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サッポロビールがeスポーツチームのスポンサーになった経緯,そして得られた結果とは
本稿では,サッポロビール ブランド戦略部 宣伝室 シニア メディア プランニング マネージャー 福吉 敬氏によるセッション「ブランド企業としてのeスポーツとの向き合い方」の模様をお伝えしよう。
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サッポロビールは,北海道バスケットボールクラブのeスポーツチーム「レバンガ☆SAPPORO」のオフィシャルパートナー(スポンサー)を務めている。レバンガ☆SAPPOROは,3月10日に行われたオンラインカードゲーム「Shadowverse」のプロリーグ「RAGE Shadowverse PRO LEAGUE」のリーグチャンピオンシップにて,初代年間王者の座を勝ち取った強豪チームだ。
福吉氏によると,北海道バスケットボールクラブからサッポロビールにアプローチがあったのは,2018年1月のことだったという。その内容は「eスポーツに参入するからスポンサーになってくれないか」という旨のもので,話はゲームに詳しいことで社内でも知られていた福吉氏に回ってきたそうだ。
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その話を聞いた福吉氏は,「チャンスが来た」と思ったとのこと。というのも,昨今では世間一般のテレビ離れが進み,その代わりにスマートフォンなどのデジタルデバイスに時間を使っている消費者が増えているからだ。その傾向はとくに20〜30代に顕著で,従来のように有名人を起用したテレビCMを流したとしても,そもそも見てもらえないという状況となっているのである。
また,ここ20年はインターネットの普及に伴い,消費者がさまざまな情報に接触する機会が飛躍的に増えている。そんな情報過多の状況の中,Webブラウザのアドブロック機能を使って,意図的に広告を見ないようにしている消費者も少なくない。
福吉氏は以上をまとめて,「従来の宣伝広告ではリーチできない消費者が増えている」と表現した。
一方サッポロビールでは,自社の製品をアピールするために,テレビCMの制作以外にも,箱根駅伝とタイアップしたりイベントを企画したりしてきている。2018年には,北海道限定で,アニメ「ゴールデンカムイ」とタイアップして専用パッケージのビールを販売したこともある。
そうした取り組みを続ける中で,福吉氏が2017年に注目したのが,世界全体で市場規模が700億円,視聴者数が3億3500万人に達していたeスポーツだったとのこと。残念ながら日本のeスポーツは市場規模も視聴者数も話にならないくらいの数字だったが,福吉氏は「近い将来,日本でもeスポーツブームが来るのではないか,ひいては広告宣伝の新たなフィールドになるのではないか」と考えていたのだとか。
そのタイミングでやって来たのが,セッション冒頭で紹介された北海道バスケットボールクラブからのオファーだった。「これはやるべきだ!」と直感した福吉氏は,直接の担当でもないのに上司に進言し,そこからeスポーツに対するサッポロビールの取り組みが始まったのである。
またレバンガ☆SAPPOROが,「Shadowverse」を競技種目に選んだことも,オファーを受ける決め手の1つだったと福吉氏。というのもFPSやMOBA,格闘ゲームやスポーツゲームは,プレイに少なからずフィジカルな要素が必要となり,老若男女誰もが本当に親しめるゲームかというと疑問が残るからだ。その点,「Shadowverse」のようなカードゲームであれば,より多くの人が楽しめる。
加えて「Shadowverse」のIPホルダー,大会運営,配信メディアが,すべてサイバーエージェントグループの企業であり,サッポロビールが広告を展開するにあたって権利関係の手続きがスムーズだったことも大きかったそうである。
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会場では,レバンガ☆SAPPOROと名古屋OJA ベビースターの選手が,互いに黒ラベルとベビースターを持った写真を投稿したことをきっかけとして,eスポーツイベント・RAGEの会場にサッポロビールとおやつカンパニーのコラボレーションブースが設けられたことも紹介された。
このブースでは,ベビースターをつまみに黒ラベルを飲む体験を提供するとともに,きっかけとなった選手2人の写真を再現できることをアピールしたという。狙いどおり体験者は,自分達の写真を次々とSNSに投稿したそうだ。
福吉氏はこの事例の価値について,「eスポーツのプレイヤーとファンが熱狂している場に,自社ブランドを持ち込むことができた」「投稿者1人あたりのフォロワー数が多くなくとも,コミュニティに話題を投下することで拡散につながった」「企業,選手,ファンが一体化していることを表現できた」と説明していた。
福吉氏は,サッポロビールのようなブランド企業がeスポーツに投資するにあたり,忘れてはならないこととして,「誰に自分達のことを伝えたいのか」をしっかり定め,「伝えたい相手はどこを見ているのか」を把握することを挙げた。また,その2点をつなげる「文脈に違和感がないか」という確認や,「結果として何を残したいのか」を考えておくことも重要とのこと。
また,日本のeスポーツが今後発展していくためには,スポンサー企業が支えていく余地もまだまだ多いという。資金面での支援はもちろんだが,福吉氏はeスポーツの意義やトップ選手になることの価値を世間一般に伝える努力をすること,選手やファンといったユーザーと同じ目線で情報を発信していくことの重要性を説いた。
加えて,サッポロビールとおやつカンパニーのコラボのように,スポンサー同士が協力し,全体で自分達のリーグを盛り上げていくことも重要となる。
福吉氏は「コンテンツに対する投資は,一緒に育てていく,一緒にゴールを目指すようなもの」「伴走する気持ちが大事」と語る。そうすることにより,上記のコラボブースで体験者がSNSに黒ラベルの写真を投稿・拡散したように,ユーザーにとって自分事となり,結果としてブランドのエンゲージメントが高まるというのが,福吉氏の見解である。
実際,レバンガ☆SAPPOROの優勝が決まったときには,「サッポロビール製品で祝杯を挙げた」とSNSに投稿するファンも少なからずあったという。福吉氏は「通常,デジタル広告はデータを重視しがちだが,きちんとユーザー目線に立って伴走できたとき,今までの広告コミュニケーションよりも,高いエンゲージメントを得られる。そこには大きな価値がある」とまとめていた。
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