連載
Access Accepted第851回:ゲーム関連株を急落させた「Project Genie」のインパクト
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Googleがアナウンスしたばかりの「Project Genie」は,インタラクト可能な現実的な3D世界を自動生成する汎用型ワールドモデルだ。完成すれば人間以上の推論や計画の実行が期待される「人類最後の発明品」――汎用人工知能の進化は,すでにゲーム関連株の下落という形でゲーム業界に影を落とし始めた。期待と不安が入り混じる。
たった半年で劇的な進化を遂げたGoogleのワールドモデル
1月29日,Googleが最新のインタラクティブな汎用ワールドモデル「Project Genie」を北米のGoogle AI Ultraサブスクリプション加入者向けに公開した。2025年8月に発表した「Genie 3」をわずか半年でさらに進化させたものであり,物理環境への深い理解に基づいてシミュレーションし,AI生成された現実的な環境を,ユーザーが操作するエージェントで探索できる。ユーザーはプログラミングなしに,自動生成されたオープンワールドのなかでエージェント――プレイヤーの分身――が活動し,物理環境を理解してインタラクトできる。
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Google AI Ultra加入者向けに提供が始まったこのテクノロジは,短いテキスト入力やアップロード画像をもとに"ゲーム"のようなワールドを自動生成する。一人称・三人称視点を自由に切り替え,キャラクターを操作して空間を移動可能だ。
毎秒20〜24フレームで動作し,解像度は720pを実現している。以前の「Genie 3」で顕著だった「振り返ると,さっきまであったオブジェクトが消えている」という問題はほぼ解決されており,ワールドモデルが自ら生成した世界を記憶していることが分かる。
ワールド生成には「スケッチ」というプロセスがあるが,テキストか画像でワールドとキャラクターの情報を入力するだけだ。その世界は多様で,多くの人々や車が行き交う大都市であろうが,アメリカ風の一般家庭の室内であろうが,野花が咲き乱れる大草原や砂丘の続く砂漠であろうが,さらには海中や月面であってもリアルな環境を表現できる。
また,プレイヤーキャラクターも人間だけでなく,柴犬や紙ヒコーキはもちろん,宇宙人や二足歩行するカエルのようなファンタジー性の高いキャラクターもエージェントとして生成できる。
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現時点では60秒間に限定されており,データをセーブできず生成しきりで終わってしまうため,どれほど見事なワールドを作り出したところで,それを公開したり販売したりはできないし,映像をキャプチャする以外は記録する方法もない。クエストの選択やNPCとのインタラクトなど,本物のゲームと呼べる機能が実装されるのはまだ先だが,それでもSNS上ではUltraユーザーによって数多くの自作ワールド映像が公開されている。
GoogleおよびGoogle DeepMindが言うArtificial General Intelligence(AGI)は,日本語では「汎用人工知能」と訳されるが,これは単一のAIテクノロジーや製品名ではなく,「人間ができるあらゆる知的作業を,人間と同等かそれ以上にこなせるAI」という壮大な目標を指す一般名称だ。
Google DeepMindは2025年11月に汎用型AIエージェント「SIMA 2」(Scalable Instructable Multiworld Agent 2)を発表し,エージェントが「推論する」能力を獲得した経緯は,当連載の「第844回:Google DeepMindの新たなマイルストーン。AIエージェントがプレイヤーと一緒に遊び,考えてプレイする」で紹介したとおりだ。AGIテクノロジはまさに日進月歩で進化を続けている。
さらに,今回のワールドモデルは「現実世界の物理法則や因果関係をシミュレートする内部模型」であり,例えば「車で傾斜に突っ込めば横転する」「バケツを落とせば水が溢れて地面が濡れる」のような,アクションによって世界がどう変化するかを予測し,表現する。
ワールドモデルは,AGIがデジタル空間でリハーサルした内容を現実空間で実行するための訓練の場として役立つ。
例えば,信号のない場所から子供が飛び出す自動運転の想定外シナリオ,目玉焼きを微妙な焼き加減に仕上げる調理ロボティクス,被験体なしに新薬の効果を予測する医療シミュレーションなど,実験や反復が困難な分野での応用が見込まれる。
今回の「Project Genie」も驚くべき出来栄えではあるものの,Google DeepMindはAGIの発展を5段階で定義しており,現在はレベル1からレベル2への過渡期に過ぎないと規定している。
ゲーム関連株を軒並み暴落させた未来図
「Project Genie」が公開されたとたん,株式市場は予想以上に反応した。Take-Two Interactiveの株価は1月30日の終値が-7.92%となり,好調な決算報告と前向きな業績見通しが公表されたにもかかわらず,5日間では-15.16%に沈んだ。
Electronic Artsは5日間で-2.88%,Ubisoft Entertainmentは-13.99%,Tencent Holdingsは-9.33%,CD Projektは-10.23%,Robloxは-14.56%,Unity Softwareは-37.34%と軒並み下落。Microsoftは-8.74%,Metaは-8.01%,Sony Groupは-3.21%,Nintendoは-12.27%と,プラットフォームホルダの株価も軒並み下がった。
「Project Genie」がここまでゲーム企業の株価に影響を及ぼしたのは,AGIテクノロジは遠くない将来にゲーム開発へ大きなインパクトを与え得ると,アメリカの経済界が判断したからだろう。
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これまで,ゲーム向けの3Dワールドを作り出すためには,3Dモデルの制作,テクスチャの貼り付け,物理演算の設定,キャラクターのアニメーション付けと,膨大な作業と人員,そして時間を要していた。現在のワールドモデルは初期段階にあるとはいえ,すでに「ロックミュージック好きな青年の住む郊外住宅の部屋」だとか「雨の降るサイバーパンクな街」と入力するだけで,実際にエージェントが歩き回れる3D空間が数秒で生成される。
少なくとも現段階で,「どんな雰囲気のゲームにするか」を企画段階でチーム全体が共有するビジュアライゼーション作業には大いに役立つはずだ。
また,従来のゲームは,プログラミングされたデータ,つまりマップやルールをメモリにロードすることで動作するが,ワールドモデルはリアルタイムに世界を予測して,フレームごとに生成し続ける。どこへ行ってもゲーム設定に矛盾しない世界観が維持され,ゲーム世界の"果て"がなくなるわけだ。その世界は人間の手を介さずオブジェクトや物理効果で満たされる。
さらに,「SIMA 2」のようなエージェントをワールドモデルに組み込むことによって,NPCは単なる"脚本どおりの人形"ではなくなる。状況を判断して行動する相棒や,作戦を実行する敵を出現させ,込み入った会話や感情表現もこなすNPCを自在に生み出せるわけだ。
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さらに株価下落について「株式市場の反応には驚いています。(中略)AIを取り巻くイノベーションは間違いなく効率性の向上に貢献し,創造性を高めることができると考えていたからです。Googleの新しい挑戦は,今後に来る良いものの大きな兆しだと思っています」と,肯定的に捉えた。
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もちろん現時点では,「Project Genie」を使ったGTAやゼルダ風の60秒映像が溢れている程度だが,Google DeepMindが目指す,「人類最後の発明品」とも形容されるAGIの発展がレベル5に達したとき,果たしてゲーム産業はどのようなものになっているのか。誰もが簡単にゲームを作れる"デモクラタイゼーション"の実現は楽しみだが,昨今のSNSにおけるAI動画や音楽の氾濫を見れば,市場の混乱に大きな不安を感じる人も少なくないだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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