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印刷2025/12/19 11:06

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復旦大学教授・葛剣雄氏が示す,中国ゲーム産業出海の別解。「中国要素」へのこだわりを捨て,普遍的モチーフを中国流に再構築

 2025年12月18日,中国・上海で開催された「2025年中国ゲーム産業年会」の「ゲームIP価値」セッションにおいて,復旦大学教授の葛 剣雄(ガツ・ケンユウ)氏が,「歴史記憶からグローバルシンボルへ:中国IPの文化的基盤と長期的生命力」と題した講演で,近年急速に成長し,海外市場へと存在感を広げる中国ゲーム産業を,文化史の文脈から捉え直した。

葛氏は「自然に生まれるのは単純なものだけであり,複雑なものは例外なく伝播と交流のなかで形成される」と語った
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 講演の冒頭で同氏が強調したのは,文化の交流や融合は現代のグローバル化に特有の現象ではなく,人類文明の成立以来,一貫して続いてきた常態であるという点だ。古代においても,異なる文明圏のあいだでは,技術や芸術の相互学習が緩やかに行われており,現代との違いは,その速度と規模に過ぎない。この「文化の流動性」を前提とする視点は,今日のゲームIP創作や海外展開を考えるうえで,重要な基盤になると述べた。

三星堆遺跡の黄金マスク(画像はWikipediaから)
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 続いて,葛氏は考古学や美術史の研究成果を例に挙げ,文化における「独創性」という固定観念に疑問を投げかける。たとえば,中国発祥とされてきた青銅冶金技術についても,その起源はバビロニアを含む西アジアや中央アジアにある可能性が指摘されており,交流のルートを通じて中原(中国中心部)へと伝わったと考えられている。
 三星堆遺跡もまた,外来技術を基盤としつつ,古蜀の人々が独自の想像力を加えることで,世界的にも類を見ない造形を生み出した文明だと説明した。こうした事例は,中国文明の象徴とされる成果の多くが,早期の文化流入とローカライズの結果であることを示しているという。

 この歴史的視座を踏まえ,葛氏は議論を現代のゲームIP創作と海外展開へと展開する。中国ゲーム産業の黎明期では,世界に対する理解が限られていたこともあり,開発者は主として自国の伝統文化や歴史から着想を得てきた。それは当時として合理的な選択だったが,現在のグローバル環境においては,より広い視野で世界各地の文化的リソースに目を向け,それらを創造的に転換し,中国流に再構築することで,新たな中国IPを生み出すことが可能だと指摘する。

 このアプローチには,2つの利点がある。ひとつは,神話や伝承,共通する物語構造といった人類普遍のモチーフが,文化的な壁を越えて理解されやすい点だ。もうひとつは,中国の開発者が独自の美意識や価値観,ゲームデザインを付与することで,新たな文化的価値を創出し,現代的な「中国の創造」へと昇華できる点にあるという。

POP MARTのキャラクター「Labubu」
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 具体例として葛氏が挙げたのが,世界的な人気を獲得しているPOP MARTのキャラクター「Labubu」だ。同キャラクターの成功は,東洋や西洋といった明確な文化記号に依存せず,抽象化された感情表現によって,特定の文化圏を超えた共感を獲得した点にあるという。

 一方で,中国国内では,孫悟空のようなキャラクターの成功を,「中国的であること」によって単純化して説明する傾向があると同氏は指摘する。しかし,孫悟空の原型や造形要素が,インド叙事詩「ラーマーヤナ」に登場する神猴ハヌマーンと深い関連を持つことは,学術的にも指摘されてきた。葛氏は,強い生命力と拡散力を持つ文化記号ほど,もともと交流と融合の土壌から生まれていると強調した。

「西遊記」の主人公である孫悟空をモチーフにした人気ゲーム「黒神話 悟空」
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 また,中国の文化環境においては,歴史的背景から,ゲームを含むエンターテインメント産業が長らく軽視されてきた側面があるという。近年,ゲーム産業が大きな経済効果をもたらしたことで風評は改善したが,その反動として,伝統文化の普及や教育的役割を過度に期待する声も高まっている。
 これに対し葛氏は,ゲームの本質を見誤ってはならないと警鐘を鳴らす。ゲームというのはあくまでインタラクティブエンターテイメントであり,文化伝達は副次的な効果に過ぎず,教育の役割を担わせるのは機能の取り違えだと述べた。

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 中国ゲーム産業はいま,かつてないほど開かれた環境のもと,海外展開という大きな機会を迎えている。葛氏はこの局面において,ゲームの本質に立ち返りつつ,文化リソースを柔軟に統合し,創造的に再編していく姿勢が求められると結論づけた。
 中国的要素を生かすことは重要だが,世界共通のモチーフを中国的手法で深く再創造することこそが,現代における「中国文化の世界進出」を実効的なものにすると語り,講演を締めくくった。
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