STRANDING」のような,多くのゲーマーが期待する作品はまだ控えているが,毎年リリースされる各パブリッシャの看板シリーズが飽きられつつあり,既存のコンシューマ機にもそろそろ疲れが見えてきたという印象は確かにある。
3つめは,市場の25%を占める好調なPCゲーム市場でも,ゲーマーの多くがバトルロイヤルにそろそろ飽きてきているのではないかという指摘で,記事中ではそれを「Fortnite疲れ」(Fortnite Fatigue)と表現している。欧米プレイヤーの動向を見る限り,そうでもないように感じられるが,ビジネスモデルやシステムにおいて「次のトレンド」が見えにくいのは事実だろう。将来の流れが見えないことが,ゲーマーや投資家の購買・投資意欲を削いでいるということだろうか。
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もちろん,Pelham Smithers Associatesの予測に反するニュースも聞こえてくる。GamesIndustry.biz日本語版が1月31日に掲載した記事によれば,任天堂の2018年第4四半期の売上が前年同期比で26%増を記録したという。Microsoftは,月額料金で好きなゲームをプレイできる「Xbox Game Pass」の好調な販売で「過去最高のゲーム売上」になったことを発表している。
また,北米の業界団体であるESA(Entertainment Software Association)は,2018年の北米ゲーム市場の売り上げが,前年比18%アップの434億ドル(約4兆7238億円)の過去最高を記録したとしており,さらにVR対応タイトルやeスポーツなどの新たな分野も堅調だ。
四半世紀にわたって膨張を続けているゲーム市場だが,永遠にそれが続くことはなく,いつかはピークを迎え,やがて停滞・縮小していくだろう。Bloombergの記事は,そのピークが2018年,ついにやってきた(のかもしれない)という指摘であり,確かにそう感じさせる状況は発生している。果たしてゲーム業界はこれからも成長できるのか,2019年も引き続き注目していく必要があるだろう。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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