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Access Accepted第857回:サッカーゲーム新時代の幕開け。FIFAとEA,それぞれの生存戦略
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48チームが出揃い,テストマッチも各地で開催されるなど,サッカーファンにとって2026年FIFAワールドカップに向けた興奮が高まりつつあるが,その影ではサッカーゲームが新時代を迎えようとしている。今回は,EA Sports FCのブランド転換がいかにして経済的成功を維持したのか,そしてその成功の裏で加速するマネタイゼーションへの批判と,独占を捨てたFIFAが描く「マルチライセンス戦略」について考察してみたい。
リブランドという賭けに勝ったEA
欧米のゲーム業界において,これほどまでに巨大で,かつ劇的だった破局は,例がないかもしれない。
国際サッカー連盟(Federation Internationale de Football Association / FIFA)とElectronic Artsが,30年にもおよぶ蜜月関係に終止符を打ってから,早いもので3年が経過した。
かつては毎年秋の風物詩として,世界中で数千万本を売り上げてきたEA Sportsの「FIFA」シリーズの名前は,今やElectronic Artsの製品パッケージからは消え去り,「EA Sports FC」という新たな旗印の下で独自の進化を続けている。
当連載「第701回:EA SportsからFIFAブランドが消える日」にて当時の状況を解説したことがあるが,この提携解消が報じられたあと,多くの業界関係者やゲーマーは「FIFAという最強のブランドを失うEA」と「年間1億5000万ドルという巨額の不労所得を失うFIFA」の,どちらが先に音を上げて白旗を上げるのかに注目していたのではないだろうか。
しかし,2026年FIFAワールドカップを目前に控えた現在,我々の目の前に広がっているのは,共倒れどころか,双方が独自の生存戦略を明確にした結果として,サッカーゲームというジャンルそのものが,かつてない多角化と,同時にかつてない「集金構造」への傾倒を見せているという,実に複雑な光景である。
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まずは,リブランドという巨大な賭けに勝ったElectronic Artsの動向から見ていくと,2023年度から始まった「EA Sports FC」シリーズへの大きな変化は,同社が「FIFA」というブランドに依存せずとも,世界のサッカー文化そのものをデジタル化するインフラを既に掌握していたことを証明してみせた。
Electronic Artsがリブランドに際して打ち出した戦略はシンプルだ。FIFAという組織への膨大なライセンス料を削ったのに合わせて,プレミアリーグ,ラ・リーガ,ブンデスリーガといった各国の主要リーグやスタジアム,UEFAチャンピオンズリーグといった運営母体,そして選手の肖像権など,リアルなサッカーシミュレーションとしての地位を維持するのに必要な団体や組織との関係を保持することで,独占契約をより強固なものにした。
結果として,最新作である「EA Sports FC 26」は,FIFAの名前こそ冠していないものの,女子サッカーを含む世界中の800以上のチームと,1万9000人以上の実名選手を収録する,“サッカー百科事典”としての地位を揺るぎないものにしている。
特に,同シリーズの収益の柱である「Ultimate Team(UT)」モードは,現実の試合結果と連動するライブサービスとして完成の域に達しており,ファンたちはもはや“FIFAという冠の有無”など気にかけていないのが実情だ。
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課金への根強い批判とFIFAが仕掛けてきたマルチライセンス方式
しかし,この「EA Sports FC」シリーズの経済的成功の裏側には,ユーザーからの悲鳴に近い批判が渦巻いている。
Electronic Artsの最新の財務報告によれば,同社の売上の約4分の3はインゲーム支出,つまり課金によって支えられている。2025年後半に発売されたシリーズ最新作の「FC 26」では,この傾向がさらに極端な形となって現れた。
特に批判されているのが,UTモードにおける「ペイ・トゥ・ウィン(勝つための課金)」構造の加速だ。
かつては時間をかけてプレイすればトップクラスの選手を揃えることが可能だったが,現在の環境では課金を前提とした「エリートシーズン・オープナーパック」のような高額なルートボックス(ガチャ)が,発売直後から平然と並んでいる。これに対し,欧州の一部メディアや有識者からは「サッカーゲームではなく,サッカーをテーマにしたカジノゲームだ」という,かなり厳しい評価も下されている。
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さらに,2026年度からは「シーズンパス」の有料化という,フルプライスのAAAタイトルとしてはあまり見られない集金策も導入された。これまで無料の進捗報酬であったキャリアモードの特典までもが課金の壁の向こう側に置かれたことで,コアなファン層の反発は頂点に達している。
また,法的な包囲網も無視できないほど締め付けが厳しくなっており,欧州の年齢評価機関PEGIは,2026年7月から「有料のランダムアイテム(ガチャ)」を含むゲームのデフォルト対象年齢を16歳以上に引き上げる方針を固めた。
これにより,これまで全年齢対象を売りにしてきたサッカーゲームが,倫理的なグレーゾーンとして公式にラベル付けされる時代が幕を開けようとしており,Electronic Artsも何らかの方針転換を迫られている。
一方で,Electronic Artsという巨大なパートナーを切り捨てた側のFIFAのジャンニ・インファンティーノ(Gianni Infantino)現会長は,当初「本物のFIFAの名を冠したゲームこそが,常に最高であり続ける」と豪語していたが,その実態は「特定の1社に依存しない,分散型のポートフォリオ構築」へのシフトだった。
現在のFIFAの戦略を一言で表せば,サッカーというスポーツを,デバイスやユーザー層ごとに細分化してライセンスを切り売りする“マルチライセンス方式”だ。
2024年度こそ,Electronic Artsとの契約解消によって,ゲーム関連のライセンス収益は前年度の3分の1ほどになる4800万ドルにまで落ち込んだものの,2026年3月に公開されたばかりの最新財務データによると,倍増の9700万ドルにまで成長している。
それを支えたのが「eFootball」内でのFIFAe ワールドカップ開催に伴う契約金の増額だ。かつてはライバルといえる存在でもあったKONAMIとの提携を結ぶことで,FIFAにとっては自前のゲーム開発を待たずして世界規模のeスポーツ大会を維持でき,KONAMIにとっては「FIFA公式」という権威を背負って世界市場へ再アプローチできる。
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さらに,Netflix GamesがアナウンスしたばかりのDelphi Interactive開発によるモバイル向け新作「FIFA Heroes」,そしてPsyonixの「ロケットリーグ」とのライセンス契約によって,各プラットフォームのユーザー数やイベントの成功に連動して大きなリターンを狙える「歩合制(ロイヤリティ)」に近い構造を手に入れた。この戦略が成功であるかどうかを測る指標は,最終的にはワールドカップ後の数字になって表れるだろう。
ライセンス化による分断がもたらす「ユーザーの戸惑い」
こうした「ライセンスの自由化」は,必ずしもユーザーにとってメリットばかりではない。現在のサッカーゲーム市場を俯瞰すると,かつてのように「これ1本を買っておけば,世界のサッカーのすべてが手に入る」という幸福な時代が終わりを告げてしまったからだ。
例えば,日本のファンにとって切実な問題となっているのがJリーグの扱いだ。2026年現在,Jリーグの独占ライセンスは依然としてKONAMIが保持しており,世界標準の「FC 26」には日本代表は収録されていても,J1やJ2のクラブで遊ぶことはできない。
ゲーマーは,三笘 薫や久保建英といった海外で活躍するスター選手を使いたければElectronic Artsのゲームを買い,地元のJリーグクラブを愛でたければKONAMIのゲームを起動し,さらに2026年W杯の公式な演出を楽しみたければ,FIFAがNetflixや将来のパートナーと展開する新作をチェックしなければならない。
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このFIFAにとっての将来的なビッグパートナーとなり得ると噂されるのが,2K Sports(Take-Two Interactive)だ。「グランド・セフト・オート」シリーズなどの成功により大手パブリッシャのなかでも潤沢な資金がある企業であり,かつてElectronic ArtsにFIFAが持ち掛けた「4年で10億ドル」のライセンス更新料を払う経済力と,そして何より「NBA 2K」や「MLB 2K」などで培ってきたスポーツシミュレーションの開発力がある。
いずれにせよ,こうした契約の乱発は「ライセンスの細分化」という状況が進行しつつあるということでもあり,ゲームとしての完成度とは別の部分で,サッカーゲームファンの体験を分断する結果になってしまう。
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今後Electronic Artsは,FIFAの名前を使わずに,いかにして「W杯の熱狂」を自社プラットフォーム内に取り込み,同時に高まるマネタイゼーションへの批判をかわしながら利益を最大化できるかという,極めて困難なバランス感覚を問われていく。
対するFIFAも,分散させたパートナーシップの総和が,かつてのライセンス単独時代を上回る収益と影響力を生み出せるかどうか,その真価が問われることになるのだ。
結局のところ,勝利を収めるのは「どの組織の名前を冠しているか」ではなく,「どのゲームが,ファンの財布だけでなく,情熱そのものを尊重し続けられるか」に集約されるだろう。30年続いた独占の時代が終わり,本当の意味での競争が始まった今,我々ゲーマーは,これまで以上にシビアな目で,バーチャル空間におけるピッチ上の出来栄え,そしてその対価と価値を見極めていく必要に迫られている。
今年のワールドカップの決戦がメキシコシティやニューヨークで行われる頃,我々はどのゲームデバイスやサービスを利用してキックオフの笛を鳴り響かせているのか。その答えが,次の時代のサッカーゲームの勢力図を決定付けることになるはずだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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