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社会課題にゲーミフィケーションでアプローチする。環境問題,行政,教育それぞれの現場における事例が示されたセッションをレポート
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印刷2025/12/11 08:15

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社会課題にゲーミフィケーションでアプローチする。環境問題,行政,教育それぞれの現場における事例が示されたセッションをレポート

 セガ エックスディー(以下,セガXD)とゲーミフィケーション研究所は2025年11月21日,「Gamificaiton Conference 2025 QUEST」を東京都内で開催した。

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 本稿では,行政や教育の現場が抱える「正攻法では解決できない課題」に対し,ゲーミフィケーションによるアプローチでチャレンジしているキーパーソンが意見を交わしたセッション「社会課題×ゲーミフィケーションのアプローチ」をレポートする。登壇者は,以下の4名である。

富士通 エンタープライズ戦略推進本部 クロスインダストリービジネス統括部 シニアマネージャー 池田圭佑
前新潟県三条市副市長/一般社団法人新潟県eスポーツ連合顧問 上田泰成
東京学芸大学 教育インキュベーション推進機構 准教授 荻上健太郎
セガXD 取締役 執行役員COO 伊藤真人氏(モデレーター)


環境問題×ゲーミフィケーション


 トークの最初のテーマは「環境問題×ゲーミフィケーション」だ。

 池田氏は川崎市と富士通による取り組みで,2024年8月に発足した「川崎市脱炭素ライフスタイル行動変容促進プロジェクト」の事例を紹介した。
 富士通が専門とするITやテクノロジーといった分野の中から,どんなアプローチであれば市民がCO2削減に向けて行動を変えるだろうかと試行錯誤しつつ始めたのが,スマホアプリ「Green Carb0n Club」だったという。

池田圭佑氏
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 このアプリの仕組みは,プレイヤーがエコアクションを取るとポイントが溜まり,そのポイントをエコなサービスや商品などのクーポンと交換できるというもの。
 しかし,初動こそ好調だったものの,継続率に課題が生じた。課題解決に向けてさまざまな人と相談する過程で出会ったのがセガXDの伊藤氏で,ゲーミフィケーションを採り入れた街作りゲーム「Green Carb0n Farm」の導入を提案されたそうだ。

 「Green Carb0n Farm」自体はオーソドックスな街作りゲームで,基本的にはゲーム内の住民の要望に沿って街を発展させていく。特徴的な部分は,プレイヤーがリアルの川崎市内でエコアクションを取ると,ゲーム内の街の発展を加速させるチケットが提供されることだ。
 このゲームの導入により,ポイント付与だけで「Green Carb0n Club」のダウンロードを促していたときとはまた違った層を取り込めるようになり,池田氏はゲームおよびゲーミフィケーションの力を実感したそうだ。

 「Green Carb0n Club」のプレイヤー層拡大については,さまざまな施策を展開してきている。
 最初は川崎市の広報誌「かわさき市政だより」に掲載されて認知を集めたことから,比較的年齢の高い層にリーチした。また,川崎駅直結の大型商業施設・ラゾーナ川崎プラザにブースを出したところ,ファミリー層の認知も高まった。
 そして,「Green Carb0n Farm」と川崎フロンターレを連携させることにより,サッカーファンを取り込むことにも成功した。結果として,現在は老若男女,かなり幅広い層にリーチしているとのこと。

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 より具体的な事例も紹介された。上記のラゾーナ川崎プラザのケースでは,スタンプラリーを開催したところ,子どもがやりたいと言い出し,親が一緒についていくケースが多く見られたという。
 スタンプラリーを進める過程では,「こんなところに古新聞回収のようなエコスポットがある」「エコ商品を扱っているテナントを運営しているのは,あの会社だったのか」といった気づきが生ずる光景を見られたそうだ。

 「Green Carb0n Club」にはSNS機能も実装されており,コアなプレイヤーは「今日はスーパーでレジ袋をもらわなかった」「落ちていたゴミを拾って,所定の場所まで持っていった」といったように,自身のエコアクションについて逐一発信しているという。

 ただ,そうしたコアなプレイヤーはまだ少数である。そのため,たとえば運営アカウントを作って情報を発信する,エコアクションしたことをSNSで報告するとランクが上がる,インセンティブが付与されるといった仕組みの導入で,プレイヤーのエンゲージメントを高めることも検討しているそうだ。

 話題は環境省が提唱している「デコ活」にもおよんだ。
 デコ活は,2050年カーボンニュートラルおよび2030年度削減目標の実現に向けて,国民・消費者の行動変容,ライフスタイル転換を後押しするための国民運動だが,現状では認知が進んでいるとは言えない。

 むしろ今回の川崎市と富士通の取り組みのように,限定的な地域でのテストケースとして施策を行い,熱量の高いプレイヤーから行動変容を促す。そして,行政と連携しつつ次第に多くの市民を巻き込んで広げていくアプローチのほうが有効なのではないかという意見が挙がった。


行政×ゲーミフィケーション


 2つ目のトークテーマは「行政×ゲーミフィケーション」だ。
 まずは,上田氏がかつて勤務していた経済産業省の調査事業「ゲーミフィケーションをコアナレッジにしたDXに資する人材育成に係る調査及び検討会」が紹介された。
 2022年にスタートしたこの事業では,いわゆる縦割りの行政サービスに留まらず,利用者目線でどのようにサービスのデザインをしていくか,ひいてはゲーム業界が持っているサービスデザインやUI/UXのノウハウを生かせるのではないかという検討をしていたという。
 しかし,上田氏自身が1年ほどで経産省を離れることになったため,その後のことは分からないという。

上田泰成氏
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 また上田氏が新潟・三条市の副市長を務めていた時期に開催した,市役所の新人職員を対象とするeスポーツ大会の事例も紹介された。
 とくに市役所の場合,同期であっても配属された部署によってはなかなかつながりを持てず,新人同士で相談できないケースが見られるそうで,その状況を打破するためにこのイベントが企画されたそうだ。
 予算が少なくて済むわりに,狙いどおり新人職員同士の交流が深まり,互いに悩みを打ち明ける機会が持てるようになるなど効果が大きく,今では例年開催されるイベントになっているとのこと。

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 三条市が開催した,フレイル・認知症予防を目的とする高齢者向けのeスポーツ体験会の事例も紹介された。

 参加者から非常に高い評価を得られたという同イベントだが,上田氏が着目したのは,高齢者と若年層との世代を超えた交流を実現できたことにあったという。
 具体的には,上田氏がSNSを通じてイベントの開催を告知したところ,高校生から「手伝わせてほしい」という旨の自発的な連絡があったそうだ。実際イベント当日はその高校生達がかなり場を盛り上げていたらしく,上田氏は「彼らの活躍なしでは成り立たなかった」とコメントしていた。

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教育×ゲーミフィケーション


 トークテーマ「教育×ゲーミフィケーション」では,荻上氏が自身の取り組みを紹介した。
 現状の一般的な学校教育では,時間割の枠に国語・算数・理科・社会といった科目が割り振られ,それに応じて生徒が学んでいくという形式が採用されている。しかし,現実の学びの場では,「これは国語の領域」「いや,むしろ道徳では?」「いやいや,社会の要素も入っているぞ」と簡単に分類できないケースも少なくないという。

 荻上氏の取り組みには,2030年度に予定されている学習指導要領の次期改訂に向けた現行学校教育の柔軟化も含まれており,既存の枠を超えるにあたってゲーミフィケーションに着目しているそうだ。

荻上健太郎氏
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 学習指導要領の改訂にあたり,文部科学省の中央教育審議会にて2025年9月に論点の整理が行われたという。その中には,「余白の創出」が実現可能性を確保する重要なポイントとして示されたそうだ。

 というのも現行の学校教育には,児童や生徒の自発的な横断的・総合的な課題学習を促す「総合的な学習の時間」が設けられている。それがまさしく学びの場における余白を生み出すことになり得るのだが,実態は教員が用意したテーマや課題に取り組む形に陥っているケースが多い。
 荻上氏は,上記の三条市の高校生を例に挙げ,「自ら興味を持ち,社会活動に参加するような能動性が生まれる仕掛けをゲーミフィケーションで実現できないだろうか」と話していた。

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 話題は,学校の通知表制度にもおよんだ。実は通知表を作るかどうかは校長の判断によって決められており,現行の制度では必ずしも作る必要はないのだそう。しかし,学校における子どもの実態を保護者が知ったり,児童や生徒の進学・就職にあたって一定の評価基準が求められたりするため,通知表を作ることが一般的となっているというわけである。

 通知表に代わる児童や生徒の評価軸として,たとえばボランティアなどでの地域貢献によってポイントが付与されるといった,ゲーミフィケーションを用いる仕組みを導入するという意見も挙がった。
 一方で,そうした仕組みを全国一律で採用してしまうと,現行の通知表に代わる新たな通知表が生まれるだけなので,最初は限定された地域でテストケースとして行い,徐々に広げていくほうがいいだろうという意見も出ていた。

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