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メタバースの可能性や課題をclusterの加藤直人氏が語ったセッションをレポート。“ゲーム企業はメタバースに方向転換したほうがいい”
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印刷2022/02/21 13:01

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メタバースの可能性や課題をclusterの加藤直人氏が語ったセッションをレポート。“ゲーム企業はメタバースに方向転換したほうがいい”

 松戸コンテンツ事業者連絡協議会は2022年2月18日,クリエイティブ系ワーキングスタイル・トークセッション VOL.22「ひきこもりを加速する…?メタバース最前線を語る」を,オンラインにて開催した。このセッションでは,メタバースプラットフォーム「cluster」を運営するクラスターの代表取締役CEO 加藤直人氏が,自身の考えるメタバースや,その可能性と魅力,課題などを語った。聞き手となったのは,メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏である。

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技術の発展により,仮想空間にチャレンジするハードルが下がった


 加藤氏は,まずメタバースが従来のゲームと違うところについて,「クリエイターが生活環境を自由に作れること」を挙げた。例えば「あつまれ どうぶつの森」は,よくメタバースなのではないかと指摘されるが,加藤氏は「ゲームの中にずっと住み続けたいかというと,そうではない」「そのゲームの世界観しか体験できない」とし,「clusterのようなメタバースでは,世界観自体がクリエイターによってゼロから作られ,内容もバラバラ」と説明。

cluster内でユーザーが開発したコンテンツ
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 加えてVRの先駆者であるアイバン・サザランド氏が,1960年に書いた論文にて用いた「究極のディスプレイは,コンピュータが物質の存在を制御できる部屋」という文言を紹介し,「まさにそういう体験ができる空間がメタバースであり,現状はアーリーアダプターに受けている」と語った。

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clusterでは,「Minecraft」のようにユーザーが簡単にコンテンツを作り出せる
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 黒川氏が,2000年代初頭にオープンしたスクウェア・エニックスのネットワークサービス「PlayOnline」が,当初はメタバースのような構想を持っていたことを指摘すると,加藤氏もPS3の頃のソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)も同じような構想を持っていたことを紹介。さらに加藤氏は,かつて話題となったが今一つ浸透しなかったバーチャル空間「Second Life」を引き合いに出し,「メタバースは,ハードウェアの進化により,没入体験に対する手軽さのハードルが間違いなく下がった」との見解を示した。


メタバースは4つの切り口で語られるため,混乱を招いている


 加藤氏は,人がメタバースを認識する際に,4つの切り口があるとする。1つめは「SFで描かれる,人類の夢としてのメタバース」で,加藤氏いわく「メタバースの哲学」であり,「まだ実現できていない」とのこと。

 2つめの切り口は,「MMORPGのような世界の中に生活圏がある」というもの。clusterやVRChat,あるいはSecond Life,古くは1990年代に展開された「富士通Habitat」などがこれにあたり,加藤氏は「狭義のメタバース」と表現した。

 3つめの切り口は,「業界の要請としてのメタバース」だ。すなわちゲームやSNS,暗号資産(仮想通貨)といった業界が,“便利な言葉”としてメタバースを使っている──例えばSNSを運営する会社が,株主に「この先,どうなっていきますか」と問われた場合に,「これからはメタバースですよ」と答えているというわけである。

 最後の切り口は,「生活圏や経済圏のデジタル化」。この切り口だと,オンライン会議システムを使ってミーティングやセッションを行うことや,リアルの服を買うことが少なくなくなり,ゲーム内で衣装やスキンを買う機会が増えていくようなことも,メタバースに含まれる。加藤氏は,すでに「フォートナイト」におけるスキンの販売収益が年間30〜50億ドルと,同作を手がけるEpic Gamesがもはや“世界的なアパレル企業”となっていることに言及し,「この切り口だと,ゲームやスマートフォンがあって当たり前の世界に生まれた若者ほど,メタバースにドップリハマっている」と指摘した。

 現状は,上記の4つの切り口が混在しているため,メタバースは「人によって,いっていることがそれぞれ違う」という状況に陥りがちだ。つまりclusterやVRChatをメタバースだと認識している人は,「NVIDIAがメタバース事業に乗り出す」「Instagramもメタバース化している」といわれてもピンと来ない。加藤氏は,これが自身が考える最近のメタバース論であるとした。


ゲームもスマホもあって当たり前の世代がメタバース浸透のカギ


 昨今,コロナ禍によって人々が活動するリアルな場が失われているが,加藤氏はそれがメタバース内にすべて置き換わることはないと考えているという。例えばメタバース内の水は水分子の集まりではなく,表面が波打つさまなどで表現しているが,そのように情報を圧縮しても成立する生活圏・経済圏がある一方,リアルの情報量を必要とする生活圏・経済圏もまだまだあるとする。とくに料理や食体験は,メタバースではまったく再現できていないことも指摘していた。

 加藤氏は,コロナ禍が去り自由に人と会える状況になったとしても,若者を中心とする一定層はメタバースを利用し続けるという見解も示した。上記のとおり,ゲームやスマホがあって当たり前というZ世代は,家に帰ればゲームをプレイし,チャットやSNSで他者とコミュニケーションを取ることが当然の行為だからである。

 さらに加藤氏は,10年後確実に起きることとして今20歳のZ世代が30歳になり経済の主体となることを挙げ,「彼らが夜中に集まって話をするとなったとき,旧世代のように24時間営業のファミレスに集合するのではなく,オンラインで済ませてしまうようになる。もちろん揺り戻しもあるだろうが,大きなトレンドとしてはバーチャル上で時間を費やし,経済活動をするようになる」との見解を示した。

 加藤氏は以上を踏まえて,「『メタバースはいつ来るのか』とよく質問されるが,子ども達に聞いたほうが早いのではないか」とする。例えば,月間アクティブユーザー数が2億人を超える「Roblox」のユーザーの半数は小学生とのこと。


メタバースの未来と課題


 またMeta(旧Facebook)が,今後10年収益を生まなくてもメタバースに年1兆円投資すると発表したことについて,加藤氏は「それだけの人と資金が投下されたら,無理にでも何かが動く」とする。例として,冷戦時に軍事技術や宇宙開発技術が急成長し,冷戦後にはストップしたものの,それらの技術がさまざまな領域に応用されていったことを指摘し,「メタバースも,同じように資金を投資することで,それを応用した何かが生まれる。その生まれた何かを,Metaだけで取り込めるかどうかはまでは分からない」とした。

 VRデバイスが進化し,より身近なものにならないとメタバースを利用するハードルが下がらないのではないかという指摘に対して,加藤氏は「まだ3つくらいのイノベーションが必要」と回答。

 まず,寝ているときでも装着できるような快適さが必要だという。例えばclusterのヘビーユーザーは,1日平均6〜7時間もの間VRゴーグルを装着しているとのことだが,彼らとて汗もかくし,重たい思いもしている。それを万人がカジュアルに利用するかといえば,難しい。

 また事実として,VRデバイスとして一番売れているQuest 2ですら普及台数はようやく1000万台を超えたところで,加藤氏は「単純に,普及に時間がかかる」と指摘。現在は,「ゲームのプラットフォームとして,何とか市場が成立する段階に来た」と捉えているそうだ。

 加えてその普及の流れは,初期のフィーチャーフォンを使っていた人が,数年後i-mode端末に機種変更し,さらに数年後にスマホに機種変更することでどんどん浸透していった,モバイルインターネットの普及と同じようなスタイルになるのではないかと加藤氏。「10年で今のスマホのような普及率になるかというと,そうはならない」との見解を示していた。

 さらに,上記の「重たい」など多くの人がVRデバイスに抱えている不満が,技術的に1つ1つ改善されていることも示された。とくに「焦点を変えられないので,目を酷使する」という点は,大きな課題として取り組んでいるそうだ。


日本におけるメタバース


 話題は,メタバースで使うアバターの外見にもおよんだ。MetaやMicrosoftといった海外大手が作るアバターが,いわゆる“バタ臭い”見た目なのに対し,日本で現在流行っているアバターの見た目は日本のアニメやゲームのキャラクターのそれであり,この先日本がガラパゴス化するのではないかという指摘に,加藤氏は「日本発のIPを活用したグローバルなメタバースを展開するのであれば,サービス提供者として越えなければならない壁」と回答。

 より具体的には,海外向けにUGC(User Generated Content,ユーザー生成コンテンツ)を活用する方向に持っていく必要があるという。あるいは,日本のユーザーと海外ユーザーそれぞれが気持ちいい空間を分けて用意するといったゾーニングも視野に入れているそうだ。

 そうした“壁を越える”手段のキモとなるのは,データ活用であると加藤氏。例えばYouTubeは起動した瞬間に「あなたにとって最適なコンテンツはこれです」とリコメンドしてくるが,それはデータを活用した機械学習によって,ユーザーの傾向を把握しているからだ。データが集まり,体験がよくなればユーザーが増え,さらにデータが集まり……という正のフィードバックが機能しだしたら,もはや競合サービスは追いつけなくなる。加藤氏は,「今のメタバースは,この正のフィードバックをどこが一番早く回すかという状態にある。今のところ,まだ誰もできていない」と語った。

 最後の話題は,「日本のゲーム企業とメタバース」について。加藤氏は,「日本のゲーム会社という観点でいうと,メタバースで世界に勝てなかったらまずい」と語る。これは,メタバースがSNSとは比較できないくらいユーザーに時間を消費させるものであり,そのメタバースを作るためには,ゲーム開発の技術が必須だからである。したがってゲーム企業は,メタバースに方向転換したほうがいいというのが加藤氏の持論だ。
 ただ現実的には,ナンバリングタイトル中心で完全新規タイトルが作りづらくなっているなど,日本のゲーム企業はいくつもの課題を抱えており,グローバル規模のメタバースにチャレンジできるところは少ないのではないかという見解が黒川氏から示された。

 加藤氏からは,「過激な話かもしれないが」と前置きしつつ,「メタバース上で公共事業をやる」というアイデアも示された。つまり,メタバースを1つのインフラにしてしまおうというわけで,「それをやることで,例えばゲーム会社が行き詰まることもなくなる。日本のゲーム開発技術を活用する場がないのは,もったいない」と語っていた。
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