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Access Accepted第253回:既存の市場に果敢に挑戦する二つのビジネスモデル
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印刷2010/02/19 13:27

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第253回:既存の市場に果敢に挑戦する二つのビジネスモデル

奥谷海人のAccess Accepted

 ダウンロードによるゲームの販売,ストリーミングによるゲームオンデマンド,iPhoneアプリ,ソーシャルゲーム……。一昔前には聞いたこともなかったような,ゲームの新しいビジネスモデルが,このところの欧米ゲーム業界で次々に誕生している。今回は,欧米で注目され始めた二つの新たな動きを紹介しよう。

第253回:既存の市場に果敢に挑戦する二つのビジネスモデル

 

デジタル販売されたゲームの中古販売が可能に!
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ダウンロード販売されたタイトルの中古トレードを可能にするというGreen Man Gaming。公式サイトでは,2010年3月末のサービス開始に向けたカウントダウンが始まっている。以前にも書いたが,ダウンロード販売市場では,リリースから時間の経った作品が極端な安価で発売されるデフレ状態にある。Green Man Gamingはその動きに拍車をかけそうだ

 北米のIT関連産業の過去を振り返ってみると,既存のシステムやビジネスモデルが破壊され,そこから市場が新たに作り直されるという動きが繰り返されてきたことに気がつく。
 例えば,1980年代から1990年代にかけてアメリカのオンライン市場を支配していたAOL(America Online)やCompuserveといったWebポータル型のサービスは,2000年以降,オープンで安価にインターネットが楽しめるADSLを使った多数のIPSにその座を譲ったし,数多く存在していた有料のオンラインゲームサービスは,広告収入によって無料化を実現したBlizzard EntertainmentのBattle.netなどに取って代わられた。
 メジャーなところでは,無料のブラウザやOSによってビジネスモデルを変えようとするGoogleも,こうした破壊/再生型ビジネスの挑戦者であろう。
 既存市場への挑戦はもちろん,成功例よりは失敗例が多いし,たとえ成功しても,追随してきた企業の参入によって駆逐されてしまうこともある。しかし,そんなパイオニアが挑戦を繰り返すことによって,我々消費者が恩恵を受けてきたのも事実だ。

 さて,ここのところ盛り上がっているSteamやImpulse,Direct2Driveといったゲームのデジタル配信システム。最近ではオンラインコンテンツデリバリーと呼ばれることも多いが,PCゲームの救世主として,ここ数年で急成長してきた。
 Xbox LIVEやPlayStation Networkなどを含めた北米のオンラインコンテンツデリバリーの規模は,推定ではゲーム市場全体の10%程度に過ぎないとされているものの,金額にすれば邦貨で1800億円にもおよぶ巨大なマーケットになっている。

 不法コピーなどが難しいのも,オンラインコンテンツデリバリーが注目されている理由の一つだが,この市場を狙って新たなビジネスが始まろうとしている。
 それが,イギリスで設立されたばかりの,Green Man Gamingだ。プレスリリースによると,Green Man GamingのCOO(Chief Operating Officer)を努めるGian Luzio(ジャン・ルツィオ)氏は「これまで,デジタル販売で入手したゲームは再販価値がなく,ゲーマーが新しい投資をする障害になってきた」としており,Green Man Gamingの開発した新しい技術によって,デジタルコンテンツの売買が容易にできるようになると続けている。

 再販制度がなく,また商品を小売店が完全引き取りするアメリカでは,ローカルな小売店だけでなく,GameStopやAmazon.comといった大手でも中古ソフトの売買が行われている。しかし,中古ソフトの売買はパブリッシャやデベロッパには実入りのない流通であり,ゲームを制作/販売する側にとっては目の仇でもあった。
 そんな,北米ゲーム業界の問題点ともいえる中古ソフト売買が,物理的なディスクの存在しないデジタルコンテンツでも行われるというわけだ。Green Man Gamingは2010年3月末のサービス開始時に400タイトル,さらに2010年内に2000タイトルをフィーチャーする予定としている。今のところ,システムやタイトルの詳細については発表されていないが,Steamのライブラリーは現時点で1050タイトルほどなので,ひょっとしたらコンシューマ機向けタイトルも対象になっているのかもしれない。

 オンライン販売を行うメーカーにとって議論を呼ぶサービスであるはずだが,Green Man Gamingは「ゲームがトレードされるたびにパブリッシャにロイヤリティを支払う」としており,それなりの対価を支払う準備はある模様だ。果たして,このGreen Man Gamingの新サービスは,これまで右肩上がりで発展してきたオンラインコンテンツデリバリー市場を,一度打ち壊していくことになるのだろうか?

 

iPhone版ゲーム専用プラットフォームが登場
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Xbox LIVE的なオンラインコミュニティの運用だけでなく,iPhone用ゲームプラットフォームとしての役割を担おうとサービスが進められているAurora Feintの「Open Feint X」。FacebookやTwitterに連動させ,フレンズを招待したり自分の戦績を表示したりできる

 さて,もう一つはガラっと変ってiPhoneを舞台にした新ビジネスだ。カリフォルニアをベースにしたAurora Feintが,ついにiPhone/iPod touch上でマイクロトランザクションを可能にするAPI,「OpenFeint X」のβ版を発表したのである。Appleは,iPhone OS 3.0でマイクロトランザクションを可能にするスキームを追加してはいたものの,これまで実際にサードパーティに利用されたことはなかった。

 現行のOpenFeintは,iPhone版のXbox LIVEといったところで,チャットやラダーを軸にしたオンラインコミュニティや,アチーブメントの利用をサポートしたもの。正式名称を「OpenFeint iPhone Development System」という,オープンな開発用システムである。現在,iPhone上で最もポピュラーなゲームツールであるとされており,ユーザーベースは2010年2月現在で1200万人に達するという。
 OpenFeintを利用したゲームはAppStore内に約1000タイトルあるといわれ,Aurora Feintはさらに1800タイトルが開発中であるとしている。

 OpenFeint Xは,現行のシステムをさらにレベルアップさせ,ユーザーが単一のプロフィールで複数のゲームをプレイし,フレンズを招待したり,ゲーム内のグッズを購入したりすることが可能になる。OpenFeintと同様,ゲーム開発者の利用は基本的に無料だが,専用ストアを運営し,アセットを販売するというサービスを行った場合は費用がかかる見込みだ。
 iPhoneで利用できるアプリの総数は実に18万本にも達する勢いだが,このうちの20%ほどがゲームだといわれている。スクリーンの小ささやインタフェース上の制約から,ゲームの内容はカジュアルなものにならざるを得ないが,現在のところ似たようなゲームであふれており,ゲーム開発会社の中には価格を最低限に引き下げて販売しているところも多い。
 しかし,OpenFeint Xをサポートしていれば,あまたの類似ゲームに埋没することなく,新たなサービスや新作タイトルを容易に提供できるというわけだ。Xbox LIVEやSteamがそうだったように,iPhoneを利用するゲーマー層にとってもメリットは大きいだろう。

 もし,Aurora Feintの思惑どおりにOpenFeint Xが成長していけば,本連載の第249回「ソーシャルゲームの落とし穴」でも書いたように,Aurora Feintが投資家に魅力的なメーカーになっていく可能性は十分にある。
 もちろん,OpenFeint XはAPIであり,現在は無名のメーカーが,OpenFeint Xを使ったサービスで躍進を遂げる可能性もある。
 iPhone OS 3.0という導火線に,OpenFeint Xという火付け役が登場した。FacebookにおけるZyngaがそうだったように,Aurora Feintは巨大な市場を獲得するか,それとも,その動きをけん制する新たなビジネスが登場してくることになるか。かなり要注目な分野であることは間違いない。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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