連載
インディーズゲームの小部屋:Room#200「はーとふる彼氏 フリー版」
世界中から優秀な鳩ばかりが集まるという聖ピジョネイション学園。プレイヤーは,そこに通う唯一の人類だ。もちろん,クラスメイトは全員鳩。初めのうちは,そんなハト目だらけの教室に戸惑いを覚えていたあなたも2年生になり,学園での生活にも慣れて,楽しく平和な毎日を過ごしていたのだが……って,えっ? 鳩? だって主人公は人間だよね? しかも名門ってどういうことなの? 何を言ってるのか,よく分からないよ?
ということで,何だかいきなり雲行きが怪しくなってきたが,もうすでにお分かりのとおり,本作は登場キャラクターが鳥類ばかりの学園恋愛アドベンチャーなのだ。ゲーム中の立ち絵はすべて,鳩(だけじゃないけど)の実写写真。プレイヤーは主人公の十坂ひよこ(名前は変更可能)となり,学園に通うイケメンならぬイケハト達との心温まる交流を通じて,仲を深めていくことになる。
まさに,鳩だけにはーとふるであり,この発想力には,さすがの筆者もポポロッぷ〜わッ! と言わざるを得ない。仕事柄,数多くのゲームを目にしてきた筆者も,ここまで突飛な設定のゲームに出会ったのは初めてであり,このくだらない駄洒落(褒め言葉)を思いついた瞬間に本作の勝利は決定されていたと言っても過言ではないだろう。見てのとおり,スクリーンショットの絵面のシュールさだけでも破壊力抜群だ。
本作は本連載始まって以来の(一応)乙女ゲーで,登場するのは,幼馴染のカワラバト,周囲を見下したような態度をとる貴族的なクジャクバト,いつも図書室で本を読んでいるナゲキバトなど,鳩であるということを除けば,乙女ゲーに詳しくない筆者でも分かりやすいような,そうでもないような王道的な個性の持ち主達。ただし,当然鳥類ばかりなので,「外見が鳥類では脳内再生が困難」という人のために,オプションとして擬人化版のカットインも用意されている。
この擬人化イラストが実に小憎らしいばかりのイケメン揃いで,さらに各キャラクターの初回登場時には“設定上のキャスト名”も表示される。これは,指定された声優ボイスを脳内で再生してお楽しみくださいという,作者からの心づくしであり,「NS3」と名づけられている。NS3とは,脳内再生シンクロシステムの略であり,ゲーム中にボイスは収録されていない。よく考えたら,システムでも何でもないね,これ。
そんな,突っ込みどころが満載の本作だが,攻略対象となるのはハト5羽+教師陣のヒメウズラ&イワシャコの計7羽と,意外と多い。ゲームシステムは,時折現れる選択肢を選んでいくというお馴染みのもので,特定のイベントを見なければバッドエンドになってしまったりと,こちらもなかなかに本格的だ。また,ゲーム内のテキストが非常に楽しい仕上がりになっているのも本作の魅力で,中でも,ほかの鳥達と異なり,ただ1羽だけ人語を話さない白ハトの尾呼 散(おこ さん)が傑作すぎる。
鳩なのに陸上部に所属している(しかも速い)尾呼 散は,大抵いつもプリンが手に入らないことについて苛立っており,事あるごとに「ポポロッぷ〜わッ!」と叫んでいる,荒ぶる鳩だ。自分でも何を書いているのかだんだん分からなくなってきたが,ゲームをプレイしているうちに,すっかり彼らに愛着を抱くようになってしまうので,アラ不思議。またストーリーも,なぜ鳥類が人語を話すようになり,なぜ主人公が人類としてただ一人学園に通っているのかについて,予想外にシリアスな設定が明かされたりと侮れない。まあ,それもどこまで本気なのかは謎だが……。
タイトルからもお分かりのとおり,本作はフリーソフトとして公開されているので,鳥類を攻略するのは初体験という人も,ぜひお試しを。ジャンル的には一応,乙女ゲーに分類されるが,男性プレイヤーでも十分楽しめるのでオススメだ。
なお本作の製品版として,新イベントや新キャラクターなどを追加した「はーとふる彼氏 Plus」が現在発売中だが,10月末には,これにさらに新シナリオを追加した「はーとふる彼氏 完全版」が発売予定となっている。Plusの購入者は無償で完全版にアップグレード可能とのことだが,Plusは人気のため入手困難なので,これから製品版を購入しようと思う人は完全版の発売を待つのもありだろう。
■「はーとふる彼氏 フリー版」公式サイト
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