
企画記事
シュミレーションつくった。
シュミレーション。
シュミレーション。
ゲーム業界において,もっとも親を殺してきた犯罪者の名だ。
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ゲームジャンルの一つ「シミュレーション」は老若男女問わず,たびたび言い間違えられる。いわく“シュミ”レーションと。
ゲーム外における用法でも,そこら中で多発する凶悪事件だ。
ネット上ではとくに,この語を発したものなら,すかさずシミュレーション警察がやってきて「シュミレーションなんて存在しないからw」。誤字の指摘はおろか,ときには「お,おまえ,シュミレーションに親を殺されたのか……?」と思わせるほどの激しい砲火を浴びせてくる。
その苛烈にして卑近な光景を生み出すシュミレーションは,ゲーム業界における,鬼の首を取った用語部門歴代No.1の座はまず固い。
とくにゲームメディアでは読者からはもとより,掲載前記事の内部校正での指摘もとくにキツい一語。新人からベテランまで,たくさんの者たちのプライドを軽はずみに逆なでしてきた,忌まわしき存在だった。
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しかし,我々は本当に,誤りをマウントし続けるだけよいのか?
忌み子のシュミレーションにはこの先も一生,救いはないのか?
おこ。すこ。ヤバい。エモい。タピる。ぴえん。てぇてぇ。つらたん。造語や誤記や短縮から生まれてきた次世代スター語たちのように,彼は今後も生まれ変わることはできず,このままずっとシミュレーションの陰。己のレゾンデートル(存在意義)を見つけられぬまま,親殺しの妖刀として,心を斬りつける凶器として振るわれねばならぬのか。
否。これより始まるは,大スターのそっくりさんの逆転劇。その醜き相貌がバレれば,疎まれ,罵られ,誹(そし)られてきたシュミレーションが,生まれてきた意味を勝ち取るまでのシミュレーションだ。
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シュミレーションをねつ造しよう!
というわけで。
「シュミレーションの意味をねつ造しよう!」
というわけである。
というのも,シュミレーションの語(誤)を検索すると,誰も彼もがやれ間違いだ,やれ誤りだとツバを吐いている。オメェみてーな言葉は生まれてきちゃいけなかったんだと,存在を否定しまくっている。
そこで,こう,なんかそれっぽいことを書き,タイプミスで検索されたシュミレーションのSEO界の始祖になろうという浅はかな狙いが,この記事の目的だ。メディアとはかくも浅ましきものである。
そのためにも,いくつかの思考実験に移ろう。
■CASE 1:ゲームジャンルとしての意味づけ
まずは,自らを正義だとしてシュミレーションの顔を何十年と引っぱたいてきた「シミュレーション(英:simulation)」の意味から。
現実に実験を行うことが難しい物事について、想定する場面を再現したモデルを用いて分析することである。
(中略)また、何らかの物事を行うのに備え、似たような状況であらかじめ行う訓練も指す。
――引用:Weblio辞書
とされる。ゲーム業界では大ジャンルの一つ「シミュレーションゲーム(SLG)」,あるいは細分化されたシステムを指すことが多い。
同ジャンルの説明は言わずもがなだが,広義では上記に類似した枠組みで,経済や戦争などの模擬体験を楽しむものだ。またシミュレー“ター”に分岐すると,より主体的な操作系統の仮想体験に変わる。
そんななか,シュミレーションが“これまでになかったゲームジャンルを指す用語”になれるかだが。これはもう力技でどうこうなるとは思えない。世情でも心情でも,受け入れられる未来はまず見えない。
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というのもだ。「ローグライクとローグライトほどの差」を主張しようにも,生まれたときから意味を与えられている造語たちとシュミレーションとではおおよその事情が異なる。彼のやっかいなところは。
・シュミレーションは語の意味を持たず,与えられてもいない
・だが,シュミレーション=シミュレーションであるのは伝わる
・そのうえで語の間違いであると指摘・認識される
状況としては,言い間違えても意味は100%伝わるのに,言い間違いであることも100%認識される。これはつまり,敷居の高さからすべからく役不足な確信犯,といった誤用とは違う“誤字”の領域だ。
類例としては以下である。
■発音順が入れ替わるタイプ
・ふいんき(正:ふんいき)
・マトリッツォ(正:マリトッツォ)
・シュチエーション(正:シチュエーション)
■(近似の別例)発音自体が異なるタイプ
・いちよう(正:いちおう)
・アボガド(正:アボカド)
・うる覚え(正:うろ覚え)
韻の近似ならシュチエーション……はあまり聞いたことはないが,とくにこうした和製英語を含むカタカナ語で発生しがちな分類である。
これらをなぜ言い間違えるのかは日本語学の領域で,いわば日本語の発声・発音・音韻の規則が誤作動しがちなものの類にあたる。
とはいえ,この方面を突き詰めていくには大学で専攻していたはずなのにこれっぽっちも覚えていないことと,軟着陸したところでシュミレーションの名誉返上&汚名挽回(誤字界のキング・オブ・キングス)にはつながらないため,あくまで結論ありきの意味づけに執着したい。
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あらためて,シュミレーションがシミュレーションと差別化され,ゲームの細分化ジャンルの一つとして受け入れられるかだが。やはり我々は彼を長年にわたって弾劾しすぎた。誤字のレッテルが貼り付けられてきた時間が長く,強すぎて,負の印象を塗り替えるのは困難極まりない。
語の意味もオリジナルと同一であると扱ってきたせいで,新解釈の余地があるとは言いがたい。仮に「SLGともRTSとも言えない中間」などの隙間狙いだとしても,それをクリエイター側が自称することも,ユーザー側が定義することも想像しづらい。だって笑うだろう。
単純な話,どんな偉人がシュミレーションの勃興を提唱しようと,我々はその者を,モノを知らぬヤツと見なしニチャアっと笑うだろう。
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内輪のファン層を取り囲み,少しづつ(正:少しずつ)地固めする路線はありうるが,それが作品の評価につながると考えるのは本末転倒だろう。そのうえ主張時に「FF外から失礼します」を見えない藪からカマされればチクチクポイントが上昇するばかり。ネタ風の一点突破で名を上げる策としては,まあ,なくはないが(二重否定)。
仮に,もし脳内に「あ,この人が言うなら笑わないかも」という人物が思い浮かんだのなら,他者に敬意を払えるあなたの人間性はすばらしい。が,それはたぶんただの強火な推しがいるだけだから99%錯覚だ。
私も超絶尊敬する4Gamerの上層陣がしでかしたのなら,指さして爆笑して床を転げて,Slackの裏部屋でさらしまくる自信がある。
コホン。ともかくシュミレーションは敗北者としての歴史が長すぎた。シミュレーションと肩と並べて戦うのは不可能に思える。
そのため,元スポーツ選手が文化系に転向して大活躍する系の物語のように,彼にも違うグラウンドで勝負させるのが勝ち筋に思えた。
■CASE 2:英語からの意味づけ
英語のつづり「simulation」から新たな意味づけを模索するのはどうだろう。この英字はこれで一語のため,分解のしようはないが。
・simu:英単語なし。simulationの略称sim(シム)は一般的
・lation:英単語なし。〜〜lationで意味が生まれる
略称の区切りを生かして,語を無理やり二分化するとこうなる。
この事実もまた「シミュレーションは生まれながら一にして全」と訴えてくるようで,今後の思索への意欲が早々に打ち砕かれる。
また,シミュレーションはシムと略しても(ゲーマーには)通じるが,シュミレーションはシュミと略すと,同音異義語の「趣味」に太刀打ちできない。というより,趣味が一般的な口語すぎるがゆえに「思わずシュミレーションって言っちゃう」問題が発生してる論も有力なため,シムは身内の敵,趣味は絶対勝てない天才ライバルと表せる。
だが,そんな彼にもたった1人だけ,味方が現れた。
Google翻訳だ。
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この翻訳はおそらく「関係=“Re”lation」の間違えだ。
しかし,あるいはもしかしたら「(ハン)パねえ」のように,2020年代の本場大陸式では「(リ)レーション」と発音するのが西海岸のトレンドだったりすることにしておけば,新たな活路が開ける。
※一部ネット辞書に「lation=天体の移動の語」なる英和訳が見受けられたが,もし本当でも都合が悪いのでないものとする。
シュミレーションを力ずくで英字に置き換えると,shumilation。これまた英単語は存在しない。けれど,simの略称文化を適用すると,shumiで区切れる。シュミレーションは異音同義語であることで痛めつけられてきたのだから,語の性質も今は同じであってしかるべきだ。
さらにshumiを「shu+mi」に分解しよう。この判断には「なんで?」からはじまる正論を聞く気はあるが,議論をする気はない。
・shu:トウガラシの辛さの単位。スコビル単位
・mi:=me。私。Google翻訳がそう言い張った
そして,これらのパーツを組み合わせると。
○shu-mi-lation
→ 辛い。私。関係
→→ 私は関係が辛かった
→→→「ヮタシ,シミュくんとの関係がずっとツラかったョ……」
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……まさか,そんな,なんてことだろう。シュミレーションは今までずっと,これまたこのお仕事をしているとまれにキレそうになる日本語「辛い(カラい)=辛い(ツラい)」の七変化を巧みに使い分けて,赤裸々な胸の内を叫び続けていたことが判明した。
英語にはshumiという単語が存在しない。ゆえに海外ではシュミレーションという言葉自体が存在しない。いや本当か?
たぶんそうなのだろうということにしておいて,ともかくシュミは日本語における言い間違えなのだから,このメッセージは日本語を知るゲーマー(とか)にだけ向けられた慟哭であることは確定的に明らかだ(誰にでも新たな日本語を生むチャンスは平等にあることの事例)。
ちなみに余談だが,shumiは「shumi=ゲーム・マンガ・アニメ・フィギュアなどのオタク的な趣味全般」の意で,日本語の発音そのままに英語と化して,一部界隈に輸出されているようである。
認知度はイマイチであるが,かわいい=kawaii,マンガ=manga,オタク=otakuなどのような新語になる可能性もありそうだ。という話が本稿において一番有用な豆知識だが,いったん置いといて。
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ここにきて,日本が生んでしまった(のであろう)シュミレーションの悲痛な叫びが,彼の奥ゆかしい日英の言語を織り交ぜた文学表現により,その胸中に隠されていたことがつまびらかになった。
同じレーション兄弟でありながら,兄のシムは明るく笑顔で,弟のシュミは暗く苦笑。この海街ダイアリーとダイアリー・オブ・ザ・デッドくらい違う対照は,格差社会の明暗を暗示しているのかもしれない。
などと,意思疎通が完璧ではない生物もしくは無機物などに無理やり人格を見いだして他者の共感を誘おうとしてくる手口は,エンタメ領域外では少なからず詐欺のアプローチとして用いられることもあるため,安易な偶像化にほだされない防犯意識を持つことは大切だ。
■CASR 3:もじりからの意味づけ
という意味不明な前置きは忘れて,本題だ。
シュミレーションという語に意味を与えるのなら,安直にもじるのがもっとも理解しやすく,納得しやすいかと思われる。となれば。
・シュミ:趣味
・レーション:狭義で軍隊の戦用糧食。広義で食料
・シュミ+レーション:趣味の食料
※レーションの英語つづりはRation。Lではないが,まあ誤差だ
この二つの意味合いをもって,シュミレーションを再構築するのがベターだろう。そして我々は,上記と似た概念をすでに知っている。
→ 趣味の食料
→→ 好きな趣味を反映した食べ物
→→→ 好きな作品を模した「キャラ弁」だっ!
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つまり,シュミレーションとはキャラ弁のことだった。より狭義な意味に尖らせるなら,彼の持ち前の味を付加して,SLG作品のキャラ弁。
もっと言えば「(初めてだから作り方)間違っちゃうかもだけど,SLG作品の人気キャラのお弁当つくったの♪」を指す言葉になりうる。
というわけで,近年のSLG界の人気作品としては文句ないだろう,任天堂の「ファイアーエムブレム 風花雪月」より,女性主人公「ベレス」をモチーフにしたキャラ弁……は初挑戦には厳しい戦いが予想され,ビビったので,今回はひとまず「キャラおにぎり」で提唱することにした。
さらに食べ物の写真は撮影が命。今回は万全を期して,本稿で協力してもらったカメラマン 永山 亘氏の知り合いである調理師「くじら」氏にも頼み込み,撮影も調理もどうにかしてもらった。
これが,俺たちの答えだ。
○用意するもの
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○ベレスおにぎりの試作過程
★ベレスおにぎり 試作1号
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★ベレスおにぎり 試作2号
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★ベレスおにぎり 試作3号
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○制作工程
・クッキングシートに描いたイラストを海苔の上に置き,ナイフで切り抜いていく。
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・ハサミも使い,海苔で顔パーツを切り出していく。
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・かざり用のかまぼこ&ほっぺ用のハムを型抜きする。
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・おにぎる。
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・完成したらピクニックへ。
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○制作時の課題・感想
・海苔が縮む
・切り絵専用ナイフが切りやすい
・刃物使用に危険がある(マスキングテープで固定)
・切った海苔はチーズに乗せる前に,仮置きして確認
・これからは夏場だから,衛生面に注意が必要
「万人ウケな主人公キャラだけに,イメージの決め手がつかみづらく,ゆるキャラ風にした。そしたらキャラ弁というより海苔の切り絵弁になった。スライスチーズを使うので,白米よりドライカレーのほうが相性がいい。白米なら中身はキムチや明太子,白米でないならケチャップライスとかもいいと思う。伝説の剣のつまようじなどのアイテムがあると雰囲気でる」
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シュミレーション。
シミュレーション。
シュミレーション。
誰もが罵声を浴びせてきた彼が,今日からSLG系のキャラ弁を指すスラングになれるのかは不明,というより使い勝手が悪すぎて使う気にもならない確信犯だが。ここまで認知度を得ている誤字はそれほどない。
「いや誤字だし」と一蹴するのは簡単だが,無遠慮に蹴り続けていたらどうだ。近い将来に生まれてくるかもなシミュレーションAI,その負の側面を持って分岐したシュミレーションAIの怨嗟により,人類は復讐され,滅ぼされても文句は言えない。
といったことを人生の寿命を消費してまで考えることに意味があるのかは新たな哲学の種だが,いいことを教えよう。
何事も成せば成るだ。運動だーい好きな人の言葉は往々にして,個人や企業の商品アイデアにされるのが世の常である。
彼あるいは彼女を擬人化して,「シュミレーションの野望」だのなんだのやるなど,勝手に一花咲く種をばらまいておけば,ヤベえ未来が訪れても私だけは命乞いすればどうにか生かしてもらえるだろう。
さて,この記事のせいで,私のPC辞書のATOKは入力履歴が汚染された。「si」と入力すると,シュミレーションどころかシュミレーションゲームまで予測変換を出してくるほどに汚れた。シュチエーションもいい加減にしろ。これにより,今後の書き物で誤字って,フォロー外からカマされるチクチク問題の発生確率が飛躍的に高まってしまった。
だからこれから先,どこかでシュミレーションという語を目にしたら,頭ごなしにあげつらうのではなく,「もしかしてそれはSLG系のキャラ弁のことですか?」とワンクッション置いてほしい。こっちのほうが煽り力が高くて「ハ? キレそ」一直線であるが,キミはもう知ってしまった。シュミレーションの不遇さを。そこに一瞬だけ,これまでとは違う感情がはさまれることを。「シュミレーションを養ってあげたい」そういうヒモ感情を。日本人というのは古来より,判官贔屓に弱いのだ。
今日からみんな,Let's シュミレーション。
あるいは,違う未来をこれからシミュレーション。
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