業界動向
Access Accepted第365回:「シーズンパス」戦略の光と影
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「Borderlands 2」や「Halo 4」,そして「Call of Duty: Black Ops 2」のようなビッグヒットが世間を賑わす一方,北米ではゲーム市場の落ち込み傾向が顕著になってきている。シリーズ作品しか売れないという一極集中型の状況で,よく聞くようになったのが「シーズンパス」というDLC一括販売システムだ。ファンにとっては割引き価格でDLCが入手できるチャンスだが,特定の人気作品がファンを囲い込んでいるという状況も生まれているようだ。
落ち込みが顕著な北米ゲーム市場
世界のゲーム市場の34%,3分の1以上を占めるアメリカだが,最近,市場の縮小傾向が顕著になっている。アメリカのリサーチ会社,NPD Groupによると,2012年10月のハードウェアおよびソフトウェアのセールスは,前年同月比で25%下落。ハードウェアに限れば37%も減っており,7月1日から9月30日までの四半期は前年比で9%の落ち込みがあったという。10月にはMicrosoft,任天堂,そしてSony Computer Entertainmentも,それぞれ収益の下降を発表した。
ゲーム市場の落ち込みは,発売される新作タイトルの本数にも表れている。北米の年末商戦は10月からすでに始まっており,「Assassin's Creed III」(10月30日発売),「Halo 4」(11月6日発売),「Call of Duty: Black Ops 2」(11月13日発売)と,ブロックバスター作品が続けてリリースされ,市場が盛り上がっているように見える一方で,それ以外のめぼしい新作タイトルがほとんどない状況だ。理由はさまざまにあるだろうが,よく聞くのが,上記のようなヒットタイトルのリリースと同じ時期に自社タイトルをぶつけることを躊躇しているという話だ。かつて,年間売り上げの50%に達するといわれたホリデーシーズンを避けるほど,メーカーの体力は減っているということでもあろう。
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実際問題として,小規模なプロジェクトをデジタル販売したり,モバイルタイトルに力を注いだりしたほうが,現在の市場で生き残る手段としては合理的だ。シリーズ作品しかヒットしない状況は,市場の硬直化の現れであり,現行世代のコンシューマ機市場はよく言えば成熟期,悪く言えばサイクルの終わりを迎えつつあるのだろう。
そのことが,結果として,1000万本を超えるヒットタイトルが次々に登場しながら,ゲーム市場の規模全体は縮小するという現象を生み出している。
ただ,ハードウェアやパッケージソフトに比べてデジタルセールスは健闘しており,前年同期比で1%の落ち込みに留まっている。さらに,NDPのレポートにモバイルゲームは含まれていないので,ゲーム市場が数字どおりに縮小している,と必ずしも断言できるわけではない。この点には留意する必要があるだろう。
さて,新作タイトルが減っている状況に合わせてか,ここ1年半ほどの間に,ある興味深いビジネスモデルがブームになっている。海外ゲームに詳しい読者の皆さんならご存じかと思うが,それが「シーズンパス」だ。
プレイヤーを掴んで放さない「シーズンパス」
シーズンパスのシステムを筆者が最初に聞いたのは,2011年5月にRockstar Gamesがリリースした「L.A. Noire」 (邦題: 「L.A.ノワール」)で,日本でも「L.A.ノワール ロックスター・パス」という名前で発売されているので,知っている人も多いだろう。これは,最初にまとめて料金を払っておけば,その後にリリースされるダウンロードコンテンツがすべて手に入るというもので,当然,個別にDLCを買うよりもお得な価格設定になっている。追加ミッションのほか,衣装なども配信されたが,L.A. Noireでは,予定しているDLCのスケジュールなどをあらかじめ発表していた。
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同年9月にリリースされた「Gears of War 3」ではシーズンパスという呼び名が使われており,続いて「Forza Motorsport 4」「Battlefield 3」「Uncharted 3: Drake's Deception」「Call of Duty: Modern Warfare 3」,そして「Saints Row: The Third」などのタイトルがシーズンパスを採用した。2012年には「Mass Effect 3」「Borderlands 2」,そしてCall of Duty: Black Ops 2などが採用しており,この1年半ほどに,25タイトル前後が出すなど,シーズンパスは大きなトレンドになっている。
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とはいえ,シーズンパスは諸刃の剣にもなり得る。本編のリリース前からシーズンパスを含めたDLCの計画を立てる必要があり,販売実績が振るわなければダメージはより大きくなるはずだ。また,シーズンパスを購入したからといって,「すべて」のDLCが入手できるとは限らない場合もあり,タイトルによってはユーザーの混乱を招いくことになるケースもあるようだ。
シーズンパスの持つ主要な役割は,「1つのゲームを,いかに長い期間遊んでもらうか」ということだ。例えばBattlefield 3では,1年半にわたってDLCの制作が続けられるなど,これまでの売り切り型のビジネスから,MMORPGなどに近い「サービス」ともいえる長期のモデルへと移っている。「Call of Duty: Elite」などのオンラインサービスや,毎週配信されるというHalo 4のSpartan Opsなど,これまでのように売ったら終わりではなく,莫大な予算をかけて制作したタイトルからいかに既存のプレイヤーを手放さず,継続的に利益をあげていくかが重要視されるようになったのだ。
このように,メジャーなタイトルがこぞってシーズンパスを採用し,次々とDLCをリリースするという状況が欧米ゲーム市場で続いており,メーカーの戦略はうまくいっている。しかし,プレイヤーが1つのゲームに長く没頭することで,ほかのタイトルをプレイする時間がなくなり,結果として新規タイトルが作られない/売れないということになれば,タイトルの一極集中はますます進んでいくだろう。これが長期的に欧米ゲーム市場にどのような影響を与えていくのかが気になるところだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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