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「Unity」がもたらしたゲーム開発の効率化と,それに伴う影響とは。「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(伍)」聴講レポート
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印刷2013/01/15 17:23

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「Unity」がもたらしたゲーム開発の効率化と,それに伴う影響とは。「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(伍)」聴講レポート

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 2013年1月11日,トークイベント「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(伍)」が,東京都内で開催された。名前からも分かる通り今回で5回目となるこのイベントは,セガ,デジキューブ,KONAMI,NHN Japanなどに籍を置いてきたメディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が,さまざまなゲストを招いて,ゲームを含むエンターテイメントのあるべき姿をポジティブに考えるというものだ。

 今回のテーマは,「2013年からの次世代的なゲーム開発の在り方や,企画,開発,運営におけるあり方」。会場では,黒川氏と4名のゲストが,現在,スマートフォンやPCブラウザゲームなどに向けた統合型ゲーム開発環境として広く使われている「Unity」に関するトークを繰り広げた。

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メディアコンテンツ研究家 黒川文雄氏

●ゲスト
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イレギュラーズアンドパートナーズ 代表取締役 山本一郎氏
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ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 日本担当ディレクター 大前広樹氏
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NHN Japan 執行役員 ゲーム本部 スマートフォンゲーム制作室長 馬場一明氏
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ゲーム作家 飯田和敏氏

 トークの前半では,大前氏が,Unityとはどのようなものであるかをあらためて紹介した。Unityは,ゲームを作るエディタと,ゲームを動かすエンジンが統合された統合開発環境。ゲームを実際に動かし,視認しながら開発作業を進められることと,PCやモバイル端末,コンシューマゲーム機など,さまざまなプラットフォームに対応できることが特徴となっている。

 Unity開発は,現在のUnity TechnologiesがOver The Edge Entertainment(OTEE)という名前だった2001年にまでさかのぼる。
 OTEEは,デンマークにて,3人の創業者が立ち上げたゲームデベロッパだった。しかし,肝心のゲーム開発はさっぱり進まず,3人はゲームエンジンの開発ばかりしていたという。
 そんなあるとき,自分達でゲームを作るより,多くの人々がゲームを作る環境を整えるほうが向いていると気づいた彼らは,ゲームエンジンを提供する側に転向したのである。

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 現在,Unity Technologiesは「ゲーム開発を民主化する」というテーマのもと,誰でもゲームが開発できる世界を構築すべく,Unityを提供している。2012年9月の段階で,Unityを実際に使っているゲーム開発者の数(Unityのダウンロード数ではない)は120万人以上,うち,ほぼ毎日使用しているのは30万人以上とのことだ。
 またUnityは,アジア圏を中心にシェアを拡大しているとのことで,大前氏はUnityユーザーの国別構成比率を示した。それによると,2012年には,2位〜4位に位置している中国,韓国,日本の合計が23.5%となり,1位の米国(19.8%)を越えるという状況になっている。日本では,2010年から2012年にかけて,48倍の急激なシェア拡大を遂げ,有償提供のUnity Proを使っている企業は570社以上,Unity(Unity Proを含む)を使う開発者は9万人以上いるという。

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 企業がUnityを使うメリットには,導入のハードルの低さ費用の安さがある。Unity登場前のゲームエンジンは,一般的にNDA(秘密保持契約)が必要で,他者と情報の共有ができなかったり,提供元のサポートが必要だったり,あるいはプロジェクトごとに契約する必要があったりするうえ,多額のライセンス費用が必要だった。
 しかしUnityは,NDA不要で情報がオープンとなるため,世界中のユーザーがコミュニティを介して互いにサポートしあうことができる。またUnityの基本セットは無料,フルセットを揃えても40万円強で,1度購入すれば複数のプロジェクトで使えるのである。

 会場では,Unityを使って開発された国内タイトルの例として「ギルティドラゴン 罪竜と八つの呪い」「三国志コンクエスト」「ダンジョンズ&ゴルフ」「メタルギア ソリッド ソーシャル・オプス」「ロードオブナイツ」「鬼武者Soul」「ケリ姫クエスト」が,海外タイトルとしては「Bladeslinger」「Bad Piggies」などが紹介された。

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 現在,Unityを使わずにNHN JpapanのLINE GAME向けタイトルを開発している馬場氏は,「3Dでゲームを作るならUnityのほうがいいと判明している」とし,「とはいえ,今さら戻せないので,一旦完成させたものをUnityに乗せかえることも考えたい」と述べた。
 また,馬場氏は現在手がけているスマートフォン向け新作2タイトルのデモプレイを披露した。1つはアクションRPGで,バックスタブを使った攻撃や,盾を使った防御など,かなりアクション性のある内容となるようだ。もう1つは,アバターを使うコミュニティ要素の強いタイトルの模様だが,詳細は,後日の発表を待ってほしいとのことだ。

大前氏がUnityについて詳細に説明した後だったためか,馬場氏は「そういう雰囲気でもないので」と,開発環境の説明を省いて新作タイトルを紹介した。
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 飯田氏は,スマートフォン向け新作タイトル「イージーダイバー」の開発にUnityを採用した理由として,ユーザーコミュニティの存在を挙げ,今後,ゲーム開発にあたっては,ゲームエンジンを提供する側からのサポートよりも,オープンなコミュニティによる,風通しのいい永続的なサポートのほうが重要になっていくのではないかとの見解を示した。
 また大前氏は,飯田氏の発言を受け,ここ10年くらいで日本のゲーム開発環境が徐々にオープンになっていったと振り返り,Unityはその流れにうまく乗ることができたと述べた。その一方で「誰もやったことがないような大規模の開発には,やはりエンジン提供側のサポートも必要」と説明,Unity Technologiesにも,そうした用意があるという。

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馬場氏に触発された飯田氏も,スマートフォン向け新作タイトル「イージーダイバー」のデモプレイを披露。残念ながら,こちらは写真撮影禁止だった

 さらに大前氏は,Unityが普及したことにより,アート性の高いインディペンデントなゲームタイトルが台頭するようになってきたことを挙げた。これまでアート性の高いタイトルというと,大企業の投資によって成立しているものが多かったため,開発においてさまざまな制約が課されることになっていたという。
 しかし,Unityの登場によって,大企業のサポートなしでもアート性の高いタイトルが開発可能になった。表現者にさらなる自由が与えられたわけである。なお,インディペンデントタイトルの中には商業的な成功を収めているものもあり,ヒットを受けて2人の高校生が起業した例もある。

 飯田氏も,これまでゲーム開発に手を出せなかった人達であっても,Unityを使うことにより,新たな才能を開花させるかもしれず,それがひいては今後のゲーム業界に影響を与えるかもしれないと話した。
 飯田氏の発言を受けた大前氏は,たとえば音楽でも絵画でも,何かを表現をしたいという人は,それまでの人生の中で楽器に触ったり落書きをしたりといった下地を積み重ね,自身の表現欲求を構築してきていると説明。これまでゲームにはそういった表現欲求を作る過程がなかったが,今後はUnityが下地となるのではないかと展望を述べた。

デジタルハリウッド大学で飯田氏の講義を受けているという学生の卒業制作作品も披露された。この作品は,プログラムもグラフィックスも素人同然だった学生が,Unityを使い始めて半年で作ったものだという
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 さて,ここまでのトークでは,あたかもUnityがゲーム業界に現れた救世主であるかのような印象を受けるかもしれないが,必ずしもそうではないと,当の大前氏は語った。というのも,ゲーマーはUnityで作られるようなゲームをプレイするのと同時に,「Halo」シリーズや「BAYONETTA」のような,従来のいわゆる大作ゲームを求めるからである。そうした大作ゲームが,今後,市場で成立していくかどうかは,Unityの台頭によって解決できる問題ではないというわけだ。

 また山本氏は,「Unityを使うから一定のクオリティが保障される」といった,安易な風潮に警鐘を鳴らした。たとえば,従来のコンシューマゲームであれば,ハードの性能を隅々まで知り尽くした開発者が仕様を切ることで実現できるクリエイティビティもあり,それが独自の面白さにつながるケースも多々あった。しかしUnityを使うと,ある程度の水準までは多くの人が短期間で到達できるがゆえに,そうした“突き詰めること”による独自性が生まれにくくなるのではないかというのである。

 大前氏は,山本氏の発言に応え「Unityはマジックではなく,技術としては,従来のコンシューマゲーム開発の延長線上にあるもの」と説明。「これまでゲーム開発に携わってきた人なら,Unityの内部で何が起きているのかが分かるはず。そういう人が,プロジェクトに一人はいないとダメ」とコメント。さらに「Unityを使える人を5人集めたからといって,5人/月のプロジェクトとして仕事を受注しても,うまくいかないでしょう」との見解を述べた。

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 さらに山本氏は,失敗するUnity案件の典型として「Unityを使うから,この工数で大丈夫」と,管理する側がスケジュールをカットしてしまう例を挙げた。Unityのメリットは,ゲームを動かしながら開発ができる──つまり,ゲームを実際に遊んで,面白さのキモとなるレベルデザインなどを調整できることにあるわけだが,スケジュールを短縮されてしまっては,それが満足に機能しないのである。

 もう1つ,大前氏はUnityを使った開発が抱える問題として,移植を挙げた。Unityはさまざまなプラットフォームに対応しているため,1つゲームを完成させてしまえば,さまざまなプラットフォームへの移植が比較的容易なはずなのに,である。
 大前氏は,Unityとは本来,「使う人のクリエイティビティを信じるツール」と説明。その本来の姿を尊重するのであれば,プラットフォームごとのインタフェースやユーザー層を踏まえ,それぞれにクリエイティビティを発揮した移植が望ましく,場合によってはゼロから作り直す必要もあるのではないかとまとめた。

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飯田氏が「人は,いったい何を持ってゲームを“面白い”と感じるのか」と,哲学的な発言をする一幕もあった
 トークの終盤,山本氏は「そもそも,面白いゲームを作れる人は世の中にほとんどいない」とし,これまでは,ゲーム産業にはさまざまな作業が存在したが,Unityの台頭で効率化が進むと,自らのクリエイティビティで仕事ができない人達は生き残れなくなると警鐘を鳴らした。また氏は,「今以上にタイトル数が増えることになれば,本当に才能のあるタイプか,プロモーションに莫大な予算を掛けられるタイプの2種類のグループしか市場に残らなくなる」とも語った。

 以上のように,Unityの目指すゲーム開発環境の普遍化と,現実のゲーム産業での生き残りは二律背反していると山本氏が指摘したところで,結論に至らないまま,今回のトークは終了となった。Unityが直面している課題に関する,トーク後半の山本氏と大前氏の発言が非常に興味深い内容であっただけに,議論半ばで終わってしまったのは残念だが,現在のゲーム産業におけるUnityの立ち位置と実態が垣間見れたのではないだろうか。

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